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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

適切な職業相談を十分行うなどして求職者に対する公共職業訓練等の受講指示を行うことにより、訓練延長給付の支給を適切なものとするよう改善させたもの


(5)適切な職業相談を十分行うなどして求職者に対する公共職業訓練等の受講指示を行うことにより、訓練延長給付の支給を適切なものとするよう改善させたもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業等給付費
部局等の名称 厚生労働本省(支給庁)
  飯田橋公共職業安定所ほか60公共職業安定所(支給決定庁)
支給の根拠 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
給付金の種類 基本手当のうち訓練延長給付
給付金の内容 基本手当の受給資格者が、公共職業安定所長の受講指示により公共職業訓練等を受ける場合に、所定給付日数分を超えて支給されるもの
検査の対象とした受給資格者数
1,121人
受講指示が適切に行われたと認められない受給資格者数
929人
上記に対する訓練延長給付支給額
13億9229万円(平成15、16両年度)

1 制度の概要

(基本手当)

 厚生労働省では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)の規定に基づき、常時雇用される労働者等を被保険者とし、被保険者が失業した場合に、その生活及び雇用の安定を図るなどのため失業等給付金の支給を行っている。同給付金の支給額の大半を占める基本手当は、受給資格者(注1) が失業している日について所定給付日数を限度として支給されるもので、その所定給付日数は、離職理由、年齢、被保険者であった期間等に応じて、90日から最大360日までとなっている。

(公共職業訓練に対する受講指示)

 公共職業安定所長(以下「安定所長」という。)は、同省が定めた「職業訓練受講指示要領」(昭和56年職発第320号・訓発第124号。以下「指示要領」という。)により、求職のために来所した受給資格者に対して職業相談を行う中で、本人の現在有する技能、知識等と労働市場の状況からみて、適職に就かせるために必要であると判断した場合には、国や都道府県等が設置している公共職業能力開発施設(以下「訓練施設」という。)で実施する職業訓練等(以下「訓練」という。)を受講するための受講指示を行うことができる。そして、受給資格者が、受講指示を受けて訓練を受講する場合には、教科書、教材費等については本人が実費を負担することとなるものの、訓練施設の入校料、受講料等は無料とされている。
 また、受給資格者が受講指示を受けるまでの手順は指示要領等により、次のとおり定められている。

〔1〕 公共職業安定所(以下「安定所」という。)において求職申込を行い、求職票に希望職種、既往の職歴、取得資格等の必要事項を記入する。

〔2〕 求職活動を行うとともに必要に応じて安定所において職業相談を受ける。安定所の担当者は、求職票に記入された諸事項に基づき職業相談を行い、その指導経過等必要事項を求職票の所定欄に記入する。また、安定所の担当者が行う職業相談は、受給資格者の希望を踏まえつつ本人の職業能力、求職活動状況等に基づき、就職可能性を広げるためにどのような職業能力開発を図るべきかという観点から実施されるものとする。

〔3〕 職業相談の過程において、受給資格者から希望する訓練施設・訓練科の願書が提出された場合には、安定所長は、当該訓練が適職に就かせるために必要であるか否かを判断し、必要であると認めた場合にはこれを受け付ける。

〔4〕 安定所長は、受給資格者が訓練施設の選考に合格した場合には、受給資格者の求職票に記載された指導経過に基づいて当該訓練施設等と協議し、意見の調整を行った上で受講指示を行う。

(訓練延長給付)

 訓練延長給付は、訓練の受講を容易にし技能を付与することにより再就職の促進を図るために、安定所長の受講指示により訓練を受ける受給資格者に対して支給するもので、受講指示を受けた受給資格者は、訓練期間中に所定給付日数分の基本手当の支給が終了しても引き続き訓練が修了するまで、訓練延長給付として基本手当が支給されることとなる。この訓練延長給付の平成15年度における初回受給者数は9万余人、支給総額は359億余円となっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 近年の雇用情勢の悪化に伴う雇用保険財政のひっ迫により、自発的離職者に対する基本手当の所定給付日数が縮減されるなど、雇用保険制度の大幅な見直しが行われている。このような状況の中で、受講指示を受けた受給資格者に対しては、所定給付日数の最大で約8倍の延長日数分の基本手当が支給されるなど、他の離職者に比べて手厚い給付が行われている。そこで、訓練に係る受講指示が、安定所において、指示要領等に基づいて適切になされているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 受講指示によって1年以上の訓練(以下「長期訓練」という。)を受ける者は、訓練期間中に所定給付日数分の基本手当の支給が終了し、引き続き訓練延長給付が支給されることになる。
 そこで、東京労働局ほか6労働局の飯田橋公共職業安定所ほか60公共職業安定所(注2) において、15年度中に長期訓練の受講指示を受けた受給資格者1,386人のうち保存期限の経過等により求職票が廃棄されていた265人を除く1,121人について、求職票等に基づき検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、訓練延長給付の趣旨に沿って適切な受講指示が行われている事例も見受けられたが、上記1,121人のうち929人(これに対する訓練延長給付支給額計13億9229万余円)について次のような事態となっていた。

(1)求職票に受講指示に至るまでの指導経過等の記載がなく、適切な職業相談が行われたとは認められないもの

 安定所長が受講指示を行うに当たっては、当該訓練を受けさせることが受給資格者を適職に就かせるために必要であるかどうかを判断するため、適切な職業相談を十分行う必要がある。そして、指示要領等によれば、指導経過等所定の事項については、その内容を次回以降の職業相談や受講指示に活かすために、求職票に記載することとされている。しかし、求職票に受講指示に至るまでの指導経過等の記載がなく、適切な職業相談が行われたとは認められないものが、次のとおり、844人分(これに対する訓練延長給付支給額計12億6779万余円)あった。

〔1〕 求職票に訓練関係の相談や応募の経緯等についての記載が一切ないもの
 
104人分
〔2〕 求職票に受給資格者の希望職種の記載がなく、かつ指導経過においても希望職種等の求職条件が明確になっていないまま受講指示を行っていたもの
 
154人分
〔3〕 求職票に受給資格者が応募した訓練施設、訓練科、応募年月日等は記載されているものの、受講指示に至るまでの指導経過の記載がないもの
 
586人分

 上記について一例を示すと次のとおりである。

<事例1>

 X安定所では、受給資格者A(28歳、基本手当支給額:所定給付日数90日分418,770円、訓練延長給付626日分2,912,778円)に対して情報工学科(2年コース)の受講指示を行っていた。
 しかし、同人の求職票をみると、希望職種の記載がなく、また指導経過においても受給資格者からの希望職種の把握がなされていないまま同人からの訓練の応募を受け付けていた。さらに、求職票の職業相談欄には訓練に応募した年月日、応募した訓練科等の事実が記載されているのみで、応募の前に職業相談が行われた形跡はなかった。
 なお、訓練施設では訓練修了後の就職の有無を把握することとしているが、それによると同人が就職したという報告はなく、また、雇用保険の被保険者資格も取得していない状況であった。

(2)希望職種とは関連がないと認められる訓練科に対して長期訓練の受講指示をしたもの

 安定所長の受講指示は、受給資格者に対する職業相談を行う中で、本人の現在有する技能、知識等と労働市場の状況からみて、当該訓練を受けさせることが適職に就かせるために必要であると判断した場合に行われるものである。しかし、求職票に記載されている希望職種とは関連がないと認められる長期訓練を希望している者に、当該訓練の必要性を判断しないまま受講指示を行っていると認められるものが339人分(これに対する訓練延長給付支給額計5億3510万余円)あった。なお、このうち254人分(これに対する訓練延長給付支給額計4億1060万余円)については、上記の(1)と重複している。
 上記について一例を示すと次のとおりである。

<事例2>

 Y安定所では、定年退職をした受給資格者B(59歳、基本手当支給額:所定給付日数180日分1,052,820円、訓練延長給付159日分929,991円)に対して機械加工科(1年コース)の受講指示を行っていた。
 しかし、同人の求職票をみると、1年コースの造園サービス科に興味があるとの記載がある一方、1年コースの情報ビジネス科に願書を提出しており、最終的には機械加工科に入校していた。これらの3科は長期間にわたり訓練延長給付の支給を伴う訓練であるほかは関連性が見られず、また、求職票には、同人にとって何が適職であり、何が必要な訓練であるかの職業相談や指導が行われた形跡はなかった。
 なお、同人が訓練修了後、就職したという報告はなく、また、雇用保険の被保険者資格も取得していない状況であった。

 したがって、上記(1)、(2)のように、安定所長が適切な職業相談を行わないまま受給資格者に対して受講指示を行ったり、希望職種とは関連がないと認められる訓練に受講指示を行ったりなどしている事態は、訓練延長給付の趣旨に照らして適切とは認められず、改善を図る要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として、次のことによると認められた。

ア 安定所長が受講指示を行うに当たり、当該訓練を受けさせることが適職に就かせるために必要であるかどうかの判断に必要な職業相談を十分に行った上で受講指示を行うという認識が十分でなく、受給資格者の受講希望に安易に応じていたこと

イ 当初の職業相談から受講指示の決定に至るまでの指導経過等を、求職票に記載することを徹底していなかったこと

ウ 訓練延長給付の支給という追加的な費用負担を伴うことについての認識が十分でないまま受講指示を行っていたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、17年9月に各都道府県労働局に対して通知を発し、求職者に対する訓練の受講指示を行うに当たり、訓練延長給付の支給を適切なものとするよう、次のような処置を講じた。

ア 適職に就かせるために必要とは認められない訓練については受講指示を行わないようにするため、安定所長が受講指示を行うに当たっては、求職者の希望を踏まえつつも、本人の職業能力、求職条件、労働市場等を勘案し、当該訓練を受けさせることが適職に就かせるために必要であるかどうかの判断に必要な職業相談を十分に行うよう徹底させることとした。

イ 訓練の受講が必要であると判断した理由について十分な説明責任を果たせるよう、求職票には、受講指示に至るまでの指導経過等を明確に記録させることとした。

受給資格者 被保険者が、離職し労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことができない状態にあり、離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6箇月以上あることの要件を満たしていて、公共職業安定所において基本手当を受給する資格があると決定された者

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