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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

新山村振興等農林漁業特別対策事業等により整備した直売所等の施設について、適切な事業評価を実施するとともに、事業効果の発現状況を継続的に把握できる体制を整備することにより、事業効果の十分な発現を図るよう改善させたもの


(2)新山村振興等農林漁業特別対策事業等により整備した直売所等の施設について、適切な事業評価を実施するとともに、事業効果の発現状況を継続的に把握できる体制を整備することにより、事業効果の十分な発現を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農村振興費
  (平成11年度以前は、(項)農業振興費)
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局
補助の根拠 予算補助
補助事業者 青森県ほか17県
間接補助事業者(事業主体) 町14、村13、農業協同組合3、その他4、計34事業主体
補助事業 新山村振興等農林漁業特別対策(平成10年度以前は、山村振興等農林漁業特別対策)
補助事業の概要 中山間地域等の振興を一層促進するため、新たな起業展開の推進による農業所得の向上、雇用の創出、都市住民の農山村体験等による都市との交流人口の増加等を図ることを目的として、直売所、加工施設、体験施設等を整備するもの
効果が十分発現していない施設 35施設
上記の施設に係る事業費 29億7821万余円 (平成7年度〜12年度)
上記に対する国庫補助金 14億7796万円  

1 事業の概要

(新山村振興等農林漁業特別対策事業の趣旨と仕組み)

 農村地域は、単に食料供給の生産基盤としてだけではなく、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全等の多様な公益的機能を有しているが、農業人口の減少及び高齢化が進行しており、特に平野の外縁部から山間地に至るいわゆる中山間地域では、急速な過疎化及び高齢化により、集落機能が衰退し、耕作放棄地が増大するなどしている。
 このような状況に対して、農林水産省では、中山間地域(注1) において、地域の特性をいかした農林漁業を始めとする多様な産業の振興等を図るため、新山村振興等農林漁業特別対策事業(平成10年度以前は山村振興等農林漁業特別対策事業、以下「新山村事業」という。)を実施している。
 この新山村事業は、新山村振興等農林漁業特別対策事業実施要領(平成11年11構改B第322号農林水産事務次官依命通知)等(以下「実施要領等」という。)に基づき、地域の自主性、創意工夫の発揮を通じて、中山間地域の振興を一層促進するため、地域の特性をいかした高品質な農産物の販売、付加価値を高めた加工品の販売等新たな起業展開の推進による農業所得の向上、雇用の創出、地域の自然を活用した都市住民の農山村体験等による都市との交流人口の増加等を図ることを目的として、直売施設、加工施設、体験学習施設等を整備するものであり、6年度から16年度(16年度に認定された事業については19年度)まで実施されている。
 新山村事業の事業主体は、市町村、農業協同組合、農林漁業者等の組織する団体等となっており、国は、その事業に要する費用の一部(助成対象施設等の区分により、5.5/10以内、1/2以内、4.5/10以内など)を助成している。

(新山村事業の実施手続)

 新山村事業は、実施要領等に基づき、次のとおり実施することとなっている。
〔1〕 事業計画の策定等
 事業の計画主体である市町村長は、農業所得の向上、雇用の創出等の目標(以下「事業目標」という。)等を記載した事業計画を策定して都道府県知事に提出し、その認定を受ける。
 また、市町村長は、新山村事業を円滑に推進するための具体的な活動を行う中核的組織として地域活性化支援機構(以下「支援機構」という。)を設置し、事業を円滑に推進する体制(以下「事業推進体制」という。)を確立する。支援機構は、市町村職員、青年部等の地元活動グループ、地元企業役員等で構成され、施設の整備に着手する前に、地域の現況、地域活性化に対する基本方針、新山村事業への取組などを記載した山村等活性化ビジョンを作成するなど、地域の実状に即した多様な活動を展開したり、事業完了後に、事業参加者や施設利用者の減少、販売額の低下等により事業効果の発現が薄れる場合には、地域住民及び施設の管理主体との意見交換会の開催、近隣施設との連携などにより速やかな改善策を提案したりするなどの役割を担っている。
〔2〕 計画達成状況報告書の提出等
 市町村長は、事業完了後の一定期間(山村振興等農林漁業特別対策事業においては、事業完了後から3年間、新山村振興等農林漁業特別対策事業においては、原則として、事業完了後の1年後、3年後及び5年後)、事業計画に記載された事業目標の達成状況を調査し、その結果を記載した計画達成状況報告書(以下「報告書」という。)を都道府県知事に提出する。報告書の提出を受けた都道府県知事は、これを地方農政局長等に提出する。
 そして、事業目標を達成していないなどの場合には、市町村長は、支援機構の意見を反映させた改善計画を作成したり、また、都道府県知事は、必要に応じて市町村等に対し指導を行ったりなどする。

(事業の交付金化)

 同省では、農山漁村の活性化を図るためには、地域内外のニーズを踏まえながら、地域が自ら考え行動する取組に対して支援することが重要であるとして、16年度まで実施していた新山村事業も取り込んで、17年度から21年度までの5年間を事業実施期間として、交付金制度化された「元気な地域づくり」を推進することとしている。
 そして、同制度のもとでは、都道府県が管内の事業採択の調整や予算の配分を行うことが可能となっており、事業完了後の施設の運営方法等も含め、都道府県及び市町村の自主性や裁量が発揮されるものとなっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 新山村事業は、上記のとおり、交付金制度への移行により、事業採択、運営方法等について、都道府県及び市町村が自主性を発揮する余地が高まっており、今後、都道府県及び市町村において、事業を効果的に実施するには、適切な事業評価を行うことにより事業効果を的確に把握したり、事業効果を発現させる方策を検討したりするなどの取組がより一層重要なものとなっている。
 そこで、これまでに実施された新山村事業が農業所得の向上や雇用の創出等に寄与するなど事業効果が十分に発現しているか、また、都道府県及び市町村における事業に対する取組状況が十分なものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか20県(注2) において、6年度から12年度までに実施された新山村事業2756件、事業費1879億余円(国庫補助金956億余円)のうち、北海道ほか20県の17市104町48村所在の202事業主体が実施した新山村事業318件(318施設)、事業費448億余円(国庫補助金221億余円)について検査した。

(検査の結果)

(1)事業効果の発現状況について

ア 調査の方法
(ア)施設の分類
 施設の内容により期待できる事業効果に違いがあると考えられることから、新山村事業の助成対象となっている施設を、その主たる内容により、表1のとおり6種別に分類した。

表1 施設内容による施設種別
施設種別 施設の内容
農林水産物直売・食材供給施設(以下「直売所」という。) 地域の農産物の販売及びこれらを食材として提供する施設
体験農園・体験学習施設(以下「体験施設」という。) 都市住民等が農業体験等をするための施設
交流促進施設(以下「交流施設」という。) 地域の自然を活用した都市交流の拠点となる施設で、宿泊施設、研修施設、地域の特産品の販売施設等で構成される複合的で大規模な施設
農林水産物処理加工施設(以下「加工施設」という。) 地域の特産品等の加工施設
育苗施設、農林水産物集出荷貯蔵施設(以下「栽培・貯蔵施設」という。) 米、野菜、花き等の苗等を栽培する施設、野菜等の集出荷貯蔵施設
高齢者、女性等活動促進施設(以下「活動促進施設」という。) 高齢者、女性等の持つ知識、技術等をいかし、郷土料理の伝承や地域住民との交流活動を通じて高齢者等の活動を促進する施設

(イ)事業効果の判定方法
 市町村長は、事業計画の策定に当たり、施設の整備による事業の目的を設定していた。そして、その目的は、同じ施設種別でも必ずしも一様ではないが、ほとんどの事業において、〔1〕雇用の創出、〔2〕所得の向上、〔3〕都市との交流人口の増加、〔4〕高齢者、女性等の活動の活発化、〔5〕特産品の加工・販売の促進、〔6〕遊休農地の活用のいずれか一つまたは複数を図ることとなっていた。
 一方、報告書には、事業目標の達成状況を記載することになっているが、ほとんどの市町村で、事業目標の達成状況を測る基準として、施設の利用人数、販売額、加工実績等(以下「利用実績」という。)を用いていた。
 しかし、直売所において店頭に陳列している商品のほとんどが地域の特産物でなく、地域外から仕入れたものであり、販売額が地域の所得の向上や特産品の販売の促進に必ずしも結びつかない場合など、施設の利用実績が事業計画に掲げられた数値目標(以下「計画目標」という。)を超えていても事業の効果が必ずしも発現していることにはならない事態も考えられる。そこで、本院において、表2のように、前記〔1〕から〔6〕の事業目的に応じた効果の指標(以下「評価指標」という。)を設定し、これにより施設ごとに6項目の効果の発現状況を調査することとした。
 なお、すべての施設種別において、前記6項目すべての効果が発現するものではないが、各市町村が設定している事業の目的は同じ施設種別であっても必ずしも一様ではないこと、掲げられた目的に応じた効果以外の効果が期待できる場合もあると考えられることから、各施設について6項目すべての効果の発現状況を調査することとした。
 そして、この調査においては、各施設の15年度における状況について、表2のとおり、職員名簿、地域農産物の販売状況等を確認するなどして、施設ごとに6項目の効果を調査し、効果が発現していると認められたものは1項目につき1ポイントを付与する方法により、各施設の効果の発現状況を整理した。

表2 評価指標
効果が発現している状況 確認資料等
〔1〕 施設において地域の住民が新規採用された場合など(以下、この効果を「雇用効果」という。) 職員名簿、給与簿等
〔2〕 施設で地域の農産物を販売するなどして事業参加者等の所得が向上したと認められる場合など(以下、この効果を「所得効果」という。) 地域農産物の販売状況等
〔3〕 施設を都市住民が利用している場合
(以下、この効果を「交流効果」という。)
都市住民(地域外住民)の利用状況
〔4〕 施設の利用により、高齢者、女性等を中心とした活動が活発となった場合、参加者に高齢者、女性等が多い場合など(以下、この効果を「高齢者等活動効果」という。) グループ活動、イベントの実施状況等
〔5〕 施設を利用して地域の特産品の加工・販売が促進された場合など(以下、この効果を「特産品効果」という。) 地域特産品の加工・販売の状況
〔6〕 施設で販売、加工する農産物を栽培するなどして遊休農地が減少した場合(以下、この効果を「遊休農地効果」という。) 市町村資料、現地確認

イ 調査の結果
 前記の6施設種別について、6項目の評価指標ごとに、全施設数に対する効果が得られた施設数の割合をそれぞれ求めると、効果の発現している状況は次の図のとおりである。

図 施設種別ごとの効果の発現状況

図施設種別ごとの効果の発現状況

 この図からすれば、直売所、加工施設については雇用効果、所得効果及び特産品効果など、体験施設、交流施設については雇用効果及び交流効果など、半数以上の施設において2つ以上の効果の発現が期待でき、運営方法によっては、それ以上の効果の発現が期待できるものと思料される。一方、栽培・貯蔵施設については主として所得効果、活動促進施設については主として高齢者等活動効果がそれぞれ期待できるものと思料される。
 そして、施設ごとにポイントを集計した結果は、表3のとおりである。

表3 施設種別ごとのポイント集計表

(注)
隣接して複数の施設を整備している場合には、複数の施設を1施設とみなして事業効果を判定しているため、「計」欄の施設数(300)は検査した施設数(318)と一致しない。

 この集計の結果、複数のポイントが期待できると思料される直売所、体験施設、交流施設及び加工施設において1〜0ポイントとなっているものが28施設、また、栽培・貯蔵施設及び活動促進施設において0ポイントとなっているものが7施設、計35施設(表3の太枠で囲まれた施設)あった。
 そこで、これらの施設の事業内容及び運営の実態、効果の発現状況や利用実績の推移等を、事業主体から資料を求めたり、ヒアリングを実施したりなどして詳細に調査した。
 その結果、次のとおり、35施設(青森県ほか17県(注3) の32市町村所在の34事業主体に係る施設、事業費計29億7821万余円(国庫補助金計14億7796万余円))のいずれも事業効果が十分に発現していなかった。

〔1〕 販売額、施設の利用人数等の利用実績が計画目標以上であっても、この事業で期待される地域農産物の販売額が少なかったり、都市住民の利用人数が少なかったり、地域住民の雇用がなかったりなどしていて、事業効果が十分に発現していないもの
    8施設
〔2〕 利用実績が計画目標より低く、事業効果も十分に発現していないもの 27施設

 このうち〔1〕の事例を示すと次のとおりである。

<事例>

A村では、平成8、9両年度に、都市との交流及び就業機会の増大を図ることなどを目的として、直売所1棟(544m )を事業費1億2000万円(国庫補助金6000万円)で整備している。
 そして、A村では、15年度における直売所の販売額は計画目標(1億0082万円)を上回る約1億1000万円となっていたことから、利用実績からみて問題がないとしていた。しかし、雇用されている職員に地元採用者がいなかったり、売店の販売物に地元特産品が少なかったり、レストランで使用されている主な食材が輸入品であったりなどしていて、事業効果が十分に発現していなかった。

(2)事業効果が十分に発現していない35施設が所在する県及び市町村の取組状況等について

ア 市町村における事業効果の把握及び事業推進体制
 前記35施設が所在する32市町村について、利用実績以外の評価指標等を設定して事業効果を把握しているかどうか検査したところ、31市町村では、利用実績以外の評価指標等を設定していなかった。
 また、事業推進体制についてみると、事業完了後も支援機構が活動しているのは4町村(13%)にすぎず、28市町村(87%)においては事業完了後に支援機構は解散しており、事業推進体制が十分機能していないものとなっていた。
イ 県における利用実績等の把握
 上記35施設が所在する青森県ほか17県における施設の利用実績の把握状況についてみると、報告書の提出期間終了後においてもすべての施設について把握している県は7県、一部の施設について把握している県が5県、全く把握していない県が6県となっており、計11県において施設の利用実績を継続的に把握していない状況となっていた。また、県がすべての施設を対象として計画的に施設に赴き、実際に施設の運営状況を確認しているかどうか調査したところ、上記18県とも確認していなかった。
 したがって、利用実績以外の評価指標等を設定して適切な事業評価を実施するとともに、施設によっては、最終の報告書の提出時点で事業効果が十分に発現していないものもあることから、事業完了後においても事業効果の発現状況を継続して把握する体制を整備することにより、新山村事業の事業効果の十分な発現を図っていく要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として、次のことによると認められた。
(ア)市町村において、事業効果を評価するに当たり、主に利用実績を基準としていて、事業計画に即した適切な評価指標等を設定していないことから、事業効果の発現状況を的確に把握していなかったこと、また、事業完了後に支援機構が解散していて事業推進体制が十分機能していなかったこと
(イ)県において、事業効果の発現状況を継続して把握できる仕組みが構築されておらず、市町村等に対し適時適切に改善・指導を行っていなかったこと
(ウ)農林水産省において、県が事業効果の発現状況を継続して把握できる仕組みを構築していないこともあり、事業効果の発現状況の把握が必ずしも十分でなく、事業効果の発現していないなどの施設について、改善措置を執るよう県に対し十分な指導を実施していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、17年9月に各地方農政局長等に対して通知を発し、新山村事業が適切に実施されるよう都道府県及び市町村に対し実施要領等の趣旨を周知徹底するとともに、次のような処置を講じた。
ア 市町村に対し、事業効果を評価するに当たり、適切な評価指標等も含めることにより事業効果の発現状況を的確に把握させるとともに、支援機構等を十分に活用させるなど事業推進体制を整備させることとした。
イ 都道府県に対し、市町村が実施した適切な評価指標等による事業効果の発現状況に係る報告に基づき、各施設の事業効果の発現状況等を一元的に管理することにより各施設の運営状況を継続して把握させるとともに、市町村等に対し適時適切に改善・指導を行わせることとした。また、改善・指導を実施しても、事業効果の発現が期待し難い施設については、現地確認を実施した上で、市町村等に対し施設の利用計画の変更など適切な処置を行わせることとした。

(注1) 中山間地域 「山村振興法」(昭和40年法律第64号)、「過疎地域自立促進特別措置法」(平成12年法律第15号)、「半島振興法」(昭和60年法律第63号)、「離島振興法」(昭和28年法律第72号)及び「特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律」(平成5年法律第72号)の規定に基づき指定されている地域等
(注2) 北海道ほか20県 北海道、青森、岩手、宮城、山形、群馬、神奈川、石川、福井、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、和歌山、岡山、山口、徳島、高知、大分、鹿児島各県
(注3) 青森県ほか17県 青森、岩手、宮城、山形、群馬、神奈川、石川、福井、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、和歌山、岡山、山口、大分、鹿児島各県