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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

中心市街地活性化プロジェクトの実施状況に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

 国が10年から実施してきた中心市街地の活性化施策は、市街地の整備改善と商業等の活性化を一体的に推進することにより、中心市街地が快適で利便性の高い生活空間として、また、人、モノ、情報等の活発な交流による新たな経済活動の苗床として、豊かで活力ある地域経済社会の実現に貢献することが期待されてきた。
 このため、国においては、法に基づき基本方針を定め、この基本方針に基づき市町村が定めた基本計画の実施に向けた取組を促進するため、関係省庁が連携調整を図りつつ総合的に支援策を講ずることとされた。また、市区町村においては、中心市街地活性化を確実に実現するべく、地域住民、地権者等の事業関係者や中心市街地整備推進機構、TMO、商工会・商工会議所等の民間事業者との間で基本計画の内容に関する協議や調整を行うこととされた。
 今般、参議院からの要請を受け、検査を実施したところ、次のような状況となっていた。

ア 平成10年度以降の省庁別事業費、国費負担額及び実施状況

 10年度から16年度までの間に実施された中心市街地活性化プロジェクトに係る事業費は5兆0183億0712万円、これに対する国費負担額は2兆0028億2963万円となっていた。
 そして、基本計画の作成、内容及び実施状況等において、次のような事態が見受けられた。

(ア)経済産業省以外の府省庁、多くの市区町村は、中心市街地活性化プロジェクトに係る事業費及び国費負担額等を把握していなかった。

(イ)多くの地区において、市区町村は地域住民等の意向を把握していない。

(ウ)中心市街地の区域の形状が一体的、一団的なものとなっていない地区がある。

(エ)中心市街地の区域に、商業系用途地域を含めずに新たな市街地を創出することとしている地区がある。また、市街化調整区域及び非線引き都市計画区域の白地地域を中心市街地の区域に含め、新たに市街地として整備することとしている地区がある。

(オ)ほとんどの地区において、中心市街地の活性化の状況を評価するための具体的な数値目標を設定していない。

(カ)内容が具体化されていない事業を基本計画に含めていたり、事業の実施時期が明確でなかったり、記載されていなかったりしている地区がある。

(キ)基本計画の作成から5年以内に着手できるとした事業を定めているほとんどの地区において、地権者、関係者の合意形成が図られていないことなどのため、5年を経過しても着手していない事業が含まれている。

 なお、これらの点については、新基本方針において次のような措置が講じられている。

(ア)国は、市町村から、毎年度、基本計画に位置付けられた取組の実績額や進ちょく状況等について報告を受け、これらを把握することとされている。

(イ)市町村は基本計画を作成するに当たり、地域住民等の意向を把握し、分析することとされている。

(ウ)中心市街地の区域を設定するに当たり、事業の実施範囲からみて、各種取組が総合的かつ一体的に実施することが可能な範囲となるよう定めることとされている。

(エ)これまで都市機能の集積がなく、今後新たに市街地として整備する地区等を含めて広く中心市街地の区域とすることは適当ではないとされている。

(オ)基本計画に、人口、歩行者通行量、事業所数等の定量的な指標に基づく数値目標を設定することとされている。

(カ)基本計画に定められる事業は、事業を実施する主体が特定されており、その実施スケジュールが明確であることが必要であるとされている。

(キ)基本計画には、取組等の効果が発現する時期等を考慮しておおむね5年以内を目安に計画期間を適切に設定し、事業が円滑かつ確実に実施されるようにするものとされている。

イ プロジェクト実施機関の人的体制・財政基盤

 プロジェクト実施機関のうち、市区町村では、民間組織との連携を円滑にするための協議会の設置が5割程度にとどまっており、設置していても約4割の地区では年平均開催回数が0回から2回未満となっていた。また、TMOでは、専任従事者を1人も置いていないものが6割以上となっており、その活動に係る支出の5割以上を国、都道府県及び市町村の補助で賄っている商工会等TMOが7割あるなどしていた。このように、基本計画に基づく各種事業を円滑かつ効率的に実施していくために重要と考えられる地域住民、地権者等との連携体制の整備及び財政基盤の確立に対する取組が必ずしも十分とはいえない状況が見受けられた。

ウ 中小企業の活性化等プロジェクトの有効性

 プロジェクト実施後の中心市街地の状況についてみると、人口については比較的多くの地区において下げ止まりがみられるが、年間小売商品販売額等については一部の地区を除いて下げ止まりがみられない状況となっていた。また、人口、年間小売商品販売額等の増加率が全国平均値を上回っている地区は、面整備の事業や商業等活性化事業等を多く行っている地区や、大規模小売店舗や公共・公益施設が中心市街地の区域内に比較的多く立地している地区などに多い傾向が見受けられた。さらに、TMOや民間連携協議会を設置していても、連携の推進に向けた活動が低調であったり、TMOにおける専門的人材や自主財源の不足等により事業の実施に至らなかったりしているなどのため、プロジェクトの効果が上がっているといえるような状況には必ずしもなっていなかった。
 このように、プロジェクトが効果を上げているといえるような状況には必ずしもなっていない中で、プロジェクトの実施が3指標の下げ止まりなどに影響を与えていると思料される地区も見受けられ、これらの地区においては、地区の特性等を踏まえて、例えば次のような施策が講じられていた。

(ア)住民や消費者のニーズを踏まえ、中心市街地の核となるような適切な規模の住宅・商業施設を整備することにより、人口の定住化を図るとともに商業の活性化を図っている

(イ)中心市街地の人口規模等に応じた内容の市街地整備改善事業等を実施している

(ウ)商業の活性化に率先して取り組む地元の商業者の活動を支援する形で商業等活性化事業等を実施している

(エ)市街地整備改善事業と商業等活性化事業が複合して効果を生ずるよう、適切な計画の下に集中的に事業を実施している

 今後の中心市街地活性化施策においては、人口増加を前提とした従来型の制度設計ではなく、人口が減少し高齢化が加速する時代に通用し、多くの人にとって暮らしやすい、持続可能なまちづくりを実現するための基本的な方針を確立し実施していくことが望まれている。
 そして、国は、改正後のまちづくり三法の下、新基本方針を定め、「選択と集中」の原則により、内閣総理大臣から認定を受けた基本計画に基づき多様な都市機能の増進と経済活力の向上に意欲的に取り組む市区町村を重点的に支援していくこととしている。
 したがって、改正後のまちづくり三法に基づく中心市街地活性化施策の実施に当たっては、次の点に留意することが望まれる。

ア 市区町村において、中心市街地が将来目指すべき方向を見定め、改正後のまちづくり三法及び新基本方針等を踏まえ、地域の実情に応じた適切かつ具体的な基本計画を作成し、施策を確実に実現するための事業推進体制及び施策の進行管理のための体制の整備・充実を図り、明確な目標を定めて施策を実現していくこと

イ 国等において、効果的な施策の実施に積極的に取り組む市区町村の事業推進体制等の整備状況等を踏まえつつ中心市街地活性化のための地域の取組を適切に評価する仕組みを整備し、厳しい財政状況の下、中心市街地における都市機能の増進、経済活力の向上、「にぎわい」の回復等のための一体的な取組が効果的になされるよう効率的な国費等の投入を行っていくこと

 なお、会計検査院としては、まちづくり三法が改正され、国等が新基本方針による新たな仕組みの下で中心市街地活性化施策に取り組むこととなったことから、今後とも、その効果が発現しているか引き続き注視していくこととする。