検査対象 | 内閣府(防衛庁) |
会計名及び科目 | 一般会計 (組織)防衛本庁 (項)研究開発費 |
装備品等の技術研究開発の概要 | 自衛隊等の使用する装備品等を自主開発、国産化するために技術研究本部が行う技術研究及び技術開発など |
研究開発費 | 2兆2510億円(昭和60年度〜平成16年度) |
1 事業の概要
防衛庁では、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚会議(以下「自衛隊等」という。)が使用する船舶、航空機、武器、車両、通信電子機器等及び食糧その他の需品(以下「装備品等」という。)に、国産品及び輸入品を用いている。国産品の装備品等には、国内開発したもの、日米共同開発したもの、我が国企業が外国企業の技術を導入しライセンス生産したものがあり、輸入品の装備品等には、商社経由で輸入したものと、米国政府の有償の対外軍事援助によるものがある。
そして、防衛庁では、我が国の国土、国情に最も適した装備品等の取得、高い技術力の保持、装備品等の安定供給などの観点から、装備品等の自主開発、国産化が重要であるとして、装備品等の技術研究開発を行っている。
防衛庁が行っている装備品等の技術研究開発に関する事項は、「装備品等の技術研究開発に関する訓令」(昭和50年防衛庁訓令第48号)に定められており、この中で技術研究開発は、技術研究(以下「研究」という。)及び技術開発(以下「開発」という。)並びに実用試験と定められている。
研究は、開発に必要な技術上の知識を取得するための技術的調査研究、考案及び試験(研究試作及び所内試験を含む。)などとされており、開発は、装備品等の創製又は重要な改善をするために行う考案、設計及び試作並びに試作された装備品等の性能が設計に適合するか否かについて評価する技術試験とされている。また、実用試験は、自衛隊等が開発において試作された装備品等が使用目的に適合するか否かについて評価をするために行う試験とされている。
防衛庁では、特別の機関として技術研究本部(以下「技本」という。)を設置し、装備品等の研究及び開発(以下「研究開発」という。)を行わせている。
技本では、陸上、船舶及び航空機等の装備体系別に担当が定められた5技術開発官、5研究所、4試験場で研究開発を行っている。技本の平成17年3月31日現在の全職員数(現員)は1,144人で、このうち研究職は534人(全職員数に占める割合46.6%)となっているが、研究開発を行うに当たり、企業等の専門的な知識や技術を必要とする場合には、企業等から技術者の労務を借り上げている。
防衛庁における装備品等の技術研究開発は、装備品等の自主開発、国産化を目的に行われており、長期の見積りに基づく技術研究開発の着手から装備化に至るまでの進め方は、通常、図1のとおりとなっている。
図1 技術研究開発の進め方
(1)技術研究開発の長期の見積り
陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長又は統合幕僚会議議長(以下「幕僚長等」という。)は、概算要求年度の次年度以降おおむね10年間に研究又は開発を完了することを期待する項目ごとに、技術研究開発要求見積書を毎年度作成し、防衛庁長官(以下「長官」という。)に提出するとともに、技術研究本部長(以下「本部長」という。)に送付することとなっている。
そして、本部長は、技術研究開発要求見積書の項目並びに本部長が研究又は開発を実施することが適当であると認めた項目のうち、概算要求年度の次年度以降おおむね5年間に着手することが必要と認められる研究で重要なもの及び開発の項目について、技術研究開発実施見積書を毎年度作成し、長官に提出するとともに、幕僚長等に送付することとなっている。
(2)研究の計画と実施
幕僚長等は、本部長に研究を要求する場合には、技術研究開発実施見積書に基づき、研究の項目ごとに、技術研究要求書を本部長に提出するとともに、長官に報告することになっている。
本部長は、研究のうち重要なものについては、項目ごとに、重要技術研究実施計画書を毎年度作成し、その他の研究については、年度業務計画の細部計画を作成して実施している。
(3)開発の計画と実施
幕僚長等は、本部長に開発を要求する場合には、技術研究開発実施見積書に基づき、開発の項目ごとに、技術開発要求書を本部長に提出するとともに、長官に報告することになっている。
本部長は、開発の項目ごとに、技術開発実施計画書を毎年度作成し、長官の承認を得て、開発を実施している。
また、本部長は、開発で製作した試作品について技術試験を終了した場合には、その結果に実用試験の実施についての意見を付して、長官に報告するとともに、幕僚長等に通知することになっている。
(4)実用試験の実施と評価
幕僚長等は、実用試験の実施を長官から命ぜられたときは、実用試験を実施し、その結果に当該実用試験に係る装備品等が部隊の使用に供し得るか否かについての意見を付して、長官に報告するとともに、本部長に通知することになっている。その後長官は、実用試験の結果の報告の評価に関する事項について、装備審査会議に諮問することとなっている。
(5)技術研究開発した装備品等の装備化
装備品等には、長官が制式を制定する装備品等があり、これらの装備品等は、原則として、制式を制定した後でなければ部隊の使用に供してはならないこととなっている。
そして、各幕僚長が、制式の採用について長官に上申する際には、装備品等の性能等が部隊の使用に適していることを証する資料を、実用試験の結果の報告(装備審査会議への諮問事項)をもって代えることができることとなっている。
防衛庁では、重要技術研究実施計画書に技術研究項目名を、技術開発実施計画書に技術開発項目名を記載することとなっている(以下、これらを併せて「研究開発項目」という。)。また、それぞれの実施計画書に記載することとされている当該年度実施計画には、技術研究件名又は技術開発件名(以下、これらを併せて「研究開発件名」という。)を記載することとなっている。
なお、一つ又は複数の研究開発項目で一つ又は複数の装備品等が開発される場合があり、また、一つの研究開発項目は複数の研究開発件名により実施されている。
技本は、実施する研究開発を適切に管理し、その成果を有効に活用するために、実施担当者が所属する技術開発官などが、それぞれ所掌する研究開発件名ごとの結果又は経過等について本部長に対して行う報告の種類、作成要領等を定めている。
この報告には、管理報告と技術報告とがあり、このうち管理報告は、研究開発を適切に管理するために研究開発の結果等の概要について行うもので、研究開発の実施の過程において行う経過報告と終了した場合において行う終了報告がある。これらは、報告者ごとに提出することとされていることから、例えば、一つの技術試験を複数の試験場で実施している場合には、同一の研究開発件名に関する報告が同じ年度に複数行われることもある。
そして、管理報告には、実施の概要、今後の方針及び参考事項、当該研究開発に要した経費などを記載することとなっている。
本部長が、開発の項目ごとに毎年度作成し、長官の承認を得る技術開発実施計画書には、開発目標、完了予定年度、当該年度実施計画、評価時点、見積量産単価等が記載されている。
このうち、見積量産単価は、それぞれの時点の見積りに基づき、幕僚長等が作成した技術開発要求書における「期待する量産単価」の積算の前提とされた数量(以下「見積量産単価前提数量」という。)を前提として、具体的な金額で示すこととなっている。このため、同一の研究開発項目は、継続中の場合、各年度の技術開発実施計画書に記載されることから、見積量産単価は、毎年度見直されることとなる。そして、見積量産単価は、開発で要求されている機能・性能を持った装備品等が、見積量産単価前提数量どおりに量産された場合の量産単価であり、開発計画策定時には、開発される装備品等と既存の外国製装備品等との比較を行う場合に用いられる指標の一つとなっている。
2 検査の着眼点及び対象
防衛庁では、16年12月に策定した「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について」において、装備品等の技術研究開発について、産学官の優れた技術の積極的導入や重点的な資源配分、適時適切な研究開発プロジェクトの見直し等により、その効果的かつ効率的な実施を図るとしている。
そこで、技本が行っている研究開発の装備化に至るまでの状況はどのようになっているか、また、研究開発は装備化後の調達を考慮したものとなっているかなどに着眼して、昭和60年度から平成16年度までの20年間(以下「検査対象期間」という。)において実施された研究開発を対象に検査した。
3 検査の状況
(1)研究開発費と試作試験費
技本の予算における「(項)研究開発費」の執行額は、検査対象期間中の合計で2兆2510億円となっており、16年度では、防衛本庁全体の3.7%、1623億円となっている。そして、この間の防衛本庁全体の執行額の伸び率が52.1%であるのに対し、研究開発費の伸び率は224.4%と大きくなっている。
研究開発費の執行に伴い管理報告を提出することとされていた検査対象期間中の研究開発は、表1のとおり、8,147件、研究開発費は2兆1517億円に上っている。このうち試作品の製作やその性能確認試験(これらに要した費用を以下「試作試験費」という。)によって実施された研究と開発の計は4,174件となっており、その試作試験費は2兆0642億円となっていて、研究開発費の95.9%を試作試験費が占めていた。そして、この試作試験費を使って研究開発が実施されたのは、536研究開発項目となっていた。
注(1) | 「研究」の管理報告は、研究試作及び所内試験に係る管理報告を記載している。 |
注(2) | 「その他」の管理報告は、「研究」以外の研究に係る管理報告を記載している。また、この中には、研究開発項目を設定しないような小規模な研究もあることから、項目数の集計はしていない。 |
(2)研究開発と装備化等の状況
防衛庁の主要装備品等の品目数は、16年度末現在で1,633品目であった。一方、技本が研究開発を実施した装備品等として、検査対象期間中に装備化されたものは109品目となっていた。
このうち、昭和59年度以前に開発が終了している11品目を除いた残りの98品目に係る試作試験費は、前記の536研究開発項目に係る試作試験費に含まれていた。
この536研究開発項目についてみると、表2のとおりとなっていた。
区分 | 装備品等 | 研究開発項目 | 試作試験費 | ||
ア 装備化に至った研究開発 | 98品目 | 98項目 | 18.2% | 1,238,437 | 59.9% |
イ 17年度も継続している研究開発 | — | 93項目 | 17.3% | 384,814 | 18.6% |
ウ 16年度までに終了しているなどの研究開発 | — | 345項目 | 64.3% | 441,026 | 21.3% |
合計 | — | 536項目 | 100.0% | 2,064,277 | 100.0% |
ア 装備化に至った研究開発
研究開発を実施し装備化に至った装備品等には、開発を前提に研究から着手した装備品等(以下「研究・開発装備品等」という。)と、基礎的な研究の成果等を基に開発から着手した装備品等(以下「開発装備品等」という。)とがある。これらについて、装備化に至るまでに要した試作試験費及び研究開発の期間について検査したところ、以下のような状況となっていた。
(ア)装備化に至るまでに要した試作試験費
装備化に至った研究開発で検査対象期間中に試作試験費を支出している98品目に係る研究開発のうち、検査対象期間内に試作試験費の全額が支出されたものは70品目に係る研究開発であり、このうち、試作試験費が特定できる58品目に係る状況は、71研究開発項目(98品目に係る分の72.4%)、試作試験費1兆0703億円(同86.4%)となっていた。
この58品目について、研究・開発装備品等と開発装備品等のそれぞれの試作試験費を装備品等の分類別に集計すると、表3のとおりとなっていた。
分類 | 装備品等 | 試作試験費 | ||||
総額 | 平均 | |||||
研究・開発 | 開発 | 研究・開発 | 開発 | 研究・開発 | 開発 | |
航空機 誘導武器 火器・車両 艦艇・水中武器 電子機器 その他 |
2品目 6品目 6品目 2品目 8品目 3品目 |
3品目 4品目 7品目 2品目 14品目 1品目 |
18,729 143,338 56,669 46,002 77,678 8,581 |
446,696 154,634 9,635 19,860 87,526 999 |
9,364 23,889 9,444 23,001 9,709 2,860 |
148,898 38,658 1,376 9,930 6,251 999 |
小計 | 27品目 | 31品目 | 351,001 | 719,352 | — | — |
合計 | 58品目 | 1,070,353 | — |
航空機についてみると、研究・開発装備品等は、開発装備品等よりも試作試験費が低額となっているが、これは、研究・開発装備品等が輸送機用機雷投下装置及び遠隔操縦観測システムであり、航空機そのものではないことによるものである。一方、開発装備品等の航空機は、開発のみの試作試験費であるにもかかわらず、他の装備品等と比べかなり高額となっている。
また、この58品目を個別の装備品等でみると、表4のとおり、支援戦闘機(F—2)及び03式中距離地対空誘導弾の試作試験費がいずれも開発のみの試作試験費であるが、前者がおよそ3065億円(58品目全体の28.6%)、後者がおよそ1240億円(同11.5%)を要していて、この2品目で58品目の40.2%を占める状況となっていた。
試作試験費 | 研究・開発装備品等 | 開発装備品等 | ||
品目 | 主な装備品等 | 品目 | 主な装備品等 | |
5億円〜10億円未満 10億円〜50億円未満 50億円〜100億円未満 100億円〜500億円未満 500億円〜1000億円未満 1000億円以上 |
1 9 6 11 0 0 |
92式対戦車地雷 91式戦車橋 04式機雷掃討システム 外装型FLIR装置 |
3 14 5 6 1 2 |
94式除染装置、90式信管 師団対空情報処理システム 91式携帯地対空誘導弾 哨戒ヘリコプター(SH—60K) 観測ヘリコプター(OH—1) 支援戦闘機(F—2) 03式中距離地対空誘導弾 |
小計 | 27品目 | 31品目 | ||
計 | 58品目 |
(イ)装備化に至るまでに要した研究開発の期間
検査対象期間中に装備品等としての使用が認められた前記の109品目について、研究・開発装備品等と開発装備品等のそれぞれの装備化に至るまでに要した期間を装備品等の分類別に集計すると、表5のとおりとなっていた。
分類 | 5年未満 | 5年以上 10年未満 |
10年以上 15年未満 |
15年以上 20年未満 |
20年以上 | 計 | ||||||
研 | 開 | 研 | 開 | 研 | 開 | 研 | 開 | 研 | 開 | 研 | 開 | |
航空機 誘導武器 火器・車両 艦艇・水中武器 電子機器 その他 |
0 0 0 0 0 0 |
0 0 1 0 0 0 |
0 4 19 0 2 2 |
2 4 14 1 14 3 |
3 5 6 3 6 2 |
2 2 1 1 4 0 |
0 2 0 0 3 0 |
0 0 0 1 0 0 |
0 0 0 0 1 0 |
1 0 0 0 0 0 |
3 11 25 3 12 4 |
5 6 16 3 18 3 |
小計 | 0 | 1 | 27 | 38 | 25 | 10 | 5 | 1 | 1 | 1 | 58 | 51 |
計 | 1 | 65 | 35 | 6 | 2 | 109 |
注(1) | 「研」は研究・開発装備品等、「開」は開発装備品等である。 |
注(2) | 研究・開発装備品等は研究、開発及び実用試験に要した期間を含み、開発装備品等は開発及び実用試験に要した期間を含む。 |
そして、研究・開発装備品等は58品目中31品目(53.4%)が10年以上を要していた。また、開発装備品等は51品目中39品目(76.4%)が10年未満となっていたが、5年未満で開発されているのは、91式105mm多目的対戦車りゅう弾のみであり、その他は開発装備品等であっても5年以上の期間を要していた。
このうち、20年以上を要しているのは研究・開発装備品等では電子機器の外装型FLIR装置であり、開発装備品等では航空機の支援戦闘機(F—2)であった。
イ 17年度も継続している研究開発
17年度も継続している研究開発は、表6のとおり、93項目であり、試作試験費3848億円となっている。このうち研究開発の着手から10年以上が経過しているものは、研究では8項目、試作試験費548億円、開発では5項目(装備品等数3品目)、試作試験費492億円となっていた。
区分 | 装備品等品目数 | 研究開発項目 | 試作試験費 |
研究 | — | (8項目) 69項目 |
(54,875) 157,331 |
開発 | (3品目) 18品目 | (5項目) 24項目 |
(49,230) 227,482 |
計 | — | (13項目) 93項目 |
(104,105) 384,814 |
注(1) | 装備品等品目数は、技術開発実施計画書の目次より計上した。 |
注(2) | ( )書きは10年以上継続しているもので内書きである。 |
注(3) | 開発には、当該開発のために行われた研究を含めている。 |
ウ 16年度までに終了しているなどの研究開発
表2の区分「16年度までに終了しているなどの研究開発」の詳細は表7のとおりとなっていた。
区分 | 研究開発項目 | 試作試験費 | |
(ア)16年度までに開発を終了しているもの | (2品目) 3項目 |
21,430 | |
(イ)16年度までに研究を終了しているもの | 329項目 | 416,455 | |
a 技本の研究終了後、自衛隊等が引き継いでいるもの | (2品目) 2項目 |
3,737 | |
b 当初から研究までで止めるとしていたもの | 9項目 | 60,129 | |
c 複数の装備品等に利用できるなどの基礎的な研究 | 307項目 | 312,205 | |
d 開発を予定しているが現時点で開発に移行していないもの | (9品目) 11項目 |
40,383 | |
(ウ)経年変化試験を行っているもの | (15品目) 13項目 |
3,139 | |
計 | 345項目 | 441,026 |
注(1) | ( )書きは装備品等相当数である。 |
注(2) | 経年変化試験の研究開発項目数は、研究開発件名に記載された装備品等名が同一のものは1項目とした。 |
これを各区分ごとに示すと次のとおりである。
(ア)16年度までに開発を終了しているもの
3項目(新小銃てき弾及び将来警戒管制レーダーに係るもの)は、16年度中に技術試験を終了しており、実用試験に移行している。
(イ)16年度までに研究を終了しているもの
a 技本の研究終了後、自衛隊等が引き継いでいるもの
陸上自衛隊が研究開発を要求していた「施設戦闘作業車」、「野戦情報探知装置(2型)」の2項目は、技本の研究終了後に陸上自衛隊が引き継いで装備化に至っていた。
b 当初から研究までで止めるとしていたもの
「遠隔操作地雷探知器」や「航空試験装置の研究(2)燃焼風洞装置の研究」などの9項目は、当初から研究までで止め、開発に移行しないこととしていたものであった。このうち「航空試験装置の研究(2)燃焼風洞装置の研究」等は、多額の試作試験費により製作されていた。
その一例を示すと次のとおりである。
<事例1> 札幌試験場の航空試験装置
技本は、航空試験装置の研究の一環として、燃焼風洞装置、エンジン高空性能試験装置を製作し、札幌試験場に設置している。
燃焼風洞装置は、誘導弾用エンジンに係る燃焼及び空力特性を試験評価するもので、平成5年1月から9年11月にわたり、試作試験費130億円をかけて製作したものである。エンジン高空性能試験装置は、航空機用エンジンの性能及び機能を試験評価するためのもので、6年3月から13年3月にわたり、試作試験費307億円をかけて製作したものである。そして、これらの装置は、現在試験評価装置として試験の用に供している。
c 複数の装備品等に利用できるなどの基礎的な研究
「将来戦闘車両基礎技術の研究」や「将来航空機基礎技術の研究」などの307項目は、複数の装備品等に利用できる基礎的な研究であり、個別の装備品等の開発に関連付けることができなかった。
これらの基礎的な研究を技術研究開発実施見積書に基づき分類別に試作試験費を集計すると、表8のとおりで、平均でみると航空機や誘導武器に関わるものが多額な状況となっている。
分類 | 研究開発項目 | 試作試験費 | |
総額 | 平均 | ||
航空機 誘導武器 火器・車両 艦艇・水中武器 電子機器 その他 |
37項目 32項目 78項目 40項目 105項目 11項目 |
62,767 63,039 57,826 44,637 78,497 2,258 |
1,696 1,969 741 1,115 747 205 |
分類できなかったもの | 4項目 | 3,178 | — |
計 | 307項目 | 312,205 | — |
これらの基礎的な研究は、研究に着手する際の技術研究開発実施見積書によると、研究終了後に開発へ移行することが予定されていないものの、取得した技術上の知識は他の研究開発項目に利用されるものであり、開発装備品等の開発は、これらの基礎的な研究に基づいているものと思料された。
しかし、基礎的な研究の中には、取得した技術上の知識が次の段階の研究に利用されていないものがあった。
その一例を示すと次のとおりである。
<事例2> 高性能赤外線検知器の研究試作
第2研究所では、戦闘車両や航空機などのセンサシステム等の研究を行っており、平成7年度から9年度までにわたり、試作試験費2億3092万余円で「赤外線応用技術の研究(3)画像センサ高性能化技術の研究」において高性能赤外線検知器の研究試作を行っていた。
しかし、新戦車の開発における試作に用いた暗視装置については、国内民間の技術が急速に進んだことから、国内メーカーが開発したセンサ技術が採用されることとなった。
なお、上記の研究試作を通じて得た技術は、18年度からの特別研究に引き継ぐこととしている。
d 開発を予定しているが現時点で開発に移行していないもの
「ECM装置(モジュラー型)」や「対電波放射源ミサイル(XASM—3)」などの11項目(装備品等相当数9品目)は、研究に着手する際の技術研究開発実施見積書によると、研究終了後に開発へ移行することを予定しているが、研究が終了したものの現時点において開発に移行していないものであった。そして、これらに係る試作試験費は表9のとおり、403億円であった。このうち研究終了後5年以上10年未満経過しているものが、5項目(装備品等相当数4品目)、試作試験費で183億円あり、研究終了後15年以上経過しているものが、4項目(装備品等相当数3品目)、試作試験費で26億円あった。
研究終了後経過期間 | 研究開発項目 | 試作試験費 | 主な研究開発項目 |
5年未満 5年以上〜10年未満 10年以上〜15年未満 15年以上 |
2項目(2品目) 5項目(4品目) 0項目(0品目) 4項目(3品目) |
19,397 18,304 — 2,681 |
エスコート用ECM装置の研究 艦載用新短SAMシステム 対電波放射源ミサイル(XASM—3) |
計 | 11項目(9品目) | 40,383 | — |
(ウ)経年変化試験を行っているもの
経年変化試験は、誘導弾の構成品について経年に関するデータを取得して、経年変化特性を確認するものであり、信管作動試験、ロケットモータ燃焼試験、電池作動試験などを行うものである。
検査対象期間内では、15品目の誘導弾について経年変化試験を行っており、このうち試験期間が最長であったのは、対艦誘導弾に係る試験で、元年度から15年度までの間に44件の経年変化試験を試作試験費3億1682万余円で実施していた。このほか、新重対舟艇対戦車誘導弾、新個人携帯SAM等が経年変化試験の対象とされ、1件当たりの試作試験費は数百万円となっていた。
(3)技術開発実施計画書上の量産化の計画と実績
防衛庁における技術研究開発を所管している管理局開発計画課によると、見積量産単価は、量産時の調達価格の設定等を拘束するものではないが、開発で要求されている機能・性能を持った装備品等が、積算の前提となる数量に基づきそのまま量産されたと仮定した場合の単価であり、開発においては、この見積量産単価をコストの目標値として扱っているとしている。
そして、技本では、見積量産単価の算定に当たり、材料費、加工費、検査費等を積み上げ、場合によっては業者見積りとの比較対照をするとしている。また、納入年度を経るごとに習熟が見込まれるものについては、習熟率を考慮したり、初回のみ必要となる設計費、初回試験費等の積上げを行い、見積量産単価前提数量で割掛けを行ったりしているとのことであった。
しかし、一つの研究開発項目で複数の装備品等を開発する場合などには、見積量産単価や見積量産単価前提数量が技術開発実施計画書には記載されていないものがあった。さらに、量産化を前提とせず試作品を転用して装備化するものの場合には、見積量産単価は設けられていなかった。
検査対象期間中に装備化に至った前記109品目の装備品等について、量産化を前提とするもの等の別に示すと、表10のとおりである。
区分 | 装備品等 |
見積量産単価や見積量産単価前提数量が記載されていないもの | 11品目 |
量産化を前提としていないもの | 1品目 |
量産化を前提とするもの | 97品目 |
計 | 109品目 |
そして、量産化を前提とする97品目の装備化後の調達の状況をみると次のとおりとなっていた。
ア 見積量産単価と調達単価
見積量産単価と調達単価とをそれぞれ直近のもので比較し、その調達状況等についてみると、表11のとおりとなっており、16年度までに調達実績のあるものは91品目、未調達のものは6品目となっていた。そして、調達実績のある91品目のうち20品目は、調達した装備品等の機器の構成が見積量産単価を算出した際の機器の構成と異なっているなどのため、調達単価と見積量産単価とを比較できない状況となっていた。そして、比較できた71品目については、59品目(83.0%)の調達単価が見積量産単価を上回っており、このうち12品目(16.9%)は2倍以上となっていた。
区分 | 装備品等 | 主な装備品等 |
調達したもの | 91品目 | |
比較できなかったもの | 20品目 | 00式射撃指揮装置 |
比較できたもの 100%以下 100%超〜150% 150%超〜200% 200%超〜250% 250%超〜300% 300%超 |
71品目 (12品目) (33品目) (14品目) (5品目) (4品目) (3品目) |
90式戦車、00式個人用防護装備 92式地雷原処理車、軽装甲機動車 89式装甲戦闘車、90式空対空誘導弾 92式対戦車地雷、88式鉄帽 94式水際地雷1型、固定式3次元レーダー 87式ヘリコプター散布対戦車地雷 |
未調達のもの | 6品目 | 外装型FLIR装置、地上レーダー装置(改) |
計 | 97品目 |
イ 見積量産単価前提数量と調達数量
装備化を前提としていて見積量産単価前提数量の調達の完了が検査対象期間中となっている55品目のうち、調達数量の実績が確認できた41品目について検査したところ、表12のとおり、31品目(75.6%)の調達数量が見積量産単価前提数量を下回っていた。
区分 | 装備品等 | 主な装備品等 |
調達数量の確認ができなかったもの | 14品目 | 89式魚雷、90式艦対艦誘導弾、 90式空対空誘導弾、93式空対艦誘導弾 |
比較できたもの 100%以上 80%〜100%未満 60%〜80%未満 40%〜60%未満 20%〜40%未満 0%〜20%未満 |
41品目 (10品目) (1品目) (9品目) (7品目) (5品目) (9品目) |
87式偵察警戒車、中等練習機 90式戦車 92式浮橋、固定式3次元レーダー 87式自走高射機関砲、師団通信システム 89式装甲戦闘車、92式地雷原処理車 92式対戦車地雷、後方警戒装置、 輸送機用機雷投下装置 |
計 | 55品目 |
このうち調達数量の比率が20%未満のものの中には、次のとおり、全く調達されていないものがあった。
<事例3> 輸送機用機雷投下装置の調達
当該装備品等は、海上幕僚長の要求により、航空自衛隊の輸送機(C—130H)に搭載し短時間に機雷を敷設することを目的に、昭和58年度から平成4年度までの10年間をかけ、試作試験費52億9250万円を費やして見積量産単価3億円、量産数8台を目途に開発したもので、5年9月に使用の承認を受けている。
しかし、装備化に当たっては、他の装備品等の整備に比べ予算上の優先順位が劣るとして調達は実現されていなかった。
なお、開発の際に製作した試作品1台は、現在、海上自衛隊八戸航空基地で訓練に使用されている状況となっている。
ウ 調達単価と数量
見積量産単価に対する直近の調達単価と1年当たりの見積量産単価前提数量に対する年平均調達数量の関係を検査したところ、図2のとおり、年平均調達数量が1年当たりの見積量産単価前提数量に満たないほど、直近の調達単価が見積量産単価を大きく上回る傾向が見受けられた。
図2 調達単価と数量の関係
このように、技術開発実施計画書と装備品等の調達の実態において、見積量産単価と実際の調達単価、見積量産単価前提数量と実際の調達数量とにそれぞれかい離が生じている。
このような状況について、技本では、見積量産単価は研究開発目標の一つであり、装備化後の調達単価は把握していないとしている。また、自衛隊等では、見積量産単価を前提とした調達要求をしておらず、装備品等の予定価格の根拠を算出する防衛庁管理局原価計算部では、企業から提出された見積書を基に予定価格を算出しており、場合によっては業者見積りの信ぴょう性の確認等のため、見積量産単価を参考にすることがあるとのことであった。
エ 調達の必要額と予算
技術開発実施計画書どおりの見積量産単価で見積量産単価前提数量を調達するとした場合の必要額が、近年の予算状況から確保可能であるかどうか検討することとした。検討に当たっては、研究開発で装備化に至った装備品等の多くが、防衛庁の予算の「(項)武器車両等購入費」により調達するものであることから、この武器車両等購入費で比較することとし、12年度から16年度までの必要額を算出した。また、予算要求などの手続に必要な期間を考慮して、研究開発した装備品等の使用の承認の2年後から調達を開始するものとした。
この結果、見積量産単価及び見積量産単価前提数量が明示されていて、当該5年間に調達する予定となっているもののうち、実際に予算が確保されているのは、表13のとおり、20品目から23品目で、その必要額は、およそ1200億円から1600億円程度となった。
年度 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 計 | |
予算額(全体)
(a)
|
422,775 | 426,668 | 468,821 | 485,514 | 437,590 | 2,241,370 | |
比較した装備品等 | 23品目 | 23品目 | 22品目 | 20品目 | 20品目 | — | |
必要額
(b)
|
128,481 | 162,681 | 163,213 | 139,333 | 137,199 | 730,909 | |
比率
(b/a)
|
30.3% | 38.1% | 34.8% | 28.6% | 31.3% | 32.6% | |
予算額
(c)
|
51,162 | 58,644 | 77,121 | 80,962 | 61,269 | 329,160 | |
比率
(c/a)
|
12.1% | 13.7% | 16.4% | 16.6% | 14.0% | 14.6% |
そして、この必要額は、武器車両等購入費の予算額に対し、およそ28%から38%を占めることとなり、研究開発により装備化に至った装備品等以外の装備品等も武器車両等購入費で購入することを考慮すると、予算の上で確保することは困難であると思料される。そして、実際にも、これらの装備品等に充てられた予算額は500億円から800億円程度で武器車両等購入費の予算額全体のおよそ12%から16%に止まっている状況となっていた。
4 本院の所見
防衛庁では、検査対象期間の20年間に2兆2510億円の研究開発費を投じ、109品目の装備品等の自主開発、国産化を行っており、この他に、検査対象期間において技本が取り組んだ研究開発には、17年度に継続している研究開発や16年度までに終了しているなどの研究開発があった。そして、16年度までに終了しているなどの研究開発の中には、研究が終了してから15年以上開発に移行していないものが見受けられるなど、装備化に向けての歩みが停滞しているものがあるものの、基礎的な研究で取得した技術上の知識は、開発装備品等の開発に利用され、おおむね装備化につながる結果となっていると思料される。ただ、装備化に至ったものについては、見積量産単価及び調達単価並びに見積量産単価前提数量及び調達数量の間にかい離が生じているものが多数見受けられる状況となっている。
防衛庁では、研究開発に対する評価を的確に行うとともに、研究開発の継続、中止や修正など評価結果の適切な反映を行う上で必要となる「防衛庁研究開発評価指針」及び「防衛庁研究開発評価実施要領」を14年3月に定めて、評価委員会又は評価部会が、事前、中間、事後及び追跡の各段階において事業評価を行っている。
しかし、防衛庁では、これまでのところ見積量産単価及び調達単価のかい離等の状況について言及した事業評価は行っておらず、かい離が生じていることについては、一般論として、装備化後の装備品等の仕様変更や中期防衛力整備計画の見直しなどが原因となって生じ得るものであるとしている。
見積量産単価は、開発する装備品等と既存の外国製装備品等との比較を行う場合に用いられる指標の一つであり、研究開発を実施するか否かの判断を行う重要な要素の一つであるから、その算出や前提となる数量の算出は、実際の装備化を十分考慮して行われる必要があると認められる。
一方、装備化後に安全保障環境等が変化し得ることから見積量産単価前提数量と実際の調達数量は結果的に見れば必ずしも一致することとなるものではないが、両者のかい離が大きくなると、研究開発と装備品等の調達に一貫性がもたらされないこととなり計画的な防衛力の整備に支障をきたすおそれがあることから、かい離が生じた原因を十分分析し、今後の研究開発の見直しに反映させる必要があると認められる。
したがって、防衛庁においては、厳しい財政状況の下、限られた予算の中で計画的な防衛力整備を行うため、実際の装備化を十分考慮した上で、集中すべき研究開発項目の選択を行い、今後の技術研究開発のより一層の効果的かつ効率的な実施に努めることが望まれる。
本院としては、現在、防衛庁においても、開発から廃棄までを見据えた装備品等の取得を実施し得る体制への改革を推進することとしていることから、装備品等の技術研究開発の実施状況について、今後も引き続き注視していくこととする。