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  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

林道工事における植生工の実施に当たり、施工後に植物の生育判定を行って生育不良等の場合には補修工事を行う仕組みを整備させることなどにより、工事の目的が達成されるよう改善させたもの


(5) 林道工事における植生工の実施に当たり、施工後に植物の生育判定を行って生育不良等の場合には補修工事を行う仕組みを整備させることなどにより、工事の目的が達成されるよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)林野庁
(項)林業振興費
(項)森林環境保全整備事業費
(項)農林漁業用揮発油税財源身替林道整備事業費
(項)森林居住環境整備事業費
(項)山林施設災害復旧事業費
部局等
林野庁
補助の根拠
森林法(昭和26年法律第249号)、農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律(昭和25年法律第169号)等
補助事業者
15県(うち事業主体 13県)
間接補助事業者
(事業主体)
市41、町25、村15、森林組合1、計82事業主体
補助事業
森林居住環境整備、林業生産流通総合対策施設整備、森林環境保全整備、農林漁業用揮発油税財源身替林道整備、林道施設災害復旧
補助事業の概要
林道の開設、拡張等による切土、盛土等の法面の風化、侵食等を防止して法面の安定を図るなどのため、法面に種子を吹き付けるなどして発芽等させた植物の植生によって法面を被覆するもの
工事の目的を達成していない植生工の施工面積
294,205m2 (平成16、17両年度)
上記に対する植生工の直接工事費
5億5550万余円
 
上記に対する国庫補助金相当額
3億5496万円
 

1 補助事業の概要

(1) 林道工事における植生工

 林野庁では、森林法(昭和26年法律第249号)等に基づき、国土の保全、水源のかん養、木材等の林産物の供給等の森林の機能に応じた森林整備を計画的に推進するなどのため、森林居住環境整備事業等の一環として、林道の開設、拡張及び災害復旧の工事(以下「林道工事」という。)を行う地方公共団体等に対して、毎年度多額の国庫補助金を交付している。
 そして、林野庁では、林道工事の設計、施工等を実施するために必要な技術上の指針を示した「林道技術基準」(平成10年9林野基第812号林野庁長官通知)等を定めており、これによれば、林道工事における法面保護工は、現地の諸条件に応じて、植生工、吹付工、枠工、落石対策工等の工種を適用して実施することとされている。
 このうち植生工は、切土、盛土等の法面に種子を吹き付けるなどして発芽等させた植物の植生によって法面を被覆し、風化、侵食等を防止して法面の安定及び緑化により景観の保持を図る工種である。

(2) 植生工に係る出来形管理基準及び生育判定の実施

 林野庁は、「林道工事標準仕様書及び施工管理基準について」(平成元年元林野基第679号林野庁長官通知)により、植生工の出来形管理基準を定めており、植被率(注1) 70%以上を満足させなければならないとしている。
 前記の林道技術基準等によれば、植被率の測定基準等は、林道事業に類似する他の事業の諸基準等によることができるとされている。
 この林道事業類似の基準としては、「道路土工のり面工・斜面安定工指針」(社団法人日本道路協会編)等があり、これによれば、一般道路における法面の植生工については、植生工の施工後一定期間を経過した時点で植物生育による成績の判定を行う(以下、このことを「生育判定」という。)こととされている。
 これは、植生工が、植生に時間を要し、工事の完了によって直ちに成果物が得られるものではなく、その目的を達成するためには、生育判定を行って生育不良等の場合には補修工事を行うことが必要となるためである。

 植被率  一定面積の土地を覆っている植生の当該土地に占める割合をいう。


2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 林道工事における植生工は、法面保護工の主な工種として多数実施されており、その経費も毎年度多額に上っている。そこで、植生工の施工後の状況について、有効性等の観点から、植生工の目的である法面の安定及び緑化により景観の保持が図られているかに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、19道県(注2) 及び管内の市町村等において会計実地検査を行った。そして、19道県及び管内の329市町村等の計348事業主体が平成16、17両年度に植生工を施工した林道工事3,074件(植生工施工面積4,129千m2 、植生工に係る直接工事費計84億4246万余円、これに対する国庫補助金相当額計51億9707万余円)を対象に、現地確認、現況写真等により植生工の施工後1年から2年経過後の植物の生育状況を検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 13県(注3) 及び15県(注4) 管内の82市町村等計95事業主体が植生工を施工した林道工事396件(植生工施工面積294,205m2 、植生工に係る直接工事費計5億5550万余円、これに対する国庫補助金相当額計3億5496万円)において、植物が発芽しなかったり、枯死したりなどしていたため、植被率が70%未満となっており、法面の安定及び緑化により景観の保持を図るという植生工の目的が達成されていなかった。
 そこで、前記の19道県において植生工に係る生育判定等の実施状況をみたところ、これを実施していたのは3道県(注5) のみであり、残りの16県(注6) では、生育判定を行って生育不良等がある場合には補修工事を行うという仕組みを整備していなかった。

<事例>

 A市では、林道災害復旧事業の一環として、平成16年度に林道B線16年災害復旧工事を工事費714万円(国庫補助金621万円)で実施している。この工事は、台風の豪雨により被災した林道を復旧するため、切土工、法面保護工等を施工するもので、このうち法面保護工として植生工756m2 を直接工事費279万円(国庫補助金相当額243万円)で実施している。
 19年5月の会計実地検査において、植生工の施工後の植物の生育状況を検査したところ、同市においては、生育判定を行って生育不良等の場合には補修工事を行うなどの対策を講じていなかったことから、上記756m2 のうち37.8m2 しか発芽していない状況(植被率5%)となっていた。

 上記のように、植生工施工箇所の一部において、植物が発芽しなかったり、枯死したりなどしていて、法面の安定及び緑化により景観の保持を図るという工事の目的が達成されていない事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 事業主体である県及び市町村等において、生育判定を行って生育不良等の場合には補修工事を行う仕組みを整備していなかったこと
イ 林野庁において、生育判定を行って生育不良等の場合には補修工事を行うことについて、事業主体である県及び市町村等に対する指導が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、林野庁では、19年8月に都道府県に対して通知を発し、事業主体である都道府県及び市町村等において、林道事業における植生工に係る生育判定の目安、時期等を示した生育判定基準等を定め、これにより生育判定を行って生育不良等の場合には補修工事を行う仕組みを整備する処置を講じた。

 19道県  北海道、岩手、山形、千葉、神奈川、富山、長野、岐阜、静岡、島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
 13県  岩手、山形、千葉、神奈川、長野、岐阜、静岡、島根、岡山、愛媛、大分、宮崎、鹿児島各県
 15県  岩手、山形、千葉、神奈川、長野、岐阜、静岡、島根、岡山、徳島、香川、愛媛、大分、宮崎、鹿児島各県
 3道県  北海道、富山、山口両県
 16県  岩手、山形、千葉、神奈川、長野、岐阜、静岡、島根、岡山、徳島、香川、愛媛、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県