検査対象 | 厚生労働省、23都道府県、198市区町 | |
制度の根拠 | 健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号)等 | |
市町村におけるレセプト点検の概要 | 市町村において、医療費の適正化を図るなどのため、レセプトに記載されている事項について、その請求点数が算定基準等に照らし誤りがないかどうかなどを審査、点検するもの |
検査の対象とした198市区町におけるレセプト請求金額 | 国民健康保険によるもの | 1兆8714億円
|
(平成15年度) |
老人医療によるもの | 4兆3260億円
|
(平成15年度) |
1 事業の概要
我が国の医療保障制度における医療給付には、健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)等に基づいて保険者が被保険者等に対して行う療養の給付、老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づいて市町村(特別区を含む。以下同じ。)が当該市町村の区域内に居住する老人(75歳以上の者(注1)
又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して実施する医療(以下「老人医療」という。)などがある。そして、被保険者等がこれらの医療給付を受けようとするときは、指定を受けた病院、診療所又は薬局(以下「医療機関等」という。)において受けることとなっている。
医療機関等は、医療給付に要した費用について、保険者及び市町村等(以下「保険者等」という。)に診療報酬又は調剤報酬(以下「診療報酬等」という。)として請求することとなっている。この診療報酬等は、医療機関等が、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年厚生省告示第54号。以下「算定基準」という。)等に基づき算定した費用の額から患者負担分を控除した額とされている。
そして、診療報酬等の請求、審査及び支払は、次のように行われている。
〔1〕 医療機関等は、診療報酬請求書又は調剤報酬請求書(以下「請求書」という。)に診療報酬等の明細を明らかにした診療報酬明細書又は調剤報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを、保険者等から診療報酬等に係る審査、支払の委託を受けた国民健康保険団体連合会(都道府県単位に設立されている。以下「国保連」という。)又は社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」といい、国保連と併せ、これらを「審査支払機関(注2) 」と総称する。)に毎月1回送付する。
〔2〕 審査支払機関は、医療機関等から送付された請求書及びレセプトに記載されている事項について、その請求点数が算定基準等に照らし誤りがないかどうかなどを審査、点検(以下「レセプト点検」という。)し、医療機関等ごと、保険者等ごとの請求額を算定する。そして、請求点数に誤りがある場合は減額等を行い、レセプト点検後の請求書等を保険者等に送付する。
〔3〕 保険者等は、審査支払機関を通じて医療機関等に診療報酬等を支払うとともに、審査支払機関による上記〔2〕のレセプト点検後のレセプトについて、それぞれの立場からレセプト点検を行っている。そして、請求点数等に疑義がある場合には、審査支払機関に再度の審査(以下「再審査」という。)等を請求し、審査支払機関は、これを受けて再審査等を行い、その結果を保険者等に通知している。
(注1) | 75歳以上の者 老人保健制度の対象年齢は、平成14年10月の老人保健法の改正により、原則として70歳以上から75歳以上に引き上げられたが、14年9月30日の時点において70歳以上である者については、その者が75歳以上の者に該当するに至った日の属する月の末日までの間は、その者を75歳以上の者とみなすこととされている。 |
(注2) | 国民健康保険の被保険者に係る診療報酬等については国保連が、政府管掌健康保険等の被保険者等に係る診療報酬等については支払基金が、それぞれ委託を受けて審査を行っている。また、老人に係る診療報酬等については、老人が国保の被保険者である場合は国保連が、政府管掌健康保険等の被保険者等である場合は支払基金が、それぞれ審査を行っている。 |
保険者等のうち、国民健康保険(以下「国保」という。)の保険者で、かつ、老人医療の実施者である市町村では、増大する医療費の適正化を図るなどのため、自ら又は一部の業務を外部に委託するなどしてレセプト点検を実施している。
市町村におけるレセプト点検の点検項目には、〔1〕被保険者等の資格の有無等に係る点検(以下「資格点検」という。)、〔2〕診察、検査、投薬等の診療内容に係る点検(以下「内容点検」という。)及び〔3〕医療給付の対象となった傷病が交通事故等の第三者の行為に起因するものかなどの給付発生原因に係る点検(以下「外傷点検」という。)がある。
厚生労働省では、診療報酬等の支払の適正化を図るため、「診療報酬明細書点検調査事務処理要領」(昭和55年保険発第42号厚生省保険局国民健康保険指導管理官通知別添)及び「診療報酬明細書の点検調査等事務処理要領」(昭和58年衛老計第32号厚生省公衆衛生局老人保健部計画課長通知。以下、これらを併せて「点検要領」という。)を定めるなどして、市町村に対し、レセプト点検の方法等について都道府県を通じて指導を行っている。
そして、点検要領には、内容点検の方法として、〔1〕同一被保険者等に係る重複請求等を点検する縦覧点検、〔2〕診療と調剤に係るレセプトの突合による点検、〔3〕診療報酬請求点数等の照合、検算による点検などが示されている。また、レセプト点検の結果、特に医療機関等の診療報酬等の請求傾向に疑義があるなど調査確認を要すると思料される場合は、医療機関等に対する指導・監査を行っている都道府県に連絡することとされている。
このように、点検要領は、指針又は標準的な事務処理の要領として、レセプト点検の項目や方法の概略を示しているが、具体的にどのような体制、方法でレセプト点検を実施するかについては示しておらず、個々の市町村の裁量に委ねられている。
また、厚生労働省では、都道府県に対し、市町村のレセプト点検の現状を把握分析するなどして、市町村に対してレセプト点検の充実強化を図るための指導を行うように求めており、これを受けて、各都道府県では、国保連と共同で市町村のレセプト点検員に対する研修会を開催したり、市町村に職員を派遣してレセプト点検に係る指導を行ったりしている。これら研修会や実地指導においては、診療報酬点数表の改正点やレセプト点検における主要な着眼点の解説、レセプト点検の事務処理体制の改善の指導などが行われている。
市町村は、レセプト点検の実施状況について、都道府県を通じて厚生労働省に報告することとされており、その結果は「診療報酬明細書点検調査結果の概要」等(以下「点検調査結果等」という。)としてまとめられている。これによれば、表1のとおり、平成15年度において、ほとんどの市町村でレセプト点検が実施されている。
区分
|
資格点検
|
内容点検
|
外傷点検
(第三者行為) |
|||
縦覧点検
|
調剤報酬明細書との突合
|
診療報酬点数表との照合
|
検算
|
|||
国保
|
99.1%
|
98.5%
|
97.7%
|
98.0%
|
94.8%
|
96.8%
|
老人医療
|
100%
|
99.4%
|
100%(老人医療においては、「請求点数等点検」)
|
\
|
国保及び老人医療については、次のように、国が多額の負担を行っている。
国保に係る医療費については、市町村が支払った額のおおむね50%(17年度及び18年度以降についてはそれぞれ45%及び43%)を負担している(15年度療養給付費負担金約1兆6343億円、財政調整交付金約4728億円)。また、財政調整交付金のうちには、レセプト点検に要する費用を考慮して交付されるものとして、「国民健康保険医療費適正化特別対策事業の実施に係る特別調整交付金」及び「調整交付金の算定省令に基づくその他特別の事情がある場合の特別調整交付金」がある。
そして、老人医療に係る医療費については、次の〔1〕から〔3〕の負担をしている。
〔1〕 原則として、老人医療費の12分の4(注3) を負担することとなっている(15年度約2兆3763億円)。
〔2〕 市町村等が保険者として拠出する老人医療費拠出金の納付に要する費用の額の一部を負担している(15年度約1兆1052億円)。
〔3〕 政府管掌健康保険等の保険者として老人医療費拠出金を納付している(15年度約2兆1696億円)。
また、老人医療におけるレセプト点検については老人医療費適正化推進費補助金が交付されている。
2 検査の背景、着眼点及び対象
国民医療費は11年度以降毎年30兆円を超えていてなお増加傾向にあり、このうち国保及び老人医療に係る国の負担額は、前述のとおり15年度でそれぞれ約2兆1072億円及び約5兆6512億円の多額に上っており、また、高齢化が急速に進展する中で国保及び老人医療の国民医療費に占める割合は15年度でそれぞれ21.2%及び33.8%(保険者等負担額ベース)と高くなっている。また、現在、安定的で持続可能な医療保険制度の構築等を目指すこととして、医療保険制度改革等の検討が進められているが、今後の改革の基本的な方向を示した「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」(平成15年閣議決定。以下「基本方針」という。)によれば、保険者の再編・統合を推進するとともに、再編された保険者においては、レセプト点検等の取組を更に強化することとされている。
このような状況の中で、審査支払機関や保険者等が行うレセプト点検は、医療保険制度のもとでの適正な診療報酬等の請求・支払に寄与し、医療費の適正化に直接つながるものとしてその重要性が高まっている。
一方、本院は、昭和61年度決算検査報告以降、市町村等に保管されているレセプトを検査するなどして、毎年度決算検査報告の中で医療費の不適切な支払の事態について指摘してきたところである。
そこで、毎年多額の国費が投入されている国保及び老人医療を実施している市町村において、レセプト点検が的確に、また、効果的に実施されているかなどに着眼して、北海道ほか22都府県(注4)
管内の198市区町を対象としてその実施状況を検査するとともに、点検調査結果等の内容を分析した。
3 検査の状況
(1)レセプト点検の実施状況
ア 点検項目別の実施状況
上記198市区町(以下「市区町」という。)におけるレセプト点検の点検項目別の実施方法や点検に要する費用及び効果額の状況は、次のとおりとなっていた。
(ア)資格点検
市区町では、国保連に資格確認の電算処理を委託し、これに基づき資格の確認を行ったり、自ら運営している電算処理システムにより資格の確認を行ったりなどしている。
資格点検に要する費用は、上記の国保連への委託料又は電算処理システムによる照合に要する費用及びレセプトの並べ替えなどレセプトの整理に必要な職員の人件費やアルバイト料となっている。
また、この資格点検の効果額は、点検の結果、不適切とされ医療機関等に戻されたレセプトに係る請求金額となっている。
(イ)内容点検
市区町では、職員及び雇用した非常勤職員(以下、両者を併せて「嘱託等」という。)をレセプト点検員として、縦覧点検などの内容点検を行っており、また、一部の市区町ではレセプト点検の専門業者に委託して行っている。
内容点検に要する費用は、レセプト点検員が個々のレセプトの点検を行うことからその人件費が大部分を占めており、これ以外にはレセプトの並べ替えに要するアルバイト料などとなっている。
内容点検の効果額は、点検の結果、〔1〕請求点数を誤っているもの、〔2〕診療内容の妥当性に疑義のあるもの、〔3〕〔1〕、〔2〕以外のもので、縦覧点検の結果重複請求があったものに係る金額などとなっている。
また、内容点検の効果額には、保険者等から審査支払機関に対して出された再審査請求の結果減額となった額等と、審査支払機関で、再審査請求が出されたレセプトの診療内容について再確認を求めるため、医療機関等に戻したレセプトに係る請求金額が集計されている。
(ウ)外傷点検
外傷点検は、医療給付の対象となった傷病が交通事故等の第三者の行為に起因するものであるかなど給付発生原因に係る点検であり、給付発生原因の発見及び確認と原因者への求償事務がその内容になっている。給付発生原因の発見は主にレセプト点検員が行い、その後の確認については、多くの場合レセプト点検員以外の職員が行っている。また、第三者への求償については、市区町のうち、国保で121市区町、老人医療で124市区町で、その事務を国保連に委託している。
外傷点検における給付発生原因に係る点検は、交通事故等の場合に多い骨折等の傷病名のレセプトを抽出し、被保険者等を調査して発生原因を把握するだけでなく、交通事故の加害者が加入する保険会社や治療を行った医療機関等からの連絡により原因を把握するなど多様なものとなっている。
また、外傷点検に要する費用は、求償事務を国保連に委託している場合の委託手数料(収納額の3%〜10%)などとなっている。
外傷点検の効果額としては、第三者への求償額となっている。
イ レセプト点検の効果額、費用等
厚生労働省では、レセプト点検の実施状況の評価の指標として、点検項目別の実施率のほか、被保険者等1人当たりの効果額(効果額を全被保険者数等で除したもの)を採用している。
平成15年度の点検調査結果等によると、市町村が行うレセプト点検の点検項目別の効果額の全国実績は、表2のとおりとなっていて、資格点検、内容点検、外傷点検の順で高く、また、老人医療の方が国保よりも高くなっている。
区分
|
被保険者数等 | (資格点検) 点検効果額 1人当たり効果額 |
(内容点検) 点検効果額 1人当たり効果額 |
(外傷点検) 点検効果額 1人当たり効果額 |
国保
|
3471万人 (3332万人) |
31,013,285千円
(28,538,386千円) 893円 (856円) |
13,813,308千円
(13,066,230千円) 397円 (392円) |
16,704,115千円
(15,717,744千円) 481円 (471円) |
老人
医療 |
1549万人 (1596万人) |
73,983,330千円
(64,779,518千円) 4,776円 (4,058円) |
35,369,799千円
(41,592,728千円) 2,283円 (2,605円) |
17,348,217千円
(18,587,576千円) 1,119円 (1,164円) |
このうち、前記の198市区町における、15年度のレセプト点検の費用、効果額、費用対効果(点検に要した費用に対する効果額の割合)等の概要は表3のとおりとなっていた。
国保
|
老人医療
|
|
被保険者(受給者)数 | 11,836,457人
|
4,641,285人
|
レセプト枚数 | 133,863,009枚
|
126,570,559枚
|
レセプト請求金額 | 1,871,497,656千円
|
4,326,053,717千円
|
資格点検費用 | 4,308,165千円
|
3,361,817千円
|
資格点検効果額 | 10,666,045千円
|
22,232,439千円
|
資格点検の1人当たり効果額 | 901円
|
4,790円
|
内容点検費用 | 1,929,116千円
|
1,392,784千円
|
内容点検効果額 | 5,311,352千円
|
10,847,837千円
|
内容点検の1人当たり効果額 | 448円
|
2,337円
|
内容点検の費用対効果 | 2.7
|
7.7
|
外傷点検費用 | 561,977千円
|
303,501千円
|
外傷点検効果額 | 5,574,966千円
|
4,011,603千円
|
外傷点検の1人当たり効果額 | 470円
|
864円
|
注(1) | 費用については本院の調査によるものであるが、資格点検費用及び外傷点検費用については、把握できた範囲で計上している。 |
注(2) | 効果額については、市区町から厚生労働省に提出された点検調査結果等の計数を本院で確認したものである。 |
(2)内容点検の実施状況
レセプト点検のうち内容点検は、国全体としての医療費の適正化に直接つながるものであることなどから、その実施状況について、さらに詳細にみると次のとおりである。
市区町のうち、すべてのレセプトについて内容点検を行っているのは国保では153市区町(77.3%)、老人医療では148市区町(74.7%)となっていた。これ以外の市区町では、主に予算の制約等からすべてのレセプトについては点検を行っていなかった。そして、表4のとおり、被保険者数等の規模の大きい市区町ほどすべてのレセプトについては内容点検を行っていない割合が高くなっていた。
被保険者数
|
調査市区町数 (A)
|
左のうちすべてのレセプトについては点検を行っていない市区町数 (B)
|
割合(%) (B/A)
|
10,000人未満 | 39
|
2
|
5.1%
|
10,000人以上20,000人未満 | 39
|
2
|
5.1%
|
20,000人以上40,000人未満 | 49
|
13
|
26.5%
|
40,000人以上100,000人未満 | 43
|
14
|
32.5%
|
100,000人以上 | 28
|
14
|
50.0%
|
計
|
198
|
45
|
22.7%
|
受給者数
|
調査市区町数 (A)
|
左のうちすべてのレセプトについては点検を行っていない市区町数 (B)
|
割合(%) (B/A)
|
5,000人未満 | 40
|
4
|
10.0%
|
5,000人以上10,000人未満 | 54
|
5
|
9.2%
|
10,000人以上25,000人未満 | 53
|
17
|
32.0%
|
25,000人以上50,000人未満 | 34
|
14
|
41.1%
|
50,000人以上 | 17
|
10
|
58.8%
|
計
|
198
|
50
|
25.3%
|
また、市区町における1人当たり効果額と当該都道府県ごとの平均値を調査したところ、1人当たり効果額は、国保で9円から1,749円、老人医療で37円から9,168円と、市区町でかなりのばらつきが見受けられ、都道府県ごとの平均でみても国保で126円から862円、老人医療で755円から4,857円とかなりのばらつきが見受けられた。
そして、被保険者数等の規模に応じた1人当たり効果額及び費用対効果の平均についてみると、表5のとおり、おおむね、被保険者数等の規模が大きい市区町ほど、1人当たり効果額は高くなる傾向が見られ、また、費用対効果の平均についても同様の傾向が見られた。そして、その傾向は国保においてより顕著となっていた。被保険者数等の規模が大きく、点検の対象とするレセプトの枚数が多いことは、作業分担による能率の向上やノウハウの蓄積等の面で、点検の効果的な実施に有利になっていると推測される。
したがって、基本方針で今後の方向として示されている事業の共同化等による保険運営の広域化は、レセプト点検、特に内容点検の効果的な実施にとってメリットが大きいと考えられるが、現状においては、事業の共同化に取り組んでいる例はごくわずかとなっている。
被保険者数
|
調査市区町数
|
1人当たり効果額の平均 (円)
|
費用対効果の平均
|
10,000人未満 | 39
|
317
|
1.7
|
10,000人以上20,000人未満 | 39
|
332
|
2.0
|
20,000人以上40,000人未満 | 49
|
378
|
2.2
|
40,000人以上100,000人未満 | 43
|
383
|
3.0
|
100,000人以上 | 28
|
464
|
5.4
|
計
|
198
|
370
|
2.7
|
受給者数
|
調査市区町数
|
1人当たり効果額の平均 (円)
|
費用対効果の平均
|
5,000人未満 | 40
|
1,664
|
7.4
|
5,000人以上10,000人未満 | 54
|
2,231
|
6.1
|
10,000人以上25,000人未満 | 53
|
2,537
|
10.5
|
25,000人以上50,000人未満 | 34
|
2,317
|
8.0
|
50,000人以上 | 17
|
2,317
|
11.6
|
計
|
198
|
2,221
|
8.3
|
ア 委託又は嘱託等による点検の実施状況
市区町のうち、内容点検を主に専門業者との委託契約により実施していたのは国保では64市区町(32.3%)、老人医療では62市区町(31.3%)となっていて、表6のとおり、被保険者数等の規模の比較的小さな市町において委託により点検を実施している割合が高くなっていた。それ以外の市区町(国保134市区町、老人医療136市区町)では、主に嘱託等により実施していて、このうち、主に職員により実施していたのは、国保では4市町、老人医療では7市町であった。
被保険者数 | 調査市区町数 (A) | 嘱託等で実施 | 委託契約で実施(B) | 委託契約の割合(%)(B/A) |
10,000人未満 | 39
|
18
|
21
|
53.8%
|
10,000人以上20,000人未満 | 39
|
27
|
12
|
30.7%
|
20,000人以上40,000人未満 | 49
|
40
|
9
|
18.3%
|
40,000人以上100,000人未満 | 43
|
32
|
11
|
25.5%
|
100,000人以上 | 28
|
17
|
11
|
39.2%
|
計
|
198
|
134
|
64
|
32.3%
|
受給者数 | 調査市区町数 (A) | 嘱託等で実施 | 委託契約で実施(B) | 委託契約の割合(%)(B/A) |
5,000人未満 | 40
|
24
|
16
|
40.0%
|
5,000人以上10,000人未満 | 54
|
37
|
17
|
31.4%
|
10,000人以上25,000人未満 | 53
|
38
|
15
|
28.3%
|
25,000人以上50,000人未満 | 34
|
25
|
9
|
26.4%
|
50,000人以上 | 17
|
12
|
5
|
29.4%
|
計
|
198
|
136
|
62
|
31.3%
|
そして、委託によりレセプト点検を実施している市区町のなかには、毎月の点検終了時に、委託業者からレセプトに疑義の多い医療機関等、過誤・再審請求の多い内容等について報告させ、それを基に、点検の手順や重点を置くべき医療機関等について具体的に業者に指示を行うなど点検結果をその後の点検に反映させている市区町があった。しかし、約半数の市区町(国保32市区町、老人医療33市区町)では、点検の実施を委託業者に任せきりにしていて、どのような観点、手法で点検を実施しているかなど委託先における点検の具体的な実施状況の把握が十分でなかった。
委託によりレセプト点検を実施している市区町のうち、委託業者を通じて医療機関等の傾向的な問題点を把握し、その後の点検に活用している市区町の割合は、表7のとおり、3分の1以下であり、嘱託等により点検を実施している市区町に比べその割合は低い状況となっていた。
区分
|
国保
|
老人医療
|
||
委託
|
嘱託等
|
委託
|
嘱託等
|
|
市区町数 (A) | 64
|
134
|
62
|
136
|
医療機関等の傾向的な問題点について把握し、レセプト点検に活用していた市区町数 (B) | 20
|
106
|
12
|
105
|
上記の市区町の割合(%) (B/A) | 31.2%
|
79.1%
|
19.3%
|
77.2%
|
そして、レセプト点検を嘱託等により実施している市区町においては、レセプト点検員が把握したデータを相互に共有して点検に役立てたり、請求内容に問題の多い医療機関等を選定して集中的に点検を行ったりするなど、機動的できめ細かい点検を行っている市区町が比較的多く見受けられた。
イ 情報の活用状況
内容点検を行う場合の観点としては、個々の診療項目(検査、処置、投薬等)の妥当性の観点からの点検のほかに、医療機関等が診療報酬等の請求に当たって要件とされている事項を確保しているかという観点からの点検がある。このような点検は市町村、都道府県、地方社会保険事務局等が保有する情報を活用するなどして行うことができるが、調査したところ、次のとおり十分に実施されているとはいえない状況となっていた。
(ア)医療保険と介護保険との給付の調整に関するもの
医療機関等は、医療給付を行うほか、介護サービス事業者として、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づいて市町村の認定を受けた要介護被保険者等に対して介護給付の一環として医療サービスを提供することができることとなっている。そして、医療機関等が要介護被保険者等に対して提供した医療サービスのうち介護給付にも該当するものについては、原則として、診療報酬等としての算定は行わないこととされている(以下、この定めを「給付調整」という。)。
市区町の介護保険担当部局が保有する要介護被保険者等の情報を活用するなどして給付調整が適切になされているかどうか調査する点検の198市区町における実施状況は、表8のとおりとなっていた。
介護保険との給付調整に関する点検の状況
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市町数
(割合%) |
〔1〕介護保険との給付調整についてのレセプト点検を実施している市町 | 56
(28.2%) |
〔2〕〔1〕のうち市町の介護保険担当部局から要介護被保険者等の情報の提供を受けている市町 | 39
(19.6%) |
〔3〕〔1〕のうち国保連から要介護被保険者等の情報の提供を受けている市町 | 16
(8.0%) |
注(1) | 要介護被保険者等については老人が中心であることから、老人医療のみ集計を行っている。 |
注(2) | 〔2〕及び〔3〕の市町数には重複しているものがあり、〔1〕の市町の中には〔2〕、〔3〕以外の情報を活用して点検を実施している市町もある。 |
このように、介護保険との給付調整に関する点検は、介護保険担当部局等から要介護被保険者等の情報の提供がないことなどから、約4分の3の市区町において行われていなかった。
(イ)届出の確認に関するもの
診療報酬等の中には、医療機関等が、医師、看護職員等の数や施設、設備の整備状況等が厚生労働大臣の定める所定の基準に適合していることを、地方社会保険事務局長又は都道府県知事に届け出て受理された後に初めて算定し、請求できるものがある。
これらの医療機関等からの届出を要件とする診療報酬等について、地方社会保険事務局等の情報を活用して、所定の届出がなされているか否かを調査する点検の198市区町における実施状況は、表9のとおりとなっていた。
届出事項に関する点検の状況
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市区町数(割合%)
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国保
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老人医療
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医療機関等の届出内容が一覧できる冊子等がレセプト点検の担当部局に配布されている市区町 | 160
(80.8%) |
164
(82.8%) |
配布された冊子の届出内容の変更についても把握し修正している市区町 | 63
(31.8%) |
63
(31.8%) |
レセプト点検に当たり、届出の有無及びその内容について確認している市区町 | 75
(37.8%) |
91
(45.9%) |
届出の有無に関する点検は、多くの市区町において都道府県から届出内容が一覧できる冊子等がレセプト点検の担当部局に配布・保管されていたが、届出内容の変更に関する通知等を受けて当該冊子等を随時修正していくなどして活用している市区町は約3分の1にとどまっていた。そして、届出の有無及び内容についての点検を行っている市区町は半分以下となっていた。
(ウ)施設入所者に係る診療報酬等に関するもの
契約等により特別養護老人ホーム等に配置されている医師(以下「配置医師」という。)の所属する医療機関は、配置医師が当該施設に赴いて入所者に対して行った診療については、その診療が介護保険制度の介護給付等として行われるものであることから、初診料、再診料等を算定できないなどの制限が設けられている。
また、特別養護老人ホーム等と合築又は併設されている医療機関に所属する医師の行う診療についても同様の制限が設けられている。
介護保険の情報や施設の配置医師等に関する都道府県からの情報を活用して患者が施設入所者であるか、配置医師等による診療であるかなどを調査する点検の198市区町における実施状況は、表10のとおりとなっていた。
施設入所者に関する点検の状況
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市区町数
(割合%) |
施設の配置医師等に関する情報が提供されている市区町 | 140(70.7%)
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施設入所者であるか否かの情報を把握し、点検に利用している市区町 | 83(41.9%)
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レセプト点検に当たり、施設入所者であるか否か、配置医師等による診療であるか否かの確認を実施している市区町 | 146(73.7%)
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注(1) | 施設入所者については老人が中心であることから、老人医療のみ集計を行っている。 |
注(2) | 上記の市区町については重複しているものがある。 |
施設入所者に関する点検は、約3分の2の市区町で都道府県から施設の配置医師等に関する情報の提供を受けているものの、半数以上の市区町では他部局で保有している施設入所者についての情報を把握し、点検に利用することに積極的でない状況である。そして、施設入所者に関する点検は比較的多い約3分の2の市区町で行われていたが、なお十分とはいえない状況であった。
以上のように、これら3つの点検項目の実施状況は、必ずしも十分とはいえない状況であるが、その原因としては、点検要領において、これらの点検項目の位置づけや必要性が明確に示されていないこともあって、市区町にこれらの点検の必要性についての認識が必ずしも浸透していないこと、市区町の関係部局間の連携が十分に図られていないことが挙げられる。
ウ 点検結果の活用状況
診療報酬等の請求等に関する医療機関等に対する指導・監査については、都道府県や地方社会保険事務局において行われている。市町村におけるレセプト点検においては、レセプトに基づく患者個々の病状とそれに対する診療内容についての点検などが中心となるが、その結果を一層積極的に活用するには、点検に当たって、医療機関等の疑義のある請求傾向の把握に努め、それを医療機関等に対して指導・監査を行っている都道府県等に報告するなどして都道府県等との連携を図ることが重要である。また、このことは、点検要領にも、レセプト点検の結果、特に医療機関等の診療報酬等の請求傾向に疑義があるなど調査確認を要すると思料される場合は、都道府県に連絡することとされているところである。
市区町で行われている内容点検に当たって、疑義のあるレセプトの多い医療機関等について把握し、当該医療機関等のデータについて活用しているかについて調査したところ、198市区町におけるその活用状況は表11のとおりとなっていた。
医療機関等の傾向的な問題点に関する点検の状況
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市区町数(割合%)
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国保
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老人医療
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傷病名と検査、処置、投薬等の内容が一致しなかったり、検査、処置等の実施回数が多かったりなど請求傾向に疑義のある医療機関等について把握している市区町 | 136
(68.6%) |
132
(66.6%) |
請求傾向に疑義のある医療機関等について重点的にレセプト点検を実施している市区町 | 126
(63.6%) |
117
(59.0%) |
請求傾向に疑義のある医療機関等について都道府県に報告している市区町 | 4
(2.0%) |
6
(3.0%) |
表11のとおり、約3分の2の市区町で傾向的な問題点の把握に努め、該当する医療機関等について重点的にレセプト点検を実施していたが、請求傾向に疑義がある医療機関等を、医療機関等の指導・監査を行う都道府県等に報告している例は極めて少なく、都道府県等との連携による点検結果の一層の活用はほとんど行われていなかった。
4 本院の所見
厚生労働省では、現在、保険者の再編・統合や新たな高齢者医療制度の創設、医療費適正化のための地域における取組等を内容とした医療保険制度改革の検討を進めている。その具体的な改革の内容については現時点では明らかではないものの、現行の医療保険制度下で市町村が果たしている役割の重要性は今後も変わらないものと思料される。
特に、医療費の適正化が求められている中で、市町村が行っているレセプト点検については、被保険者数等の規模が大きい市町村ほど効果的な実施に有利な状況があり、今後はこの面からも基本方針で示されている事業の共同化等の取組が望まれる。
また、適正な診療報酬等の請求・支払等に寄与する的確で効果的な点検の実施及び都道府県等との連携による点検結果の活用は、医療費の適正化を進める上で、一層重要なものとなってきている。
しかし、前記のとおり、レセプト点検のうち内容点検について、相当数の市区町において、委託業者に点検を任せきりにしてその実施状況を十分に把握していなかったり、保険者等の保有する情報を活用して行う介護保険との給付調整に係る点検等が十分に実施されていなかったり、点検結果を都道府県等に報告し活用することがほとんど行われていなかったりする状況となっていた。
したがって、厚生労働省においては、レセプト点検の実施について都道府県や市町村に指導等を行うに当たり、以下のような点に留意していくことが望まれる。
ア レセプト点検の専門業者への委託は、外部の専門家の知識やノウハウを活用して点検効果を上げるなどのために今後増えていくことが予想されることから、市町村は委託業者による点検の実施状況を十分に把握し、必要に応じて指示を行うことなどにより、的確で効果的な点検を実施するよう努めること
イ 保険者等の保有する情報を活用して行う各種点検は、医学的判断を要しないものであり、点検に必要な情報を活用する体制が整えば比較的取り組みやすいものであることから、情報の提供について市町村の関係部局や都道府県、地方社会保険事務局相互の連携体制を整備するよう努めるとともに、これらの点検の位置づけや必要性を点検要領等に明確に示すこと
ウ 市町村の内容点検の結果、医療機関等が提出するレセプトに傾向的な問題点があるなどの情報が市町村から医療機関等を指導・監査する立場にある都道府県や地方社会保険事務局に報告される体制を整備するとともに、都道府県及び地方社会保険事務局において、それらの情報を医療機関等に対する指導・監査に積極的に活用すること
本院としては、市町村におけるレセプト点検の実施状況について、今後も引き続き注視していくこととする。