1 本院が表示した改善の意見
独立行政法人科学技術振興機構(平成15年9月30日以前は科学技術振興事業団。以下「機構」という。)では、内外の科学技術に関する論文その他の文献に係る情報を提供するなどの文献情報提供業務を行っており、この業務に係る経理について文献情報提供勘定を設けて整理している。そして、同勘定については、毎事業年度損失金が発生して累積欠損金が増こうしていたことなどから、8年に収支改善計画が策定されている。
そこで、機構が独立行政法人として設立された機会をとらえて、9事業年度から15事業年度までに実施された文献情報提供業務を対象として、提供する商品の収支等の状況や、収支改善計画に沿って業務を行うことにより収支が改善され累積欠損金の解消が見込めるかなどについて検査した。
その結果、商品ごとの売上げ及び費用が把握できず、また、文献情報提供業務として計上すべき人件費が的確に把握できないなどのため適切な収支改善計画を策定することができない状況となっていたり、収支改善計画の見直しが抜本的なものとなっていなかったりしていて、文献情報提供業務の安定的な実施が困難になるおそれがあると認められた。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められた。
(ア)文献情報提供業務で提供されているサービスの売上げについて大幅な増収が期待できない状況にあること
(イ)文献情報提供業務で提供されているサービスのうち、科学技術論文等の検索システムについて、商品ごとの費用収益が的確に把握されておらず、また、文献情報提供業務とそれ以外の業務について、それぞれの業務量が的確に把握されていないこと
(ウ)収支改善計画の見直しに当たり、事業収入が減少し続けているにもかかわらず、楽観的な見込みに基づいた計画を策定していること
機構が研究情報基盤として文献情報提供業務を長期にわたり効率的かつ安定的に実施するとともに、文献情報提供勘定における健全な財務内容の確保を図るため、次のとおり、機構の理事長に対し16年10月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。
(ア)利用者の需要動向等を的確に把握し、その需要に即したサービスの開発・提供に努めること
(イ)提供する商品ごとの売上状況、収支状況、利用状況等や文献情報提供業務に係る人件費を的確に把握すること
(ウ)収支改善計画の見直しに事業の実績を適切に反映させること
2 当局が講じた改善の処置
機構では、本院指摘の趣旨に沿い、文献情報提供業務が長期にわたり効率的かつ安定的に実施され、文献情報提供勘定における健全な財務内容の確保が図られるよう、次のような処置を講じた。
(ア)利用者の需要動向等を的確に把握し、その需要に即したサービスの開発・提供を行うため、利用者に対するアンケート調査等を実施し、利用者からの機能拡充の要望を反映させた新規の文献情報検索システム等を運用することとした。
(イ)人員配置の見直しにより文献情報提供業務に係る業務量及び人件費を把握することができるようにするとともに、16事業年度の決算データに基づき商品別の原価計算を実施し、あわせて17事業年度以降商品ごとの売上げ及び費用を把握することができるようにした。また、科学技術の分野別の利用状況を把握することができるようにした。
(ウ)16年11月に、15事業年度の実績、新たに策定された中小企業に対する固定料金サービスの新設等による収益拡大策及びシステム運用経費等の大幅な削減等による費用削減策を反映した収支改善計画を策定した。