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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

独立行政法人水資源機構が建設したダム等を利用して流水をかんがいの用に供する者の受益者負担金について、かんがい工事の実施状況を適切に把握することにより完了時期等に合わせ徴収を開始するよう改善させたもの


(9)独立行政法人水資源機構が建設したダム等を利用して流水をかんがいの用に供する者の受益者負担金について、かんがい工事の実施状況を適切に把握することにより完了時期等に合わせ徴収を開始するよう改善させたもの

会計名及び科目 治水特別会計 (款)電気事業者等工事費負担金収入
    (項)電気事業者等工事費負担金収入
部局等の名称 国土交通本省(平成13年1月5日以前は建設本省)
受益者負担金を徴収する者 徳島、千葉両県知事
受益者負担金の概要 独立行政法人水資源機構が建設したダム等を利用して流水をかんがいの用に供する者が負担することとなるダム等の建設費を、かんがい施設が完成するまでの間、同機構が立て替えているもの
水資源機構が立て替えている受益者負担金 57億9990万余円
 
上記のうち徴収を開始することとした受益者負担金 54億5551万円  
  徳島県   30億4949万円
  千葉県   24億0601万円

1 受益者負担金の概要

(ダム等の建設に伴う受益者の費用負担)

 国土交通省では、水資源開発促進法(昭和36年法律第217号)に基づいて、水資源の総合的な開発及び利用の合理化の促進を図るため、水資源開発水系の指定をし、水資源開発基本計画を決定している。そして、独立行政法人水資源機構(平成15年9月30日以前は水資源開発公団。以下「機構」という。)は、水の安定的な供給の確保を図ることを目的として、水資源開発基本計画に基づく水資源の開発又は利用のための施設の改築等及び水資源開発施設等の管理等の業務を行うこととされている。
 機構では、独立行政法人水資源機構法(平成14年法律第182号。以下「機構法」という。)等に基づいて、洪水防御の機能又は流水の正常な機能の維持と増進等を目的として多目的ダム、河口堰、湖沼水位調節施設等の施設(以下「ダム等」という。)を建設するとともに、その操作、維持、修繕その他の管理を実施している。
 機構法等によれば、ダム等の新築又は改築を行う際、ダム等に関連して都道府県等が用水路等の専用のかんがい施設等を新設又は拡張するに当たり、ダム等を利用して流水をかんがいの用に供する者(以下「受益者」という。)がある場合には、受益者はダム等の新築等に要する費用の一部を負担(以下「受益者負担金」という。)しなければならないとされている。そして、都道府県知事は受益者から受益者負担金を徴収して国に納付し、国は受益者負担金に相当する額を機構に対して交付金として交付するものとされている。

(受益者負担金の納付の開始時期及び期間)

 機構法等によれば、受益者負担金は、ダム等の新築等の工事が完了した年度の翌年度から起算して15年を下らない期間内で国土交通大臣が定めた期間に、都道府県知事が国に納付することとされている。
 そして、ダム等の利用に係る土地改良法(昭和24年法律第195号)による国営土地改良事業もしくは都道府県営土地改良事業として行われるかんがい施設の新設又は拡張の工事(以下「かんがい工事」という。)が、ダム等の工事が完了した年度までに完了しないときは、そのかんがい工事が完了した年度の翌年度から起算して15年を下らない期間内で国土交通大臣が定めた期間に、国に納付することとされている。ただし、かんがい工事がすべての地区で完了する前に一部地区においてかんがい工事が完了し受益者があるときは、受益者負担金の支払期間は、その受益が発生した年度の翌年度以後において都道府県知事が指定する年度から起算することとされている。

(受益者負担金の立替え)

 機構では、ダム等の新築等の工事を開始してから、受益者負担金が国に納付され、機構に交付金として交付されるまでの間、新築等の工事に要する費用のうち受益者負担金相当分の資金については、財政融資資金(12年度までは財政投融資資金)からの借入金をもって立て替え、支弁している。そして、ダム等の新築等の工事が完了し、当該ダム等の管理を開始した後、国への納付が開始されずに据置きとなっている受益者負担金相当分の金額については、機構において据置割賦元金とこれに係る利息として整理されており、その金額は、表のとおり、16年度末現在で、早明浦ダムほか4ダム等(池田ダム、利根川河口堰、奈良俣ダム及び霞ヶ浦開発)に係る据置割賦元金20億9457万余円、これに係る利息37億0532万余円、計57億9990万余円となっている。

表 機構が立て替えている受益者負担金の内訳
平成16年度末現在

ダム等名 据置割賦元金として計上した年度(管理開始年度) 据置経過年数(管理開始後の経過年数) 県名 据置割賦元金 左に係る利息 元利合計
早明浦ダム 昭和50年度 29年 徳島県 千円
176,246
千円
753,895
千円
930,142
池田ダム 昭和50年度 29年 徳島県 388,581 1,730,775 2,119,356
小計 564,828 2,484,670 3,049,498
利根川河口堰 昭和46年度 33年 千葉県 18,659 111,815 130,475
奈良俣ダム 平成3年度 13年 千葉県 1,151,292 939,175 2,090,467
霞ヶ浦開発 平成8年度 8年 千葉県 359,791 169,667 529,458
小計 1,529,743 1,220,658 2,750,401
合計 2,094,571 3,705,329 5,799,900

(かんがい工事の実施状況の把握)

 国土交通省では、前記交付金の交付事務の円滑化を期すため、昭和58年に機構に対して「水資源開発公団法第28条第1項の負担金について」(建設省河開発第80号。以下「通達」という。)を発し、機構において、かんがい工事の進ちょく状況等を的確に把握するとともに、かんがい工事を実施する都府県担当部局と連絡を密にし、機構から国土交通省に適時適切にかんがい工事の進ちょく状況等を報告することとしている。この通達を受け、機構では同年都府県担当部長あてに「水資源開発公団法第28条第1項の負担金について」(58管業第129号)を発し、かんがい工事の実施状況を把握するために都府県から毎年度「特定施設に係る関連土地改良事業実施状況報告書」(以下「実施状況報告書」という。)の提出を受けることとしている。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 機構では早明浦ダムほか4ダム等に係る徳島、千葉両県の受益者負担金相当分を立て替えており、その額は、平成16年度末現在、57億9990万余円と多額に上っている。そして、財政融資資金から借り入れて立て替えている資金は、借入期間が長期にわたっているため利息が元金を大幅に上回っている状況となっており、このまま推移するとさらに利息が増こうすることとなる。
 一方、国土交通省では、機構から、上記の5ダム等に関し、徳島、千葉両県におけるかんがい工事の実施状況報告書の提出を受けている。かんがい工事の完了時期等の把握は、受益者負担金の支払開始時期を決定するための重要な情報であることから、国土交通省が実施状況報告書をどのように活用し、工事の完了時期等を把握しているかについて検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態となっていた。
 機構が管理する上記の5ダム等は、前記表のとおり、管理開始後8年から33年と長期間が経過している。そして、徳島及び千葉両県内で実施されている5ダム等からの流水の利用に係るかんがい工事の実施状況は、次のとおりとなっていた。

(1)徳島県内におけるかんがい工事の実施状況

 徳島県から機構を通じて国土交通省に提出された実施状況報告書によると、16年度末現在において、早明浦ダム及び池田ダム(いずれも昭和50年度管理開始)の流水の利用に係るかんがい工事は、46年度から平成14年度までの間に5地区で開始され、これらの5地区については、元年度から12年度までの間に国営事業1地区及び県営事業2地区が完了しており、このほか、県営かんがい排水事業吉野地区を12年度から16年度までの工期で完了し、また、県営経営体育成基盤整備事業昭和地区を14年度から19年度までの工期で施工中であるとしていた。そして、同県では、昭和地区の工事が19年度に完了予定であることから、早明浦ダム及び池田ダムに係る受益者負担金の徴収をすべての地区の工事完了の翌年度である20年度から開始するとしていた。
 そして、機構では、同県から上記の各かんがい工事が完了し又は施工中である旨の実施状況報告書を受け、これを国土交通省に報告していたため、同省において、受益者負担金の支払時期等を定めていなかった。
 しかし、吉野地区における県営かんがい排水事業は、早明浦ダム及び池田ダムからの流水をかんがいに利用するための施設整備ではなく、同県営宮川内ダムからの流水をかんがいに利用するために既設の用水路を改築することを目的として実施されているものであり、早明浦ダム及び池田ダムの流水の利用に係るかんがい工事ではないと認められた。また、昭和地区における県営経営体育成基盤整備事業は、早明浦ダム及び池田ダムの流水の利用に係るかんがい施設ではあるものの、既設の施設の改築工事であり、新設又は拡張の工事ではないと認められた。
 したがって、前記のとおり、同県におけるかんがい工事は12年度までに完了しているのであるから、国土交通省において、受益者負担金の支払時期等を定め、その徴収を開始すべきであったと認められる。この受益者負担金は、16年度末現在30億4949万余円に上っている。

(2)千葉県内におけるかんがい工事の実施状況

ア 奈良俣ダム及び霞ヶ浦開発からの流水の利用に係るかんがい工事(東総用水事業関連)について
 千葉県から機構を通じて国土交通省に提出された実施状況報告書によると、16年度末現在において、奈良俣ダム(3年度管理開始)及び霞ヶ浦開発(8年度管理開始)の流水の利用に係るかんがい工事は、昭和55年度から平成12年度までの間に11地区で開始され、5年度から16年度までの間に10地区が完了し、1地区について施工中であった。
イ 利根川河口堰及び霞ヶ浦開発からの流水の利用に係るかんがい工事(北総中央用水事業関連)について
 上記の実施状況報告書によると、16年度末現在において、利根川河口堰(昭和46年度管理開始)及び霞ヶ浦開発からの流水の利用に係るかんがい工事は、63年度から平成8年度までに4地区で開始され1地区が完了し、3地区について施工中であった。このほか、工事の実施時期が到来していないため工事に着手していない地区が3地区あった。
 このように、同県では、かんがい工事が完了している地区があり、前記のとおり、機構法等によれば、県知事が受益者負担金の支払開始の時期を指定する旨定められていることから、同県知事の判断により受益者負担金の支払開始の時期について指定することが可能であったと認められる。
 そして、特に、前記アについては、11地区のうち1地区のみを残しかんがい工事が完了し受益が発生していることから、受益者負担金が多額に上っていることを踏まえ、国土交通省及び機構において、同県に対し、受益者負担金の支払開始時期等の決定に当たり、その適切な判断に資するため、受益者負担金を長期間据え置くことにより生ずる支払利息の負担額等に関し定期的に文書で通知するなど積極的な情報提供を行うことが必要であったと認められた。この受益者負担金は、16年度末現在24億0601万余円に上っている。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、国土交通省及び機構において、次のことなどによると認められた。
ア かんがい工事の実施状況を十分把握していなかったこと
イ 受益者負担金を長期間据え置くことにより生ずる支払利息等の負担額等に関し、両県に対し定期的な情報提供を行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省では、かんがい工事の実施状況の把握、情報の提供、連絡調整を密にし、引き続き受益者負担金徴収業務のなお一層の円滑化に努めることとし、次のような処置を講じた。
ア 徳島県が実施状況報告書で報告している前記のかんがい工事については、早明浦ダム及び池田ダムの流水の利用に係るかんがい施設の新設又は拡張には該当しないと認定し、すべての工事が完了していることから機構法等に基づき、同県において早明浦ダム及び池田ダムの受益者負担金30億4949万余円の徴収を開始する時期を速やかに定めることとした。
イ 千葉県については、本院の指摘を踏まえた機構の同県に対する働きかけもあり、同県では、17年7月に、奈良俣ダム及び霞ヶ浦開発に関連したかんがい工事のほとんどが完了し、受益の発生している地区に係る受益者負担金24億0601万余円の徴収を18年度から開始し、国に納付することとした。また、利根川河口堰及び霞ヶ浦開発に係る受益者負担金については、その徴収を円滑に行うため国土交通省において、引き続きかんがい工事の実施状況の把握等に努めることとした。