| 会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)外務本省 | (項)外務本省 | 
| 部局等 | 外務本省 | ||
| 債権の種類 | 帰国費貸付金債権 | ||
| 債権の概要 | 国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律により領事官が貸し付けた帰国費に係る債権 | ||
| 帰国費貸付金債権 | 1億7447万円(平成18年度末) | ||
| 上記のうち延滞債権 | 1億7447万円 | ||
 外務省では、国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律(昭和28年法律第236号。以下「国援法」という。)、領事事務処理要領(外務省大臣官房領事移住部領事課制定)等に基づき、生活の困窮のため帰国を希望するなどの日本国民に対し、在外公館において、帰国のため必要な旅費(以下「帰国費」という。)の貸付けを行っている。国援法等によれば、帰国費の貸付け及び償還は次のように行うこととなっている。
 〔1〕 領事官は、帰国費の貸付けを受けようとする者から申請があった場合、申請者が自己の負担において帰国することができず、かつ、その帰国を援助するなどの必要があると認めるときは、帰国費を貸し付ける(以下、この貸付金を「帰国費貸付金」という。)。
 〔2〕 貸付けを受けて帰国した者(以下「帰国者」という。)は、帰国後直ちに外務本省に対して帰国届を提出し、速やかに帰国費貸付金を償還しなければならない。
 〔3〕 帰国者が帰国費貸付金の全部又は一部を償還することができないときは、国援法により、帰国者の配偶者又は扶養義務者(以下「親族」という。)は償還されなかった部分を償還しなければならず、この場合、外務大臣は親族中の何人に対しても償還を請求できる。
外務本省では、帰国費貸付金債権の管理を次のように行っている。
 〔1〕 外務本省は、帰国届の提出を受けた後、帰国者に対し、帰国費貸付金の償還を求める文書、納入告知書及び帰国費貸付金返済申出書(以下「返済申出書」という。)の用紙を送付する。そして、納付期限を納入告知書を発行した日付から20日後にしている。
 〔2〕 帰国者は、納入告知書に基づき帰国費貸付金を償還し、納付期限までに全額の償還ができないときは、返済申出書を外務本省に返送して、帰国費貸付金の債務を承認するとともに、分割して償還する旨又は償還ができない旨及びその理由等を申し出る。
 〔3〕 外務本省では、納付期限までに帰国費貸付金を償還しない帰国者に対して、原則として、翌年度から毎年度1回、文書により督促するとともに、返済申出書の用紙を送付する。また、原則として、督促を複数回行っても帰国者が帰国費貸付金を償還することができないときは、毎年1回、文書により親族に償還を請求する。
 〔4〕 外務本省では、個人別に作成した貸付申請書等のファイルに上記の事跡を記録するなどして債権管理を行っている。
 帰国費貸付金債権は私法上の債権に当たるため、時効の中断がないまま納付期限から10年が経過したときは、債権の消滅時効が完成し、債務者による時効の援用があれば、その債権は消滅することとなる。民法(明治29年法律第89号)では、時効の中断事由として、請求、承認等が規定されている。そして、請求については、催告は6箇月以内に裁判上の請求等をしなければ、時効の中断の効力は生じないとされている。
  また、債権管理事務取扱規則(昭和31年大蔵省令第86号)では、消滅時効が完成し、債務者の時効の援用が見込まれるなどの場合、債権の全部又は一部を消滅したものとみなして整理する(以下、この整理を「みなし消滅」という。)とされている。
帰国費貸付金の年度別貸付額、回収額及び債権残高は表1のとおりとなっている。
| / | 平成9年度 | 10年度 | 11年度 | 12年度 | 13年度 | 14年度 | 15年度 | 16年度 | 17年度 | 過去9年間の小計 | 18年度 | 過去10年間の合計 | |
| 貸付 | 件数 | 3 | 6 | 11 | 7 | 26 | 31 | 29 | 18 | 34 | 165 | 25 | 190 | 
| 金額 | 463 | 691 | 3,038 | 1,036 | 2,578 | 3,886 | 2,722 | 1,865 | 3,054 | 19,339 | 2,592 | 21,932 | |
| 回収額 | 4,630 | 2,473 | 2,888 | 4,643 | 4,088 | 3,429 | 3,499 | 6,241 | 4,755 | 36,651 | 4,126 | 40,777 | |
| 債権残高 | 件数 | 628 | 618 | 610 | 593 | 601 | 615 | 629 | 632 | 643 | / | 641 | / | 
| 金額 | 190,919 | 189,136 | 189,286 | 185,680 | 184,089 | 184,037 | 182,081 | 177,705 | 176,004 | / | 174,471 | / | |
そして、平成18年度末における債権641件、その残高1億7447万余円は、全額が延滞となっていて、その額も多額となっている。これを貸付年度別にみると、表2のとおり管理が長期にわたっているものが多数を占めている。
| / | 昭和29年度 | 昭和30年度〜39年度 | 昭和40年度〜49年度 | 昭和50年度〜59年度 | 昭和60年度〜平成8年度 | 平成9年度〜17年度(過去9年間) | 平成18年度 | 合計 | 
| 件数 | 2 | 356 | 114 | 45 | 17 | 91 | 16 | 641 | 
| 貸付 | 19 | 85,103 | 37,990 | 32,673 | 6,503 | 10,546 | 1,634 | 174,471 | 
本院は、外務本省において会計実地検査を行った。そして、これらの帰国費貸付金債権を対象として、合規性等の観点から、帰国者への督促や親族への償還の請求が的確に行われているか、回収の見込みのある債権と見込みのない債権を適切に選別しているかなどに着眼し、帰国者個人別に作成されたファイル等の書類により検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 外務本省では、帰国者個人別に作成されたファイルに、帰国者に対する納入告知書の送付及びその後の督促、親族に対する償還の請求等の事跡をその都度記録しているものの、償還されていない債権を一覧できるようにして管理していなかった。このため、管理している延滞債権の全体の状況を十分に把握することができず、個別の債権に対して帰国者への督促や親族への償還の請求等(以下、これらを「督促等」という。)を行うべき期日を適時適切に把握することが困難となっていた。
  また、帰国費の貸付申請時に、又は、帰国後に外務本省が送付した文書に対する帰国者若しくは親族からの問い合わせなどにより、電話番号を把握していても、電話により償還を求めることはしていなかった。
18年度における督促等の状況についてみたところ、18年度末における債権641件のうち、督促等が行われていないものが472件となっていた。そこで、前記のとおり外務本省において貸付けの翌年度から督促等を行うことにしていることから、18年度を除く9年度から17年度までの過去9年間(以下「過去9年間」という。)における督促等の状況を検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 督促等の有無について
 前記のとおり、外務本省では、督促等を原則として毎年度1回行うことにしているのに、過去9年間に貸し付けられたもので18年度末までに償還されていない債権91件のうち、分割返済中であるなどのため督促等を行う必要のないものを除く85件の中には、18年度に帰国者及び親族に対する督促等を行っていないものが12件あった。
  また、上記の91件のうち、外務本省で償還の請求を行うこととしていた親族がいないものなどを除く82件の中には、貸付時から18年度末までに親族に対する償還の請求を行っていないものが21件あった。
イ 督促等までの期間について
過去9年間に貸し付けられた債権165件(上記の償還されていない91件を含む。)のうち、督促等を行っていたものは114件となっていた。これらについて、帰国者あての納入告知書を送付してから、最初に督促等を行うまでの期間を検査したところ、その期間は1年未満のものが49件、1年以上2年未満のものが57件、2年以上のものが8件となっており、最大で3年半以上経過しているものも見受けられた。
在カンボジア大使館では、平成12年9月にカンボジアからの帰国者に対して、160,650円を貸し付けている。帰国者から帰国届が提出されなかったため、外務本省は同年11月及び13年2月に帰国者の住所を調査した。しかし、住所が判明しなかったため、同年3月に親族の住所を調査した。その結果、帰国者の長男及び長女の連絡先が判明したことから、外務本省は同年5月に帰国者あての納入告知書等を帰国者の長男気付で送付した。長男は納入告知書等の受取を拒否したが、外務本省はその時点で督促等を行わず、納入告知書等の送付から3年半以上経過した17年1月に帰国者の長女に督促等を行った。その後、帰国者から電話で連絡があり、外務本省では、帰国者に督促等を行い、18年5月に全額が償還された。
 外務本省の行っている文書による督促等は、6箇月以内に裁判上の請求等をしない限り、時効の中断の効力は生じない。しかし、外務本省では、返済申出書の返送等による債務の承認がない場合でも、毎年度1回文書による督促等を行うことにより時効を中断することができると考え、時効中断に十分取り組んでいなかった。
  また、18年度末までに債務者による債務の承認がないなど既に消滅時効が完成したと認められる債権は、18年度末で496件、1億4508万余円となっていた。そして、このうち、外務本省において回収の見込みがないと認識し、18年度末までに5年以上督促等を行わないままとなっているなどしている債権は413件1億0546万余円となっていた。また、外務本省ではこれらの債権についてみなし消滅の処理を行っていなかった。このため、帰国費貸付金債権の中には回収の見込みのない延滞債権が混在している状況となっていた。
以上のように、帰国費の貸付けは海外において生活の困窮のため帰国を希望するなどした日本国民を対象としていて、回収には困難な面もあるが、外務本省において、延滞債権に対する督促等が的確に行われていなかったり、時効中断に十分取り組んでいなかったり、回収の見込みのない延滞債権を混在させたまま管理が長期にわたったりしている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、外務本省において、債権回収の具体的な実施方法を明確に定めていなかったこと、債権回収の重要性に対する意識が十分でなく、回収すべき債権と回収の見込みのない債権を適切に整理していなかったことなどによると認められた。
 上記についての本院の指摘に基づき、外務省では、次のような帰国費貸付金債権の回収に努める処置を講じた。
 ア 19年9月に「帰国費貸付金に係る債権管理の手引き」を制定するなどして、債権回収の具体的な実施方法を明確に定め、延滞債権については、帰国者及び親族に対して、適時に督促等を行ったり、時効中断の措置を執ったりするなど、的確な督促等を行うこととした。
 イ 督促等を行わないまま延滞が長期にわたるなどしている債権について、督促等を行うことなどにより、順次、回収に努め、必要に応じてみなし消滅等を行うなど帰国費貸付金債権を適切に整理した上で、債権の回収を積極的に進めることとした。