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厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの


(74) 厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目
厚生保険特別会計(年金勘定)
(項)保険給付費
平成19年度は、
年金特別会計(厚生年金勘定)
(項)保険給付費
部局等
社会保険庁
支給の相手方
300人
老齢厚生年金の支給額の合計
382,891,803円
(平成16年度〜19年度)
不適正支給額
107,398,873円
(平成16年度〜19年度)

1 保険給付の概要

(1) 厚生年金保険の給付

 厚生年金保険(前掲「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」 参照)において行う給付には、老齢厚生年金等がある。

(2) 老齢厚生年金

ア 老齢厚生年金の支給の原則

老齢厚生年金では、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)により、厚生年金保険の適用事業所に使用された期間(以下「被保険者期間」という。)を1月以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者等が65歳以上である場合に受給権者となる。

イ 特別支給の老齢厚生年金

 特別支給の老齢厚生年金では、当分の間の特例として、65歳未満であっても原則60歳以上で被保険者期間を1年以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者等が受給権者となっている。

ウ 特別支給の老齢厚生年金の給付額

 特別支給の老齢厚生年金の給付額は、〔1〕受給権者の被保険者期間及びその期間における報酬を基に算定される額(以下「基本年金額」という。)と〔2〕配偶者等について加算される額との合計額となっている。

エ 特別支給の老齢厚生年金の支給の停止

(ア) 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、厚生年金保険の適用事業所に常用的に使用されて被保険者となった場合において、総報酬月額相当額(注) と基本月額(基本年金額を12で除して得た額)との合計額が280,000円を超えるときなどには、基本年金額の一部又は年金の額の全部の支給を停止することとなっている。

 総報酬月額相当額  標準報酬月額と、受給権者が被保険者である日の属する月以前1年間の標準賞与額(総額)を12で除して得た額との合算額

(イ) この場合の支給停止の手続は次のとおりである。
〔1〕 厚生年金保険の適用事業所の事業主は、常用的に使用している者が受給権者であるときは、その者の生年月日、基礎年金番号、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届に、その者から提出を受けた年金手帳を添えて地方社会保険事務局の社会保険事務所等に提出する。
〔2〕 社会保険事務所等は、これを調査確認の上、届出内容を社会保険庁にオンラインで伝送し、同庁は、これに基づいて受給権者に係る年金の支給停止額を算定の上、支給額を決定する。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点及び対象

 全国の47社会保険事務局の309社会保険事務所等(平成19年3月末現在)のうち、27社会保険事務局の164社会保険事務所等管内において、16年に特別支給の老齢厚生年金の裁定を受けて年金の額の全部を支給されている受給権者等531,647人のうち、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認されて調査の要があると認められた者が1,543人見受けられた。そこで、合規性等の観点から、これらの受給権者等を使用している744事業所について、被保険者資格取得届等の提出は適正になされているかに着眼して、16年度から19年度までの間における特別支給の老齢厚生年金等の支給の適否を検査した。

(2) 検査の方法

 本院は、上記の27社会保険事務局の164社会保険事務所等において、事業主から提出された厚生年金保険に係る届け書等の書類により会計実地検査を行った。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に社会保険事務所等に調査及び報告を求め、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(3) 不適正支給の事態

 検査したところ、23社会保険事務局の108社会保険事務所等管内における219事業所の300人については、当該事業所において常用的に使用されて厚生年金保険の被保険者資格要件を満たしていて、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が280,000円を超えるなどしているのであるから、年金の額の一部又は全部の支給を停止すべきであったのに、被保険者資格取得届が提出されなかったなどのため年金の支給停止の手続が執られていなかった。このため、特別支給の老齢厚生年金等の受給権者300人に対する支給(支給額382,891,803円)について107,398,873円が適正に支給されておらず、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、受給権者又は事業主が制度を十分理解していなかったり、誠実でなかったりして、事業主が前記の届出を怠るなどしていたのに、上記の108社会保険事務所等において、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによると認められる。
 上記の事態について、一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 社会保険庁では、受給権者Aに対して平成16年6月に裁定を行い、同年9月分から18年10月分まで特別支給の老齢厚生年金を全額支給していた。
 しかし、Aは16年9月からB会社に短時間就労者として就職し、17年1月以降は労働時間、労働日数等からみて常用的に使用されていた。したがって、社会保険事務所に対して厚生年金保険の被保険者資格取得届の提出が必要であるのに、B会社の事業主がその提出を怠っていた。このため、支給が停止されるべき年金の一部1,542,000円が減額されておらず、適正に支給されていなかった。
 なお、これらの不適正支給額については、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。

 これらの不適正支給額を地方社会保険事務局ごとに示すと次のとおりである。

地方社会保険事務局名
社会保険事務所等
本院の調査に係る受給権者等数
不適正受給権者数
左の受給権者に支給した年金の額
左のうち不適正支給額
 
 
千円
千円
北海道
札幌東 
等7
36
12
24,330
5,907
青森
青森
等2
16
2
6,015
842
岩手
盛岡
等2
17
5
9,057
772
山形
寒河江
 
6
3
6,178
581
群馬
前橋
等5
68
16
25,439
6,861
埼玉
浦和
等7
69
41
46,630
11,269
千葉
船橋
等4
108
10
6,146
1,693
東京
神田
等18
359
48
66,959
15,427
神奈川
港北
等7
26
16
19,504
10,388
福井
福井
等3
24
5
7,841
1,250
山梨
甲府
等3
39
11
12,894
7,518
長野
長野南
等6
43
12
13,574
4,367
岐阜
岐阜南
等3
13
5
3,674
1,208
三重
等4
85
15
18,648
6,219
京都
上京
等2
8
3
3,757
641
大阪
天満
等7
55
9
4,552
1,255
兵庫
須磨
等5
49
20
18,565
4,823
奈良
奈良
等3
24
14
20,486
4,951
徳島
徳島南
等3
19
12
21,562
10,237
高知
高知東
等3
26
8
7,850
2,658
福岡
東福岡
等8
25
12
20,364
5,206
熊本
熊本東
等2
48
13
11,392
1,340
宮崎
宮崎
等3
18
8
7,464
1,976
108箇所
1,181
300
382,891
107,398