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  • 平成18年10月

高速道路の建設事業に係る入札・契約制度の見直しの状況等について


(4)総合評価落札方式

 総合評価落札方式については、公共工事に対してコストの縮減や品質の確保等が期待されてきている中で、13年には入札・契約適正化法に基づき「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」が閣議決定されるなど、政府が主導的な立場で導入の促進を図ってきた。同方式は、企業が技術力競争を行うことにより優れた技術力と経営力を有した健全な建設業が育成されるとして、品質等の価格以外の多様な要素が考慮された競争が行われることで、談合等の不正行為が行われにくい環境の整備が期待されるとしている。
 そして、17年度には「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(平成17年法律第18号。以下「品確法」という。)が施行され、その基本理念において、公共工事の品質は、同方式を適用することなどによって、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることによって確保されなければならないとされている。
 上記のような背景のもと、道路公団等では15年度から、首都公団等及び阪神公団等では16年度から総合評価落札方式を試行的に実施してきており、今回の見直し策においては道路公団等では20年中に契約金額で全体の5割まで拡大することを目標とし、また、首都公団等及び阪神公団等においてもその実績の拡大を図ることとしている。
 各公団等の実績についてみると、道路公団等は、表12のとおり、見直し前は3件59億余万円だったものが、見直し後は41件712億余万円と増加しているが、契約金額全体に占める割合は26.6%に止まっており、阪神公団等では見直し前1件5億余万円、見直し後1件7億余万円に止まっている。また、首都公団等では見直し前には3件85億余万円だったものが、見直し後の実績はなかった。
 総合評価落札方式については、導入間もなく実質的には試行段階にあることなどから、各会社は実績の拡大を図るとともに、適用に当たっては、導入目的に沿った効果が得られるよう、実施方法等にも十分な配慮が必要である。

表12 総合評価落札方式の適用実績

(単位:件、百万円)

発注者
見直し前
見直し後
 
うち東日本会社分
うち中日本会社分
うち西日本会社分
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
道路公団等
3
5,990
41
71,238
21
38,517
6
10,428
14
22,292
44
77,228
0.2%
0.4%
15.8%
26.6%
23.6%
42.4%
6.9%
12.0%
16.7%
24.8%
2.4%
3.9%
首都公団等
3
8,568
3
8,568
1.1%
2.5%
1.0%
2.4%
阪神公団等
1
588
1
736
2
1,324
1.3%
1.0%
50.0%
29.0%
2.5%
2.2%
7
15,146
42
71,975
49
87,121
0.4%
0.7%
14.5%
25.4%
2.2%
3.6%
(注)
 各欄の下段の数値は、各発注者が見直し前又は見直し後に行った契約全体に占める割合を示したものである。


(5) 工事費内訳書等

ア 工事費内訳書等の提出状況

 各公団では、公正な入札の確保や入札者の適正な積算を促すことを目的として、従来から入札者に対して入札価格の内訳を記載した工事費内訳書等を提出させていた。
 そして、道路公団等及び阪神公団等では、今回の見直し策で、工事費内訳書等の提出対象を、従来の予定価格を事前に公表する制度等の適用工事以外の工事まで拡大して提出させることとした。
 表13は、各公団等における工事費内訳書等の年度ごとの提出件数を示したものであり、契約件数に対する提出件数の割合は、道路公団等は見直し前は10%から30%程度で推移していたが、見直し後は75.8%と急増していて、阪神公団等は見直し前は14年度の14.8%から徐々に増加して17年度は66.7%となっていて、見直し後は発注は1工事のみであるが提出させている。
 また、首都公団等では、14年度以降、すべての工事について工事費内訳書等が提出されている。

表13 工事費内訳書等の提出状況

(単位:件、百万円)

発注者
14年度
15年度
16年度
17年度
17年度
見直し前
見直し後
 
うち東日本会社分
うち中日本会社分
うち西日本会社分
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
道路公団等
49
99,938
105
169,813
90
232,288
55
142,001
191
204,513
75
77,650
44
51,208
72
75,654
9.9%
29.6%
22.6%
41.0%
24.5%
49.4%
30.2%
61.2%
75.8%
80.3%
84.3%
85.5%
54.3%
68.2%
87.8%
85.3%
首都公団等
54
90,516
33
29,111
48
69,153
16
10,474
9
4,824
 
100%
100%
100%
100%
100%
100%
100%
100%
100%
100%
阪神公団等
4
2,462
6
6,609
7
3,031
2
1,141
1
736
14.8%
17.1%
40.0%
47.1%
53.8%
41.7%
66.7%
75.7%
100%
100%
(注)
 各欄の下段の数値は、各発注者が各年度に行った契約全体から随意契約を除いたものに占める割合を示している。


イ 工事費内訳書等の確認状況等

 各公団等では、運用規程を定めるなどして、入札書の投函と同時に提出させた工事費内訳書等の内容等について、入札書を開札する前に確認することにしている。そして、その結果、公正な入札の執行に疑義が生じた場合には、入札手続を保留し、中立的な立場で学識経験等を有する第三者の意見を踏まえるなどした上、公正な入札を確保できないおそれがあると判断した場合には、入札を取りやめるなどし、公正取引委員会に通報等することにしている。
 表14は、各公団等における工事費内訳書等の見直し前後の活用状況を示したものである。
 道路公団等では、見直し前に比べて見直し後は、主な確認の方法が目視によるものから電算等によるものへと移行し、電算等によるものの割合は42.5%から62.3%へ増加している状況である。
 そして、道路公団等では、見直し後に実施した土木工事等の4件の入札において、工事費内訳書等に記載された単価を比較するなどして内訳書の内容を確認した結果、複数の会社間で単価項目の金額がほぼ一致しているなど通常では起こりえない事態が見受けられた。このため、第三者に対する意見照会、全入札者に対する聞取り調査を行うなどした結果、公正な入札を確保できないおそれがあると判断してこれらの入札を取りやめるなどしている。
 首都公団等及び阪神公団等では、見直しの前後とも、工事費内訳書等の内容の確認方法はすべて目視のみによるものであり、首都公団等では、82.8%が記載内容の不備や入札参加者が同一の様式を使用していないかなどの比較的簡易な確認に止まっている状況である。

表14 工事費内訳書等の活用状況
活用方法
該当する契約件数の割合(%)
道路公団等
 
首都公団等
阪神公団等
うち東日本会社分
うち中日本会社分
うち西日本会社分
見直し前
見直し後
見直し前
見直し後
見直し前
見直し後
A
提出された工事費内訳書等を電算に入力するなどして、その内容をチェックしている。
42.5
62.3
58.7
18.2
93.1
B
契約担当者及び積算担当者が目視により、その内容についてチェックしている。
56.8
37.7
41.3
81.8
6.9
17.2
100
100
C
契約担当者が目視により、その内容についてチェックしている。
0.7
D
工事費内訳書等の様式や記載事項の不備等について、チェックしている。
82.8
100
E
工事費内訳書の提出は受けたが、特に活用していない。

 工事費内訳書等の内容の確認は、入札した全業者から提出された膨大な量の単価等について行うことが望まれるが、限られた時間の中で行わなければならないことから、発注者に係る負担も大きいものとなっている。しかし、この確認により、前記のように、公正な入札を確保できないおそれがある事態を未然に排除できる場合があることから、各会社においては、確認に係る負担を軽減するため、特定の単価について入札者から電子データで提出を求めるなどして、確認作業の効率化に努め、効果的にこれを活用することが必要である。

(6)工事発注単位について

ア 工事発注単位の決定方法と決定状況

 今回の談合事件において、道路公団の理事等が鋼橋業者からの要請を受け、当初一括発注が予定されていた工事を分割して発注するように指示したとして検事総長に告発されたことを受け、道路公団では、17年8月、入札・契約制度の見直し策の一環として「工事発注単位の決定基準」(日本道路公団移行本部長通知)等を定めた。この基準によれば、工事発注単位の決定の際には、事業が全体的に効率的かつ経済的に遂行できること、工事工程上の時間的制約に適切に対応していることなど総合的に勘案して決定するものとされている。

表15 道路公団等におけるトンネル及び橋りょうにおける工事発注単位の状況

(単位:件)

態様
16年度
17年度
道路公団等
道路公団等
 
うち東日本会社分
うち中日本会社分
うち西日本会社分
同一のトンネル又は橋りょうを1つの契約として工事発注単位としているもの
70
77
16
13
15
147
同一のトンネル又は橋りょうを複数の契約に分割して工事発注単位としているもの
30
24
4
4
3
54
複数のトンネル又は橋りょうを1つの契約に統合して工事発注単位としているもの
58
73
17
17
17
131
158
174
37
34
35
332

 道路公団等が16、17両年度に発注しているトンネル工事102件、鋼橋工事106件、PC橋工事124件、計332件(当初契約金額計6073億8126万余円)の工事の工事発注単位の決定についてみたところ、表15のとおり、147件の工事において、同一のトンネル、橋りょう等の構造物を分割することなく工事発注単位としていた。
 一方、同一のトンネル、橋りょうを複数の契約に分割した工事発注単位としていた工事も54件見受けられ、これらについては、供用開始予定時期までに工事を完了させるため、工事を分割して発注することによりトンネルを両方の坑口から掘削し、トンネル全体の施工期間を短縮させるなどのためであるとしている。
 また、複数のトンネル又は橋りょうを1つの契約にまとめて工事発注単位としている工事も131件見受けられ、これらについては、共通する資機材や仮設備、配置人員などが効率的に運用できることから、現場条件が許す限り複数のトンネル又は橋りょう工事をまとめて発注することにより工事費が低減できるなどの経済的観点から行ったとしている。
 また、首都公団等が16、17両年度に発注しているトンネル工事26件、鋼橋工事22件、計48件(当初契約金額計712億8311万余円)及び阪神公団等が16、17両年度に発注しているトンネル工事4件、鋼橋工事11件、計15件(当初契約金額計115億4055万余円)の工事の工事発注単位の決定について調査した。その結果、一連の長大なトンネルや高架橋を施工する工事が主体となっているため構造物よりも用地の取得状況に応じて工事発注単位としていたり、交差する鉄道や国道あるいは地下埋設物等の管理者等との協議に要する時間の確保、安全・適切な現場管理や施工体制の確保のため、これら鉄道等との交差部において同一のトンネル、橋りょう等を分割して工事発注単位としていた。
 このように、工事発注単位の決定理由は、構造物の状況に加えて供用開始時期や経済性、さらに、用地の取得状況や鉄道等との交差の状況等、個々の工事の現場条件により異なっている状況である。
 会計検査院としては、各公団等における工事発注単位の決定方法等及び決定状況については、今後とも、個々の工事の現場条件を考慮し、それぞれ適切に決定されているか検査していくこととする。

イ 債務負担行為を伴う工事の発注単位

 上記のように、工事発注単位の決定に当たっては、より経済的な発注を目指して、複数の構造物を1つにまとめて発注するなどの事例も見受けられるところではあるが、一方で、前述したとおり、トンネル工事のように一連の長大な構造物を連続して施工する必要があり、その結果、一連の工事の完成に要する期間が債務負担行為の年限である4箇年度を超える場合には、各公団等共に当初から計画的に工事を年限内で終了できる工事と年限を超える工事とに分割して発注することになっていた。このような場合、年限内で終了できる工事については競争入札によって先行工事として発注し、年限を超える工事についても、先行工事の請負業者が設置した掘削機械や仮設備等を引き続き使用して施工することが工期の短縮、経費の節減等の観点から有利であるため、同一の業者に随意契約により発注している。道路公団等及び首都公団等が発注した、それぞれ計332件及び計48件のトンネル工事、鋼橋工事及びPC橋工事のうちこの事例に該当する工事は、表16のとおりそれぞれ8件及び17件あり、件数で2.4%及び35.4%、契約金額で5.5%及び40.3%となっている状況である。
 これらの随意契約工事は、債務負担行為に係る年限の制約がなければ、先行して発注した工事と一体にして競争入札に付すことが可能な工事であり、両公団等では、上記随意契約工事の積算において諸経費の減額調整を行うなどして予定価格が低減するよう配慮はしているものの、随意契約とされたことにより、当該工事については競争性等が伴わないものとなっている。
 また、阪神公団等が発注した同様の工事種別の15件については、一連の工事の完成に要する期間はすべて4箇年度以内として計画され、工事発注単位を分割して発注しているものはなかった。しかし、今後の発注においては、長期間にわたる工事も想定される。

表16 工事の完成に要する期間が債務負担行為の年限を超えるため、計画的に随意契約として発注された工事の件数及び契約金額

(単位:件、百万円)

発注者
工事種別
16年度
17年度
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
道路公団等
トンネル
1
1,436
4
25,646
5
27,082
2.5%
1.1%
6.5%
13.0%
4.9%
8.1%
鋼橋
2
1,341
2
1,341
3.3%
1.5%
1.9%
1.2%
PC橋
1
5,113
1
5,113
1.7%
6.7%
0.8%
3.2%
4
7,891
4
25,646
8
33,538
2.5%
2.6%
2.3%
8.3%
2.4%
5.5%
首都公団等
トンネル
8
19,790
6
8,208
14
27,998
53.3%
52.6%
54.5%
41.2%
53.8%
48.6%
鋼橋
3
744
3
744
30.0%
13.0%
13.6%
5.4%
PC橋
8
19,790
9
8,952
17
28,742
29.6%
43.4%
42.9%
34.9%
35.4%
40.3%
阪神公団等
トンネル
鋼橋
PC橋
合計
トンネル
9
21,226
10
33,854
19
55,081
16.1%
12.2%
13.2%
15.3%
14.4%
14.0%
鋼橋
2
1,341
3
744
5
2,086
2.4%
1.3%
5.4%
2.2%
3.6%
1.5%
PC橋
1
5,113
1
5,113
1.7%
6.7%
0.8%
3.2%
12
27,681
13
34,598
25
62,280
6.1%
7.8%
6.6%
10.3%
6.3%
9.0%
(注)
 各欄の下段の数値は、各発注者が各年度に行った工事種別ごとの契約全体に占める割合を示したものである。


 現在、各公団は民営化され、上記の予算総則による債務負担行為に関する年限等の制約がなく、より柔軟な発注工期の設定が可能となっている。したがって、今後、一連の長大な構造物を連続して施工する必要があるなど、完成に長期間を要する工事を発注する場合には、競争性・透明性・客観性等に留意して、より経済的な発注が可能となっている。

(7)鋼橋業者に対する違約金又は損害賠償の請求

 公正取引委員会は、18年3月、鋼橋業者43社に対して同法第48条の2第1項に基づき課徴金の納付命令を行い、同年4月中に納付命令を不服として審判手続の開始請求を行った3社を除いた40社に係る課徴金納付命令(課徴金額計81億7871万円)が確定している。そして、課徴金は各鋼橋業者ごとの契約ごとに算定されており、これにより、当該鋼橋業者等が談合を行ったとされる工事契約(121件、当初契約金額計1774億7562万円)が明らかになった。
 上記課徴金納付命令の対象となった工事等は、すべて道路公団が発注したものであり、各工事で被った損害についての賠償請求の権利は、当該工事で取得した資産とともに、同公団から、原則として建設中の橋りょう等については東日本、中日本及び西日本各高速道路株式会社(以下「3会社」という。)に、既に建設された橋りょう等については独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(以下「機構」という。)に、それぞれ当該契約に係る契約上の地位とともに承継されており、3会社及び機構では、承継した工事について、当該納付命令が確定したものから、鋼橋業者に対し違約金等を請求していくこととしている。
 違約金の請求については、15年6月10日以降に入札公告等を行った契約は、工事の完了時の最終契約金額の10分の1に相当する額を違約金として徴収する条項(以下「違約金条項」という。)を設けているため、18年9月、3会社及び機構では、既に課徴金納付命令が確定している鋼橋業者40社のうち、請け負った工事が完了して最終契約金額が確定し、違約金の請求が可能な31件の契約の請負者である鋼橋業者25社に対して、違約金条項に基づく違約金の請求を行ったところである。また、15年6月9日以前に入札公告等を行った違約金条項が設けられていない契約については、民法(明治29年法律第89号)や独占禁止法に基づき、損害賠償の請求を行うことを検討しており、道路公団において入札談合等関与行為を行った者に対しても、賠償責任が認められたものについては、民法に基づき損害賠償請求を行う方針であるとしている。
 したがって、既に課徴金納付命令が確定している契約のうち、まだ工事が完了していないなどにより違約金等の請求を行っていない90件の契約については、3会社及び機構において工事が完了するなどして違約金等の請求が可能となった時点で速やかに当該契約に係る鋼橋業者に対して違約金等の請求を行う要があると認められる。また、勧告に応じていないことなどにより、課徴金納付命令を受けていない鋼橋業者が行っていた工事についても、3会社及び機構において事態の判明を待って適時に適正な違約金等の請求を行う要があると認められる。