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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

中心市街地活性化プロジェクトの実施状況に関する会計検査の結果について


(2)事業の種別、都市計画上の用途地域の状況などの地区の特性等とプロジェクトの有効性

 プロジェクトが効果を発現するかどうかには、事業費の大きさばかりでなく、実施される事業の種別、都市計画上の用途地域の状況、大規模小売店舗(大規模小売店舗立地法にいう大規模小売店舗で、売場面積が1,000m 以上のもの。以下同じ。)や公共・公益施設の立地状況といった地区の特性等が影響を与えると考えられる。そこで、455地区の地区の特性等と、事業費及び各指標の増加率の変化等との関係を調査し、地区のどのような特性がプロジェクトの有効性に影響を与えるかを分析することとした。
 分析に当たっては、455地区のうち、プロジェクト実施前後の人口、事業所数及び年間小売商品販売額の3指標(以下単に「3指標」という。)の増加率の変化がすべて全国平均値を上回っていた39地区(全体の8.6%を占める。以下、この39地区を「A群」という。)と、3指標の増加率の変化がすべて全国平均値を下回っていた43地区(全体の9.5%を占める。以下、この43地区を「B群」という。)を取り上げ、比較することとした。
 A群及びB群の3指標の増加率の変化、平均事業費及び地区の特性等は、表3−6のとおりである。

表3−6 A群とB群の比較
 
A群
B群
(参考)455地区
地区数
39
43
 
455
3指標の増加率の変化
 人口
 事業所数
 年間小売商品販売額
ポイント
1.19
-0.04
1.53
ポイント
-0.87
-3.39
-9.95
差A-B
2.06
3.35
11.49
ポイント
0.43
-1.26
-6.30
 
プロジェクト事業費
 市街地整備改善事業費
  面整備事業費
  道路事業費
  住宅事業費
 商業等活性化事業費
  商業施設等整備事業費
  空き店舗活用事業費
46,081,413,143
42,689,454,801
16,973,348,718
10,028,935,162
581,620,860
3,302,415,914
786,238,527
71,340,311
9,290,124,231
8,898,138,807
2,983,839,426
3,073,777,680
138,710,509
387,738,608
140,789,346
25,164,414
比率A/B
4.96
4.80
5.69
3.26
4.19
8.52
5.58
2.83
14,185,563,639
12,878,451,642
4,335,646,536
3,677,122,797
282,039,565
1,237,888,232
311,339,603
35,225,524
中心市街地の状況
 中心市街地の面積
 中心市街地の人口(平成9年)(人)
 土地利用の状況
  商業系用途地域の比率
  住居系の地域の比率
 大規模小売店舗
  区域外の立地件数
  (売場面積)
  区域内の立地件数
  (売場面積)
  区域内からの撤退件数
  (売場面積)
 公共・公益施設
  新規立地件数
   区域内
   区域外
  移転件数
   区域内から区域外へ
   区域外から区域内へ
 
 空き店舗伸び率
  (地区数)
 
194ha
14,842
 
57.4%
28.3%
 
8.95
(53,736m2 )
4.23
(36,020m2 )
0.54
(2,040m2 )
 
 
0.44
0.44
 
0.92
0.12
 
-0.8%
(12)
 
128ha
9,253
 
51.6%
39.4%
 
6.47
(38,545m2 )
3.05
(16,316m2 )
0.49
(2,613m2 )
 
 
0.29
0.32
 
0.57
0.10
 
34.3%
(19)
比率A/B
1.52
1.60
差A-B
5.8
-11.1
比率A/B
1.38
(1.39)
1.39
(2.21)
1.10
(0.78)
 
 
1.52
1.36
 
1.62
1.20
差A-B
-35.1
 
139ha
10,918
 
54.5%
34.9%
 
8.68
(53,784m2 )
3.18
(22,641m2 )
0.58
(3,169m2 )
 
 
0.31
0.45
 
0.54
0.10
 
34.9%
(180)
中心市街地の所在する市区町村の状況
 人口(平成9年)(人)
 
 財政力指数(平成16年)
 経常収支比率(平成16年)
 都市計画区域の状況
  都市計画区域が指定された市区町村数
   (うち用途地域の定めがないもの)
  都市計画区域が指定されていない市町村数
 
298,463
 
0.71
88.8%
 
39
(1)
0
 
115,727
 
0.59
89.9%
 
38
(2)
5
比率A/B
2.58
差A-B
0.11
-1.1
 
136,827
 
0.63
89.5%
 
435
(17)
20
人的体制
 連絡調整会議の設置数
 
  (基本計画作成後の平均開催回数)
 窓口業務を一元的に行う組織の設置数
 
 民間連携協議会の設置数
 
  (基本計画作成後の平均開催回数)
 TMOの認定状況
 
24
(61.5%)
(2.09)
16
(41.0%)
18
(46.1%)
(4.81)
32
(82.0%)
 
24
(55.8%)
(1.41)
19
(44.1%)
18
(41.8%)
(2.30)
23
(53.4%)
差A-B
 
5.7
0.68
 
-3.1
 
4.3
2.51
 
28.6
 
270
(59.3%)
(1.31)
200
(43.9%)
197
(43.2%)
(3.25)
303
(66.5%)
注(1)
 地区数及び市区町村数以外はすべて平均値である。
注(2)
 地区数の下段のかっこ内の数値は、各群の全体地区数に対する割合である。

 このA群に含まれる地区を人口規模が比較的大きいものと小さいものの別に事例で示すと、次のとおりである。

<事例9>  人口規模の比較的大きい地方都市

 K市は、人口約24万人で、鉄道、高速自動車道等が集中する交通拠点であり、県の産業経済の中心としての役割を果たしているが、中心市街地の人口は減少し、年間小売商品販売額及び商店数についても市全体に占める比率が低下している。
 そこで、K市では、12年3月に駅西地域を中心とする中心市街地について基本計画を作成した。プロジェクト事業費は、約284億円(うち国費約126億円)である。
 K市では、土地の高度利用、都市機能の更新、定住人口の増加等を図るため、基本計画に市街地再開発事業8事業、優良建築物等整備事業5事業を記載している。このうち主に住宅供給を目的とする事業は、16年度末までに優良建築物等整備事業3事業(事業費約35億円、うち国費約4億円)が完了し、215戸の住宅が供給された。また、このほかに借上市営住宅事業により16年度末までに61戸の住宅が供給されている。このように定住人口を増加するための施策を行ったことに加え、民間によるマンション建設が進んでいることにより、中心市街地の人口増加率の変化は0.64ポイントとなっており、人口の減少は下げ止まっている。
 また、K市では基本計画に土地区画整理事業6事業を記載している。このうち4事業(事業費約58億円、うち国費約21億円)は、基本計画作成以前より進められており、事業開始から16年度末までの進ちょく率は平均約93%である。そして、土地区画整理事業の事業地内の商業集積地区(商業集積地区の一部が事業地に含まれるものを含む。)7地区のうち2地区において年間小売商品販売額が9年から16年までの間に増加している。このように土地区画整理事業による基盤整備が進み商店数が増加する条件が整ったことで市外からの新規出店があったこと、これらの店が県外・市外からの若者を中心とした買い物客に支持されていることなどから、年間小売商品販売額の増加率の変化は0.73ポイントとなっており、年間小売商品販売額は下げ止まっている。

<事例10> 人口規模の比較的小さい地方都市

 L市は、人口約4万人で、昭和50年代から始まった臨海部への企業進出により急速に人口が増加したが、その受け皿として新市街地が郊外へと拡大するのに伴い、中心市街地は人口が減少した。また、駐車場不足などモータリゼーションへの対応が遅れた中心市街地は、商業地としての吸引力も低下した。
 そこで、L市は平成12年3月、商業機能の再構築、人口の増加、住民福祉の充実等を中心市街地の課題とした基本計画を作成している。プロジェクト事業費は、約176億円(うち国費約29億円)で、16年度末までに市街地再開発事業、病院跡地整備事業、生涯学習施設整備事業の3つの活性化策を講じてきた。
 市街地再開発事業(事業区域1.6ha。事業費約97億円、うち国費約20億円)は、中心市街地の人口規模等に応じた都市計画道路、公園・緑地、複合商業施設棟等の整備を内容とし、このうち16年にオープンした複合商業施設棟(地上3階地下1階、延床面積14,733m )は、特定会社TMOが管理運営を行っており、物品販売、飲食、サービス等のテナント14店舗が出店し、17年3月までの来店者数は約70万人、テナントの総売上額は約8億円となっている。
 また、病院跡地整備事業(事業費約17億円、うち国費約3億円)においては、まちづくり推進協議会等の答申等を踏まえ、中心市街地の高齢者対策、定住促進を図るための住宅等を整備することとし、13年に若者世帯向け住宅1棟、14年に特定公共賃貸住宅及び高齢者向け住宅、15年に若者向け住宅1棟を整備した。
 さらに、生涯学習施設整備事業(事業費約39億円、国費約600万円)では、14年に、図書館と情報センターを文化会館・総合体育館を増築する形で整備した。これらの整備に当たっては、住民参加による各種団体・機関等へのヒアリング(11年度及び12年度に延べ101回)、行政・住民・設計者による先進施設の見学等を実施した上、建設懇話会を設置して内容を検討した。
 このように、商業施設、居住環境、公共・公益施設等を住民のニーズ等を踏まえ中心市街地の人口規模等に応じて整備してきたことなどにより、中心市街地の人口の増加率の変化は2.08ポイント、また、年間小売商品販売額の増加率の変化は1.84ポイントとなっている。

ア 事業の種別による分析

 A群のプロジェクト事業費は、平均約460億円、うち国費負担額は平均約124億円で、455地区の平均それぞれ約141億円、約40億円と比べると、それぞれ約3.2倍、約3.0倍となっていた。そして、このプロジェクト事業費のうち、市街地の整備改善に関する事項に係る事業費(以下「市街地整備改善事業費」という。)は平均約426億円、商業の活性化に関する事項に係る事業費(以下「商業等活性化事業費」という。)は平均約33億円となっており、455地区の平均それぞれ約128億円、約12億円のそれぞれ約3.3倍、約2.6倍となっていた。特に、市街地整備改善事業費のうち土地区画整理事業及び市街地再開発事業の面整備に係る事業費(以下「面整備事業費」という。)は平均約169億円で、455地区の平均約43億円の約3.9倍となっていた。
 また、A群とB群のプロジェクト事業費を比較すると、表3−6のとおり、市街地整備改善事業費のうち面整備事業費及び商業等活性化事業費において、A群はB群のそれぞれ約5.7倍、約8.5倍となっており、大きな差がみられた。

(ア)面整備の事業の実施と3指標の増加率の変化との関係

 A群において面整備事業費が比較的多額となっていたことから、455地区における面整備事業費と3指標の増加率の変化との関係について調べたところ、図3−6のとおりとなっていた。

図3−6 面整備事業費と3指標の増加率の変化

図3−6面整備事業費と3指標の増加率の変化

 455地区のうち面整備の事業を実施している248地区(54.5%)の3指標の増加率の変化は、平均で人口0.67ポイント、事業所数マイナス1.47ポイント、年間小売商品販売額マイナス5.41ポイントとなっていて、面整備の事業を実施していない207地区(45.4%)の3指標の増加率の変化それぞれ0.13ポイント、マイナス1.01ポイント、マイナス7.39ポイントと比べ、人口及び年間小売商品販売額の増加率の変化が良好となっている。
 このように、面整備の事業の実施は、人口及び年間小売商品販売額に影響を与えていると思料された。

(イ)商業等活性化事業の実施と3指標の増加率の変化との関係

 商業等活性化事業費の額において、A群はB群の9倍弱となっていたことから、455地区における商業等活性化事業の実施と3指標の増加率の変化との関係について調べたところ、表3−7−1のとおり、商業等活性化事業費が大きい地区ほど3指標の増加率の変化が良好である傾向が見受けられた。

表3−7−1 商業等活性化事業費と3指標の増加率の変化との関係
商業等活性化事業費
1億円未満
1億円以上10億円未満
10億円以上
地区数
184
172
99
増加率の変化(ポイント)
人口
0.11
0.48
0.89
事業所数
-1.31
-1.27
-1.15
年間小売商品販売額
-6.86
-6.32
-5.28
(参考)市街地整備改善事業費
46億円
96億円
337億円
(注)
 地区数以外はすべて平均値である。


 しかし、商業等活性化事業費が大きい地区ほど市街地整備改善事業費も大きくなっていたことから、さらに市街地整備改善事業のうち商業等の活性化との関連が高いと考えられる市街地再開発事業と、商業等活性化事業費の大きな割合を占める商業施設、商業基盤施設を整備する事業(以下「商業施設等整備事業」という。)に着目し、これら事業の実施の有無と3指標の増加率の変化との関係をみたところ、表3−7−2のとおりとなっていた。

表3−7−2 市街地再開発事業及び商業施設等整備事業の実施の有無と3指標の増加率の変化との関係
地区の区分
項目
市街地再開発事業を実施している地区
市街地再開発事業を実施していない地区
商業施設等整備事業を実施している地区
商業施設等整備事業を実施していない地区
商業施設等整備事業を実施している地区
商業施設等整備事業を実施していない地区
地区数
52
80
52
271
増加率の変化
(ポイント)
人口
1.09
0.78
0.48
0.16
事業所数
-1.03
-1.40
-1.10
-1.30
年間小売商品販売額
-4.84
-4.92
-6.12
-7.05
プロジェクト事業費
527億円
216億円
119億円
50億円
 うち市街地整備改善事業費
477億円
203億円
96億円
45億円
  うち市街地再開発事業費
143億円
57億円
0億円
0億円
 うち商業等活性化事業費
46億円
12億円
23億円
3億円
  うち商業施設等整備事業費
17億円
0億円
8億円
0億円
注(1)
 地区数以外はすべて平均値である。
注(2)
 商業施設等整備事業は、事業費1億円以上の場合に実施しているものとした。

 すなわち、市街地再開発事業と商業施設等整備事業の両方を実施している地区の指標増加率の変化が最も良好であり、どちらも実施していない地区と比べると、人口で0.93ポイント、事業所数で0.26ポイント、年間小売商品販売額で2.20ポイントの差を生じていた。もっとも、市街地再開発事業と商業施設等整備事業の両方を実施している地区は、プロジェクト事業費の平均も他の地区に比べて著しく多額になっていた。

イ 都市計画上の用途地域の状況等の影響の分析

 基本方針では、基本計画の作成に当たっては、都市計画等の今後の地域づくりの方針等に照らして、事業実施の効果を判断することが適当であるとされている。
 A群とB群の中心市街地の状況及びその所在する市区町村の状況を比較すると、表3−6のとおり、中心市街地の面積においてA群はB群の約1.5倍、9年時点の中心市街地の人口において約1.6倍となっていた。また、A群には都市計画区域が指定されていない市町村の中心市街地は含まれていなかったが、B群には都市計画区域が指定されていない市町村の中心市街地が5地区(11.6%)含まれていた。

表3−6 A群とB群の比較(再掲・部分)
 
A群
B群
(参考)455地区
地区数
39
43
 
455
中心市街地の状況
 中心市街地の面積
 中心市街地の人口(平成9年)(人)
 土地利用の状況
  商業系用途地域の比率
  住居系の地域の比率
 
194ha
14,842
 
57.4%
28.3%
 
128ha
9,253
 
51.6%
39.4%
比率A/B
1.52
1.60
差A-B
5.8
-11.1
 
139ha
10,918
 
54.5%
34.9%
中心市街地の所在する市区町村の状況
 都市計画区域の状況
  都市計画区域が指定された市区町村数
   (うち用途地域の定めがないもの)
  都市計画区域が指定されていない市町村数
 
 
39
(1)
0
 
 
38
(2)
5
 
 
 
435
(17)
20
(注)
 地区数及び市区町村数以外はすべて平均値である。


 そこで、455地区の都市計画の状況をみたところ、都市計画区域が指定されていないか、又は都市計画区域が指定されていても用途地域が定められていない市町村の中心市街地は37地区(8.1%)となっており、その中心市街地の面積は平均84ha、プロジェクト事業費は平均約28億円、3指標の増加率の変化は平均でそれぞれマイナス0.01ポイント、マイナス0.96ポイント、マイナス10.58ポイントとなっていて、455地区の平均と比べると人口増加率が改善しておらず、年間小売商品販売額の増加率の減少幅もより大きくなっていた。また、これらの37地区では、面整備の事業を実施しているのは2地区のみで、その面整備事業費の平均は約2億円にとどまっていた。
 次に、都市計画上の用途地域の状況についてみたところ、表3−6のとおり、中心市街地に対して商業系用途地域が占める比率は、A群は平均57.4%、B群は平均51.6%となっており、5.8ポイントの差があった。
 そこで、455地区のうち年間小売商品販売額の推移が把握できる438地区について、商業系用途地域の比率が50%以上の地区と50%未満の地区に区分して比較したところ、年間小売商品販売額の増加率の変化は、前者は235地区(53.6%)の平均でマイナス5.35ポイント、後者は203地区(46.3%)の平均でマイナス7.40ポイントとなっていて、商業系用途地域の比率が50%以上の地区の方が年間小売商品販売額の増加率の減少幅が小さくなっていた。
 このように、都市計画上の用途地域等の土地利用の状況等はプロジェクトの有効性に影響を与えるものと思料される。
 都市計画上の用途地域等の土地利用の状況等がプロジェクトの有効性に影響を与えていると思料される事例を挙げると、次のとおりである。

<事例11> 都市計画が人口増加率の変化に影響を与えていると思料されるもの

 M市は人口約6万人で、昭和40年代から工業都市として発展してきた。同市の中心市街地は、鉄道駅を中心とした、商店街、官公庁、文化施設等の集積した地区である。
 46年に決定されたM市の従前の都市計画においては、市街化区域と市街化調整区域を区分するいわゆる線引きが行われ、市全体の約75%が市街化調整区域とされていたことなどもあり、中心市街地を含む市街化区域の地価は周辺に比べて高くなっていたが、さらに、市周辺で実施されていた大規模な公共工事等の影響もあって地価が高止まりしていたため、中心市街地において十分な住宅が供給されず、安価で快適な住居を求め、市外へ人口が流出する傾向が続いていた。そして、中心市街地の人口は、60年から平成7年にかけて14.8%減少(市全体では7.2%減少)していた。
 M市では、12年9月に商業環境と居住環境の調和等を目標とした基本計画を作成し、プロジェクト事業費は約88億円(うち国費約37億円)となっている。
 同年に都市計画法が改正され、市街化区域と市街化調整区域との区分が都道府県による選択制となったことを受け、M市において、周辺市町村や関係機関とも協議しつつ、県に対して線引きの廃止を求めてきたところ、16年5月に線引きが廃止され、従来の市街化調整区域が原則として開発可能となった。
 そして、近年における全国的な地価の下落傾向などから、中心市街地の地価は、18年公示地価が13年公示地価の50%以下となっている標準地もあるなど大幅に低下した。この結果、15年頃からは中心市街地における民間によるマンション建設も増加してきている。また、旧市街化調整区域では、16年以降、居住系の農地転用件数が増加している。
 このようなことから、M市全体の人口は引き続き減少傾向にあるが、10年から14年までは毎年マイナス2.0%からマイナス2.4%程度で推移していた中心市街地の人口増加率は、15年頃からはマイナス0.3%からマイナス1.5%程度となっている。また、14年から16年まではマイナス0.8%となっていた旧市街化調整区域内の町丁の人口増加率は、17年には0.7%と増加に転じている。

ウ 大規模小売店舗及び公共・公益施設の立地の影響の分析

 中心市街地の衰退や空洞化の原因として、しばしば大規模小売店舗が郊外に展開することや、市役所、病院等の公共・公益施設が中心市街地から郊外に移転することが挙げられる。
 そして、A群とB群の大規模小売店舗の立地状況を比較すると、表3−6のとおり、中心市街地の区域内外を問わず立地する大規模小売店舗の数はA群の方が多くなっており、また、区域内の大規模小売店舗の売場面積はA群がB群の2倍以上となっていた。
 また、A群とB群の公共・公益施設の立地状況を比較すると、表3−6のとおり、区域内の新規立地件数はA群がB群に比べて多くなっていた。

表3−6 A群とB群の比較(再掲・部分)
 
A群
B群
(参考)455地区
地区数
39
43
 
455
中心市街地の状況
 大規模小売店舗
  区域外の立地件数
  (売場面積)
  区域内の立地件数
  (売場面積)
  区域内からの撤退件数
  (売場面積)
 公共・公益施設
  新規立地件数
   区域内
   区域外
  移転件数
   区域内から区域外へ
   区域外から区域内へ
 
 
8.95
(53,736m2 )
4.23
(36,020m2 )
0.54
(2,040m2 )
 
 
0.44
0.44
 
0.92
0.12
 
 
6.47
(38,545m2 )
3.05
(16,316m2 )
0.49
(2,613m2 )
 
 
0.29
0.32
 
0.57
0.10
 
比率A/B
1.38
(1.39)
1.39
(2.21)
1.10
(0.78)
 
 
1.52
1.36
 
1.62
1.20
 
 
8.68
(53,784m2 )
3.18
(22,641m2 )
0.58
(3,169m2 )
 
 
0.31
0.45
 
0.54
0.10
(注)
 地区数及び市区町村数以外はすべて平均値である。


 そこで、大規模小売店舗や公共・公益施設の立地といった都市機能の郊外移転の状況が、中心市街地の活性化にどのような影響を与えているのか分析することとした。

(ア)大規模小売店舗の立地の影響の分析

 検査したところ、中心市街地の商業等に影響を与えている大規模小売店舗が中心市街地の区域内又は区域外に存在するとしている地区は、455地区のうち419地区となっていた。そして、これらの419地区において、中心市街地の区域外に立地する大規模小売店舗は平均で8.99店舗(売場面積計55,585m )、中心市街地の区域内に立地する大規模小売店舗は平均で3.30店舗(売場面積計23,454m )となっており、中心市街地の区域内に立地する大規模小売店舗の売場面積が中心市街地の区域外に立地する大規模小売店舗の売場面積より大きい地区は86地区(20.5%)、その逆の地区は333地区(79.4%)となっていた。
 これらの86地区及び333地区について、売場面積が10,000m 以上の大規模小売店舗(以下「大型店」という。)が中心市街地の区域内又は区域外にあるか否かで分類して、大規模小売店舗の立地状況と3指標の増加率の変化、プロジェクト事業費の関係をみたところ、表3−8−1のとおりとなっていた。

表3−8−1 大規模小売店舗の立地状況と3指標の増加率の変化、プロジェクト事業費との関係
区域内の大規模小売店舗の売場面積が大きい地区(86地区)
区域内の大規模小売店舗の売場面積が小さい地区(333地区)
大型店がある地区
大型店がない地区
大型店がある地区
大型店がない地区
地区数
50
36
248
85
大規模小売店舗立地数
区域内
7.12店舗
2.86店舗
3.15店舗
1.67店舗
区域外
3.16店舗
1.28店舗
12.38店舗
5.79店舗
大規模小売店舗売場面積
区域内
67,491m2
9,965m2
22,895m2
4,895m2
区域外
22,285m2
2,769m2
82,368m2
19,401m2
増加率の変化(ポイント)
人口
1.06
0.01
0.49
0.11
事業所数
-1.26
-1.61
-1.14
-1.58
年間小売商品販売額
-4.17
-8.37
-5.67
-7.84
プロジェクト事業費
プロジェクト事業費
345億円
35億円
156億円
45億円
うち市街地整備改善事業費
328億円
30億円
138億円
41億円
うち商業等活性化事業費
16億円
3億円
17億円
3億円
うち面整備事業費
133億円
4億円
43億円
11億円
(注)
 地区数以外は全て平均値である。


 すなわち、区域内の大規模小売店舗の売場面積が大きい86地区における年間小売商品販売額は、大型店がある50地区はマイナス4.17ポイント、大型店がない36地区はマイナス8.37ポイントとなっていた。また、区域内の大規模小売店舗の売場面積が小さい333地区における年間小売商品販売額は、大型店がある248地区はマイナス5.67ポイント、大型店がない85地区はマイナス7.84ポイントとなっていた。
 これによれば、区域内にある大規模小売店舗の売場面積が区域外にある大規模小売店舗の売場面積よりも大きく、大型店がある場合は、中心市街地に一定の集客力が保たれていることなどにより、プロジェクトの効果が比較的現れやすいものと思料される。
 中心市街地の区域内に立地していた大規模小売店舗が撤退した地区の事例を挙げると、次のとおりである。

<事例12> 大規模小売店舗が撤退したために商店街が衰退したもの

 N市は、人口約6万人で、江戸時代に宿場町として成立し、その後も交通の結節点として繁栄してきた。同市の中心市街地は、多くの地域で7年の人口が昭和30年の20%から40%になっているなど大幅に減少しており、歩行者通行量も大幅に減少している。また、中心市街地の年間小売商品販売額及び商店数の市全体に占める比率は低下している。
 このため、N市では、平成11年2月に60haを中心市街地の区域とする基本計画を作成した。この基本計画においては、中心市街地内に立地している大規模小売店舗2店舗を核店舗と位置づけていたが、1店舗は11年に中心市街地外に移転し、また、他の1店舗は12年に閉店した。さらに、郊外に大規模小売店舗の出店が続いたことなどから、中心市街地の商店街は、9年には10商店街210店舗(年間小売商品販売額約142億円)あったが、16年には3商店街74店舗(年間小売商品販売額約33億円)と大幅に減少している。
 基本計画に基づく商業の活性化のための事業についてみると、特定会社TMO(12年7月認定)が、大型空き店舗活用支援事業(事業費約3000万円、うち国費約1000万円)を実施し、移転した核店舗の跡に地元のスーパーマーケットが出店するなどしているものの、基本計画に定められていた商店街パティオ事業、高齢者を対象としたシルバーカードシステムの導入については、商店街のリーダー不足等によるコンセンサス不足等のため中止となっている。また、空き店舗・空き地の活用事業(事業費約5000万円、うち国費約1000万円)としてチャレンジショップ事業を実施しているが、ほとんど空き店舗となっている。
 このように、中心市街地の商業については、核店舗であった大規模小売店舗2店舗が移転等したため周辺の商店も減少していったことに加えて、N市における財源不足や商業者のコンセンサス不足等により事業が中止となるなど有効な対策が取られなかったことなどから、年間小売商品販売額の増加率は、プロジェクト実施前はマイナス11.08%だったものが、プロジェクト実施後はマイナス18.58%と大幅に下落している。

(イ)公共・公益施設の立地の影響の分析

 検査したところ、公共・公益施設の立地状況に移転等による変化があったとする地区は、455地区のうち317地区となっていた。そして、これらの317地区において、中心市街地の区域外に新規に立地した施設、区域内から区域外へ移転した施設、区域内で廃止した施設はそれぞれ平均で0.61施設、0.72施設、0.19施設、また、区域内に新規に立地した施設、区域外から区域内へ移転した施設はそれぞれ平均で0.41施設、0.13施設となっていて、施設が中心市街地の区域内から区域外へ移転等した件数が、区域外から区域内へ移転等した件数を上回っていたか又は同じだった地区は271地区(85.4%)、その逆の地区は46地区(14.5%)となっていた。
 これらの271地区及び46地区について、公共・公益施設の立地状況と3指標の増加率の変化、プロジェクト事業費との関係をみたところ、表3−8−2のとおりとなっていた。

表3−8−2 公共・公益施設の立地状況と3指標の増加率の変化、プロジェクト事業費との関係
区域内の公共・公益施設の立地数が増加した地区
区域内の公共・公益施設の立地数が変わらなかった又は減少した地区
317地区平均
地区数
46
271
317
公共・公益施設の施設数
区域内新規立地
1.48施設
0.23施設
0.41施設
区域外新規立地
0.13施設
0.69施設
0.61施設
区域外から区域内へ移転
0.59施設
0.06施設
0.13施設
区域内から区域外へ移転
0.09施設
0.82施設
0.72施設
区域内廃止
0.02施設
0.22施設
0.19施設
増加率の変化(ポイント)
人口
0.66
0.45
0.49
事業所数
-0.82
-1.18
-1.13
年間小売商品販売額
-3.91
-6.46
-6.08
プロジェクト事業費
プロジェクト事業費
232億円
142億円
155億円
うち市街地整備改善事業費
205億円
128億円
139億円
うち商業等活性化事業費
24億円
13億円
15億円
うち面整備事業費
66億円
44億円
47億円
(注)
 地区数以外は全て平均値である。


 すなわち、区域内の公共・公益施設の立地数が増加した46地区では、3指標の増加率の変化が人口0.66ポイント、事業所数マイナス0.82ポイント、年間小売商品販売額マイナス3.91ポイントとなっているのに対し、区域内の公共・公益施設の立地数が変わらなかった又は減少した271地区ではそれぞれ0.45ポイント、マイナス1.18ポイント、マイナス6.46ポイントとなっていて、3指標の増加率の変化が低くなっていた。
 これによれば、中心市街地の区域内にある公共・公益施設が区域外へ移転するなどの都市機能の郊外移転が進行している地区においては、プロジェクトの効果は発現しにくくなるものと思料される。

エ プロジェクト実施機関の人的体制・財政基盤の影響の分析

 A群とB群のプロジェクト実施機関の財政基盤を比較すると、表3−6のとおり、平均財政力指数(16年)はA群0.71、B群0.59となっていたが、平均経常収支比率(16年)については、A群88.8%、B群89.9%と大きな差はなかった。

表3−6 A群とB群の比較(再掲・部分)
 
A群
B群
(参考)455地区
地区数
39
43
 
455
中心市街地の所在する市区町村の状況
 人口(平成9年)(人)
 
 財政力指数(平成16年)
 経常収支比率(平成16年)
 
298,463
 
0.71
88.8%
 
115,727
 
0.59
89.9%
比率A/B
2.58
差A-B
0.11
-1.1
 
136,827
 
0.63
89.5%
人的体制
 連絡調整会議の設置数
 
  (基本計画作成後の平均開催回数)
 窓口業務を一元的に行う組織の設置数
 
 民間連携協議会の設置数
 
  (基本計画作成後の平均開催回数)
 TMOの認定状況
 
24
(61.5%)
(2.09)
16
(41.0%)
18
(46.1%)
(4.81)
32
(82.0%)
 
24
(55.8%)
(1.41)
19
(44.1%)
18
(41.8%)
(2.30)
23
(53.4%)
差A-B
 
5.7
0.68
 
-3.1
 
4.3
 
2.51
28.6
 
270
(59.3%)
(1.31)
200
(43.9%)
197
(43.2%)
(3.25)
303
(66.5%)
注(1)
 地区数以外はすべて平均値である。
注(2)
 地区数の下段のかっこ内の数値は、各群の全体地区数に対する割合である。

 また、プロジェクト実施機関における連絡調整会議の設置数、TMOの認定状況等の人的体制を比較すると、表3−6のとおり、連絡調整会議及び民間連携協議会については、設置している地区の割合、平均開催回数ともにA群の方が多くなっており、また、事業実施の主体となるTMOの認定状況については、A群の8割以上が認定しているのに対して、B群は5割強にとどまっており、事業実施・推進体制に差がみられた。
 そこで、民間連携協議会の設置状況等及びTMOの認定状況と、プロジェクト事業費及び3指標の増加率の変化の状況についてみたところ、表3−9のとおりとなっていた。

表3−9 プロジェクト実施機関の人的体制・財政基盤と3指標の増加率の変化の関係
地区数
年平均開催回数
増加率の変化(ポイント)
財政力指数
経常収支比率
プロジェクト事業費
人口
事業所数
年間小売商品販売額
プロジェクト事業費
うち市街地整備改善事業費
うち商業等活性化事業費
うち面整備事業費
民間連携協議会を設置している地区
197
3.2
0.52
-1.25
-6.22
0.63
89.00%
137億円
124億円
12億円
41億円
 
TMOを認定している地区
144
3.4
0.56
-1.17
-5.66
0.62
89.10%
150億円
136億円
13億円
43億円
 
民間連携協議会設置以降16年度までの継続率が50%以上の地区
74
5.4
1.07
-1.55
-6.01
0.62
88.76%
150億円
137億円
13億円
43億円
民間連携協議会設置以降16年度までの継続率が50%未満の地区
70
1.3
0.05
-0.77
-5.25
0.62
89.45%
149億円
135億円
14億円
42億円
TMOを認定していない地区
53
2.8
0.40
-1.45
-7.75
0.65
88.76%
102億円
94億円
6億円
35億円
 
民間連携協議会設置以降16年度までの継続率が50%以上の地区
27
4.8
0.39
-1.66
-5.96
0.70
88.17%
136億円
129億円
5億円
40億円
民間連携協議会設置以降16年度までの継続率が50%未満の地区
26
0.9
0.41
-1.23
-9.77
0.60
89.36%
67億円
58億円
8億円
30億円
民間連携協議会を設置していない地区
258
-
0.36
-1.27
-6.36
0.62
89.86%
145億円
131億円
12億円
45億円
 
TMOを認定している地区
159
-
0.42
-1.41
-6.76
0.62
89.89%
158億円
143億円
13億円
48億円
TMOを認定していない地区
99
-
0.27
-1.05
-5.71
0.63
89.80%
124億円
112億円
10億円
39億円
(注)
 地区数以外はすべて平均値である。


 この表に示されているように、民間連携協議会が設置されていたり、TMOが認定されていたりすることが、中心市街地の活性化に大きな影響を与えているといえるような状況には必ずしもなっていないが、これは、民間連携協議会が設置されても、関係者の合意が得られなかったり、連携の推進に向けた活動が低調となっていたり、民間連携協議会においてプロジェクトの検討等がなされてもTMOにおける専門的人材や自主財源の不足等により事業の実施に至らなかったりするなどの理由によるものと思料される。