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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
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  • 平成18年9月

政府開発援助(ODA)に関する会計検査の結果について


(1)制度の概要

ア 制度の導入の背景、変遷

 我が国は、開発途上国の経済社会開発、民生の安定、福祉の向上等に貢献することを目的として無償資金協力等の経済協力を実施してきている。このうち草の根・人間の安全保障無償資金協力は、病院、学校、道路、かんがい施設等の建設及び公共の輸送用車両等の調達を対象とする一般プロジェクト無償等の無償資金協力の枠組みの一部として位置付けられている。
 本制度は、〔1〕開発途上国の援助要請が多様化しており、迅速かつ的確に対応する必要性があったこと、〔2〕我が国以外の主要援助国が小規模な無償援助を実施し、大きな外交的効果を上げていたことなどから、元年度に、非政府団体(Non―Governmental Organization。以下「NGO」という。)等を被供与団体とする小規模無償資金協力として創設されたものである。元年度には、実施国数32箇国、案件数95件、予算額3億円であったが、年々予算規模が増大した。7年度には、案件1件当たりの援助額がNGO等を対象とする援助としては必ずしも小規模とはいえなくなったことから、草の根無償資金協力と改称された。
 そして、15年度には、人間の生存、生活、尊厳を直接に脅かす深刻かつ広範な脅威から人々を保護し、個人やコミュニティが自立するための能力を育成することが必要であるとの人間の安全保障の考えを反映させることとしたことから、草の根・人間の安全保障無償資金協力と改称された。

イ 目的、対象等

 本制度は、我が国に対する信頼感を醸成させるとともに援助要請への機動的な対応が可能であるとして実施されてきたもので、開発途上国の所得水準などを考慮して決定した国又は地域(16年5月現在132箇国(地域))を対象としている。そして、多様な開発要請に対し、当該国の経済・社会情勢に精通している我が国の在外公館が、当該国又は地域において活動しているNGO、地方公共団体、教育・医療機関等の実施する比較的小規模な案件に資金を供与し、一般国民等のいわゆる草の根レベルに直接援助の効果が発現することを目的としている。
 案件1件当たりの供与限度額については、原則として1000万円以下とされている。そして、案件の内容に応じて一定の基準を満たす場合には、従来は最大5000万円(ただし、地雷案件のみ12年度から1億円)までであったが、15年度からは人間の安全保障の考えを反映する案件をより積極的に支援するとして、最大1億円までに拡充された。
 また、本制度の援助の申請は、援助を希望する団体から、個別の案件に係る援助の必要性等の関連情報を適時に入手することが可能な在外公館に対して直接行われることになっている。そして、本制度の援助は、在外公館と被供与団体との間において贈与契約を締結すれば足り、我が国と被援助国との間において交換公文を締結する必要がないことなど、一般プロジェクト無償に比べて、援助の実施手続が簡略化され迅速化が図られていることが特長となっている。

ウ 援助実績

 13年度から16年度までの草の根・人間の安全保障無償資金協力(14年度以前は草の根無償資金協力。以下、本文において同じ。以下「草の根無償」という。)の援助実績は、表3―1のとおり、予算額が13年度及び14年度は100億円であったものが15年度及び16年度は150億円と増加し、16年度では、国(地域)数は108、案件数は1,306件、外務本省が草の根無償として在外公館に資金前渡した金額(送金通貨は米ドル等の外貨)は128億9694万余円となっている。

表3―1 年度別援助実績
(単位:百万円、国(地域)、件)

年度
予算額
国(地域)数
案件数
金額
13
10,000
119
1,731
9,986
14
10,000
112
1,415
9,497
15
15,000
113
1,404
11,156
16
15,000
108
1,306
12,896

 そして、この援助実績の推移を地域別にみると、表3―2のとおり、13年度及び14年度は、アジア、中南米及びアフリカの3地域が、上位を占めていたが、これに対し15年度及び16年度では、中近東地域が大幅に増加し、中近東、アジア及び中南米の3地域が、上位を占めている。

表3―2 地域別援助実績
(単位:件、百万円)

年度
地域
13
14
15
16
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
中近東
 
 
144
 
 
802
 
 
169
 
 
1,071
(3)
<7>
297
(61)
<603>
2,834
(23)
<26>
50
(708)
<2,046>
5,266
アジア
(10)
<2>
580
(256)
<147>
3,764
(18)
<4>
368
(440)
<273>
3,030
(11)
<6>
315
(189)
<456>
2,714
(6)
<10>
292
(160)
<798>
2,805
中南米
(1)
 
373
(49)
 
2,194
(2)
 
380
(66)
 
2,478
(4)
 
382
(85)
 
2,776
(4)
<1>
357
(65)
<70>
2,593
アフリカ
 
 
335
 
 
1,572
(1)
<2>
234
(19)
<150>
1,410
(2)
 
177
(33)
 
1,134
(8)
<1>
117
(174)
<59>
985
大洋州
 
 
103
 
 
556
(1)
 
91
(19)
 
478
(2)
<1>
83
(69)
<99>
683
(3)
 
85
(93)
 
592
NIS 注(1)
 
 
119
 
 
673
 
 
122
 
 
733
(2)
 
98
(43)
 
727
 
 
60
 
 
392
欧州
(1)
 
77
(36)
 
422
 
<1>
51
 
<64>
295
 
 
52
 
 
285
 
 
45
 
 
260
(12)
<2>
1,731
(342)
<147>
9,986
(22)
<7>
1,415
(546)
<488>
9,497
(24)
<14>
1,404
(483)
<1,159>
11,156
(44)
<38>
1,306
(1,203)
<2,975>
2,896
注(1)
 NIS(New Independent States)は、ソビエト社会主義共和国連邦の解体後、新たに独立した国家である。
注(2)
 上段( )書きは1000万円以上5000万円未満、中段< >書きは5000万円以上の案件であり、内数である。

 表3―2のうち、5000万円以上の案件についてみると、13年度から16年度までの合計は61件、47億7104万余円となっていて、15年度では14件、11億5988万余円、16年度では38件、29億7586万余円となっている。これらの主な内容は、地雷除去活動支援であり約半数を占めている。また、15年度以降に総件数、総額が増加しているのは、中近東地域における給水施設、医療保健、地雷除去等の援助を行っていることによるものである。
 また、援助実績を国(地域)別にみると、表3―3のとおり、13年度及び14年度では、中華人民共和国及びカンボジア王国が上位を占めていたが、これに対し15年度及び16年度では、アフガニスタン・イスラム共和国及びイラク共和国が上位を占めている。

表3―3 国(地域)別援助実績上位5箇国
(単位:件、百万円)

順位
13
14
15
16
国名
件数
金額
国名
件数
金額
国名
件数
金額
国名
件数
金額
1
中国
(4)
 
87
(69)
 
665
中国
(1)
 
70
(24)
 
546
アフガニスタン
 
<2>
144
 
<199>
1,334
アフガニスタン
(9)
<2>
228
(326)
<198>
2,433
2
カンボジア
(2)
<2>
42
(31)
<147>
390
カンボジア
(2)
<3>
44
(73)
<216>
508
中国
(3)
 
76
(41)
 
652
イラク
(13)
<24>
44
(371)
<1,848>
2,270
3
インド
 
 
52
 
 
335
コロンビア
 
 
48
 
 
419
カンボジア
(4)
<4>
45
(73)
<324>
622
スリランカ
 
<6>
17
 
<484>
552
4
ミャンマー
 
 
93
 
 
328
パキスタン
(9)
 
38
(195)
 
403
コロンビア
 
 
52
 
 
471
中国
(1)
 
55
 
(18)
414
5
インドネシア
 
 
48
 
 
317
ボリビア
 
 
58
 
 
361
ニカラグア
 
 
62
 
 
410
カンボジア
 
<4>
18
 
<314>
401
(注)
 上段( )書きは1000万円以上5000万円未満、中段< >書きは5000万円以上の案件であり、内数である。


 また、13年度から16年度までの援助実績を分野別にみると、表3―4のとおり、各年度とも小学校・中学校建設等の教育研究、民生環境及び医療保健の各分野が件数、金額とも多くなっている中で、16年度は特に通信運輸の分野に対する金額が大幅に増加している。

表3―4 分野別援助実績
(単位:件、百万円)

年度
分野
13
14
15
16
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
教育研究
755
4,161
657
4,053
593
4,307
597
4,769
民生環境
358
1,958
297
1,799
324
2,360
249
2,668
医療保健
370
2,207
282
1,973
273
2,183
227
2,074
通信運輸
30
170
23
173
48
364
68
1,318
農林水産
110
648
61
375
80
574
83
578
その他
68
619
52
861
57
1,158
68
1,385
複合分野
40
220
43
260
29
207
14
102
1,731
9,986
1,415
9,497
1,404
11,156
1,306
12,896

 さらに、13年度から16年度までの援助実績を被供与団体別にみると、表3―5のとおり、各年度とも草の根レベルにおいて活動しているローカルNGOが件数、金額とも最も多くなっている中で、16年度は特に国・政府機関に対する金額が大幅に増加している。

表3―5 被供与団体別援助実績
(単位:件、百万円)

年度
被供与団体
13
14
15
16
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
ローカルNGO(注)
751
3,831
618
3,839
623
4,603
652
5,268
国・政府機関
32
314
28
310
14
158
52
2,175
地方公共団体
325
1,966
267
1,761
332
2,770
265
1,954
国際NGO(注)
81
580
113
1,173
109
1,064
72
1,121
教育機関
232
1,233
240
1,414
182
1,235
154
1,038
医療機関
134
840
89
585
84
648
72
762
その他
176
1,217
60
413
60
674
39
576
1,731
9,986
1,415
9,497
1,404
11,156
1,306
12,896
(注)
 ローカルNGOは、草の根無償の被援助国において活動を行っている当該被援助国のNGOである。国際NGOは、当該被援助国を含む複数の国において国際的な活動を行っているNGOである。


 上記の援助実績に関し、外務省の説明によれば、地域や国ごとに予算の配分を行わず在外公館からの申請案件に対する承認ごとに予算執行しているとしている。そして、草の根無償として、従前から人間の安全保障に係る援助を実施してきており、15年度から人間の安全保障の考えを反映させて改称されたが、援助の内容は変わっていないとしている。