(ア)電源開発促進対策特別会計の概要
電源開発促進対策特別会計(以下、(1)において「電源特会」という。)は、電源開発促進対策特別会計法(昭和49年法律第80号。以下「電源特会法」という。)に基づき、電源開発促進税の収入を財源として行う電源立地対策及び電源利用対策に関する経理を明確にするため、一般会計と区分して設置されたものである。
電源特会は、電源立地勘定及び電源利用勘定(15年9月30日以前は電源多様化勘定。以下同じ。)の2勘定に区分されている。そして、電源立地勘定においては、電源立地対策として実施される〔1〕発電用施設周辺地域整備法(昭和49年法律第78号)に基づく交付金の交付及び〔2〕電源特会法に基づく発電の用に供する施設の設置及び運転の円滑化に資するための財政上の措置に要する費用等を経理している。また、電源利用勘定においては、電源利用対策として実施される発電用施設の利用の促進及び安全の確保並びに発電用施設による電気の供給の円滑化を図るための措置に要する費用等を経理している。
(イ)電源開発促進税
電源開発促進税は、電源開発促進税法(昭和49年法律第79号)に基づいて、電源立地対策及び電源利用対策に要する費用に充てるため、電気事業法(昭和39年法律第170号)に規定される一般電気事業者(電力会社)が販売した電気の電力量を課税標準として一般電気事業者が納付する税で、電源特会の両勘定の特定財源となっている。そして、電源開発促進税は、全額が一般会計を経由せずに直接電源特会の歳入とされ、両勘定の歳入にそれぞれ組み入れられている。
会計検査院は、平成16年度決算検査報告(平成16年度決算検査報告参照)
において、電源特会における剰余金の状況について、歳入歳出両面からの分析を行った結果を記述したところであるが、今回の検査においても、上記の分析の結果を踏まえて、歳入歳出両面からの分析を行った。
電源特会の16年度歳入歳出予算において予算額が多額に上っている予算科目として、歳入予算については当初予算額が10億円以上の目を、また、歳出予算については当初予算額が10億円以上の目の内訳を調査の対象として抽出し、これらのうち16年度の収納率が150%以上の目、支出率が50%に満たない目の内訳、国会において議論となった目の内訳などについて、14、15両年度の状況も含め、歳入歳出予定額参考書、電源特会を所管する文部科学省及び経済産業省から提出された資料等により目の内訳を構成している各事務事業の項目の予算執行状況などについての検査を行った。
(ア)抽出して検査することとした電源立地勘定の科目
電源立地勘定の16年度歳入予算の8つの目のうち、当初予算額が10億円以上のものは2つの目である。また、同年度歳出予算の目又は目の内訳64のうち、当初予算額が10億円以上のものは、目の内訳に区分されていない目も含めて18である。
会計検査院では、表3―(1)―1のとおり、上記のうち、収納率が150%以上の1つの目及び支出率が50%に満たないなどとなっている7つの目の内訳について抽出して検査することとした。
(
項)
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(
目)
|
(
目の内訳)
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歳入
|
||||
前年度剰余金受入
|
||||
前年度剰余金受入
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||||
歳出
|
||||
電源立地対策費
|
||||
電源立地等推進対策委託費
電源立地等推進対策補助金
電源立地等推進対策交付金
原子力施設等防災対策等交付金
|
核燃料サイクル関係推進調整等委託費
電源立地推進調整等委託費
電源地域産業育成支援補助金
電源地域振興促進事業費補助金
電源立地理解促進対策補助金
原子力発電施設等立地地域特別交付金
原子力発電施設等緊急時安全対策交付金
|
(イ)調査対象科目の予算の執行状況
表3―(1)―1で抽出した予算科目について、予算の執行状況を予算積算との対比により分析した。予算の執行に当たっては、予算成立後の状況の変化に応じ執行を見合わせたり、効率的な執行が行われたりしたことなどにより、想定した予算積算に沿って執行が行われない場合があることから、今回の検査では、予算積算に沿った執行が行われていないなどの状況が継続していないかどうかをみるため、14年度分まで遡って分析を行った。その結果を態様別に整理すると次のとおりである。
a 歳入
収納率が150%を超えている状況が継続していたもの
前年度剰余金受入
歳入予算額には前々年度純剰余金の額が計上されていて、決算の段階ではこれに加えて前年度純剰余金の額なども計上されるため、16年度においては、歳入予算額970億4千万円に対し、収納済歳入額が1508億5千万円となり、収納率が155%となった。
b 歳出
(a)予算積算をしているものの執行実績がない状況が継続していたもの
核燃料サイクル関係推進調整等委託費のうち核燃料有効利用広報対策費(マスメディア広報)ほか7項目、電源地域産業育成支援補助金のうち中央事業(研修事業)ほか2項目、計11項目
これらの目の内訳を構成する各事務事業の項目について予算積算額と支出済額を対比してみると、原子力発電施設の建設等が計画どおりに進捗しなかったり、申請が見込まれた事業が実施時期の変更により実際には申請されなかったり、予算積算部門と事務事業の委託先などとの間で十分に調整が取れていなかったりなどしたとして、予算積算の内容の事務事業が行われず、予算執行の実績がなかったものが11項目、16年度予算積算額で7億6千万円あった。
(b)予算積算がないまま執行されている状況が継続していたもの
核燃料サイクル関係推進調整等委託費のうち原子力広報対策等(自治体イベント参加型広報)ほか2項目、電源地域産業育成支援補助金のうち中央事業(大物産展(一般事務費))ほか1項目、計5項目
これらの目の内訳を構成する各事務事業の項目について予算積算額と支出済額を対比してみると、予算積算部門と事務事業の委託先などとの間で十分に調整が取れていなかったなどのため、年度開始後に必要が生じたなどとして、予算積算がないまま執行されていたものが5項目、16年度支出済額で2億6千万円あった。
(c)予算積算額に対する支出済額の比率(以下「執行率」という。)が100%を超えている状況が継続していたもの
核燃料サイクル関係推進調整等委託費のうち原子力広報対策等(テレビ広報)ほか3項目
この目の内訳を構成する各事務事業の項目について予算積算額と支出済額を対比してみると、過去の実績などを勘案するなどして予算積算額を見積もっていなかったため、同一の目の内訳内の他の項目の予算を使用し、執行率が100%を超えていたものが4項目、16年度予算積算額で4億5千万円あった。
(d)複数の予算積算項目により1件の予算執行が行われていたため、予算積算と実績との対比が困難な状況が継続していたもの
電源立地推進調整等委託費のうち全国広報事業(原子力基礎知識掲載)ほか3項目、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金のうち専用回線及び電話ファックスの設置に必要な経費(緊急時連絡網の整備)、計5項目
これらの目の内訳を構成する各事務事業の項目の予算積算額のうち5項目、16年度予算積算額9億2千万円が、これに該当していた。
(e)執行率が50%未満である状況が継続していたもの
電源地域振興促進事業費補助金のうち原子力発電施設等周辺地域大規模工業基地企業立地促進事業費補助金、原子力発電施設等立地地域特別交付金、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金のうち緊急事態応急対策拠点施設整備等ほか2項目、計5項目
これらの目の内訳を構成する各事務事業の項目について予算積算額と支出済額を対比してみると、事業計画が変更されたり、見込んでいた事業に係る申請がなかったり、事業計画に係る調整が整わなかったりなどしたとして、執行率が50%未満となっていたものが5項目、16年度予算積算額で91億8千万円あった。
(a)〜(e)の予算積算項目数計30項目、予算積算額等計115億円
(ア)電源利用勘定の調査対象科目
電源利用勘定の16年度歳入予算の9つの目のうち、当初予算額が10億円以上のものは2つの目である。このうち収納率が150%以上のものは表3―(1)―2のとおり1つの目となっている。また、同年度歳出予算の目又は目の内訳90のうち、当初予算額が10億円以上のものは、目の内訳に区分されていない目も含めて23である。このうち、支出率が50%に満たないなどのものは、表3―(1)―2のとおり、5つの目又は目の内訳となっている。
(項)
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(目)
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(目の内訳)
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||
歳入
|
||||
前年度剰余金受入
|
||||
前年度剰余金受入
|
||||
歳出
|
||||
電源利用対策費
|
||||
中小水力発電開発費補助金
地熱開発促進調査費等補助金
地域エネルギー開発利用発電事業等促進対策費補助金
石炭火力発電天然ガス化転換補助金
|
中小水力発電開発費補助金
地熱発電開発費補助金
地域新エネルギー導入促進対策費補助金
新エネルギー事業者支援対策費補助金
―
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(イ)調査対象科目の予算の執行状況
表3―(1)―2で抽出した予算科目について、予算の執行状況を予算積算との対比により分析した。そして、前記の電源立地勘定「(イ)調査対象科目の予算の執行状況」と同様の理由により、これらのうち、14年度から16年度までの間、同様の状況が継続していたものを態様別に整理すると次のとおりである。
a 歳入
収納率が150%を超えている状況が継続していたもの
前年度剰余金受入
歳入予算額には前々年度純剰余金の額が計上されていて、決算の段階ではこれに加えて前年度純剰余金の額なども計上されるため、16年度においては、歳入予算額460億6千万円に対し、収納済歳入額が1193億1千万円となり、収納率が259%となった。
b 歳出
(a)予算積算をしているものの執行実績がない状況が継続していたもの
地熱発電開発費補助金のうち発電機等設置費、石炭火力発電天然ガス化転換補助金のうち天然ガス化転換補助金(設置費)、計2項目
これらの目又は目の内訳を構成する各事務事業の項目について予算積算額と支出済額を対比してみると、申請が見込まれた事業が実際には申請されなかったり、電気事業者の設備投資への意欲が低かったりなどしたとして、予算積算の内容の事務事業が行われず、予算執行の実績がなかったものが2項目、16年度予算積算額で28億円あった。
(b)複数の予算積算項目により1件の予算執行が行われていたため、予算積算と実績との対比が困難な状況が継続していたもの
地域新エネルギー導入促進対策費補助金のうち地域新エネルギー導入促進事業(管理費)ほか1項目、計2項目
この目の内訳を構成する各事務事業の項目の予算積算額のうち2項目、16年度予算積算額6千万円が、これに該当していた。
(c)執行率が50%未満である状況が継続していたもの
中小水力発電開発費補助金のうち中小水力発電所建設(新技術導入部分)、地熱発電開発費補助金のうち坑井掘削費ほか2項目、計4項目
これらの目の内訳を構成する各事務事業の項目について予算積算額と支出済額を対比してみると、当初見込んだ事業量に対して実際の事業量が少なかったり、電気事業者等の設備投資に対する意欲が低かったりなどしたとして、執行率が50%未満となっていたものが4項目、16年度予算積算額で15億1千万円あった。
(a)〜(c)の予算積算項目数計8項目、予算積算額等計43億7千万円
文部科学省、経済産業省(資源エネルギー庁)等では、国会等における特別会計の見直しの議論なども踏まえ、政策・歳出構造の見直しなどを行ったり、過去の予算執行の実績などを踏まえて、予算の積算見積りと執行実態とのかい離を是正したりなどするとしている。そこで、16年度から18年度までの電源特会歳入歳出予定額参考書に記載されている両勘定の歳入予算額の推移をみると、16年度5033億円から18年度4629億円(対16年度比92.0%)と404億円減少している。そして、電源立地勘定の歳出予算額は16年度2576億円から18年度2245億円(対16年度比87.1%)と331億円減少し、また、電源利用勘定の歳出予算額についても16年度2456億円から18年度2383億円(同97.0%)と72億円減少している。
電源立地勘定及び電源利用勘定において前記により抽出した予算科目の平成16年度から18年度までの予算額の推移をみると、表3―(1)―3のとおりである。
年度
\
科目名
|
16年度
(A)
|
17年度
(B)
|
18年度
(C)
|
||||
(B)/(A)
(%)
|
(C)/(A)
(%)
|
||||||
電源立地勘定・歳入
|
257,695
|
216,286
|
224,553
|
||||
83.9
|
87.1
|
||||||
前年度余剰金受入
|
97,045
|
47,535
|
48,333
|
||||
49.0
|
49.8
|
||||||
電源立地勘定・歳出
|
257,695
|
216,286
|
224,553
|
||||
83.9
|
87.1
|
||||||
電源立地対策費
|
186,974
|
186,248
|
159,105
|
||||
99.6
|
85.1
|
||||||
核燃料サイクル関係推進調整等委託費
|
5,532
|
5,250
|
3,501
|
||||
94.9
|
63.3
|
||||||
電源立地推進調整等委託費
|
10,165
|
13,655
|
3,239
|
||||
134.3
|
31.9
|
||||||
電源地域産業育成支援補助金
|
2,245
|
1,577
|
487
|
||||
70.2
|
21.7
|
||||||
電源地域振興促進事業費補助金
|
17,240
|
18,174
|
14,362
|
||||
105.4
|
83.3
|
||||||
電源立地理解促進対策補助金
|
3,100
|
600
|
540
|
||||
19.4
|
17.4
|
||||||
原子力発電施設等立地地域特別交付金
|
3,400
|
3,950
|
956
|
||||
116.2
|
28.1
|
||||||
原子力発電施設等緊急時安全対策交付金
|
5,390
|
5,405
|
3,504
|
||||
100.3
|
65.0
|
||||||
電源利用勘定・歳入
|
245,648
|
232,904
|
238,379
|
||||
94.8
|
97.0
|
||||||
前年度余剰金受入
|
46,065
|
45,880
|
51,691
|
||||
99.6
|
112.2
|
||||||
電源利用勘定・歳出
|
245,648
|
232,904
|
238,379
|
||||
94.8
|
97.0
|
||||||
電源利用対策費
|
192,977
|
138,650
|
74,019
|
||||
71.8
|
38.4
|
||||||
中小水力発電開発費補助金
|
2,687
|
1,566
|
694
|
||||
58.3
|
25.8
|
||||||
地熱発電開発費補助金
|
1,351
|
863
|
441
|
||||
63.9
|
32.7
|
||||||
地域新エネルギー導入促進対策費補助金
|
3,913
|
3,446
|
1,350
|
||||
88.1
|
34.5
|
||||||
新エネルギー事業者支援対策費補助金
|
34,000
|
20,246
|
17,888
|
||||
59.5
|
52.6
|
||||||
石炭火力発電天然ガス化転換補助金
|
2,663
|
2,478
|
―
|
||||
93.1
|
―
|
このうち、電源立地勘定の「前年度剰余金受入」は、15年10月に同勘定に新たに周辺地域整備資金が設置され、同資金への繰入れが開始されたことなどから剰余金が従来と比べ減少することとなったため、18年度の歳入予算額は対16年度比49.8%となっている。また、歳出については、調査した7つの目の内訳の核燃料サイクル関係推進調整等委託費ほか6つの目の内訳において18年度歳出予算額は対16年度比17.4%から83.3%となっていて、合計204億4千万円減少している。
一方、電源利用勘定の「前年度剰余金受入」の18年度歳入予算額は、前々年度である16年度の純剰余金の額が434億円と引き続き多額に上ったため、対16年度比112.2%となっている。また、歳出については、調査した5つの目又は目の内訳のうち中小水力発電開発費補助金ほか3つの目の内訳において18年度歳出予算額は対16年度比25.8%から52.6%となっていて、合計242億4千万円減少しており、石炭火力発電天然ガス化転換補助金については18年度歳出予算への計上がない。
電源特会の歳出については、予算の執行に当たって、予算成立後の状況変化に応じて執行を見合わせる必要が生じたり、より効率的な執行が可能となったりして、予算積算額と実績額との間に開差が生ずることは考えられるが、前記のとおり、予算積算をしているものの執行実績がない状況や、予算積算がないまま執行されている状況が継続しているなどの事態が見受けられた。一方、文部科学省、経済産業省(資源エネルギー庁)等では、国会等における特別会計の見直しの議論なども踏まえ、政策・歳出構造の見直しを行い、原子力などの長期固定電源に支援を重点化するなどとともに、広報関連予算を圧縮したり、過去の予算執行の実績等を踏まえて、予算の積算見積りと執行実態とのかい離を是正したりなどするとしており、前記「イ検査の対象等」において抽出した電源立地勘定の7つの目の内訳及び電源利用勘定の5つの目又は目の内訳計12の目又は目の内訳の歳出予算額についてみると、前記の予算積算をしているものの執行実績がないなどの事態が見受けられた各項目などについて精査するなどした結果、18年度歳出予算額が16年度予算額に比べ減少している。
また、同特会の歳入については、電源立地勘定において、前記のとおり、周辺地域整備資金への繰入れが開始されたことなどにより、18年度の「前年度剰余金受入」の歳入予算額は、結果として対16年度比49.8%に減少しているが、電源利用勘定の「前年度剰余金受入」の18年度歳入予算額は、前々年度である16年度の純剰余金の額が引き続き多額であったため、対16年度比112.2%に増加している。両勘定の「前年度剰余金受入」の収納率が150%以上であるような状況を継続させないだけでなく、これを可能な限り低減させるためには、過去の実績を勘案するなどして歳出予算額の見積りを行うことにより、歳出予算額に多額の不用額を発生させ、ひいては多額の剰余金を発生させることのないよう努力を続けることが必要である。
前記のとおり平成16年度決算検査報告において電源特会の剰余金の状況について掲記したところであるが、電源特会全体についてみると、今後、同特会において一般会計への繰入れなどの新たな施策が見込まれている状況の中で、歳入及び歳出予算の積算において過去の実績等を勘案するなど一層精査することなどにより、予算積算と執行との間の開差を小さくするよう改善を図っていくことが望まれる。