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国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの


(175)−(205) 国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)厚生労働本省
(項)国民健康保険助成費
部局等
厚生労働本省(交付決定庁)(平成13年1月5日以前は厚生本省)
11都府県(支出庁)
交付の根拠
国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
交付先(保険者)
市13、特別区5、町13、計31市区町
財政調整交付金の概要
市町村の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付するもので、一定の基準により財政力を測定してその程度に応じて交付する普通調整交付金と、特別の事情を考慮して交付する特別調整交付金がある。
上記に対する交付金交付額の合計
48,647,469,000円
(平成12年度〜17年度)
不当と認める交付金交付額
567,945,000円
(平成12年度〜17年度)

1 交付金の概要

(1) 国民健康保険の財政調整交付金

 国民健康保険(前掲「国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの」 参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。

(2) 普通調整交付金

 普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費、保健事業費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対し、その不足を公平に補うことを目途として交付するものである。そして、平成12年度からは、介護保険制度の導入に伴い、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)に介護納付金(注1) に係るもの(以下「介護分」という。)を加えて交付されている。
 普通調整交付金の交付額は、当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。

 介護納付金  介護保険法(平成9年法律第123号)の規定に基づき、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する納付金


(3) 特別調整交付金

 特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付するものであり、レセプト点検特別交付金、エイズ予防特別交付金、保健事業費多額特別交付金等がある。

(4) 交付手続

 財政調整交付金の交付手続については、〔1〕交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書及び実績報告書を提出し、〔2〕これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、これを厚生労働省に提出し、〔3〕厚生労働省はこれに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、29都道府県の363市区町村において、12年度から17年度までに交付された財政調整交付金について、合規性等の観点から、交付額が法令等に基づき適切に算定されているかに着眼して、実績報告書及びその基礎資料等の書類により会計実地検査を行った。そして、適切でないと思われる事態があった場合には、更に都道府県を通じ市町村に事態の詳細について報告を求め、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(2) 検査の結果

 検査したところ、11都府県の31市区町において、交付金交付額計48,647,469,000円のうち計567,945,000円が過大に交付されていたり交付の必要がなかったりしていて不当と認められる。
 これを態様別に示すと次のとおりである。

ア 普通調整交付金の交付が過大となっているもの

(ア) 調整対象需要額を過大に算定しているもの

15市区町(注2)  167,896,000円

(イ) 調整対象収入額を過小に算定しているもの

8市町 375,760,000円


イ 特別調整交付金の交付が過大となっていたり、交付の必要がなかったりしているもの

(ア) レセプト点検の実施に係る交付要件を満たしていないもの

1町 1,500,000円

(イ) エイズ予防に係る費用を過大に算定しているもの

1市 1,965,000円

(ウ) 保健事業費対象額を過大に算定しているもの

7町(注2)  20,824,000円


 ア(ア)及びイ(ウ)のうちの1町は重複している。


 このような事態が生じていたのは、上記の31市区町において制度の理解が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりしたため適正な実績報告等を行っていなかったこと、また、これに対する前記11都府県の審査が十分でなかったことによると認められる。

(3) 各態様の詳細

 前記の各態様の詳細を示すと次のとおりである。

ア 普通調整交付金の交付が過大となっているもの

(ア) 調整対象需要額を過大に算定しているもの

 調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分に係る需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費(注3) 、老人保健医療費拠出金(以下「老健拠出金」という。)及び保健事業費の合計額から療養給付費等負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。
 このうち、老健拠出金は、老人保健法(昭和57年法律第80号)の規定に基づき、各保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する拠出金である。また、保健事業費は、健康相談、保健施設の運営等被保険者の健康の保持増進のために必要な事業に要した費用の額である。そして、この費用の額は、〔1〕年間の保健事業費支出額から保健事業に係る国庫補助金、保健施設に係る利用料等の収入額を控除した額(以下「保健事業費対象額」という。)と、〔2〕当該市町村の年間平均被保険者数に700円を乗じて得た額(以下「保健事業費基準額」という。)のうちいずれか少ない方の額とすることとなっている。ただし、被保険者に配布する温泉保養施設利用券に係る経費は上記の保健事業費支出額から除くこととなっている。

 医療給付費  療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額


 7都府県の15市区町では、普通調整交付金の実績報告等に当たり、基礎資料からの転記を誤ったため老健拠出金を過大に算定したり、保健事業費支出額から除くこととなっている被保険者に配布する温泉保養施設利用券に係る経費を含めるなどして保健事業費を過大に算定したりなどしていたため、調整対象需要額が過大に算定されていた。
 これを都府県別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

 
都府県名
交付先
(保険者)
年度
交付金交付額
左のうち不当と認める額
摘要
 
 
 
 
千円
千円
 
(175)
栃木県
足利市
16
1,051,340
1,044
保健事業費を過大にしていたもの
(176)
 同
佐野市
16
464,031
1,118
(177)
東京都
新宿区
16
191,196
2,124
(178)
 同
墨田区
16
643,956
2,456
(179)
 同
品川区
16
169,906
1,342
(180)
 同
北区
16
1,530,201
1,336
(181)
 同
葛飾区
16
1,662,953
2,366
(182)
京都府
京都市
13〜15
28,743,598
28,619
(183)
大阪府
泉南郡田尻町
14、15
157,262
28,462
老健拠出金を過大にしていたもの
(184)
 同
泉南郡岬町
14、15
436,486
72,561
(185)
兵庫県
西宮市
12〜15
4,874,677
17,598
保健事業費を過大にしていたもの
(186)
 同
西脇市
15、16
527,053
1,723
(187)
 同
宍粟市
17
270,150
2,855
医療給付費を過大にしていたもの
(188)
愛媛県
今治市
16
1,176,503
2,998
保健事業費を過大にしていたもの
(189)
鹿児島県
肝属郡串良町(注4)
16
219,882
1,294
 
(ア)の計
 
 
42,119,194
167,896
 

 平成18年1月1日以降は鹿屋市


 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>  老健拠出金を過大にしていたもの

 岬町では、平成14、15両年度の調整対象需要額の算定に当たり、基礎資料からの転記を誤ったため、老健拠出金が過大に算定されていた。
 したがって、適正な老健拠出金及びこれを基に算出した調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると計363,925,000円となり、計72,561,000円が過大に交付されていた。

(イ) 調整対象収入額を過小に算定しているもの

 調整対象収入額は、医療分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、その所得を基に算定される応能保険料額とを合計した額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。
 このうち、医療分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定される。
 そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日現在一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額とすることとなっている。ただし、同一世帯に属する被保険者の所得金額の合計額が別に計算される金額(以下「所得限度額」という。)を超えて高額である世帯(以下「所得限度額超過世帯」という。)がある場合には、当該世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額に一定の方法により計算した率を乗じて得た額を、上記一般被保険者の所得金額の合計額から控除して、算定基礎所得金額とすることとなっている。そして、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について医療分と同様の方法で算定することとなっている。
 5府県の8市町では、普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額を過大にしたり、保険料の賦課期日現在一般被保険者である者の前年における所得金額を過小に計算したりしていたため、算定基礎所得金額が過小に計算されるなどし、その結果、調整対象収入額が過小に算定されていた。
 これを府県別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

 
都府県名
交付先
(保険者)
年度
交付金交付額
左のうち不当と認める額
摘要
 
 
 
 
千円
千円
 
(190)
群馬県
邑楽郡大泉町
17
120,982
6,015
所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
(191)
静岡県
静岡市
15、16
3,386,186
326,582
所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたものなど
(192)
大阪府
摂津市
15〜17
987,687
13,937
所得金額を過小にしていたもの
(193)
 同
大阪狭山市
17
214,534
7,692
(194)
兵庫県
丹波市
17
533,559
7,905
(195)
 同
川辺郡猪名川町
15
81,801
6,309
(196)
 同
神崎郡福崎町
15
108,254
2,726
所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
(197)
佐賀県
佐賀市
17
1,058,805
4,594
 
(イ)の計
 
 
6,491,808
375,760
 

 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>  所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの

 静岡市では、平成15、16両年度の普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額を過大に計算していたため、算定基礎所得金額が過小に計算されるなどしていた。
 したがって、適正な算定基礎所得金額及びこれを基に算出した調整対象収入額等に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると計3,059,604,000円となり、計326,582,000円が過大に交付されていた。

イ 特別調整交付金の交付が過大となっていたり、交付の必要がなかったりしているもの

(ア) レセプト点検の実施に係る交付要件を満たしていないもの

 レセプト点検特別交付金は、レセプト点検に積極的に取り組み、定められた内容点検を行っている市町村において、1月から12月までの間にレセプト点検により過誤調整を行った額を年間平均被保険者数で除した額(以下「一人当たり財政効果評価額」という。)が2年連続して前年以上となっているなどの交付要件を満たす場合に交付するものである。
 兵庫県神崎郡神崎町(注5) では、13年度に、レセプト点検特別交付金について、上記の交付要件を満たしているとして、実績報告等を行っていたが、この実績報告等は前年及び前々年の年間平均被保険者数の算定を行わないまま、一人当たり財政効果評価額を算定したものであった。
 したがって、適正な年間平均被保険者数に基づいて算定すると、一人当たり財政効果評価額が2年連続して前年以上となっていなかったため、上記の交付要件を満たしておらず、レセプト点検特別交付金1,500,000円は交付の必要がなかった。

(198)
兵庫県
神崎郡神崎町
13
1,500
1,500
一人当たり財政効果評価額が2年連続して前年以上となっていないもの

 平成17年11月7日以降は神崎郡神河町


(イ) エイズ予防に係る費用を過大に算定しているもの

 エイズ予防特別交付金は、エイズ予防に関する知識の普及啓発のため、パンフレットを作成又は購入するなどした場合に交付するものである。
 そして、この交付額は、エイズ予防に関するパンフレットの作成又は購入等に要した費用(以下「対象経費」という。)に基づいて算定することとなっている。
 群馬県前橋市では、16、17両年度に、エイズ予防特別交付金の実績報告等に当たり、購入したパンフレットには、エイズ予防に関連しない生活習慣病予防に関する内容も含まれていたのに、その購入に要した費用全額を含めていたため、対象経費が過大に算定されていた。
 したがって、適正な対象経費に基づいてエイズ予防特別交付金の交付額を算定すると計4,068,000円となり、計1,965,000円が過大に交付されていた。

(199)
群馬県
前橋市
16、17
6,033
1,965
対象経費を過大にしていたもの

(ウ) 保健事業費対象額を過大に算定しているもの

 保健事業費多額特別交付金は、保健事業費対象額が保健事業費基準額を超える場合に交付するものである。
 そして、この交付額は、保健事業費対象額から保健事業費基準額を控除して得た額の2分の1(15年度以前は4分の1)の額となっている。
 4県の7町では、保健事業費多額特別交付金の実績報告等に当たり、保健事業費支出額から除くこととなっている被保険者に配布する温泉保養施設利用券に係る経費を含めるなどしていたため、保健事業費対象額が過大に算定されていた。
 これを県別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

(200)
栃木県
那須郡馬頭町(注6)
16
2,030
1,749
保健事業費支出額を過大にしていたもの
(201)
兵庫県
美方郡温泉町(注7)
15、16
6,038
4,022
(202)
福岡県
京都郡苅田町
15、16
6,578
5,104
(203)
鹿児島県
揖宿郡頴娃町
16
2,914
1,184
(204)
 同
曽於郡有明町(注8)
16
2,170
2,170
(189)
 同
肝属郡串良町(注4)
16
2,618
2,618
(205)
 同
肝属郡南大隅町
16
6,586
3,977
 
(ウ)の計
 
 
28,934
20,824
 

 平成17年10月1日以降は那須郡那珂川町
 平成17年10月1日以降は美方郡新温泉町
 平成18年1月1日以降は志布志市

 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>  被保険者に配布する温泉保養施設利用券に係る経費を含めていたもの

 串良町では、平成16年度の保健事業費対象額の算定に当たり、被保険者に配布する温泉保養施設利用券に係る経費を保健事業費支出額に含めていたため、保健事業費対象額を過大に算定していた。
 したがって、適正な保健事業費対象額を算定すると保健事業費基準額を超えないこととなり、保健事業費多額特別交付金2,618,000円は交付の必要がなかった。

 
ア、イの合計
 
 
48,647,469
567,945