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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

中心市街地活性化プロジェクトの実施状況に関する会計検査の結果について


 会計検査院では、プロジェクトの有効性について、人口、事業所数、年間小売商品販売額等の指標の動向から分析するとともに、プロジェクトにおいて実施された事業の種別、都市計画上の用途地域の状況等の地区の特性と各指標との関係を分析することとした。  分析の対象としたのは、プロジェクトの効果が生じるまでには基本計画の作成からある程度の期間が経過していることが必要であることから、10年度から12年度までに基本計画が作成された455地区のプロジェクトである。

(1)人口、事業所数、年間小売商品販売額等からみたプロジェクトの有効性

 プロジェクトには、国費をはじめ多額の資金が投じられていることから、プロジェクトに投じられた資金が真に中心市街地の活性化に結びついているのかというプロジェクトの有効性を適切に評価することが重要である。
 そして、この評価については、プロジェクトの実施により人口及び都市機能が中心市街地に集積し、中心市街地の経済活動が活性化することが期待されていることから、人口又は都市機能の集積、経済活動の状況等を示す各種指標等により、中心市街地の活性化の状況を客観的に評価することが求められる。
 そこで、プロジェクトの有効性を評価するに当たり、プロジェクトに投じられた事業費と、中心市街地の人口、事業所数、年間小売商品販売額等の指標の推移の関係に着眼し、プロジェクトの実施が中心市街地の活性化に与えた影響を分析することとした。
 これらの指標については、事業所・企業統計調査(3年は事業所統計調査)及び商業統計調査の行われた3年、9年(事業所・企業統計調査は8年)及び16年の数値を用いて、3年から8年又は9年までの間(以下、この期間を「プロジェクト実施前」という。)の指標の年平均増加率(以下単に「増加率」という。)の状況と、8年又は9年から16年までの間(以下、この期間を「プロジェクト実施後」という。)の指標の増加率の状況を比較し、中心市街地の各地区におけるこれらの指標の増加率のプロジェクト実施前後における変化を全国の指標の変化と比較するなどして、各地区の状況を把握することとした。
 分析の対象とした455地区における人口、事業所数及び年間小売商品販売額のプロジェクト実施前後の増加率の状況を、10年度から16年度までの間にプロジェクトに投じられた事業費(以下「プロジェクト事業費」という。)の規模別に分類すると、表3−1のとおりである。

表3−1 分析の対象とした455地区の各指標の状況
プロジェクト事業費
地区数
指標
プロジェクト実施前
プロジェクト実施後
50億円未満
237地区
人口
事業所数
年間小売商品販売額
-0.96%
-0.80%
-0.02%
-0.82%
-2.17%
-7.40%
50億円以上
100億円未満
71地区
人口
事業所数
年間小売商品販売額
-1.08%
-1.24%
-1.93%
-0.63%
-2.14%
-7.31%
100億円以上
150億円未満
48地区
人口
事業所数
年間小売商品販売額
-1.33%
-1.42%
0.65%
-0.76%
-2.44%
-7.37%
150億円以上
200億円未満
29地区
人口
事業所数
年間小売商品販売額
-1.07%
-0.75%
-2.16%
0.22%
-2.32%
-6.41%
200億円以上
250億円未満
13地区
人口
事業所数
年間小売商品販売額
-1.16%
-0.72%
0.48%
-0.30%
-2.16%
-5.26%
250億円以上
57地区
人口
事業所数
年間小売商品販売額
-1.00%
-1.17%
-1.82%
-0.16%
-2.41%
-4.74%
455地区
人口
事業所数
年間小売商品販売額
-1.03%
-0.97%
-0.61%
-0.60%
-2.24%
-6.91%
注(1)
 プロジェクト実施前後の各指標増加率を各分類ごとに地区数で単純平均した。
注(2)
 資料不備等の場合は、各分類の地区数より少ない地区数による平均値を示した。

 そして、455地区の中心市街地におけるプロジェクト実施前後の各指標の増加率を全国との対比でみると、図3−1のとおりである。

図3−1 中心市街地及び全国の各指標増加率の状況

図3−1中心市街地及び全国の各指標増加率の状況

ア 人口の推移からみたプロジェクトの有効性

(ア)中心市街地の人口の推移

 中心市街地の人口は、分析の対象とした455地区のうち3年以降の推移を把握できた377地区の合計で、3年4,376千人、9年4,146千人、16年4,092千人となっている。その増加率は、これら377地区の平均で、図3−1のとおり、プロジェクト実施前がマイナス1.03%、プロジェクト実施後がマイナス0.60%となっており、人口は引き続き減少しているものの、減少幅は0.43ポイント小さくなっている。
 一方、全国の人口は、3年124,043千人、9年126,166千人、16年127,687千人となっている(総務省人口推計による。)。その増加率は、図3−1のとおり、3年から9年までが0.28%、9年から16年までが0.17%で、引き続き増加しているものの、増加率は0.11ポイント低下している。
 そして、377地区のうちプロジェクト実施後の人口の増加率が全国の0.17%を上回っているのは65地区(17.2%)となっていた。
 このように、中心市街地の人口は、全国の人口が増加率を弱めながらも増加を続けているのに対し、プロジェクト実施後も減少を続けているが、その減少幅はプロジェクト実施前と比べると小さくなっている。
 また、377地区におけるプロジェクト事業費とプロジェクト実施前後の人口の増加率の変化との関係は、図3−2のとおりとなっている。

図3−2 プロジェクト事業費と人口の増加率の変化

図3−2プロジェクト事業費と人口の増加率の変化

注(1)
 増加率の変化は、市区町村が中心市街地を含む町丁・大字の住民基本台帳人口等により集計した人口を基に、会計検査院において算出した。
注(2)
 増加率の変化が正(プラス値)の場合は、プロジェクト実施後の増加率が実施前を上回っていることを、負(マイナス値)の場合は、プロジェクト実施後の増加率が実施前を下回っていることを、0の場合は、プロジェクト実施前後で増加率に変動がないことをそれぞれ意味する。以下、図において同じ。

 人口の増加率の変化が正(プラス値)となっているのは242地区(64.1%)、負(マイナス値)となっているものの全国平均値(マイナス0.11ポイント。図3−2において点線で示す。)を上回っているのは18地区(4.7%)となっており、7割近くの計260地区(68.9%)において全国平均値を上回っていた。
 さらに、プロジェクト事業費の規模別にみた人口の増加率の変化の状況は、表3−2のとおりとなっている。

表3−2 プロジェクト事業費の規模別にみた人口増加率の変化の状況

(単位:地区)

プロジェクト事業費
人口の増加率の変化状況
50億円未満
50億円以上
100億円未満
100億円以上
150億円未満
150億円以上
200億円未満
200億円以上
250億円未満
250億円以上
正(プラス値)となっている地区
101
39
26
20
11
45
242
 
人口の増加幅が大きくなった地区
8
2
-
2
2
5
19
人口が減少から増加に転じた地区
16
9
5
7
2
11
50
人口の減少幅が小さくなった地区
77
28
21
11
7
29
173
0(変動なし)となっている地区
-
-
-
-
-
-
-
負(マイナス値)となっている地区
90
18
12
4
1
10
135
 
人口の増加幅が小さくなった地区
12
4
3
1
-
4
24
人口が増加から減少に転じた地区
16
2
2
1
-
1
22
人口の減少幅が大きくなった地区
62
12
7
2
1
5
89
191
57
38
24
12
55
377

 人口の増加率が正(プラス値)となっている242地区(64.1%)のうち、プロジェクト実施前には人口が減少していたが、プロジェクト実施後に増加に転じていたのは50地区(13.2%)となっていた。これら50地区のプロジェクト事業費の平均は約274億円で、377地区の平均約155億円より大きくなっている。

(イ)市区町村の人口に占める中心市街地の人口の比率の推移

 市区町村の人口に占める中心市街地の人口の比率は、前記377地区のうち市町村合併があったため単純に数値を比較できないなどの9地区を除く368地区において、3年には平均15.9%、9年には平均15.0%、16年には平均14.5%となっていて、微減傾向にあるが、16年の比率が9年より高くなっている地区が91地区(24.7%)あった。
 上記(ア)及び(イ)で記述したように、プロジェクトの実施は、中心市街地の人口の下げ止まりに一定の寄与があったと思料された。
 プロジェクトの実施が人口に影響を与えたと思料される事例は、次のとおりである。

<事例7> プロジェクトの実施が人口に影響を与えたと思料されるもの

 G市は人口約29万人で、古くから交通の要衝として開けてきた。同市の中心市街地の状況は、モータリゼーションの進展等に伴い、郊外の安価な住宅地への人口流出に歯止めがかからず、市全体では人口が増加していたにもかかわらず、中心市街地の人口は減少していた。また、近年の交通事情の変化により来街者が減少したことなどから、中心市街地の年間小売商品販売額も減少していた。
 そこで、G市では、12年2月に基本計画を作成し、プロジェクト事業費約478億円(うち国費約87億円)を投じて中心市街地の活性化に関する事業を実施してきた。このうち主要な事業として、中心市街地のにぎわいを生み出す回遊性の拠点を整備して人口の増加や商業の活性化を図ることとし、H町地区内の約1.6haの事業施行区域において、市街地再開発事業(事業費約277億円、うち国費約58億円)、商業施設整備事業(事業費約112億円、うち国費約9億円)、街路事業(事業費約35億円、うち国費約15億円)及び公共施設整備事業(事業費約44億円、うち国費約300万円)を一体的に実施し、商業施設、駐車場、公共施設及び居住施設(318戸)を配置した再開発ビル3棟と周辺街路を整備してきた。
 また、市、TMO、商工会議所及び若手中心の商業者で構成する中心市街地まちづくり推進会議が中心となって、イベント等を積極的に実施してきた。
 その結果、市街地再開発事業等により整備された居住施設(318戸)はすぐに完売し、商業施設についても順調に客足が伸び、当該施設の周辺はにぎわいを取り戻した。中心市街地の人口は、当該施設による増加に加え、市街地再開発事業等が呼び水となり、地価の低下も相まって民間によるマンション建設も17棟523戸に及び、人口の増加率はプロジェクト実施前はマイナス1.05%であったのが、実施後は2.80%と増加に転じた。
 さらに、当該施設を含むH町地区における商業集積地区(注6) の年間小売商品販売額は、16年には9年の約4.8倍となった。しかし、中心市街地全体についてみると、各種事業の効果は十分には波及せず、年間小売商品販売額の減少に歯止めをかけるまでには至っていない。

(注6)
 商業集積地区 主に商業系用途地域であって商店街を形成している地区をいい、おおむね小売店、飲食店又はサービス業を営む事業所が近接して30店舗以上あるものをいう。


イ 事業所数の推移からみたプロジェクトの有効性

(ア)中心市街地の事業所数の推移

 中心市街地の事業所数は、分析の対象とした455地区のうち3年以降の推移を把握できた454地区の合計で、3年873,852事業所(従業者数6,421,754人)、8年826,425事業所(従業者数6,400,394人)、16年680,457事業所(従業者数5,343,696人)となっている。その増加率は、これら454地区の平均で、図3−1のとおり、プロジェクト実施前がマイナス0.97%、プロジェクト実施後がマイナス2.24%となっており、減少幅は1.27ポイント大きくなっている。
 一方、全国の事業所数は、3年6,559,377事業所(従業者数55,013,776人)、8年6,521,837事業所(従業者数57,583,042人)、16年5,728,492事業所(従業者数52,067,396人)となっている(総務省事業所・企業統計調査による。)。その増加率は、図3−1のとおり、3年から8年までがマイナス0.12%、8年から16年までがマイナス1.61%で、減少幅は1.49ポイント大きくなっている。
 そして、454地区のうちプロジェクト実施後の事業所数の増加率が全国のマイナス1.61%を上回っているのは131地区(28.8%)となっていた。
 このように、中心市街地の事業所数は、プロジェクト実施後も全国の事業所数より減少率が大きいが、減少幅は全国に比べ小さくなっている。
 また、454地区におけるプロジェクト事業費とプロジェクト実施前後の事業所数の増加率の変化との関係は、図3−3のとおりとなっている。

図3−3 プロジェクト事業費と事業所数の増加率の変化

図3−3プロジェクト事業費と事業所数の増加率の変化

(注)
 増加率の変化は、3年事業所統計並びに8年及び16年事業所・企業統計に基づき中心市街地を含む町丁・大字の事業所数を集計し、これを基に会計検査院において算出した。


 事業所数の増加率の変化が正(プラス値)となっているのは77地区(16.9%)、負(マイナス値)となっているものの全国平均値(マイナス1.49ポイント。図3−3において点線で示す。)を上回っているのは184地区(40.5%)となっており、計261地区(57.4%)において全国平均値を上回っていた。
 さらに、プロジェクト事業費の規模別にみた事業所数増加率の変化の状況は、表3−3のとおりとなっている。

表3−3 プロジェクト事業費の規模別にみた事業所数増加率の変化の状況

(単位:地区)

プロジェクト事業費
事業所数の増加率の変化状況
50億円未満
50億円以上
100億円未満
100億円以上
150億円未満
150億円以上
200億円未満
200億円以上
250億円未満
250億円以上
正(プラス値)となっている地区
47
12
7
-
4
7
77
 
事業所数の増加幅が大きくなった地区
3
-
-
-
-
-
3
事業所数が減少から増加に転じた地区
10
4
3
-
-
1
18
事業所数の減少幅が小さくなった地区
34
8
4
-
4
6
56
0(変動なし)となっている地区
-
-
-
-
-
-
-
負(マイナス値)となっている地区
189
59
41
29
9
50
377
 
事業所数の増加幅が小さくなった地区
5
2
-
1
-
-
8
事業所数が増加から減少に転じた地区
53
11
5
7
3
7
86
事業所数の減少幅が大きくなった地区
131
46
36
21
6
43
283
236
71
48
29
13
57
454

 事業所数の増加率の変化が正(プラス値)となっている77地区(16.9%)のうち、プロジェクト実施前は事業所数が減少していたが、プロジェクト実施後に増加に転じていたのは18地区(3.9%)となっていた。これら18地区のプロジェクト事業費の平均は約86億円で、454地区の平均約142億円より小さくなっている。

(イ)市区町村の事業所数に占める中心市街地の事業所数の比率の推移

 市区町村の事業所数に占める中心市街地の事業所数の比率は、3年には平均40.1%、8年には平均38.3%、16年には平均36.2%と漸減している。そして、16年の比率が8年より高くなっていたのは91地区(20.0%)となっていた。
 上記(ア)及び(イ)で記述したように、プロジェクトの実施は、中心市街地の事業所数に対し影響があったといえるような状況には必ずしもなっていなかった。

ウ 年間小売商品販売額等の推移からみたプロジェクトの有効性

(ア)中心市街地の年間小売商品販売額の推移

 中心市街地の商業集積地区の年間小売商品販売額は、分析の対象とした455地区のうち3年以降の推移を把握できた438地区の合計で、3年17兆6791億円、9年16兆2910億円、16年11兆1701億円となっている。その増加率は、これら438地区の平均で、図3−1のとおり、プロジェクト実施前がマイナス0.61%、プロジェクト実施後がマイナス6.91%となっており、減少幅は6.30ポイント大きくなっている。
 一方、全国の年間小売商品販売額は、3年には142兆2911億円、9年には147兆7431億円、16年には133兆2786億円となっている(経済産業省商業統計調査による。3年商業統計は再集計値(注7) による。)。その増加率は、図3−1のとおり、3年から9年までが0.63%、9年から16年までがマイナス1.46%で、2.09ポイント低下し増加から減少に転じている。

(注7)
 再集計値 9年商業統計調査において業態定義の見直しが行われたことから、3年商業統計を9年と同定義で再集計した値


 そして、438地区のうちプロジェクト実施後の年間小売商品販売額の増加率が全国のマイナス1.46%を上回っているのは34地区(7.7%)となっていた。
 このように、中心市街地の年間小売商品販売額は、プロジェクト実施後も全国の年間小売商品販売額より減少幅が大きくなっている。
 また、438地区におけるプロジェクト事業費とプロジェクト実施前後の年間小売商品販売額の増加率の変化との関係は、図3−4−1のとおりとなっている。

図3−4−1 プロジェクト事業費と年間小売商品販売額の増加率の変化

図3−4−1プロジェクト事業費と年間小売商品販売額の増加率の変化

(注)
 増加率の変化は、3年、9年及び16年商業統計に基づき中心市街地に含まれる商業集積地区の年間小売商品販売額を集計し、これを基に会計検査院において算出した。


 年間小売商品販売額の増加率の変化が正(プラス値)となっているのは52地区(11.8%)、負(マイナス値)となっているものの全国平均値(マイナス2.09ポイント。図3−4−1において点線で示す。)を上回っているのは53地区(12.1%)となっており、計105地区(23.9%)において全国平均値を上回っていた。これら105地区のプロジェクト事業費の平均は約257億円で、438地区の平均約145億円に比べて大きくなっている。
 さらに、プロジェクト事業費の規模別にみた年間小売商品販売額増加率の変化の状況は、表3−4−1のとおりとなっている。

表3−4−1 プロジェクト事業費の規模別にみた年間小売商品販売額増加率の変化の状況

(単位:地区)

プロジェクト事業費
年間小売商品販売額の増加率の変化状況
50億円未満
50億円以上
100億円未満
100億円以上
150億円未満
150億円以上
200億円未満
200億円以上
250億円未満
250億円以上
正(プラス値)となっている地区
26
7
4
4
1
10
52
 
年間小売商品販売額の増加幅が大きくなった地区
1
1
-
-
-
-
2
年間小売商品販売額が減少から増加に転じた地区
5
1
3
1
1
2
13
年間小売商品販売額の減少幅が小さくなった地区
20
5
1
3
-
8
37
0(変動なし)となっている地区
-
-
-
-
-
-
-
負(マイナス値)となっている地区
196
63
44
24
12
47
386
 
年間小売商品販売額の増加幅が小さくなった地区
4
-
1
-
-
1
6
年間小売商品販売額が増加から減少に転じた地区
87
22
14
6
7
6
142
年間小売商品販売額の減少幅が大きくなった地区
105
41
29
18
5
40
238
222
70
48
28
13
57
438

 年間小売商品販売額の増加率の変化が正(プラス値)となっている52地区(11.8%)のうち、プロジェクト実施前に年間小売商品販売額が減少していたが、プロジェクト実施後に増加に転じていたのは13地区(2.9%)となっていた。これら13地区のプロジェクト事業費の平均は約188億円で、前記438地区の平均約145億円より若干大きくなっている。

(イ)市区町村の年間小売商品販売額に占める中心市街地の年間小売商品販売額の比率の推移

 市区町村の年間小売商品販売額に占める中心市街地の年間小売商品販売額の比率は、3年には平均32.3%、9年には平均27.8%、16年には平均20.1%と大幅に低下しており、中心市街地の商業活動の市区町村全域に対する比重が低下している傾向がうかがえる。そして、16年の比率が9年より高くなっていたのは35地区(7.9%)となっていた。

(ウ)中心市街地における商店数及び空き店舗数の推移

 中心市街地の商業集積地区の商店数(小売業の事業所数をいう。以下同じ。)の推移は、前記438地区の合計で、3年169,289店舗、9年151,949店舗、16年115,081店舗となっている。その増加率は、プロジェクト実施前がマイナス1.20%、プロジェクト実施後がマイナス4.50%となっており、減少幅は3.30ポイント大きくなっている。
 一方、全国の商店数は、3年1,605,583店舗、9年1,419,696店舗、16年1,238,049店舗となっている(経済産業省商業統計調査による。3年商業統計は再集計値による。)。その増加率は、3年から9年までがマイナス2.03%、9年から16年までがマイナス1.94%で、減少幅はほとんど変わらないものの0.09ポイント小さくなっている。
 そして、438地区のうちプロジェクト実施後の商店数の増加率が全国のマイナス1.94%を上回っているのは59地区(13.4%)となっていた。
 このように、中心市街地の商店数は、プロジェクト実施後も全国の商店数より減少幅が大きくなっている。
 また、438地区におけるプロジェクト事業費とプロジェクト実施前後の商店数の増加率の変化との関係は、図3−4−2のとおりとなっている。

図3−4−2 プロジェクト事業費と商店数の増加率の変化

図3−4−2プロジェクト事業費と商店数の増加率の変化

(注)
 増加率の変化は、3年、9年及び16年商業統計に基づき中心市街地に含まれる商業集積地区の商店数を集計し、これを基に会計検査院において算出した。


 商店数の増加率の変化が全国平均値(0.09ポイント。図3−4−2において点線で示す。)を上回っているのは91地区(20.7%)となっていた。これら91地区のプロジェクト事業費の平均は約235億円で、438地区の平均約145億円より大きくなっている。
 さらに、プロジェクト事業費の規模別にみた商店数増加率の変化の状況は、表3−4−2のとおりとなっている。

表3−4−2 プロジェクト事業費の規模別にみた商店数増加率の変化の状況

(単位:地区)

プロジェクト事業費
商店数の増加率の変化状況
50億円未満
50億円以上
100億円未満
100億円以上
150億円未満
150億円以上
200億円未満
200億円以上
250億円未満
250億円以上
正(プラス値)となっている地区
49
7
11
3
2
20
92
 
商店数の増加幅が大きくなった地区
-
-
-
-
-
2
2
商店数が減少から増加に転じた地区
6
2
2
1
-
3
14
商店数の減少幅が小さくなった地区
43
5
9
2
2
15
76
0(変動なし)となっている地区
-
-
-
-
-
-
-
負(マイナス値)となっている地区
173
63
37
25
11
37
346
 
商店数の増加幅が小さくなった地区
1
-
-
-
-
-
1
商店数が増加から減少に転じた地区
62
20
8
6
3
8
107
商店数の減少幅が大きくなった地区
110
43
29
19
8
29
238
222
70
48
28
13
57
438

 商店数の増加率の変化が正(プラス値)となっている92地区(21.0%)のうち、プロジェクト実施前に商店数が減少していたが、プロジェクト実施後に増加に転じていたのは14地区(3.1%)となっていた。これら14地区のプロジェクト事業費の平均は約177億円で、438地区の平均約145億円より若干大きくなっている。
 また、中心市街地における空き店舗数は、前記438地区のうち、基本計画を作成した年度(当該年度に空き店舗を調査していない場合は、前後の年度。)と16年度(16年度に空き店舗を調査していない場合は、前後の年度。)の間の空き店舗数の変化を把握できた173地区の合計で、基本計画を作成した年度には6,949店舗、16年度には8,126店舗となっており、この間で16.9%増加していた。そして、この173地区のうち、空き店舗が増加していたのは105地区(60.6%)、減少していたのは68地区(39.3%)となっていた。
 上記(ア)から(ウ)までで記述したように、中心市街地の商業の状況は、年間小売商品販売額が全国の年間小売商品販売額と比べて大きく減少していたり、商店数が大きく減少していたりなどしていて、プロジェクトの実施により活性化しているといえるような状況には必ずしもなっていなかった。
 そのような中で、プロジェクトの実施が中心市街地の年間小売商品販売額の下げ止まりに一定の影響を与えていると思料される事例は、次のとおりである。

<事例8> プロジェクトの実施が年間小売商品販売額の下げ止まりに影響していると思料されるもの

 I市は、人口約15万人の地域における中核都市であり、文化・観光のまちとして知られている。同市は昭和50年代から郊外化が進んできたが、平成に入ってから大規模な住宅団地が相次いで郊外に立地し、これらの住宅団地と中心市街地を結ぶ幹線道路が整備された結果、ロードサイド型の大規模小売店舗、オフィス、マンション等が立地し、中心市街地の空洞化が深刻なものとなってきた。
 そこで、I市では、平成10年9月に基本計画を作成した。また、市は主に市街地整備を行い、TMOが商業活性化を行うという役割分担を図り、11年3月には商工会議所が作成したTMO構想を認定した。
 中心市街地内の駅前地区においては、福祉センターの整備(民間事業者等の事業費約84億円)、駅前広場・駐車場(事業費約40億円、うち国費約10億円)といった交通ターミナルの整備、歩行者道路の整備(事業費約27億円、うち国費約11億円)等の大規模な市街地整備改善事業が実施されている。I市では、これらの市街地整備改善事業の計画を策定するに当たり、市民参加のワークショップを開催し、有識者による委員会の意見を聴取するなど、市民のニーズの把握に努めてきている。
 駅前地区のJ商店街においては、付近の老齢人口比率が高いことから高齢者にやさしいまちづくりを目指し、高齢者のための休憩所を整備(事業費約3,000万円、全額国費)するとともに、歩行者天国を利用した縁日(市)を毎月開催するなど、地元商業者による積極的な取組がなされてきている。これらの地元商業者が主体となったハード・ソフト一体の取組と、市が実施した公営住宅整備による定住人口の増加や歩行者道路の整備による歩行者動線の創出といった周辺環境の整備により、J商店街の年間小売商品販売額には、プロジェクト実施後、一定の下げ止まり傾向がみられる。
 このようなことから、駅前地区全体では年間小売商品販売額の減少傾向は緩やかになっているなどのため、中心市街地の年間小売商品販売額の増加率はプロジェクト実施前にはマイナス5.24%であったが、プロジェクト実施後はマイナス3.67%と一定の下げ止まりを見せている。

エ 歩行者通行量の推移からみたプロジェクトの有効性

 中心市街地における「にぎわい」を示すとされる歩行者通行量は、基本計画を作成した年度(当該年度に調査していない場合は、前後の年度)と16年度(16年度に調査していない場合は、前後の年度)の間の歩行者通行量の変化を把握できた平日142地区、休日140地区の歩行者通行量を比較すると、増加しているのは平日26地区(142地区の18.3%)、休日22地区(140地区の15.7%)となっており、平日、休日ともに歩行者通行量が増加していたのは15地区となっていた。
 また、プロジェクト事業費とプロジェクト実施前後の歩行者通行量の変化との関係は、図3−5のとおりとなっている。

図3−5 プロジェクト事業費と歩行者通行量の変化

図3−5プロジェクト事業費と歩行者通行量の変化

 さらに、プロジェクト事業費の規模別にみた歩行者通行量の変化の状況は、表3−5のとおりとなっている。

表3−5 プロジェクト事業費の規模別にみた歩行者通行量の変化の状況

(単位:地区)

プロジェクト事業費
歩行者通行量の変化状況
50億円未満
50億円以上
100億円未満
100億円以上
150億円未満
150億円以上
200億円未満
200億円以上
250億円未満
250億円以上
増加した地区(平均)
12.5
3.0
1.5
2.0
-
5.0
24.0
 
平日
13
4
2
2
-
5
26
休日
12
2
1
2
-
5
22
変化がなかった地区(平均)
-
1.0
-
-
-
-
1.0
 
平日
-
1
-
-
-
-
1
休日
-
1
-
-
-
-
1
減少した地区(平均)
45.5
12.0
16.5
8.5
2.5
31.0
116.0
 
平日
48
13
15
9
2
28
115
休日
43
11
18
8
3
34
117

 歩行者通行量が増加している地区のプロジェクト事業費の平均は、平日26地区が約154億円、休日22地区が約177億円で、歩行者通行量を調査していた地区全体の平均(平日142地区約201億円、休日140地区約228億円)に比べて小さくなっていた。
 このように、一部の地区では「にぎわい」の回復がみられるものの、プロジェクトの実施により、中心市街地の「にぎわい」が回復しているとは認められなかった。