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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年9月

政府開発援助(ODA)に関する会計検査の結果について


(1) 津波等災害に対する被災国及び国際機関からの援助の要請並びに我が国政府の対応状況

ア 津波等災害による被害の状況

 16年12月26日にインドネシア共和国のスマトラ島沖で発生したマグニチュード9.0と推定される大地震及びそれに伴う大規模な津波により、4箇国を始めとしてインド洋沿岸諸国は大規模な被害を受けたが、外務省によれば各国の被害状況は、表4―1のとおりであった。

表4―1 津波等災害による被害状況
被災国
被害の内訳
バングラデシュ人民共和国
死者:2名
インド
死者:10,749名
インドネシア共和国
死者:128,645名
行方不明者:37,087名
ケニア共和国
死者:1名
マレーシア
死者:68名
行方不明者:5名
モルディブ共和国
死者:82名
ミャンマー連邦
死者:61名
セーシェル共和国
死者:1名
ソマリア民主共和国
死者:298名
スリランカ共和国
死者:31,141名
負傷者:23,033名
行方不明者:4,245名
タンザニア連合共和国
死者:10名
タイ王国
死者:5,395名

イ 我が国政府の対応状況

(ア)緊急援助物資供与

a 制度的枠組み

 緊急援助物資供与は、JICAが、海外の地域、特に開発途上地域における大規模な災害に対し、国際協力の推進に寄与することを目的として、被災国に対して物的援助として被災者の当面の生活を確保するために必要な物資の供与を行うものであり、昭和62年度から行われている。

b 事業の実施手順

 外務省は、相手国政府等からの要請に対し援助の実施の必要性があると判断した場合、JICAに対して物資供与の要請伝達を行う。これを受けたJICAは、海外に3箇所(平成16年12月現在)ある倉庫にあらかじめ備蓄している生活必需品等を相手国政府等に供与することになっている。

c 援助の実施

 我が国政府は、津波等災害のあった16年12月26日以降、インドネシア共和国政府、モルディブ共和国政府及びスリランカ共和国政府からは26日に、タイ王国政府からは30日に、それぞれ、緊急援助として物資の供与に関する要請を受けた。これに対して外務省はJICAに対して要請伝達を行い、JICAはこれに基づき、3箇国に対しては27日に、タイ王国に対しては31日に、それぞれ緊急援助物資の供与を行うことを決定した。そして、JICAは、相手国政府、現地の在外公館等と調整の上、相手国政府の要請の中から対応可能なものを選択し、被災地に最も近いシンガポール共和国にある備蓄倉庫から、表4―2のとおり、供与相当額計53,006,878円の物資を上記各国の現地に輸送した。

表4―2 緊急援助物資供与による支援
(単位:円)

内訳\国名
インドネシア共和国
モルディブ共和国
スリランカ共和国
タイ王国
供与相当額
19,177,918
7,866,755
14,209,853
11,752,352
53,006,878
物資送付完了時期
16年12月30日
17年1月2日
16年12月31日
17年1月5日

 この供与相当額計53,006,878円は、JICAが、16年度予算として外務省から受けた運営費交付金(項)災害援助等協力関係費(目)災害援助協力経費及び(目)災害援助訓練等経費から、17年3月までに支出した。支出額の内訳は、被災地への物資の輸送費13,083,321円、現地での医薬品の調達費6,024,006円及び備蓄倉庫から払い出された物資の事後補充に要した経費34,697,727円の合計額53,805,054円から為替レート等の調整額798,176円を差し引いたものである。
 なお、今回の津波等災害により被害を受けた4箇国以外の国からは、我が国政府に対する具体的な援助の要請はなかった。

(イ)緊急無償資金協力事業

a 制度的枠組み

 緊急無償資金協力事業は、外務省が、災害緊急援助として海外における自然災害及び内戦等の人為的災害の被災者を救済することなどを目的として、被災国等に対して資金供与を行うものであり、昭和48年度から行われている。

b 事業の実施手順

 外務省の説明によれば、相手国政府等からの要請に対し、要請内容の検討、ヒアリング等の案件情報収集を行った上で、援助の実施の必要性、妥当性等があると判断した場合、外務大臣が閣議で緊急無償を実施する旨の発言を行う。 そして、相手国に所在する我が国の大使館が相手国政府との間で口上書を交換した後、一括して資金を支払うこととなっている。相手国政府は、資金により必要な資機材等の調達を行い、資金を使用した後にその使用状況について外務省に報告することとなっている。なお、資金の使用期限は特に定められていない。

c 援助の実施

 被災国のうちの3箇国から、我が国に対して緊急援助として資金供与に関する要請があった。

 これに対して、我が国は、3箇国に対して、現地における緊急支援物資等の調達のため、302万米ドルの緊急無償資金協力事業を行うこととし、平成16年12月29日に3箇国との間で口上書を交換し、これに基づき表4―3のとおり、計3,020,570米ドルの資金の供与を行った。

表4―3 緊急無償資金協力事業による支援
(単位:米ドル)

内訳\国名
インドネシア共和国
モルディブ共和国
スリランカ共和国
供与額
1,499,570
510,000
1,011,000
3,020,570
支出日
17年1月19日
17年1月6日
17年1月6日
送金完了日
17年2月1日
17年1月10日
17年1月12日

 この援助を実施するに当たっては、外務省は、16年度予算一般会計の(項)経済協力費(目)政府開発援助経済開発等援助費から332,262,700円(米ドル換算額3,020,570米ドル)を17年1月に支出し、2月までに送金を完了した。

(ウ)ノンプロ無償資金協力事業

 我が国は、上記のように、津波等災害発生直後から、4箇国に対して緊急援助を行っていた。
 一方、今回の津波等災害に対し、国際社会では、我が国を含めた緊急首脳会議を17年1月6日にジャカルタで行い、その中で国際連合は被災国に対する9.77億米ドルの緊急支援アピールを行った。また、各国は津波等災害に対する緊急支援措置、復旧・復興及び再発防止策について合意した。その際、我が国は5億米ドルの無償支援を表明し、その後、我が国を含めた各国の援助表明額は50億米ドル以上になった。このうちの主要国等における援助表明額は、表4―4のとおりである。

表4―4 主要国等の援助表明額
(単位:億米ドル)

国名
日本
アメリカ合衆国
オーストラリア連邦
ドイツ連邦共和国
欧州委員会
フランス共和国
表明額
5
9.5
8
6.8
6.2
4.5
40.0

 以上のような経緯を経て、我が国は、5億米ドルの緊急援助を行うことを国際的に表明したが、このうち2億5000万米ドルは国連児童基金(UNICEF)等の国際機関を経由した援助とされ、残りの2億5000万米ドルが二国間の援助とされた。
 そして、我が国は、上記二国間の援助である2億5000万米ドルのうち既に供与の終わっていた緊急援助物資及び緊急無償資金協力事業に係る援助の合計分400万米ドル相当を除いた2億4600万米ドルについて、1米ドル=100円で換算した上で、表4―5のとおり、インドネシア共和国146億円、スリランカ共和国80億円及びモルディブ共和国20億円、計246億円をノンプロ無償資金協力事業として実施することとした。
 これらノンプロ無償資金の援助額の根拠について、外務省は、災害が前例のない規模であること、国際機関からの巨額の支出要請があること、アジア地域における災害に対して同じアジアの一員としてその責任に見合った最大限の支援を行う必要性があることなどを総合的に勘案し、当面の復旧・復興に必要となる支援額として246億円という金額を決定したと説明している。なお、従来のノンプロ無償資金協力事業は、昭和62年度から平成15年度までの間に、平均すると年間約264億円、1箇国当たり約15億円の実施規模であった。また、従来のノンプロ無償資金協力事業として年間で1箇国に対して供与された金額は、15年度にアフガニスタン共和国に供与された132億円が最高額であったが、今回インドネシア共和国に供与された146億円はこれを超えるものであった。

a 制度的枠組み

 我が国は、今回の津波等災害の甚大さ及び緊急性にかんがみ、津波等災害による損害に対処するための事業の実施に迅速に貢献することを目的として、昭和62年度から行われてきたノンプロ無償資金協力事業の枠組みにより資金供与を実施することにした。そして、その際、迅速な調達を行うことを可能にするため、従来認められていなかった被援助国内における現地調達を認めることにした。また、ノンプロ無償資金協力事業は原則として物品の調達を対象としていたが、被災状況に応じた柔軟かつ的確な支援を行うことを可能にするため、施設の建設のほか輸送、医療活動など役務の調達を認めることにした。さらに、ノンプロ無償資金協力事業で調達した物品が無償で被災者等に配布されたり、公共事業に使われたりすることを想定して、調達した資機材を相手国内で売却するなどして得た対価を積み立てる見返り資金の積立て義務を免除するなど枠組みに変更を加えた。

b 事業の実施手順

 平成17年1月17日に閣議決定され、外務省が、同日に3箇国と取り交わした交換公文及び附属文書によれば、資金は、相手国政府が開設した日本国内の銀行口座(以下「政府口座」という。)に、17年3月末までに円貨で支払うこととなっている。
 そして、相手国政府は、この資金(この資金から発生した利息を含む。以下同じ。)による必要な資機材等の調達に当たっては、附属文書の規定によって、事業の円滑な実施と適切な調達の実施が確保できるように、調達代理機関を選定することとなっている。そして、相手国政府と調達代理機関とが締結した契約(以下「調達代理契約」という。)に基づき、調達代理機関が相手国政府に代わって資機材等の調達に必要な業務を行い、相手国政府は調達代理手数料を支払うこととなっている。
 ノンプロ無償資金協力事業は、特定の事業の実施を前提として資金を供与するものではなく、また、より迅速な援助を実施するとの観点から、一般プロジェクト無償資金協力事業で行われている事前調査としてのJICAによる基本設計調査は行われていない。しかし、今回のノンプロ無償資金協力事業では、多くの施設の設置や修復案件を対象にしていることから、JICAは、別途実施していた緊急開発調査等において、相手国政府の要請を受けて必要に応じ、ノンプロ無償資金協力事業で対象としている施設の設計等を取り込んで実施した。また、外務省は、調達代理機関として財団法人国際協力システム(Japan International Cooperation System。以下「JICS」という。)を推薦し、17年1月及び2月に3箇国はJICSと調達代理契約を締結した。そして、JICSは、相手国政府から調達を希望する資機材等の品目の提示を受けた後、資機材等の代金の支払に必要な資金を政府口座から調達代理機関であるJICSの口座(以下「調達口座」という。)に受け入れ、調達口座から、業者に代金を支払うこととなっている。そして、JICSは、調達代理機関として行ったすべての支払や調達口座における資金の残高についての定期報告書、資金の使用がすべて終わった後の最終報告書を相手国政府と我が国外務省に提出することとなっている。また、外務省は、JICSから上記の報告書の提出を受けるほか、事業の進ちょく状況や契約の実績についても報告を受けることとなっている。これらを通じて、相手国政府及び外務省は、契約の履行や事業の進ちょく状況を確認することができることになっている。

c 援助の実施

 外務省は、3箇国から我が国に対して援助の要請を受けたとして、表4―5のとおり、17年1月19日に3箇国の政府口座に資金の供与を行った。

表4―5 ノンプロ無償資金協力事業による支援
(単位:億円)

内訳\国名
インドネシア共和国
モルディブ共和国
スリランカ共和国
供与額
146
20
80
246
送金完了時期
17年1月19日
17年1月19日
17年1月19日

 この援助を実施するに当たっては、外務省は、16年度予算一般会計の(項)経済協力費(目)政府開発援助経済開発等援助費から246億円を17年1月19日に支出した。