検査対象 | (1) | 外務省 |
(2) | 国際協力銀行 | |
(3) | 独立行政法人国際協力機構 |
政府開発援助の内容 | (1) | 無償資金協力 |
(2) | 円借款 | |
(3) | 技術協力 |
平成16年度実績 | (1) | 2617億2632万円 |
(2) | 6883億9040万円 | |
(3) | 888億8532万円 |
現地調査実施国数並びに事業数及び対象事業費 | 12箇国 | |
(1) | 81事業544億8487万円 | |
(2) | 6事業329億2752万円 | |
(3) | 19事業165億7584万円 |
援助の効果が十分発現していないなどと認めたもの | 草の根・人間の安全保障無償資金協力事業 |
技術協力プロジェクト | |
繊維産業品質管理計画事業 |
1 政府開発援助の概要
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると教育、水供給及び衛生、運輸及び貯蔵、エネルギー、農林水産業、環境保護等の各分野となっている。
そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成16年度の実績は、無償資金協力(注1)
2617億2632万余円、円借款(注2)
6883億9040万余円(注3)
、技術協力(注4)
888億8532万余円などとなっている。
(注1) | 無償資金協力 相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。 |
(注2) | 円借款 相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、国際協力銀行が実施している。 |
(注3) | 債務繰延べを行った額286億9399万余円を含む。 |
(注4) | 技術協力 相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等を行うもので、独立行政法人国際協力機構が実施している。 |
本院は、無償資金協力、円借款、技術協力等(以下、これらを「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上にある海外の地域又は国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度や方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び着眼点について、我が国援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。
(1)我が国援助実施機関に対する検査
本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力銀行(以下「銀行」という。)及び独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)に対して検査を行うとともに、海外において、在外公館、銀行の駐在員事務所及び機構の在外事務所に対して検査を行っている。
これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な着眼点から検査を実施している。
〔1〕 我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているか。
〔2〕 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、資金の供与などは法令、予算等に従って適正に行われているか。
〔3〕 我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。
〔4〕 我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
(2)現地調査
相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか、事業が計画どおりに進ちょくしているかなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の着眼点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。
〔1〕 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。
〔2〕 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は、当初計画したとおりに十分利用されているか。
〔3〕 事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。
〔4〕 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。
そして、毎年10数箇国を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。
3 検査の状況及び本院の所見
(1)現地調査の対象
本院は、17年次において上記の検査の範囲及び着眼点で検査を実施した。そして、その一環として、12箇国において次の106事業について現地調査を実施した。
〔1〕 無償資金協力の対象となっている事業のうち81事業(贈与額計544億8487万余円)
〔2〕 円借款の対象となっている事業のうち6事業(16年度末までの貸付実行累計額329億2752万余円)
〔3〕 技術協力事業のうち技術協力プロジェクト(注5)
19事業(16年度末までの経費累計額165億7584万余円)
上記106事業の国別の現地調査実施状況は、次表のとおりであり、このうち、草の根・人間の安全保障無償資金協力(14年度以前は草の根無償資金協力。以下同じ。)に係る36事業を除いた70事業を分野別にみると、農林水産業18事業、水供給及び衛生13事業、教育7事業、その他社会インフラ7事業、保健6事業、運輸及び貯蔵4事業などとなっている。
国名 | 調査 事業数 (事業) |
援助形態別内訳 | |||||
無償資金協力 | 円借款 | 技術協力 プロジェクト |
|||||
事業数 (事業) |
援助額 (億円) |
事業数 (事業) |
援助額 (億円) |
事業数 (事業) |
援助額 (億円) |
||
アゼルバイジャン | 10(5) | 10(5) | 10 | — | — | — | — |
ボリビア | 1 | — | — | — | — | 1 | 3 |
カメルーン | 14(10) | 14(10) | 86 | — | — | — | — |
エジプト | 11(3) | 8(3) | 109 | — | — | 3 | 21 |
エルサルバドル | 11(2) | 5(2) | 14 | 4 | 251 | 2 | 10 |
フィジー | 9(7) | 7(7) | 0 | 1 | 22 | 1 | 13 |
ギニア | 9(1) | 9(1) | 84 | — | — | — | — |
マダガスカル | 6 | 4 | 50 | — | — | 2 | 16 |
メキシコ | 2 | — | — | — | — | 2 | 18 |
ニカラグア | 7(1) | 7(1) | 75 | — | — | — | — |
パラグアイ | 14(4) | 8(4) | 26 | 1 | 55 | 5 | 38 |
タンザニア | 12(3) | 9(3) | 87 | — | — | 3 | 43 |
計 | 106(36) | 81(36) | 544 | 6 | 329 | 19 | 165 |
(2)現地調査対象事業に関する検査の概況
現地調査を実施した事業のうち、次の事業については、援助の効果が十分発現していないなどと認められた。
〔1〕 草の根・人間の安全保障無償資金協力
〔2〕 技術協力プロジェクト
ア 草の根・人間の安全保障無償資金協力事業
(ア)事業の概要
草の根・人間の安全保障無償資金協力は、開発途上国の多様な援助ニーズに的確かつ迅速に対応するため、開発途上国の地方政府や非政府団体等(以下「団体」という。)が実施する比較的小規模のプロジェクトに対して、在外公館が資金を供与するものである。
草の根・人間の安全保障無償資金協力の実施に当たっては、在外公館は、事業の内容、団体の事業実施能力や事業実施後の管理体制等について検討することとなっている。そして、外務本省の承認を受けた後、事業を実施する団体との間で、贈与契約を締結し、贈与契約で定められた供与限度額の範囲内で資金を団体に供与することとなっている。そして、在外公館は、事業の実施状況及び資金の使用状況を確認するため、団体から、事業の実施状況及び使用済み資金の使途等を明らかにした中間報告書と最終報告書を提出させることとなっている。また、贈与契約において、契約締結後1年以内に事業を完了することと定められている。
(イ)調査の状況
カメルーン共和国及びフィジー諸島共和国における4事業について次のような事態が見受けられた。
この事業は、カメルーン共和国のヤウンデ市において、貧困層の女性の職業訓練及び自立促進のため、裁縫器具等の機材の購入及び既存の訓練施設の改修を内容とするものである。
在カメルーン日本国大使館では、14年1月に、本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、同年3月に、資金89,974ユーロ(邦貨換算額8,997,400円)を供与している。
調査したところ、足踏みミシンについて、同団体では、計画では35台購入する予定だったが実際は15台しか購入していないなど、機材が計画どおり購入されていなかった。
同団体の代表者の説明によれば、ミシンの購入先の業者が倒産寸前で15台しか納入されなかったとしている。その後、同大使館では、この事実を把握し、同団体から、計画どおり機材を購入する旨の誓約書を提出させたが、同団体では、未納入の機材の代金(約210万円)について、業者から返還を受けた後、同大使館に無断で本件事業の対象とは別の改修のための費用に充てていた。このため、同大使館では、この事実を把握した後、同団体から誓約書を再度提出させ、早期に機材を購入するよう指導を行っている。
上記のとおり、本件事業は機材が計画どおり購入されていないなどのため、援助の効果が十分発現していないと認められる。
この事業は、カメルーン共和国のトンガ市において、貧困層の女性の職業訓練及び自立促進のため、訓練施設の増設及び裁縫器具等の機材の購入を内容とするものである。
在カメルーン日本国大使館では、14年7月に、本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、同年9月に、資金82,328ユーロ(邦貨換算額8,891,424円)を供与している。
調査したところ、訓練施設については、17年5月の本院の調査時においても、内装工事を行っている途中であるなど、完成していなかった。
これは、同団体の代表者によれば、代表者が病気で不在となり工事業者を十分監督できなかったり、工事業者が他者から受注した工事を優先させるなどして、本件施設の工事を行わなくなったりしたためであるとのことである。
同団体が15年10月に同大使館に提出した報告書には、建設工事が計画どおり進んでいない旨記載されており、以降、同大使館では、同団体に対し、早期完成に向けた指導を実施したとしている。そして、同団体は、工事業者に工事の続行を求めたが、工事業者はいったん再開したものの再度工事を行わなくなったため、17年4月に当該業者との契約を打ち切り、未施工の部分について新たに別の業者との間で契約を締結し工事を行わせている。
上記のとおり、本件事業は施設が完成していないため、援助の効果が十分発現していないと認められる。
この事業は、カメルーン共和国のオコラ市において、貧困層の女性の職業訓練及び自立促進のため、訓練施設の増設及び木工器具等の機材の購入を内容とするものである。
在カメルーン日本国大使館では、14年7月に、本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、同年9月に、資金83,496ユーロ(邦貨換算額9,017,568円)を供与している。
調査したところ、訓練施設については、17年5月の本院の調査時においても、窓枠や配電関係の工事を行っている途中であるなど、完成していなかった。また、機材については、購入契約は済んでおり、代金も同団体から購入先の業者に全額支払われているが、施設が完成していないため納入されておらず、本件資金供与による活動は行われていなかった。
これは、同団体の代表者によれば、工事業者が経営不振で工事が継続できなくなったり、同団体の代表者が交替し工事業者を十分監督できなかったりしたためであるとのことである。
また、同大使館では、15年6月に同団体から工事はすべて完了したとの最終報告書の提出を受けていたが、実際は完了しておらず、同報告書は事実と異なる内容のものであった。
同大使館では、15年10月頃にこのような事態を把握し、それ以降、同団体に対して早期に事業を完了するよう指導を行ったとのことである。そして、同団体では、工事業者に催促して17年5月に工事を再開させていた。
上記のとおり、本件事業は施設が完成していなかったり、機材が納入されていなかったりしたため、援助の効果が発現していないと認められる。
この事業は、フィジー諸島共和国のタイレヴ県において、ロコトゥイヴァトゥ小学校の上級学年の新設に伴う学級数の増加等に対処するため、校舎1棟、教員宿舎2棟、通学に必要な橋りょうの建設等を内容とするものである。
在フィジー日本国大使館では、13年2月に、本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、同年3月に、資金71,496米ドル(邦貨換算額7,507,080円)を供与している。
調査したところ、資金の供与を受けてから4年を経た17年4月の本院の調査時においても、教員宿舎1棟(11,214米ドル相当)の建築はしゅん功しておらず、また、橋りょう(31,388米ドル相当)の建設については資機材が購入されておらず着工していなかった。
これは、武装勢力による議会占拠事件が発生し、同国内が混乱に陥ったなどの要因が大きく影響しており、また、同大使館においては、実施上の工夫により期間内の完成が見込めると思料して案件採択を行ったが、結果として事業が契約期間内で完了せず、同大使館では、進ちょく状況の把握等を行い、事業進ちょくに関する助言を行ったりしていたが、事業の進ちょくに結びつけるまでには至らなかったことによる。
上記のとおり、本件事業は施設の一部が完成していないため、援助の効果が十分発現していないと認められる。
(ウ)本件4事業に対する本院の所見
草の根・人間の安全保障無償資金協力事業において、上記の各事態が生じているのは、主として団体の事情や現地の事情によると認められるが、このように事業が未完了となっているものがある事態にかんがみ、在外公館においては、以下の点に留意する要があると認められる。
〔1〕 事業選定時において、財政的基盤や組織的基盤など団体側の事業実施能力の有無、事業規模の適否などについてより一層検討すること
〔2〕 贈与契約の締結などの際には、贈与契約の内容に沿って適切に事業を実施することなど、贈与契約の内容や草の根・人間の安全保障無償資金協力の趣旨を団体に対し十分に説明し、一層周知すること
〔3〕 団体から贈与契約に定められている中間報告書及び最終報告書を適正に提出させることを徹底し、適時に団体に赴くなどして、施設、機材の現況についての確認、団体の活動状況の把握などをより一層行うこと
イ 技術協力プロジェクト
(ア)事業の概要
a 要請の背景
パラグアイ共和国(以下「パラグアイ」という。)政府は、同国の輸出額の40%を占める綿花の輸出から付加価値の高い綿糸及び綿布等の綿製品の輸出への転換を図るため、技術協力を我が国に要請してきた。
b 事業の概要
機構では、上記の要請を検討し、商工省国立技術標準院(INTN)に対し紡績技術、品質管理技術及び綿製品の輸出検査等の技術を移転することにした。そして、INTNは、移転された紡績技術及び品質管理技術をパラグアイの繊維関連の民間企業(以下「繊維企業」という。)に移転することで、繊維企業の技術水準を高め、また、INTNが輸出製品の品質検査を行うことを通じて輸出製品の品質を向上させることにより、同国において綿製品の輸出の増大を図るものである。
このために、機構は、4年2月から9年2月までの5年間にわたり、INTNから技術研修員計16人を我が国へ受け入れ、現地での指導のために我が国から専門家計33人を派遣(3億8588万円)するとともに、紡績のパイロットプラント、試験・検査技術のための所要機材等(3億7303万余円)の供与を行うなどした(経費累計額8億2292万余円)。
(イ)調査の状況
a 移転された技術等の活用について
(a)民間企業への技術指導の状況
INTNは、繊維企業に対して紡績技術及び品質管理技術に係る技術指導を行うこととしていたが、INTNが、事業終了後に、直接繊維企業を訪問して行った技術指導の件数についてみると、輸出を目指す新たな繊維企業が設立されなかったこと、既存の繊維企業も廃業が相次いだことの結果、年間2〜5件と少なくなっている。
(b)パイロットプラントの活用状況
パイロットプラントは、事業終了後の10年以降はカウンターパート(注6)
が現地繊維企業に適合するような生産方法を研究する目的等で使用されている。しかし、上記のように繊維企業数が増加せず技術指導の需要が伸びなかったこと、パイロットプラントの一部の機材が故障していたことなどから、本件事業終了後のパイロットプラントの年間運用時間は、大きく低迷している。
(c)カウンターパート
カウンターパートは、本件事業終了時には19人いた。しかし、INTNの待遇問題により、職員の流出が止まらず、また、前記のとおり、本件事業終了後は技術指導の件数が年間2〜5件となっていたため、INTNが繊維部門にいたカウンターパートを他部門へ異動させたことにより、本院の調査時において、繊維部門に所属しているカウンターパートは4人になっていた。
これらのことから、移転された技術は、調査時点では十分活用されていない状況となっていた。
b 事業効果の発現状況について
本件事業実施中の7年に発生したパラグアイの経済危機等により、それ以降、同国の多数の繊維企業が閉鎖される状況となった。このため、綿製品の輸出量が大きく落ち込み、6年には8,847tであったものが13年には2,407t、14年には817t、15年には4,832tになっていた。
本件事業は最終の目標として、パラグアイの繊維産業の振興と輸出の増大を設定しているが、繊維産業の振興については、本院がパラグアイの繊維企業数の把握を試みた結果、信頼できる統計数値がパラグアイ側の関係機関で管理されていないため不明であった。また、輸出の増大については、事業終了後8年が経過した本院の調査時においても、達成の目途は立っていないと認められた。
これらのことから、本件事業は援助の効果が十分発現していないと認められた。
(ウ)本件事業に対する本院の所見
事業実施前に的確にパラグアイ繊維産業の発展を予測することは困難な面もあるが、事業を開始するに当たって、本件事業の最終の目標を達成するための条件について十分な分析を行い、その結果に応じて本件事業を実施するなどすることが、事業が成功する可能性を高めることになる。
ついては、機構においては、事業実施前に、最終の目標を達成するための条件について今後十分な検討を行う要があると認められる。