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  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

労働関係調査委託事業の実施に当たり、国の委託費と都道府県の事業経費との経理を区分し、根拠資料を整備することなどにより、当該事業の実施及び会計経理を適正化するよう改善させたもの


(1) 労働関係調査委託事業の実施に当たり、国の委託費と都道府県の事業経費との経理を区分し、根拠資料を整備することなどにより、当該事業の実施及び会計経理を適正化するよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)厚生労働本省
(項)厚生労働本省
部局等
厚生労働本省
契約名
労働関係調査委託(平成13年度〜17年度)
契約の概要
各都道府県における労働情勢の把握等
契約の相手方
47都道府県知事
支払額
9172万余円
(平成13年度〜17年度)
委託事業の調査報告事項等との関連性が明確でないなどしていた支払額
7821万円
(平成13年度〜17年度)

1 労働関係調査委託事業の概要

(1) 労働関係調査委託事業の概要

 厚生労働省(以下「本省」という。)では、厚生労働省設置法(平成11年法律第97号)第4条等の規定に基づき、労働組合その他労働に関する団体に係る連絡調整、労働関係の調整等に関する業務(以下「労政事務」という。)を所管している。
 そして、本省では、労政事務の一環として、都道府県知事に対し、労働関係調査委託事業(以下「地方調査委託事業」という。)の実施を委託している。

(2) 地方調査委託事業の実施内容

 本省と都道府県知事との間で締結される地方調査委託事業に係る委託契約書(以下「委託契約書」という。)によると、地方調査委託事業における委託調査の対象、方法及び期間等については、「本省において指示するところによる」とされている。そして、労働関係調査地方公共団体委託費交付要領(以下「交付要領」という。)によると、地方調査委託事業における委託調査の内容は、各都道府県における労働情勢の把握等となっており、詳細は本省において「必要と認める事項とする」とされている。
 このように、地方調査委託事業では、委託契約書及び交付要領上のいずれにおいても委託調査の対象事項等が明示されていないが、本省では、毎年度、本省から各都道府県知事に対し調査・報告を求めている事項は次のようなものであるとしている。
〔1〕 メーデーの実施状況
〔2〕 中小・中堅企業春季賃上げ要求・妥結状況
〔3〕 中小・中堅企業夏季一時金要求・妥結状況
〔4〕 中小・中堅企業年末一時金要求・妥結状況
〔5〕 春闘期における各都道府県の労働情勢等
 そして、委託契約書及び交付要領によると、都道府県知事は、地方調査委託事業に係る委託費(以下「地方調査委託費」という。)を地方調査委託事業以外の事務の経費には使用しないこととされ、また、地方調査委託費の経理状況を常に明確にしておくとともに、その経理について責任を有するものとされている。一方、本省は、必要と認めたときは、地方調査委託費の経理状況について監査を行い又は都道府県知事に対し必要書類の提出を求めることができることとされている。

(3) 地方調査委託費の交付、精算等の手続

 地方調査委託費の交付、精算等の手続は、委託契約書及び交付要領によると、おおむね次のとおりとなっている。
(ア) 本省では、各年度の開始前に、各都道府県知事に対し、新年度における地方調査委託事業の実施について委託する旨を文書をもって通知する。
(イ) 本省では、委託契約書により、各都道府県知事との間で、毎年4月に所定の委託契約書により当年度における地方調査委託事業の実施について委託契約を締結し、毎年5月から6月頃に、各都道府県知事に対し一律200,000円の地方調査委託費を交付する。
(ウ) その後、本省では、11月から12月頃に、ほとんどの都道府県知事との間で委託契約の変更契約を締結し、地方調査委託費の追加交付を行う。
(エ) 都道府県知事は、適宜の方法により、本省に対し、随時、地方調査委託事業に係る調査結果の報告を行う。
(オ) 各都道府県知事は、受託期間が終了したときは、速やかに委託費実績報告書(以下「実績報告書」という。)を作成し、これを本省に提出して地方調査委託費の精算手続を行う。

(4) 地方調査委託費の予算・決算額

 平成13年度から17年度までの間における地方調査委託費の予算・決算額(契約額)の推移は、次表のとおりとなっている。

表 地方調査委託費の予算・決算額
(単位:円)
年度
予算額
決算額(契約額)
平成13
22,206,000
19,099,000
14
21,116,000
18,227,000
15
21,116,000
18,137,000
16
21,097,000
18,122,000
17
21,116,000
18,137,000
106,651,000
91,722,000

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、本省において、13年度から17年度までの間に支払われた地方調査委託費を対象として、合規性等の観点から、地方調査委託事業の実施及び地方調査委託費の会計経理が適正に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行い、実績報告書等の書類により検査した。
 その結果、適正でないと思われる事態があったことから、更に本省を通じて全47都道府県に対し調査、報告及び関係資料の提出を求めるなどして検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 各都道府県における地方調査委託費の会計経理の状況について

 各都道府県では、いずれも本省から交付された地方調査委託費を各都道府県における労政事務主管部局の他の経費と区分して経理(以下「区分経理」という。)することとしておらず、地方調査委託費と他の経費を一体的に経理していた。
 そこで、本院は、実績報告書に記載された地方調査委託費の支払額及び使途と当該都道府県の調査報告事項との関連性、地方調査委託費に関する根拠資料の有無等について更に検査した。
 その結果、地方調査委託費が地方調査委託事業の調査報告事項等との関連性が明確でない労政事務主管課長等の会議、職員研修等の経費に使用されていたり、どのような目的で使用されたのかが根拠資料上明確でなかったりしていたものが多数見受けられた。そして、これらの額は、46道府県において、13年度から17年度までの間で7821万余円となっていた。
 上記について事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

 A県では、本省において都道府県雇用対策主管課長会議を開催するので雇用対策主管課長等に出席願いたい旨の本省職業安定局長名の通知を受け、「平成17年度における職業安定行政の重点事項についてその他」を議題とする当該会議に同県労政事務主管部局の職員2名を出席させ、その出張旅費97,160円を地方調査委託費から支払っていた。
 しかし、上記の会議は職業安定行政の重点事項等に関する会議であり、地方調査委託事業の目的、調査報告事項等との間に明確な関連性は認められなかった。

イ 本省における地方調査委託費の交付、精算等に係る審査について

 前記のとおり、委託契約書によると、本省は、必要と認めたときは、地方調査委託費の経理状況について監査を行い又は必要書類の提出を求めることができるとされている。
 しかし、本省では、委託契約書等に基づき収集した情報については、各都道府県知事から文書による調査報告を受けていたものの、地方調査委託費の経理状況について監査を行ったことはなく、また、地方調査委託費の交付及び精算に当たり、各都道府県における地方調査委託事業の事業計画、実施状況、地方調査委託費の所要額に係る根拠資料等の提出を求め又はヒアリングを実施するなどの適切かつ十分な審査を行っていなかった。
 このため、本省では、上記アのような各都道府県の労政事務主管部局における地方調査委託事業の実施状況、地方調査委託費の会計経理の状況等の実態について十分把握することのないまま、その交付及び精算の手続を行っていた。

 以上のとおり、地方調査委託費が地方調査委託事業における調査報告事項等との関連性が明確でない用途に使用されていたり、どのような目的で使用されたのかが根拠資料上明確でなかったりしている事態が多数生じているのに、本省において、このような会計経理の実態について十分把握することのないまま、地方調査委託費の交付、精算等を行っていたことは適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

ア 本省において

(ア) 委託契約書及び交付要領において、地方調査委託事業の目的、調査報告事項、地方調査委託費の使途等について具体的に明示しておらず、また、地方調査委託費の経理について、各都道府県における労政事務主管部局の他の経費との区分経理を行うとともに、根拠資料を整備し、一定期間保存すべきことなどについて明示していなかったこと
(イ) 次のような事由から、各都道府県における地方調査委託事業の実施状況、地方調査委託費の会計経理の状況等についての実態把握が十分でなく、地方調査委託事業の適正な実施及び地方調査委託費の適正な会計経理について適切な指導を行っていなかったこと
〔1〕 地方調査委託費の交付、精算等に当たり、適時に地方調査委託事業の事業計画、実施状況、地方調査委託費の所要額に関する根拠資料等の提出を求め、又はヒアリングを実施するなどの適切かつ十分な審査を行っていなかったこと
〔2〕 委託契約書の規定に基づく監査を実施していなかったこと

イ 各都道府県において

(ア) 従来から、各労政事務主管部局において、地方調査委託費と各都道府県の労政事務に係る他の経費との区分経理を行っていなかったこと
(イ) 地方調査委託費の精算に当たり、毎年度、十分な根拠資料のない実績報告書を作成して本省に提出するなどの不適切な経理処理を行っていたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、本省では、次のとおり、地方調査委託事業の適正な実施及び地方調査委託費の会計経理の適正化を図るとともに、各都道府県における地方調査委託事業の実施状況、地方調査委託費の会計経理の状況等の実態を十分に把握して適切な指導を行うための処置を講じた。
ア 委託契約書及び交付要領を見直し、地方調査委託事業の目的、調査報告事項、地方調査委託費の使途等の具体的内容を明示するとともに、各都道府県労政事務主管部局における他の経費と地方調査委託費との区分経理を行うこと、また、根拠資料を整備し、これを一定期間保存することなどについて明確化することとした。
イ 地方調査委託費の交付、精算等に当たり、各都道府県の労政事務主管部局から、適時に地方調査委託事業の事業計画、実施状況、地方調査委託費の所要額に関する根拠資料等の提出を求め又はヒアリングを実施するなどして適切かつ十分な審査を実施することとした。
ウ 監査計画を策定し、各都道府県に対し委託契約書に基づく監査を定期的に実施することとした。