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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

中心市街地活性化プロジェクトの実施状況に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請

 会計検査院は、平成17年6月8日、参議院から、下記事項について会計検査を行い、その結果を報告することを求める要請を受けた。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一)検査の対象

国土交通省、経済産業省など

(二)検査の内容

中心市街地活性化プロジェクトについての次の各事項

1 平成10年度以降の省庁別事業費、国費負担額及び実施状況

2 プロジェクト実施機関の人的体制・財政基盤

3 中小企業の活性化等プロジェクトの有効性

2 平成15年度決算審査措置要求決議の内容

 参議院決算委員会は、17年6月7日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成15年度決算審査措置要求決議」を行っている。
 このうち、上記検査の要請に関連する項目の内容は、以下のとおりである。

31 中心市街地における商業活性化対策の有効性について

 中心市街地における商業活性化対策については、中核であるテナントミックス事業や空き店舗解消事業等の実施に当たり、中心となるべきタウンマネジメント機関(TMO)に十分な人的体制や財政的基盤が備わっていない、ひいては本来のTMO事業の趣旨が十分に浸透しておらず、TMOに期待される本来の機能が発揮されていないとの会計検査院の報告がある。
 中心市街地における市街地の整備改善等の予算額については、国土交通省関係で平成17年度予算で事業費1兆825億円、そのうち国費負担5,369億円、平成10年度以降の総額で事業費8兆9,319億円、そのうち国費負担4兆5,821億円となっている。
 同活性化対策が、中小企業の活性化等、真に中心市街地活性化に結び付いているのか、政府及び会計検査院は、その執行の有効性について、調査・検討及び会計検査を行う必要がある。

3 検査対象の概要

(1)中心市街地の衰退、空洞化の進行

 中心市街地は、商業機能、居住機能、公共公益機能等の都市機能が集積し、長い歴史の中で文化、伝統を育み、各種機能を培ってきた「街の顔」ともいうべき地域である。
 政府は、9年5月に策定した「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)において、近年、夜間人口の郊外転出等による減少、交通環境の郊外部に対する相対的な悪化、公共・公益施設の郊外への移転・立地等が進行し、また、モータリゼーションの進展、消費者の行動パターンの変化、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律の規制緩和等を背景とした大規模小売店舗の郊外展開の加速化等による商業機能の空洞化等が生じ、各地の都市において中心市街地の衰退や空洞化が進行しているとしている。そして、このような中心市街地について、市町村の基本構想、市町村の都市計画に関する基本的な方針等を踏まえ、地方公共団体の自主性を活かした総合的なまちづくりとして、交通環境の改善、土地の有効・高度利用の促進、商業、居住等の各種都市機能の充実、再生等を図ることにより、地域交流や地域経済を支える拠点としての再構築を推進するとしている。

(2)中心市街地の活性化を図るための法律

 この閣議決定を受け、10年に、地域の創意工夫を活かしつつ、市街地の整備改善及び商業等の活性化を一体的に推進するための措置を講ずることにより、地域の振興及び秩序ある整備を図ることを目的として、「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」(平成10年法律第92号。以下「法」という。)が制定された。また、これに併せて、大規模小売店舗の立地に関し、その周辺の地域の生活環境の保持のため、大規模小売店舗を設置する者によるその施設の配置及び運営方法についての適正な配慮がなされることにより、小売業の健全な発展を図ることを目的として、「大規模小売店舗立地法」(平成10年法律第91号)が制定された。
 このほか、地域の実情に的確に対応した市街地の整備の推進などを図る措置を講じるために、「都市計画法の一部を改正する法律」(平成10年法律第79号)により、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的とした「都市計画法」(昭和43年法律第100号)が改正された(以下、これらを総称して「まちづくり三法」という。)

(3)法に基づく中心市街地の活性化を図るための仕組み

ア 中心市街地の要件

 法第2条では、中心市街地は、都市の中心の市街地であって、次に掲げる要件に該当するものとされている。
〔1〕 当該市街地に、相当数の小売商業者が集積し、及び都市機能が相当程度集積しており、その存在している市町村の中心としての役割を果たしている市街地であること
〔2〕 当該市街地の土地利用及び商業活動の状況等からみて、機能的な都市活動の確保又は経済活力の維持に支障を生じ、又は生ずるおそれがあると認められる市街地であること
〔3〕 当該市街地において市街地の整備改善及び商業等の活性化を一体的に推進することが、当該市街地の存在する市町村及びその周辺の地域の発展にとって有効かつ適切であると認められること

イ 基本方針

 法第5条では、主務大臣は、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならないとされている。そして、主務大臣である農林水産大臣、通商産業大臣、運輸大臣、郵政大臣、建設大臣及び自治大臣により、10年7月31日に基本方針が定められている。

ウ 基本計画

 法第6条では、市町村の作成する市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)について、次のように定められている。
 すなわち、基本計画は、基本方針に基づき、市町村が、当該市町村の区域内の中心市街地について作成することができるとされており、次の〔1〕から〔6〕に掲げる事項(以下「必須の計画事項」という。)について定めるものとされている。
〔1〕 中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する基本的な方針
〔2〕 中心市街地の位置及び区域
〔3〕 中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進の目標
〔4〕 市街地の整備改善のための事業に関する事項(以下「市街地の整備改善に関する事項」という。)
〔5〕 商業の活性化のための事業に関する事項(以下「商業の活性化に関する事項」という。)
〔6〕 〔4〕及び〔5〕の事業の一体的推進のために必要な事項(以下「一体的推進に関する事項」という。)
 また、基本計画においては、必須の計画事項のほか、必要に応じて公共交通機関の利用者の利便の増進を図るための事業等に関する事項を定めることができるとされている。
 市町村は、基本計画を作成したときは、これを公表するとともに、主務大臣及び都道府県に基本計画の写しを送付しなければならないとされ、また、主務大臣及び都道府県は、基本計画の写しの送付を受けたときは、市町村に対し、必要な助言をすることができるとされている。この助言の内容は、技術的な範囲内のものであり、基本計画は、市町村が主体的に作成するものとなっている。

エ 基本計画に定める事業の内容と国等の支援措置

 基本方針では、基本計画の中心となる市街地の整備改善に関する事項及び商業の活性化に関する事項において定められる事業について、次のように、具体的事業の内容が例示されている。
 すなわち、市街地の整備改善のための事業は、中心市街地の機能向上、環境改善等に資するよう計画され、実施されるものであり、具体的には、土地区画整理事業、市街地再開発事業、住宅市街地の整備事業、公共の用に供する道路、公園、駐車場の整備事業等が想定されるとされている。
 また、商業の活性化のための事業は、多様な規模・業種・業態の小売事業者の集積の活性化、そのための商業施設・商業基盤施設の整備及び都市型新事業の立地の促進のための施設の整備等とされており、具体的には、中核的な商業施設、商業基盤施設の整備、空き店舗の活用、既存店舗・商店街のリニューアル等とされている。
 そして、基本方針では、国は、中心市街地の活性化を図ろうとする市町村に対し、選択可能な各種支援措置の整備に努めることとされており、これに基づき、8府省庁(注1) が支援策として国庫補助事業等を示している。また、都道府県は、国と同様に必要な体制整備を行い、市町村への適切な支援や助言を行うことが望ましいとされている。
 なお、市町村では、中心市街地の活性化を図るため、8府省庁が国の支援策として示した事業以外の事業についても基本計画に盛り込み、実施している。

(注1)
 8府省庁 内閣本府、警察庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省(平成13年1月5日以前は、警察庁、北海道開発庁、沖縄開発庁、国土庁、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省及び自治省が支援策として国庫補助事業等を示している。)


オ TMO及びTMO構想

 法第18条では、基本計画に中小小売商業高度化事業(注2) に係る事項が記載されている場合にあっては、商工会、商工会議所又は特定会社(注3) 若しくは公益法人等は、当該事業に関する総合的かつ基本的な構想(以下「中小小売商業高度化事業構想」という。)を作成し、これを市町村に提出し、当該中小小売商業高度化事業構想が適当である旨の認定を申請することができるとされている。
 市町村は、当該中小小売商業高度化事業構想が基本計画の内容に照らして適切であり、当該構想に係る事業が実施可能であると認めるときは、その認定をするものとされている(以下、認定された中小小売商業高度化事業構想を「TMO構想」という。)。
 そして、認定を受けた者は認定構想推進事業者(いわゆるタウンマネージメント機関(Town Management Organization)。以下「TMO」という。)として、TMO構想を総合的に推進し、中心市街地における商業集積の一体的かつ計画的な整備を図ることとなる。

(注2)
 中小小売商業高度化事業 中心市街地における中小小売商業の高度化を図るための事業(アーケード、駐車場等を整備する中心市街地商店街整備事業、ショッピングセンタータイプの店舗等を設置する中心市街地共同店舗等整備事業等)


(注3)
 特定会社 中小企業者が出資している会社であって、大企業の出資割合等が2分の1未満であり、かつ、地方公共団体が発行済株式の総数又は出資金額の3%以上を所有又は出資している会社をいう。


カ 中心市街地整備推進機構

 法第10条では、市町村長は、公益法人であって、中心市街地の整備のための事業を行う者に対する情報提供等、中心市街地の整備改善に資する建築物等を整備する事業、土地の取得等の業務を適正かつ確実に行うことができると認められるものを中心市街地整備推進機構として指定することができるとされている。

キ その他の中心市街地の活性化を図るための制度

 独立行政法人中小企業基盤整備機構(平成16年7月、中小企業総合事業団、地域振興整備公団及び産業基盤整備基金の3法人の業務の一部を統合再編し発足。以下「中小機構」という。)は、法第22条等の規定により、中心市街地における商業の活性化等のため、商業基盤施設等の整備及び管理の事業を行う者(まちづくり等を行う株式会社)に対し、国からの出資金を原資として、その事業に必要な資金の出資を行い、又は出資を行った当該者の委託を受けて商業基盤施設等の整備等を行うことになっている。

 上記ア〜キの法に基づく中心市街地の活性化を図るための仕組みを図示すると、次ページ のとおりである。

<図>  法に基づく中心市街地の活性化を図るための仕組み

<図>法に基づく中心市街地の活性化を図るための仕組み

(4)中心市街地の活性化を図るためのその他の施策

 中心市街地の活性化を図るため、前記(3)において記述した法に基づくもののほか、次のような施策が実施されている。

ア 国が実施している委託事業等

 国は、市町村における中心市街地の活性化を推進するため、各市町村の中心市街地の活性化の取組に対する診断・助言、情報提供の実施等を財団法人等に委託している。

イ 中心市街地の活性化を図る事業に対する貸付け

 国民生活金融公庫(平成11年10月、国民金融公庫が移行したもの)、中小企業金融公庫、日本政策投資銀行(平成11年10月、日本開発銀行及び北海道東北開発公庫の一切の権利及び義務を承継して設立されたもの)及び中小機構では、中心市街地において店舗等の商業・サービス施設の整備等を行う民間企業、第三セクター等に対し、その整備等に充てるための資金の貸付けを行っている。

(5)法の改正等

 本年5月、少子高齢化に備えた都市機能の都市の中心部への集積を促進する視点から総合的な対策を推進するため、「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律の一部を改正する等の法律」(平成18年法律第54号)により法が改正され(以下、改正後の法を「改正法」という。)、また、都市機能の無秩序な拡散に歯止めをかけ、人口減少・超高齢社会を迎えて、多くの人々にとって暮らしやすいコンパクトな都市構造を実現するため、「都市の秩序ある整備を図るための都市計画法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第46号)により都市計画法が改正された(以下、改正後の都市計画法を「改正都市計画法」という。)。そして、改正法は本年8月に施行されたところであり、改正都市計画法は19年11月末までに全面施行されることとなっている。
 法の改正は、〔1〕国、地方公共団体及び事業者の中心市街地の活性化のための責務規定の創設、〔2〕中心市街地の活性化に関する施策を総合的かつ効果的に行うため、内閣に中心市街地活性化本部を設置すること、〔3〕市町村が作成する基本計画について、内閣総理大臣による認定制度が創設されたことにより、既に作成されている基本計画に替えて、新たに認定された基本計画に基づいて中心市街地の活性化に意欲的に取り組む市町村を「選択と集中」により重点的に支援すること、〔4〕基本計画に民意を反映させるため、事業の中核的な推進主体として、中心市街地整備推進機構、商工会・商工会議所、地域住民、地権者、開発事業者等の多様な主体により組織される中心市街地活性化協議会の設立を法制化すること、〔5〕街なか居住を推進するため、中心市街地への居住等を促進する支援措置を拡充することなどを主な内容としている。
 また、都市計画法の改正は、〔1〕大規模集客施設等の立地に関し都市計画手続を必要とすること、〔2〕公共・公益施設を開発許可等の対象とすること、〔3〕市街化調整区域における大規模開発許可制度の見直し、〔4〕市街化区域と市街化調整区域との区分を定めていない都市計画区域の用途地域以外の地域(以下「非線引き都市計画区域の白地地域」という。)における大規模集客施設の立地の規制などを主な内容としている。
 そして、改正法第8条第1項に基づき、中心市街地における都市機能の増進及び経済活力の向上を総合的かつ一体的に推進するため、本年9月に「中心市街地の活性化を図るための基本的な方針」(平成18年9月8日閣議決定。以下「新基本方針」という。)が定められ、公表されている。

4 検査の対象、観点及び着眼点

 会計検査院は、10年度以降実施されている中心市街地活性化プロジェクト(以下「プロジェクト」という。)について、主として、国土交通省、経済産業省及びプロジェクトの実施主体である市区町村等を対象とし、その事業に係る事業費、国費負担額が多額に上っていることを踏まえ、有効性等の観点から、プロジェクトが中心市街地の活性化に結び付いているか、各事業の実施状況、実施体制等に着眼して検査した。
 なお、会計検査院では、中心市街地における商業の活性化について、その中心となるTMOに十分な人的体制や財政的な基盤が備わっておらず、TMOに期待される本来の機能が発揮されていないことを平成15年度決算検査報告に「特定検査対象に関する検査状況」として掲記している。

5 検査の方法

 検査に当たっては、経済産業省、国土交通省等から各種資料の提出を受け、説明の聴取等を行った。また、10年度以降にプロジェクトを計画・実施している603市区町村(17年度末現在)から、687地区に係るプロジェクトの事業費、国費負担額、実施状況、プロジェクト実施機関の人的体制・財政基盤、商業活動等の状況等に係る各種資料の提出を受けるとともに、うち351市区町村等について実地検査を実施した。
 実地検査の人日数及び実地検査箇所数は、次のとおりである。
・実地検査人日数: 638.1人日
・実地検査箇所数: 警察庁ほか14省庁等、国民生活金融公庫ほか2政府関係機関、独立行政法人中小企業基盤整備機構、北海道ほか43都府県、351市区町村、239TMO計653箇所