外務本省では、草の根無償の制度の運用に当たっては、小規模無償資金協力として元年度に開始して以来、草の根無償資金協力として実施していた14年度までの間において、毎年度、実施方針を決めてこれにより実施することとしていた。
そして、15年度には人間の安全保障の考えを反映させるなどその事業規模が拡充されたことなどから、従来の実施方針に代え、在外公館における案件の申請、契約の内容などに関する実施手順等をより具体的に示した「草の根・人間の安全保障無償資金協力実施ガイドライン」(15年4月経済協力局無償資金協力課作成。16年4月改訂。以下「ガイドライン」という。)を策定し以後これにより実施している。
ガイドラインによると、15年度以降の草の根無償の具体的な実施手順は、次のとおりとなっている(図3—1参照) 。
在外公館では、援助を希望する団体から申請書及び同団体の財務諸表、組織図、過去の活動実績等の関連書類の提出を受けて、案件の選定作業に入る。案件の選定の後、事前調査を行う。事前調査は、優良な案件を選定し、かつ各案件の実現可能性を確認することを目的として、原則としてすべての案件について行うこととされている。事前調査では、同団体に対し詳細なヒアリングを行い、財務情報や過去の実績とを合わせて、同団体が信頼に値し案件を執行する能力を備えているかどうかを判断するとともに、可能な限り案件現場を視察し、案件の実現可能性を確認する際の参考情報を収集することとされている。
また、在外公館では、案件の実施において調達する品目に係る価格審査を行い、妥当な供与限度額を設定することとされており、援助を希望する団体に、原則として3者からの見積書を提出させることとされている。
在外公館は、案件を選定し事前調査を経て内容を確定した後、外務本省に実施の承認りん請を行い、これを受けた外務本省は当該案件について審査を行う。外務本省が行う審査は、在外公館から承認りん請された案件が草の根無償として適正な規模であるか、内容が草の根無償の趣旨に反しないか、などを検討するものである。そして、外務本省の承認が得られた案件については、在外公館と被供与団体との間で贈与契約が締結されることとなる。
贈与契約書は、被供与団体による案件の実施に役立てることを目的として、在外公館がその供与限度額の範囲内で資金を供与することや、被供与団体が日本政府から資金の供与を受けるに当たり、以下のことなどを受諾することをその主な内容としている。
〔1〕 供与された資金を当該案件の実施に必要な物資の調達等のためにのみ適切に使用し、それ以外の目的に使用しないこと
〔2〕 在外公館が要求する関係書類を提出すること
〔3〕 供与された資金が当該案件の実施以外の用途で使用されたことが明らかになった場合、在外公館は資金の返還を請求する権利を有していること
〔4〕 当該案件の進ちょくに関して、使用済み資金の使途等を含めた遂行状況について中間報告を行い、終了したときは最終報告を行うこと
〔5〕 1年以内の決められた期日までに案件を終了すること
在外公館は、被供与団体にこの内容を十分に理解させるとともに、在外公館長等と被供与団体の代表権を有する者との間において、締結の署名を行うこととされている。
被供与団体は、贈与契約締結後、調達業者との間で機材の調達等に係る契約(以下「調達契約」という。)を締結するなどしている。
13年度及び14年度の実施方針によると、在外公館では、資金の供与に当たり、被供与団体の資金需要の確認を被供与団体から提出を受けた調達契約書又は見積書により行うこととされていた。そして、15年度以降、ガイドラインによると、原則として、被供与団体の資金需要の確認を調達契約書により行うこととされており、被供与団体において調達される機材の性質、現地の商慣習等の理由により調達契約の締結が困難な場合には、見積書の確認による供与も可能であるとされている。
また、会議運営費等の費用が所定の額以上であるなどの場合、在外公館が必要と判断する場合等には資金を分割供与することとされている。さらに、在外公館では、供与限度額の範囲内で必要な資金を被供与団体に供与することとし、供与した資金のうち案件実施において使用されなかった資金がある場合には、被供与団体からこの資金の返還を受けることとされている。
モニタリングは、施設建設案件であれば施設が適切に建設され、機材調達案件であれば調達した機材が適切に利用されるなど、贈与契約に記載された期日までに、案件が当初の計画どおり進ちょくし、終了したことを確認することであるとされている。
そして、15年度以降、ガイドラインによると、モニタリングの具体的手法については、現地の事情に照らし在外公館において、適宜決定することとされていて、当初の計画に支障が生じている場合は、問題を早期に発見し、適切に対処することが肝要であり、そのために中間報告書及び最終報告書の提出受理や案件現場の視察を通じ、案件の進ちょく状況を常に把握することが重要であり、可能な限り案件現場を直接確認することが望ましいとされている。
案件現場の視察においては、案件の進ちょく状況、施設・機材の設置状況、事業効果の恩恵を受ける対象者による活用度等についての観察及び関係者からの聞き取りを行うこととされている。
モニタリングの具体的な内容は以下のとおりである。
a 中間報告書の提出受理
中間報告書は、案件の進ちょくの把握、問題の早期の発見や対応を目的として、施設の建設や機材の調達の進ちょく状況、領収書等を確認するため、在外公館において被供与団体から提出を受け、これを受理するものである。
b 案件の進ちょく状況の確認
在外公館は、案件の進ちょく状況について可能な限り案件現場の視察を行うこととされている。案件の進ちょく状況の確認を通じて供与資金が適正に使用されていることを随時確認することとし、視察の結果と中間報告書の内容とを合わせて、案件の進ちょく状況を総合的に検証することが望ましいとされている。
また、案件現場の視察による進ちょく状況の確認は在外公館の職員自らが実施することが望ましいが、各在外公館の判断において外部に委嘱して差し支えないとされている。
c 計画の変更
贈与契約書で取り決めた内容について、案件当初の目的を逸脱しない軽微な計画の変更については、在外公館において被供与団体と協議の上、当該変更を承認して差し支えないとされている。そして、案件当初の目的との整合性については、贈与契約書等における案件の概要、事業効果に照らして判断することとし、計画の変更内容は外務本省に事後報告することとされている。
また、期間の変更、案件の内容等の大きな変更が行われる場合には、外務本省に計画変更の承認申請を行い、承認を得た後に対処することとされている。
d 最終報告書の提出受理、案件の終了確認
最終報告書は、被供与団体が案件の終了したことや領収書等を添付して資金の使用状況などを在外公館に対して報告するため、案件の終了期日に沿って提出するものであり、在外公館はすべての案件についてこれを確実に受理する必要があるとされている。
そして、建設した施設や調達した機材について案件現場の視察を行うなどして案件の終了を確認することとされている。
フォローアップは、贈与契約上の案件終了期日を経過し、一定の期間をおいた後、当初の想定したとおりの事業効果が発現しているかを検証することであるとされている。
そして、15年度以降、ガイドラインによると、案件終了後、在外公館の職員又は在外公館の委嘱を受けた外部の者(以下「外部委嘱員」という。)が案件現場に赴きフォローアップを実施することとされており、在外公館は、終了した案件を事後的に評価し、将来の案件形成にフィードバックする目的で、各案件のフォローアップに努めることとされている。
草の根無償は、近年、予算規模や対象国、実施案件数が増大し、在外公館においては業務量が増加したことに伴い、より専門的な知見の活用や、実施体制の強化が求められる状況となった。そこで、専門知識を必要とする業務、及び外部に委嘱することでより一層効率的・効果的な援助が実施され供与資金の適正な執行も確保できると判断される業務について、現地で活動している専門家に対し、9年度から、案件の事前調査を委嘱できることとされた。そして、10年度からは、前記のとおり、案件の実施状況のモニタリング業務等についても委嘱できることとされ、さらに、11年度からは団体との協議・調整、書類整理、案件全体の進行監理等の業務についても委嘱できることとされた。
そして、15年度以降、ガイドラインによると、在外公館が検討又は実施することにした案件については、案件の形成に係る調査、実施に必要な事前調査、申請書や報告書等の被供与団体から提出される文書の受理、各種書類の作成等のほか、実施状況のモニタリング及び終了後のフォローアップについても外部委嘱員に委嘱できることとされている。