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  • 平成16年度|
  • 第4章 国会からの検査要請事項及び特定検査対象に関する検査状況|
  • 第2節 特定検査対象に関する検査状況

日本放送協会における放送受信料の契約・収納状況について


第19 日本放送協会における放送受信料の契約・収納状況について

検査対象 日本放送協会
放送受信契約の概要 日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者が、放送法に基づき日本放送協会とその放送の受信について締結する契約
受信契約件数 37,921千件(平成16年度末現在)
受信料収入 6410億円(平成16年度)

1 検査の背景

(協会の概要)

 日本放送協会(以下「協会」という。)は、放送法(昭和25年法律第132号)により、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行い又は当該放送番組を委託して放送させるとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、併せて国際放送及び委託協会国際放送業務を行うことを目的として設立された法人である。

(協会の財政)

 協会の財政は、主としてテレビジョン受信機(以下「受信機」という。)を設置し、協会と放送受信契約(以下「受信契約」という。)を締結した者(以下「受信契約者」という。)が納める受信料で支えられており、平成16年度決算では事業収入6667億円のうち受信料収入が6410億円と約96%を占めている。
 この受信料収入は、平成15年度までは毎年増加していたが、16年7月の協会職員による番組制作費の着服(以下「不祥事」という。)の発覚以来、受信料の支払拒否・保留が増加し、16年度の受信料収入が、前年度に比べて大幅に減少する事態が生じている。

(受信料の意義)

 協会では、公正で質の高い放送を提供するとともに、難視聴対策として放送施設の改善を行ったり、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づく災害報道などを行ったりしている。そして、協会がこうした公共放送としての使命を果たすためには、その自主自律を財政面から保障する必要があるとして、受信料は、放送法第32条によって協会に徴収権が認められているものである。また、同法第46条によって、協会は広告放送を禁止されている。
 この受信料の法的性格については、公共放送を維持運営するための特殊な負担金であり、放送を視聴する対価としてではなく、協会の業務運営を支えるための受信契約者による費用分担である。したがって、受信料は、受信機を設置した者からあまねく公平に負担されなくてはならないものとなっている。

(協会との受信契約)

 放送法第32条第1項では、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と規定している。
 そして、放送法の規定により締結される受信契約については、同法に基づき総務大臣の認可を受けて協会が制定する日本放送協会放送受信規約(以下「受信規約」という。)において、受信機を設置した者は、遅滞なく放送受信契約書を協会に提出しなければならないとされており、受信契約の成立は、受信機の設置の日となっている。そして、受信契約者は、受信契約に基づき、協会に受信料を支払わなければならないことを規定している。

(受信契約の種類と受信料の額)

 受信規約では、受信契約を表1のように5種類に区分している。
 協会では受信料額を2年4月の改定以降、9年4月の消費税率の改定に伴う場合を除いて15年間改定していない。

表1 受信契約の種類
種類 態様 受信料額(注)
カラー契約 地上放送のみを受信できるカラー受信機を設置した場合 1,395円
普通契約 地上放送のみを受信できる白黒受信機を設置した場合 905円
衛星カラー契約 衛星放送及び地上放送を受信できるカラー受信機を設置した場合 2,340円
衛星普通契約 衛星放送及び地上放送を受信できる白黒受信機を設置した場合 1,850円
特別契約 地上放送の自然の地形による難視聴地域または列車、電車その他営業用の移動体において、衛星放送のみを受信できる受信機を設置した場合 1,055円
訪問集金の場合で、沖縄県の区域を除いた月額料金を記載

(受信契約の単位)

 受信規約では、受信契約は、住居および生計をともにする者の集まり又は独立して住居もしくは生計を維持する単身者(以下、これらを「世帯」という。)ごとに行うこととしている。ただし、同一の世帯に属する2以上の住居に設置する受信機については、その受信機を設置する住居ごととし、事業所等住居以外の場所に設置する受信機についての受信契約は、受信機の設置場所ごとに行うこととしている。

(受信契約の解約)

 受信契約の解約については、受信規約上は、受信機を廃止した場合にのみ認められるものであるが、単身赴任者や学生が自宅に戻るなどの世帯合併によるものも認められており、廃止届を協会に提出し受理されることにより解約の手続が完了するとされている。

(受信料の支払方法)

 受信規約では、受信契約者は、受信機の設置の月から廃止の届出のあった月の前月までの受信料として、訪問集金(注1) 、口座振替(注2) 及び継続振込(注3) のいずれかの支払方法により、受信契約の種類ごとに定められた額を協会に支払わなければならないこととなっている。
 そして、受信契約者は、受信料を通常は1期(2箇月分)ごとに支払うこととなっているが、6箇月分又は12箇月分を一括前払で支払う場合、口座振替又は継続振込により行う場合には、所定の受信料額から一定の額を割り引くこととなっている。

(注1) 訪問集金 協会の集金取扱者への支払など口座振替及び継続振込以外の方法による支払
(注2) 口座振替 協会の指定する金融機関に設定する預金口座、通常郵便貯金等から、協会の指定日に自動振替によって行う支払
(注3) 継続振込 協会の指定する金融機関、郵便局等において、協会の指定する支払期日までに継続して払い込む支払

(受信契約未締結者等への罰則)

 放送法では、受信契約未締結者(以下「未契約者」という。)及び受信料未払者(以下「未払者」という。)に対する罰則は定められていないが、受信規約においては、受信料の支払を3期以上延滞した場合、1期当たり2%の割合で計算した延滞利息を支払わなくてはならないと定めている。

2 検査の着眼点

 16年7月に、不祥事が発覚して以来、これまで受信料を支払っていた受信契約者の受信料の支払拒否・保留が発生し、その数が17年3月末には約74万件にまで達し、さらに、同年9月末には約126万件になっている。一方、こうした支払拒否・保留者のほかに、受信機を設置した者が法律で義務付けられている受信契約の締結を怠っていたり、受信契約を締結していても受信料を支払っていなかったりしている者が多数に上っていることが明らかとなり、国民の受信料に対する不公平感が拡大してきている。
 また、受信料の支払拒否・保留者が多数発生しているため、17年度の受信料収入が大幅に減少することが見込まれ、今後、協会が公共放送の使命を果たしていく上で支障を来す事態も予想される。
 このようなことから、受信料の徴収は効率的かつ公平に行われているかなどに着眼して検査を実施した。

3 検査の状況

(受信契約の状況)

(1)受信契約件数の推移

 受信契約件数の推移は、表2のとおり、地上契約(カラー契約、普通契約)件数の減少を上回る衛星契約(衛星カラー契約、衛星普通契約、特別契約)件数の増加により全体としては増加してきていた。しかし、16年度は地上契約件数が大幅に落ち込んだことから、総契約件数が前年度に比べ約23万件(前年比0.6%)減と、協会設立以来初めて前年度を下回った。

表2 受信契約件数の推移
(単位:千件)

年度 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
地上契約件数 28,002 27,644 27,486 27,132 26,809 26,653 26,514 26,375 26,147 25,561
  カラー契約 27,136 26,844 26,753 26,465 26,198 26,111 26,033 25,931 25,737 25,175
普通契約 865 799 733 667 610 541 480 443 410 386
衛星契約件数 7,374 8,171 8,796 9,464 10,069 10,620 11,164 11,577 12,009 12,359
  衛星カラー契約 7,316 8,109 8,734 9,405 10,012 10,570 11,119 11,535 11,971 12,324
衛星普通契約 42 46 46 45 42 39 34 30 27 25
特別契約 16 15 15 13 13 10 10 10 9 9
総契約件数(A) 35,377 35,816 36,282 36,597 36,878 37,273 37,678 37,952 38,156 37,921
前年比増減(B) 439 466 315 281 395 405 274 204 △235
前年度増減率
B/A
1.2 1.2 0.8 0.7 1.0 1.0 0.7 0.5 △0.6
(注)
件数は各年度末現在数

 また、契約件数の推移を月別にみると図1のとおり、転居等が集中する年度末に減少し、年度初めに増加する傾向であったが、16年11月以降は年度初めの17年4月を除いて減少となった。

図1 受信契約件数の推移

図1受信契約件数の推移

(2)新規加入件数及び解約件数の推移

 新規加入件数及び解約件数の推移は、表3のとおりとなっていて、このうち、新規加入件数には住所変更によるものが含まれており、これを除いた新規契約件数は16年度で約134万件となっている。
 一方、解約件数についても住所変更によるものが含まれており、これを除いた件数は16年度で約165万件となっている。解約の内訳についてみると、前記の廃止届によるもの約90万件のほか、受信契約者の転居先が不明となり、受信料を徴収できなくなったため、解約処理を行ったものが約70万件ある。
 そして、15年度までは、新規加入件数が解約件数を上回っていたが、16年度については新規加入件数が急減し、解約件数を下回ったため、総契約件数は減少となっている。
 協会では、16年度の新規加入件数が前年度比約60万件減少したのは、16年度は地震、台風等の自然災害が多発したことや不祥事対策に営業活動の重点をおいたことなどにより、新規契約者獲得のための営業活動を十分に行うことができなかったことが要因であるとしている。

表3 新規加入件数及び解約件数の推移
(単位:千件)

年度 12 13 14 15 16
新規加入件数 新規契約 1,970 1,990 1,885 1,777 1,343
住所変更 1,400 1,364 1,309 1,303 1,129
合計 3,370 3,354 3,194 3,080 2,472
解約件数 解約処理 1,650 1,666 1,698 1,666 1,652
住所変更 1,365 1,325 1,266 1,262 1,101
合計 3,015 2,991 2,964 2,928 2,753
差引増減数 355 363 230 152 △281

(3)契約対象者数の把握

 協会では、受信契約の契約率を毎年発表しているが、契約の対象となる世帯数、事業所数等は、民間の調査会社に委託して調査した結果を基に算定しており、その算定方法は、表4、表5のとおり、世帯数については、国勢調査による世帯数を基準として、委託調査の結果を加味して算定されている。一方、事業所については、委託調査の結果に基づき推計した設置数となっている。

表4 平成16年度の契約対象世帯数算定方法
(単位:万世帯)

区分 世帯数 備考
国勢調査世帯総数 4,913 12年国勢調査結果等を基に推計
契約免除世帯 △185 非課税世帯、生活保護世帯等
契約対象外世帯 △14 学校等の寄宿舎、病院等入居者等
追加世帯 27 寮等の学生、有料老人ホームの入居者等
同居による控除 △285 複数世帯が同居し、生計を一にする場合
小計 4,456  
受信機所有世帯 4,364 受信機の所有率を乗じて推計
控除世帯比率 △1.5% 受信機が故障中等のため契約対象外となる割合
契約対象世帯 4,300  

表5 平成16年度の契約対象事業所数算定方法
(単位:万箇所)

区分 事業所数 備考
総事業所数 635 「事業所・企業統計調査」から推計
純粋事業所数 282 店舗兼住宅等の事業所を除いた数字
受信機設置事業所数 125 実態調査による受信機設置事業所比率を乗じて推計
契約対象数 284 1事業所当たり平均受信機設置台数を2.2台として算定

(4)未契約件数等の推移

 協会では、表4及び表5の契約対象者数に基づき未契約件数、未契約率を算出しており、その推移は、表6のとおりとなっている。
 前記のとおり、15年度までの総契約件数は増加傾向となっているものの、未契約件数、未契約率についても同様に増加しており、16年度末の未契約件数は約922万件となっている。

表6 未契約件数、未契約率の推移
(単位:万件、%)

年度 8 9 10 11 12 13 14 15 16
世帯契約 件数 705 717 737 759 765 768 779 796 853
17.7 17.7 18.0 18.4 18.3 18.2 18.4 18.7 19.8
事業所契約 件数 79 74 70 70 67 65 66 66 69
29 27 26 26 24 24 24 23 24
件数 784 791 807 829 832 833 845 862 922
18.4 18.3 18.5 18.9 18.7 18.5 18.7 19.0 20.1

 協会では、未契約者数の減少を図るため、受信契約の総数について増加目標件数を設定し、契約数の増加に取り組んでいる。
しかし、表7のとおり、目標件数に対する達成率をみると、毎年度、未達成の状態が続いており、特に16年度は、不祥事等の影響により28万件以上の減少となっている。

表7 受信契約増加目標達成率
(単位:件)




区分 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度
目標 470,000 370,000 370,000 370,000 300,000
実績 355,292 362,689 229,885 151,990 △281,181
達成率 75.5% 98.0% 62.1% 41.0% △93.7%

(5)未契約者の把握

 前記の未契約者数(16年度約922万件)は推定値であり、実際の未契約者数については、協会と受信料徴収等の業務に係る委託契約を締結した者(以下「地域スタッフ」という。)が、契約対象者を個別に訪問し、その際、受信契約者情報を管理する営業システムに登録するなどして把握することとしている。
 しかし、実際には、地域スタッフが契約対象者の住居を訪問しても、不在であったり、表札がない場合も多く、居住しているかどうかさえ識別がつかなかったり、居住していても面接を拒否されたりするなどにより、受信機が設置されているかどうかの把握が困難な状況となっている。
 また、事業所についても、受信機設置状況についてのアンケートを郵送するなどして把握に努めているが回収が困難であったり、回収できたものでも明らかに不自然な記入内容であったりなど、事業所の適正な報告が得られない場合も多く、また、協会は事業所に立ち入って調査する権限がないため、それ以上の対応がとれない状況となっている。

(6)未契約の理由

 協会では、未契約となっている理由について、地域スタッフ等から聞き取りなどを行っている。これによると、住居を訪問しても契約対象者に会えないといった理由がその大半を占めているが、協会の放送番組を視聴していないことを理由にするなど制度に対する無理解や経済的な理由もあげている。

(7)未契約者への対応

 単身世帯やオートロックマンションの増加による面接の困難化、視聴者意識の変化等、営業活動を取り巻く環境が厳しさを増しているなか、協会では、16年1月に策定した3箇年計画「NHKビジョン」において、受信料公平負担の徹底に向けて、契約促進のための営業活動の一層の強化を図ることとしており、次のような対策を講じてきている。
〔1〕 未契約者の把握の推進
〔2〕 面接困難世帯対策として、訪問可能時間の調査、不動産業者等への受信契約取次業務の委託
〔3〕 協会の受信料制度への理解の促進として、確信的な未契約者、大規模事業所などへの協会職員自らによる説得交渉、業界の組合等への協力要請
 しかし、前記のとおり、受信契約の総契約件数は15年度までは増加してきていたが、その一方で未契約件数も増加しており、こうした対策の効果は現状では必ずしも十分なものとなっていない。

(受信料の支払の状況)

(1)受信料の支払方法別受信契約件数の推移

 受信料の支払方法別受信契約件数の推移は、表8のとおり、訪問集金の比率は15年度まではほぼ横ばいであったが、16年度に約132万件も増加しており、逆に口座振替件数は約164万件も減少している。

表8 受信料の支払方法別受信契約件数の推移
(単位:千件)

支払方法 12年度末 13年度末 14年度末 15年度末 16年度末
契約数 訪問集金
(構成比)
[前年比増減]
4,752
(13.1%)
4,808
(13.2%)
[56]
4,867
(13.2%)
[59]
4,792
(13.0%)
[△75]
6,121
(16.7%)
[1,329]
口座振替
(構成比)
[前年比増減]
29,736
(82.2%)
29,736
(81.4%)
[0]
29,591
(80.5%)
[△146]
29,515
(80.0%)
[△76]
27,868
(76.1%)
[△1,647]
継続振込
(構成比)
[前年比増減]
1,666
(4.7%)
1,973
(5.4%)
[307]
2,289
(6.3%)
[316]
2,592
(7.0%)
[303]
2,629
(7.2%)
[37]

 このうち、16年度の月別の口座振替件数の増減状況についてみると、表9のとおりとなっており、不祥事発覚前の16年7月までは増加していたが、8月以降は激減している。これは、支払拒否・保留の意思を持つ口座振替利用者が口座振替を中止していることによるものと思料される。

表9 平成16年度の毎期別の口座振替件数増減状況
(単位:千件)

16年
4月〜5月
6月〜7月 8月〜9月 10月
〜11月
12月〜
17年1月
2月〜3月 合計
増減数 49 17 △88 △154 △662 △809 △1,647

(2)不祥事発覚以降生じた支払拒否・保留の推移

 16年7月以降生じた不祥事を理由にした支払拒否・保留件数の推移は、表10のとおり、特に16年末頃から急増してきており、16年度末では約74万件に上っている。17年度に入ってからも、増加のペースは鈍化してきているものの増加傾向は続いている。

表10 平成16年7月以降不祥事を理由とする支払拒否・保留件数(累計)の推移

(単位:千件)

16年9月末 11月末 17年1月末 3月末 5月末 7月末 9月末
支払拒否・保留件数 31 113 397 747 970 1,171 1,266

(3)受信料未収納額の推移

 協会では、受信契約者から徴収すべき受信料を受信料債権額、実際に当年度に収納した受信料を収納額とし、受信料債権額と収納額の差を当該年度末の未収金額としている。そして、この未収金額から翌年度中に回収できた額を控除し、確定未収納額としている。
 支払拒否等により未収納となっている受信料は、表11のとおり、増加傾向となっているが、16年度末では、前年度に比べて未収金額が約105億円増加し約373億円となり、未収納率も1.5ポイント増加し、5.5%となっている。
 そして、16年度の確定未収納額について過去の平均回収率を用いて試算すると、前年度に比べて約94億円増加し約340億円となり、未収納率も1.3ポイント増加の5.0%となる。

表11 受信料未収納額の推移
(単位:百万円)

区分 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度
受信料債権額
(a)

645,967 657,395 665,629 671,112 673,665
当年度収納額
(b)

623,182 632,762 639,004 644,307 636,282
当年度末未収金額
(a)-(b)

22,784 24,632 26,625 26,804 37,383
(前年比増減) 1,503 1,848 1,992 179 10,578
当年度末未収納率
(a-b)/(a)

3.5% 3.7% 4.0% 4.0% 5.5%
翌年度回収額
(c)

2,328 2,569 2,661 2,163 *3,312
確定未収納額
(a-b-c)

20,455 22,063 23,963 24,641 *34,071
(前年比増減) 1,318 1,607 1,900 678 *9,429
未収納率
(a-b-c)/(a)

3.2% 3.4% 3.6% 3.7% *5.0%
(注)
*:過去の実績を考慮して算出した本院推計値

 さらに、15年度に比べて増加した16年度の確定未収納額94億円の内訳についてみると、本院の試算では、表12のとおり、このうち約43億円が表10に示した不祥事を理由とした支払拒否・保留件数約74万件に相当する確定未収納額であり、これ以外の51億円の中にも不祥事発覚を原因とする口座振替中止等による支払拒否・保留が相当含まれていると思料される。

表12 不祥事による受信料収入の影響額
期間 拒否・保留累計件数
千件
拒否・保留件数
千件
(a)
平均月額単価
(b)
支払・保留期間
箇月
(c)
影響額
千円
(a×b×c)
7—9月末 31 31 1,706 8 423,088
11月末 113 82 1,706 6 839,352
1月末 397 284 1,706 4 1,938,016
3月末 747 350 1,706 2 1,194,200
合計 4,394,656
(注)
平均月額単価は、契約種別の月額単価(訪問集金)を契約件数の加重平均により算出

(4)未契約者分を含む受信料未収納額の推定額

 前記のとおり、本院の試算によると、16年度において受信契約があるにもかかわらず未収納となっている受信料額は約340億円(約166万件相当)となる。
 このほか、協会では、16年度末現在で未契約者が推計で約922万件存在するとしているが、これに係る受信料相当額について算定は行われていない。そこで、本院において、次のような試算を行った。すなわち、15年度末の推定の未契約件数約862万件から16年度中の新規契約件数約134万件を除いた約728万件が通年の未契約であったと推定し、この全件数にカラー契約の月額単価1395円(訪問集金)を乗じて計算したところ、推定の未契約者に係る受信料相当額は約1210億円となる。
 したがって、前記未収納額340億円と合わせた約1550億円相当(全受信契約対象額の19.6%)の受信料が徴収できていない事態となっていることが推定された。

図2 平成16年度の受信料未収納額の推定額

図2平成16年度の受信料未収納額の推定額

(注)
比率は受信契約対象受信料額に対する率

(5)未払の理由

 受信料の未払の理由については、従前より未収納対策として未収対策票を作成し、地域スタッフが同票に記述しているものの、実務上の対策は、地域スタッフが受信契約者個々の事情に対応してきたこともあり、協会として集計・整理されておらず、分析も行われていない状況であった。
 なお、協会による地域スタッフからの聞き取りでは、未払の理由として、〔1〕経済的理由、〔2〕協会の放送番組は視聴しない、〔3〕他に支払わない人がたくさんいる(不公平感)などがあるとしている。
 また、未払者における不祥事発覚以降生じた支払拒否・保留の理由に関しては、17年度に入ってからは「不祥事に対する憤り」から、「受信料負担の不公平感」に移ってきているとしている。
 そして、本院が、未収対策票の一部について、未払理由を分析したところ、訪問したが面接ができなかったため未払の理由については不明であるとしたもののほか、経済的理由(支払意思のないものも含む)や制度に対する不満(不公平感を含む)によるものが多数見られた。

(6)未払者への対応

 協会では、増加傾向にある未払者への対応として、具体的に次のような対策を講じてきたとしている。
〔1〕 協会の受信料制度への理解が得られず、特に収納が困難と認められる者に対しては、文書請求、訪問請求、電話請求を効果的に組み合わせて解決を図ること
〔2〕 15年度以降は、地域スタッフの中から特別収納スタッフ(約480名)を選別し、専ら未収対策業務に当たらせているほか、特に収納が困難な者について、必要に応じて協会職員自らが説得に当たること
〔3〕 16年度からは、インターネットによる口座振替、クレジットカードによる支払を可能としたり、郵便局転居届と協会住所変更届の複写式ワンセット化を進めたりすることしかし、未契約者への対応と同様、これらの対策の効果は現状では必ずしも十分なものとなっていない。
 なお、協会では未払者に対する受信規約に基づく延滞利息の請求、あるいは民事訴訟による支払請求はこれまで行っていない。

(7)不祥事発覚以降生じた支払拒否・保留者への対応

 不祥事発覚以降生じた支払拒否・保留者に対しては、協会職員が直接訪問する信頼回復活動を全国的に展開しており、16年度10月以降4万9000人と面接し、不祥事のおわび、再生・改革への取組の説明、受信料支払再開の要請を行ったとしている。そして、協会では、この信頼回復活動を今後も継続して行うこととしている。しかし、こうした信頼回復活動により支払に応じた者は、面接者の5%程度にとどまっている。
 さらに、不祥事発覚以降の口座振替中止者に対しては、17年3月下旬から4月末日までの間に約23万人に対し延べ47万回の電話による呼応対策を実施し、このうち17万件について通話することができたとしている。
 上記のほか、協会では放送や郵送物を通じた理解促進活動も併せて行っている。
 以上のような対応の結果、支払拒否・保留が17年2月及び3月は前2箇月より約35万件増加したのに対して、その後は増加が抑制されてきており、直近の8月及び9月は前2箇月より約9万件の増加に止まっている。

(8)受信料の徴収に要する経費

 受信料徴収に要する経費は、表13のとおり、総額800億円強となっており、これらの経費は、主として地域スタッフ等による訪問集金や、未契約者・未払者対策のために費やされている。

表13 受信料徴収に要する経費の推移
(単位:百万円)

区分 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度
契約収納業務費

40,355 41,014 40,555 40,871 38,074
契約収納推進費

21,057 21,383 22,089 21,682 23,274
小計 61,412 62,398 62,645 62,554 61,348
営業担当協会職員人件費 19,686 19,212 19,167 19,129 19,040
営業関係減価償却費 3 131 90 65 41
合計 81,101 81,741 81,902 81,748 80,429
注(1) 契約収納業務費は、地域スタッフ等への報酬、金融機関への口座振替手数料等の受信契約及び受信料収納に要する経費
注(2) 契約収納推進費は、受信契約・受信料収納の推進対策及び情報処理等に要する経費

 また、支払方法別の受信料の収納率は、表14のとおり、不祥事発覚後は、収納率が低下しており、経費に対する効果が現状では十分上がっていない状況となっている。

表14 支払方法別収納率(平成16年度)
(単位:千件)

支払
方法別
区分 1期
(4,5月)
2期
(6,7月)
3期
(8,9月)
4期
(10,11月)
5期
(12,1月)
6期
(2,3月)
口座振替 請求数 15,524 15,664 14,673 15,219 15,548 14,043
振替数 14,826 14,988 14,003 14,467 14,707 13,154
収納率(%) 95.5 95.7 95.4 95.1 94.6 93.7
継続振込 請求数 660 576 546 557 556 501
振込数 539 460 433 417 340 297
収納率(%) 81.7 79.9 79.3 74.9 61.2 59.3
訪問集金




収納数 2,247 2,122 1,947 1,903 1,503 1,276
未収数 3,082 3,206 3,304 3,500 3,926 4,157
対象数 5,329 5,328 5,251 5,403 5,429 5,433
収納率(%) 42.2 39.8 37.1 35.2 27.7 23.5





(注)
収納数 223 223 202 200 176 153
未収数 189 200 218 239 277 286
対象数 412 423 420 439 453 439
収納率(%) 54.1 52.7 48.1 45.6 38.9 34.9
(注)
郵政委託等 地域スタッフが対応できない小規模地域、立入困難地域等における受信料徴収等の業務を日本郵政公社社員等に委託するもの

(協会の事業執行への影響)

(1)16年度決算への影響

 16年度決算では受信料収入は、表15のとおり、予算を約140億円(15年度は49億円)下回ったものの、経費を節減するなどして事業支出を約123億円減少させたことにより、利益に相当する事業収支差金を約75億円確保している。

表15 平成16年度収支決算及び予算
(単位:千円)

16年度収支決算
(a)
16年度収支予算
(b)
(a-b)
(事業収入) (666,745,231) (678,706,821) (△11,961,589)
 受信料収入 641,012,115 655,064,392 (△14,052,276)
 副次収入 9,434,133 7,761,817 (1,672,316)
 その他の収入 16,298,982 15,880,612 (418,370)
(事業支出) (659,228,702) (671,588,821) (△12,360,118)
(事業収支差金) (7,516,528) (7,118,000) (398,528)
(注)
16年度収支予算は予算総則に基づく予算の流用等を適用後の予算

 協会では、近年、表16のとおり、これらの事業収支差金を地上デジタル放送設備の整備などの資本支出に充当しており、これにより固定資産の充実が図られてきている。しかし、16年度末の資本支出充当後の事業収支剰余金の額は3億9800万円と前年度(15年度37億6000万円)に比べて少額となっている。

表16 資本等の推移
(単位:百万円)

区分 12年度末 13年度末 14年度末 15年度末 16年度末
資本 339,377 359,230 373,486 402,351 413,872
積立金 53,393 55,923 54,795 36,211 36,211
当期事業収支差金 22,383 13,128 10,280 11,521 7,516
(資本支出充当) 9,597 8,985 8,392 7,761 7,118
(事業収支剰余金) 2,529 398 1,888 3,760 398
(建設積立金繰入) 10,256 3,744 0 0 0

(2)17年度予算執行への影響

 17年度の事業計画では、表17のとおり受信契約件数については、期中に20万件増加するとしているが、実際は未だ減少し続けている上、年度当初において既に実績が計画より10万件下回っている状況となっており、事業計画どおりの契約件数を確保するのは困難な状況となっている。

表17 受信契約件数に関する事業計画等
(単位:千件)

契約種別 16年度決算で確定した16年度末の受信契約件数 17年度事業計画で想定した受信契約件数
16年度末 年度内増減 17年度末
カラー契約 23,980 24,029 △273 23,756
普通契約 349 345 △27 318
衛星カラー契約 12,254 12,311 503 12,814
衛星普通契約 26 25 △3 22
特別契約 9 9 0 9
契約件数計 36,618 36,719 200 36,919
(注)
上記の件数は、受信料全額免除世帯を除く有料契約の件数

 また、17年度予算で想定している受信料収入は、表18のとおり16年度予算より約72億円低く見積もっているものの、前記のとおり、16年度の決算額は同予算額を約140億円下回ったため、17年度に予算どおりの受信料収入を確保するには、16年度実績より68億円の増収が必要となる。しかし、受信料の支払拒否・保留件数が17年9月末で約126万件となり、同月末現在までの半年間で予算に比べ約237億円の減収となっており、このままでは更なる減収が予測される状況となっている。
 一方、17年度の事業支出予算については、16年度予算に比べ、役員報酬・職員給与の削減(28億円)、効率的な業務運営による経費の削減(185億円)など、合わせて213億円の経費を削減する前提で算定している。しかし、上記のように、現状のままでは受信料収入が予算額を大幅に下回ることが予測されることから、更なる経費の削減が必要となっている。

表18 平成16、17両年度収支予算
(単位:千円)

17年度収支予算
(a)
16年度収支予算
(b)
(a)-(b)
(事業収入) (672,444,692) (678,514,354) (△6,069,662)
 受信料収入 647,835,329 655,064,392 (△7,229,063)
 副次収入 8,900,000 7,720,000 (1,180,000)
 その他の収入 15,709,363 15,729,962 (△20,599)
(事業支出) (668,725,692) (671,396,354) (△2,670,662)
(事業収支差金) (3,719,000) (7,118,000) (△3,399,000)
(注)
16、17両年度とも当初予算

(3)改革・新生に向けた取組

 協会は、国民の信頼を取り戻して受信料収入の回復を図るため、17年9月に「NHK新生プラン」を発表した。その内容は次のようになっている。
〔1〕 視聴者第一主義に立って”NHKだからできる”放送の追求
〔2〕 組織や業務の大幅な改革、スリム化の推進
〔3〕 受信料の公平負担への全力での取組

4 本院の所見

 協会が、公共放送として、公正で質の高い放送を提供するなどの使命を果たすためには、その自主自律を財政面から保障する必要がある。受信料は、こうしたことから、放送法によって協会にその徴収権が認められているのであって、受信機の設置者からあまねく公平に徴収されるべきものである。
 16年7月に不祥事が発覚して以来、受信契約者の受信料の支払拒否・保留が続出し、その数が17年3月末には約74万件にまで達し、16年度の受信料収入は大幅な減収となっている。不祥事発覚が年度途中であり、支払拒否・保留の急増が第4四半期以降であったことなどからその影響は限定的なものとなっていたが、17年度に入っても、支払拒否・保留の増加は続いており、17年9月末には約126万件となっている。
 一方、こうした不祥事発覚以降生じた支払拒否・保留者以外にも従前から支払を拒否している者、更には法律で義務付けられている契約すら締結していない者が多数存在しており、本来収納すべき受信料の未徴収率は19.6%に及んでいる。
 また、こうした状況が明らかとなるに従い、国民の受信料に対する不公平感が拡大してきており、これが更なる支払拒否・保留を生む状況となっている。
 協会では、不祥事発覚以降、徹底した不祥事の再発防止を図るとともに、協会職員が受信契約者を直接訪問するなどの信頼回復活動を全国的に展開してきているが、その効果は現状では必ずしも十分なものとなっていない。協会は経費の節減に努めているものの、受信料収入の減少状況がこのまま推移すると、協会が公共放送の使命を果たしていく上で支障を来す事態も予測される。
 上記にかんがみ、協会においては、更に一層の不祥事の再発防止の徹底や経費の削減を図るとともに、受信料の負担に対する国民の不公平感を払拭していくことが肝要であり、このためには、受信料制度の趣旨について国民に更なる周知を図っていくとともに、次のような取組を進めていく必要がある。
ア 未契約者については、受信契約の締結が法律により義務付けられていることの周知を図る。また、これと併せて、早急にその実態を効率的に把握する方策を検討するなどして、特に長年にわたって未契約となっている者をリストアップし、これらの者に対し重点的に訪問活動を実施していくこと
イ 未払者については、更に効果的に受信料を収納する方策を検討するとともに、特に不祥事以降の支払拒否・保留者に対しては、受信料制度の意義や協会の改革について、引き続き十分理解を求めていくこと
ウ 事業所については、受信機の設置状況の的確な把握に引き続き努めるとともに、明らかに事実と異なる設置状況を報告した者に対しては、協会職員等による訪問活動等により、受信料制度の意義について十分理解を求めていくこと
エ 上記ア、イ、ウのほか、真にやむを得ない場合は、最後の手段として法的措置の検討も視野に入れること
 また、協会では、17年9月に国民の信頼を一日も早く取り戻すべく、新生プランを発表し、様々な改革を行っていくとしていることからも、本院においては、協会における経費節減による支出抑制の状況、新生プランを含む協会の受信料の公平負担を図るための取組や受信料の徴収状況等について、今後の推移を含め注意深く見守っていくこととしたい。