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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

牛に係る家畜共済事業の運営において、牛個体識別台帳に記録されている情報を利用するなどして、牛の異動情報を適切に把握することにより、共済金の算定を適正に行うよう改善させたもの


(6)牛に係る家畜共済事業の運営において、牛個体識別台帳に記録されている情報を利用するなどして、牛の異動情報を適切に把握することにより、共済金の算定を適正に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 農業共済再保険特別会計(家畜勘定)(項)家畜再保険費
部局等の名称 農林水産本省
事業の根拠 農業災害補償法(昭和22年法律第185号)
事業名 家畜共済事業(牛)
事業の概要 農業者が不慮の事故によって受ける家畜等の損失を補てんするため、農業共済組合等が行う共済事業のうち牛を対象とするもの
不適切な事態に係る農業者 農業者延べ4,674人(平成15、16両年度)
上記の者に係る共済金支払額 96億1383万余円  
うち国の再保険金相当額 48億0405万余円  
過大となっていた共済金支払額 1億5029万円 (平成15、16両年度延べ2,246人)
うち国の再保険金相当額 7498万円  
過小となっていた共済金支払額 1億0544万円 (平成15、16両年度延べ2,428人)
うち国の再保険金相当額 5260万円  

1 事業の概要

(農業災害補償制度)

 農林水産省では、農業災害補償法(昭和22年法律第185号)に基づき、農業者が不慮の事故によって受ける損失を補てんして農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的として、農業災害補償制度を運営している。
 この制度は、原則として、市町村などの各地域ごとに設立される農業共済組合又は市町村(以下「組合等」という。)が行う共済事業、都道府県ごとに設立される農業共済組合連合会(以下「連合会」という。)が行う保険事業、国が行う再保険事業の3事業により構成されている。このうち共済事業は、農業者が払い込む共済掛金により資金を造成し、これを財源として、家畜の死亡等の共済事故が発生した場合に、その損害の程度に応じて被災農業者に共済金を支払うものである。この共済事業は、対象とする作物等により農作物、家畜、果樹等に区分されている。
 そして、組合等は、農業者に対し支払う共済金の支払責任の一部を連合会の保険に付し、さらに、連合会は、組合等に対し支払う保険金の支払責任の一部を国の再保険に付することとなっている。また、国は、農業者が支払うべき共済掛金の一部を負担することとなっている。
 この共済事業の運営について、国は連合会の、都道府県は組合等の業務又は会計の状況を検査するなどして、これらの団体を指導監督することとなっている。
 農林水産省では、この農業共済再保険事業に関する経理を、一般会計と区分して農業共済再保険特別会計を設置し、運営していて、そのうち家畜共済に係る平成16年度の歳入決算額は441億0657万余円(うち牛に係る共済掛金国庫負担金296億9221万余円)であり、また、歳出決算額は320億7739万余円(うち牛に係る再保険金支払額205億4242万余円)となっている。

(牛に係る家畜共済事業)

 家畜共済事業のうち、牛を対象とする共済事業(以下「牛共済」という。)に係る共済関係及び共済金については、農業災害補償法、「家畜共済の事務取扱要領及び事務処理要領について」(昭和61年61農経B第804号農林水産省経済局長通知。以下「要領」という。)等により、次のようになっている。

(1)共済関係

 共済関係は、牛を飼養する農業者が、牛共済への加入の申込みをして、組合等がこれを承諾することによって成立する(以下、これを「引受け」という。)。
 牛共済は、原則として出生後第5月の月の末日を経過した牛を対象としている(以下、この牛を「共済対象の牛」という。)が、事故の危険の高い牛だけを選択して共済に付することを防ぐなどのため、牛共済に加入した農業者(以下「組合員等」という。)が飼養する全頭を一体として引受けの対象とすることとなっている(以下、これを「包括共済」という。)。このため、組合員等が現に飼養している共済対象の牛は、引受け後に導入されたものも含めてすべて共済に付されることになる。
 また、共済掛金は、共済金額(共済事故により生じた損害の補償限度額)に共済掛金率を乗じて得た額となっており、この共済掛金に係る共済責任を負う期間(以下「共済掛金期間」という。)は原則として1年となっていて、以後は継続更新される。
 組合員等は、共済対象の牛に導入、譲渡等の異動(共済事故となる死亡及び廃用を除く。以下、単に「異動」という。)が生じたときは、遅滞なく組合等に通知しなければならないこととなっている。
 そして、組合等は、上記の通知を受けたときは、飼養場所において異動記録等により異動の事実を確認し、共済掛金期間の開始時及び共済事故時には必ず飼養場所において、飼養家畜と異動記録等により異動の事実をもれなく確認することとなっている。
 また、組合等は、組合員等ごとに、飼養頭数や共済価額(組合員等が現に飼養している共済対象の牛の評価額を合計した額)現在高、共済金額現在高等を記録した引受台帳及び牛の個体ごとの評価額や「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(平成15年法律第72号。以下「牛肉トレーサビリティ法」という。)等の規定により装着される耳標の番号等を記録した個体整理簿を整備することとなっている。

(2)共済金

 共済対象の牛に死亡又は廃用の共済事故が発生した場合に支払われる共済金の額は、次の式により算定することとなっている。

共済対象の牛に死亡又は廃用の共済事故が発生した場合に支払われる共済金の額は、次の式により算定することとなっている。

 上記の算式において、共済金額は、共済掛金期間の開始時における共済価額の2割から8割までの範囲内で組合員等が申し出た額であり、同期間中において牛の異動により変動することはないが、共済価額は、飼養頭数の増減に伴ってその額が変動する。このため、例えば、共済掛金期間開始時の飼養頭数が3頭で、その評価額の合計である共済価額が90万円の場合、組合員等が共済価額の5割に当たる45万円の共済金額を申し出ると、共済金額の共済価額に対する割合(以下「付保割合」という。)は50%となる。その後、この組合員等が評価額30万円の牛を導入した場合には、共済価額は120万円となり、付保割合は37.5%に低下する。また、この組合員等が開始時の3頭のうち評価額30万円の牛を譲渡した場合には、共済価額は60万円となり、付保割合は75%に上昇する。
 そして、このように付保割合が共済掛金期間中の牛の飼養頭数の増減に伴い随時変動することにより、共済金の支払額に影響を及ぼすことになる。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 牛共済が適正に運営されるためには組合員等が現に飼養している共済対象の牛の頭数(以下「実飼養頭数」という。)の把握が的確に行われることが必要不可欠である。
 しかし、昨今、組合等において、合併により広域化したり、職員数が減少したりしていることや、乳用牛の飼養においてフリーストール方式(牛が自由に動き回れるようになっている牛舎方式)による飼養形態を採るようになったりしていることなどから、飼養場所での実飼養頭数等の確認が困難となってきている。
 一方、15年12月に、牛海綿状脳症(BSE)のまん延防止等を目的とした牛肉トレーサビリティ法が施行されたことに伴い、国は牛の個体情報を個体識別番号により一元的に管理する牛個体識別台帳を整備することとして、飼養牛についての個体情報を独立行政法人家畜改良センター(以下「改良センター」という。)へ届け出ることを飼養者へ義務付けている。そして、改良センターでは、届出のあった牛一頭ごとの生年月日、飼養施設の所在都道府県名、異動履歴等の情報(以下「センター情報」という。)を、インターネットを通じて公表している。これにより、組合等は、個体整理簿等により把握している個体識別番号を基に、当該牛の異動に関する情報を容易に入手することができる状況となっている。
 そこで、本院では、組合等で保有している個体整理簿の情報とセンター情報とを照合することなどにより、組合等において、実飼養頭数等の確認を適時適切に行っているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか29県(注) 管内の195組合等における組合員等のうち3,694人に対し、15、16両年度に、包括共済に係る牛の共済事故により支払われた共済金120億2859万余円(うち国の再保険金相当額60億1100万余円)について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記30道県管内の188組合等において、組合員等が、異動日の異なる複数の牛の異動をまとめて組合等に通知するなど、共済掛金期間中の牛の異動について組合員等から適時適切な通知が行われておらず、また、組合等が実飼養頭数等の確認を十分に行っていない事態が多数見受けられた。このため、引受台帳等に記載されている頭数(以下「引受頭数」という。)が実飼養頭数とかい離していて、包括共済制度運営の前提である共済対象の牛の把握が的確に行われていない状況となっていた。
この結果、上記の188組合等における組合員等延べ4,674人(これらに係る共済金支払額96億1383万余円、うち国の再保険金相当額48億0405万余円)について、付保割合が正しく算定されていなかった。そして、死亡又は廃用に対して支払われた共済金が、実飼養頭数に基づく付保割合により算定した額に比べて過大となっていたものが15、16両年度延べ2,246人で計1億5029万余円(うち国の再保険金相当額7498万余円)、また、過小となっていたものが延べ2,428人で計1億0544万余円(同5260万余円)あった。

<事例>

 A農業共済組合の組合員Bの共済掛金期間における牛の引受頭数は、開始時が139頭で、死亡又は廃用の事故発生時(計35回)には116頭から138頭となっていた。そして、これらの事故に対して共済金計5,796,168円が支払われていた。
 しかし、同共済組合で保有している異動の情報とセンター情報とを照合するなどにより実飼養頭数等を検査したところ、開始時には167頭で、事故発生時には164頭から173頭となっていた。
 このため、共済価額が実飼養頭数に基づく適正な共済価額より低額となっており、これに伴い、付保割合は適正な付保割合より高いものとなっていた。したがって、実飼養頭数に基づき共済金の支払額を計算すると、4,618,641円となり、1,177,527円(うち国の再保険金相当額588,764円)が過大に支払われていた。
 このように、組合等において、実飼養頭数等の確認が適切に行われていないなどのため、引受頭数が実飼養頭数とかい離し、共済金が過大又は過小に支払われている事態は、畜産経営及び家畜共済事業の安定を図るために創設された包括共済制度の趣旨からみて適切とは認められず、従来、利用を図ってこなかったセンター情報を利用するなど改善を図る要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、組合員等が牛の異動通知の的確な実施を怠ったことなどによるほか、主として次のような理由によると認められた。

(1)農林水産省において、
ア 昨今、組合等の態勢の変化や牛の飼養形態の変化により、飼養場所での実飼養頭数等の確認が困難となっている状況にもかかわらず、実効性のある実飼養頭数等の確認方法を検討していなかったこと
イ 都道府県及び連合会に対して、組合員等が牛の異動の通知を的確に行うよう、また、組合等が実飼養頭数等の確認を適切に実施するよう徹底する指導を十分に行っていなかったこと

(2)都道府県及び連合会において、組合等が実飼養頭数等の確認を適切に実施するよう指導・監督を十分に行っていなかったこと

(3)組合等において、実飼養頭数等の確認を適切に実施していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、17年9月に、次のとおり、要領等を改正するとともに、都道府県等に通知を発してその内容を周知徹底するなどして、牛共済の運営の適正化を図るための処置を講じた。

(1)要領等を改正し、組合等による飼養場所での実飼養頭数等の確認を、共済掛金期間の開始時に飼養する個体ごとに厳密に行い、共済事故時及び共済掛金期間中の異動時には関係資料等により行うこととした。また、これらの確認の際には、組合等の保有する個体整理簿の情報とセンター情報の照合を実施することとした。

(2)要領等により、組合等が実飼養頭数等の確認を適切に実施することを徹底することとし、通知により、都道府県及び連合会に対し組合等の指導・監督を徹底させることとした。

(3)組合員等が異動の通知をしなかったことなどにより誤った共済金が支払われた場合は、過払分を返還させる規定を要領等に明記し、組合員等に対しても周知徹底するよう家畜共済加入申込書に返還の規定を追記して、牛の異動の通知を的確に行うことを徹底させることとした。

北海道ほか29県 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、富山、石川、山梨、長野、岐阜、愛知、滋賀、奈良、和歌山、島根、広島、山口、香川、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎、鹿児島各県