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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

高速道路の建設事業に係る入札・契約制度の見直しの状況等について


高速道路の建設事業に係る入札・契約制度の見直しの状況等について


検査対象
(1)東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社及び西日本高速道路株式会社(これら3会社は平成17年9月30日以前は日本道路公団)
(2)首都高速道路株式会社(平成17年9月30日以前は首都高速道路公団)
(3)阪神高速道路株式会社(平成17年9月30日以前は阪神高速道路公団)
(4)独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構
東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社及び阪神高速道路株式会社の概要
高速道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を効率的に行うことなどにより、道路交通の円滑化を図り、もって国民経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することを目的とする株式会社
独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構の概要
高速道路に係る道路資産の保有並びに各高速道路株式会社に対する貸付け、各公団から承継した債務その他の高速道路の新設、改築等に係る債務の早期の確実な返済等の業務を行うことにより、高速道路に係る国民負担の軽減を図るとともに、各高速道路株式会社による高速道路に関する事業の円滑な実施を支援することを目的とする独立行政法人
検査の対象とした契約年度
平成14年度〜17年度
上記の各検査対象に係る高速道路の建設事業の契約件数
(1)
1,858件
 
(2)
296件
 
(3)
81件
 
2,235件
 
上記の各契約件数に係る契約金額
(1)
1兆9734億円
 
(2)
3622億円
 
(3)
612億円
 
2兆3969億円
 

1 検査の背景

(1)高速道路の建設事業の概要

 高速道路の建設事業は、道路整備特別措置法(昭和31年法律第7号)等に基づき、日本道路公団(以下「道路公団」という。)、首都高速道路公団(以下「首都公団」という。)、阪神高速道路公団(以下「阪神公団」という。)及び本州四国連絡橋公団(以下「本四公団」という。)等が実施してきたが、平成17年10月1日の日本道路公団等民営化関係法施行法(平成16年法律第102号)等の施行により、同日以降は、高速道路の新規建設事業は新たに設立された東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社等が実施していくこととされた。
 そして、現在、主な新規建設事業は、既に本州四国間を結ぶ3ルートを供用していて、新たな高速道路の建設事業が予定されていない本四公団以外の3公団から事業を引き継いだ東日本高速道路株式会社ほか4会社(注1) (以下「各会社」という。)により実施されている。

(注1)
 東日本高速道路株式会社ほか4会社 東日本、中日本、西日本、首都及び阪神各高速道路株式会社


(2)高速道路の建設事業に係る入札・契約制度を巡る状況

 入札・契約制度に関しては、道路公団、首都公団及び阪神公団(以下「各公団」という。)において、「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(平成6年1月閣議了解)、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年法律第127号。以下「入札・契約適正化法」という。)等に基づき、〔1〕予定価格が「政府調達に関する協定」(平成7年条約第23号。以下「政府調達協定」という。)等で定められた基準額である1500万SDR(注2) 以上の工事に適用する一般競争入札(以下「一般競争入札(政府調達協定適用)」という。)等の導入、〔2〕工事発注に関する情報公表の拡充等による透明性、競争性の向上等の入札・契約の適正化に資する措置が執られてきた。
 そして、高速道路の建設事業については、国の重要な施策の一部であることから、各公団の民営化後も公共工事として位置付けられて入札・契約適正化法等の対象とされており、その1件当たりの請負金額が大きく、入札・契約における競争性を高めることなどによりコスト縮減が見込まれるため、民営化を契機としてより経済的かつ効率的な工事の発注等による事業費の削減が期待されている。

(注2)
 1500万SDR SDRはIMF(国際通貨基金)の特別引出権(Special Drawing Rights)であり、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドの加重平均方式により決定されている。邦貨換算額は2年ごとに見直されており、14年度及び15年度は22.2億円、16年度及び17年度は24.3億円となっている。


(3)談合事件の概要等

 このような状況にあって、公正取引委員会は、道路公団が発注した鋼橋上部工工事の入札において、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)第3条の不当な取引制限の禁止規定に違反した行為(以下「談合」という。)が行われたとして、17年6月、鋼橋上部工工事業を営む業者(以下「鋼橋業者」という。)3社を、さらに、同年8月、鋼橋業者3社及びその担当者5名並びに道路公団の副総裁及び理事を、同法第73条の規定に基づき、検事総長に告発した。
 そして、同年9月、道路公団が発注した鋼橋上部工工事において、鋼橋業者50社が談合したとし、このうち既に鋼橋上部工工事業を取りやめるなどしていた5社を除いた45社に対し、同法第48条第2項の規定に基づき、違反行為の排除措置の勧告を行った。
 さらに、公正取引委員会は、18年3月、談合を行ったとした50社のうち勧告を不服として審判請求を行った5社等を除いた鋼橋業者43社に対して同法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金の納付命令を行い、同年4月中に納付命令を不服として審判手続の開始請求を行った3社を除いた40社に係る課徴金納付命令が確定している。
 また、公正取引委員会は、上記の勧告と同時に、道路公団総裁に対し、鋼橋上部工工事の発注に関し、道路公団の役員及び職員が入札談合等関与行為を行っていた事実が認められたとして、「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」(平成14年法律第101号。以下「入札談合等関与防止法」という。)第3条第2項の規定に基づき、17年9月、入札談合等関与行為が排除されたことを確保するための改善措置を講ずるよう改善措置要求を行った。入札談合等関与行為とされた主なものは以下のとおりである。
〔1〕 鋼橋業者から提示された落札予定者の一覧表について承認し、受領、保管していた。
〔2〕 鋼橋業者からの要請を受け、当初一括発注が予定されていた工事を2つに分割して発注していた。
〔3〕 鋼橋業者からの要請に基づき、発注に関する未公表情報を教示するなどしていた。
 上記の改善措置要求を受け、道路公団(17年10月以降は東日本、中日本及び西日本各高速道路株式会社。以下、これらを総称する場合「道路公団等」という。)では、入札談合等関与行為とされた事項について調査した結果、18年2月、入札談合等関与行為等が認められたとして関係職員53名の処分を行うとともに、改善措置として談合等不正行為防止策を策定し、これらの内容を公正取引委員会へ報告した。
 なお、東京高等検察庁では、17年8月、告発を受けた前記鋼橋業者6社及びその担当者5名を独占禁止法違反の罪で、道路公団の副総裁及び理事を同法違反及び刑法(明治40年法律第45号)の背任罪で、それぞれ東京高等裁判所へ起訴しており、これについては17年度末時点で公判が継続中である。

(4)入札・契約制度の見直し

ア 道路公団における見直しの内容

 道路公団においては、17年8月、談合等不正行為の再発を防止するなどのため、組織内における法令遵守や情報管理の徹底等と併せて、入札・契約制度の競争性、透明性、公正性をより高いものとすることを目的として、以下のような入札・契約制度についての見直し策を策定した。この見直し策の内容は上記の改善措置の一部として18年2月に公正取引委員会にも報告されている。
〔1〕 従来、予定価格が1500万SDR以上の工事に適用されていた一般競争入札(政府調達協定適用)に加えて、これまで指名競争入札を適用していた予定価格が250万円を超え1500万SDR未満の工事に一般競争入札(以下、予定価格が1500万SDR未満の工事に適用する一般競争入札を「一般競争入札」という。)を導入する。
〔2〕 価格のみならず品質等の価格以外の多様な要素が考慮された競争が行われる総合評価落札方式(注3) については15年度から試行的に実施しているが、この方式の適用の対象を拡大する。
〔3〕 工事の入札を実施したものの落札者がないなどの場合に、最低価格で入札した者から見積りを徴するなどして交渉を行い随意契約を締結する方式(以下「不落随契」という。)については、原則として廃止する。
〔4〕 入札者が適正な見積りを行っているかどうかを確認するなどのため、入札者に対して入札価格の内訳を記載した単価表又は工事費内訳書(以下「工事費内訳書等」という。)の提出を求めてその内容を確認する制度の対象となる工事を拡大する。
 さらに、道路公団では、工事を発注する際の規模(以下「工事発注単位」という。)の決定に関して、入札談合等関与行為が指摘されたことを踏まえ、工事の発注単位については、その決定基準や決定方法等について明確化するとともに、その運用において透明性を確保するためにすべての工事について本社に設置された入札監視統一事務局等による事前審査の対象とすることとした。

イ 首都公団及び阪神公団における見直しの内容

 首都公団では9年に、阪神公団では14年に、それぞれの発注工事に関連して発生した談合等を契機として、既に入札・契約方式の適用範囲、不落随契の取扱い、工事費内訳書等の提出等について見直しを行ってきており、さらに今回の談合事件等を契機として、17年8月に以下のような見直し策を策定した。
〔1〕 これまで指名競争入札を適用していた工事に道路公団と同様に一般競争入札を導入し、首都公団では予定価格が250万円を超える工事に、阪神公団では予定価格が2億円以上の工事に適用する。
〔2〕 両公団とも16年度から試行的に実施している総合評価落札方式について、その適用対象を拡大する。
〔3〕 不落随契については、両公団とも既に15年度から原則として廃止しており、再度その措置を徹底する。
〔4〕 工事費内訳書等の提出については、首都公団では15年度から既にすべての工事において提出を義務付けており、再度その措置を徹底し、阪神公団では提出対象を従来の予定価格を事前に公表する制度等の適用工事以外の工事まで拡大する。

(注3)
 総合評価落札方式 競争契約における落札者の決定方法の1つであり、価格だけでなく、性能、機能等も併せて総合的に評価する方式