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  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第13 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

港湾施設の整備工事における潜水士船を用いた捨石均し等工費の積算を施工の実態に適合するよう改善させたもの


(8) 港湾施設の整備工事における潜水士船を用いた捨石均し等工費の積算を施工の実態に適合するよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)国土交通本省
(項)河川等災害復旧事業費
港湾整備特別会計(港湾整備勘定)
(特定港湾施設工事勘定)
(項)港湾事業費等
(項)エネルギー港湾施設工事費
部局等
直轄事業
補助事業
7地方整備局等
5地方整備局等
事業及び補助の根拠
公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)、港湾法(昭和25年法律第218号)等、企業合理化促進法(昭和27年法律第5号)
事業主体
直轄事業
補助事業
7地方整備局等
都、県6、市1、村2
17事業主体
工事の概要
港湾施設の整備工事として、潜水士船を用いて捨石マウンドを築造するために捨石均し等を行うもの
工事費
直轄事業
補助事業
(国庫補助金交付額
307億7478万余円
170億7807万余円
120億5699万余円)
(平成17、18両年度)
(平成17、18両年度)
捨石均し等工費の積算額
直轄事業
補助事業
15億5013万余円
7億8801万余円
(平成17、18両年度)
(平成17、18両年度)
低減できた積算額
直轄事業
補助事業
(国庫補助金相当額
4686万円
2546万円
2027万円)
(平成17、18両年度)
(平成17、18両年度)

1 工事の概要

(1) 捨石マウンド築造工事の概要

 国土交通省では、港湾整備事業の一環として、国が実施する直轄事業又は地方公共団体等の港湾管理者等が実施する国庫補助事業として、防波堤等の外郭施設及びその内側にある岸壁等の係留施設を整備する工事を毎年度多数実施している。この施設整備のうち、ケーソン等を据え付けるための基礎として海底に捨石を投入して台形状のマウンド(以下「捨石マウンド」という。)を築造する工事は、平成17、18両年度に、直轄事業として163工事、補助事業として428工事、計591工事あり、次のように施工されている。
〔1〕 捨石マウンドを築造するため捨石を海上から投入する。
〔2〕 投入直後の捨石マウンドは大きな凹凸があるため、潜水士が捨石を所要の高低差以内に並べ替えるなどして捨石均しを施工する。
〔3〕 捨石マウンドの法面等に潜水士が潜水士船に設置されたウインチを使いながら被覆石を必要に応じて敷き並べる被覆均しを施工する(以下、捨石均しと被覆均しを合わせて「捨石均し等」という。)。
 上記の捨石均しは、ケーソン等の荷重を均等に捨石マウンドへ伝達させるために、また、被覆均しは、捨石マウンドの波浪等による浸食等を防止するために施工するものである。


(2) 積算基準及び捨石均し等工費の積算

 港湾施設の整備工事は、国土交通省が制定した「港湾請負工事積算基準」及びこれを参考にして港湾管理者等が制定した積算基準(以下、これらを「積算基準」という。)により積算されており、積算基準の中で捨石均し等の歩掛かりを定めている。そして、捨石均し等に要する工事費(以下「捨石均し等工費」という。)は、潜水士の1日当たりの就業時間を8時間、潜水士船の1日当たりの運転時間(コンプレッサー等の稼動時間)を6時間とし、潜水士、船上でコンプレッサーの運転管理に従事する潜水送気員、船上で潜水士との連絡業務に従事する潜水連絡員各1人(船の操縦は潜水送気員又は潜水連絡員が行う。)の計3人を基本的な作業員構成とするなどして積算することとされている。
 そして、捨石均し等工費の具体的な算定については、水深区分ごとに、下記のとおり行うこととされている。
〔1〕 1日当たりの潜水士船の運転損料、燃料費、労務費等の費用を算出する。
〔2〕 潜水士船1時間当たりの標準均し能力に潜水士船の1日当たりの運転時間、水深区分能力係数等を乗じるなどして1日当たりの施工面積を算出する。
〔3〕 〔1〕 の1日当たりの費用を〔2〕 の1日当たりの施工面積で除して1m2 当たりの施工単価を算出する。
〔4〕 〔3〕 の1m2 当たりの施工単価に捨石均し等面積を乗じて捨石均し等工費を算定する。

(3) 潜水作業に関する規則及び潜水作業の方法

 潜水士が長時間潜水作業を行い、そのまま浮上すると減圧症が発症するため、「高気圧作業安全衛生規則」(昭和47年労働省令第40号。以下「高気圧規則」という。)では、水深10m以上での潜水作業について、潜水深度、潜降開始から潜水作業を終了して浮上を開始するまでの潜水時間等に応じて、作業終了後に海面まで直接浮上するのではなく、浮上途中の定められた水深ごとに一定時間留まる減圧時間(以下「水中減圧時間」という。)を設けることとなっている。また、潜水作業後に一定時間重激な業務に従事させない時間(以下「業務制限時間」という。)を設けることが定められている。
 積算基準における1人の潜水士による作業の方法は、高気圧規則に従って、潜水作業を行い、潜水作業後に所定の水中減圧時間及び業務制限時間を取ることとなっており、1日当たりの水深区分ごとの潜水時間、水中減圧時間等の非作業時間及び潜水時間率を示すと、表1のとおりとなっている。

表1 1日当たりの水深区分ごとの潜水時間、非作業時間及び潜水時間率
水深区分
潜水時間
(A)分
非作業時間
(B)分
潜水時間率
(A)/(A+B)%
10m未満
310
50
86
10〜15m未満
280
80
78
15〜20m未満
240
120
67
20〜25m未満
200
160
56
25〜30m未満
170
190
47
(注)
 潜水時間率は水深区分能力係数と同義である。


2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 捨石マウンド築造工事は外洋波浪の影響を直接受ける防波堤等の外郭施設などにおいて多数施工されており、海象条件が厳しく工程管理の困難な現場における工事であること、一方で、これらの工事が行われる海域は水深が深くなるため、高気圧規則による作業時間の制限を受けることとなる。そして、積算基準では、潜水士船の運転時間に占める潜水時間が水深の増大とともに減少するものとなっていること、また、実際の工事においても2人の潜水士による捨石均し等の施工が見受けられることから、経済性等の観点から、積算基準は施工の実態を正しく反映しているかに着眼して、捨石均し等の施工状況について検査した。

(検査の対象及び方法)

 前記の捨石マウンド築造工事として、直轄事業として8地方整備局等(注1) が施行した163工事、工事費総額513億5308万余円及び補助事業として52港湾管理者等(注2) が施行した428工事、工事費総額965億2876万余円(国庫補助金444億4547万余円)、計591工事、工事費総額計1478億8185万余円(国庫補助金444億4547万余円)を対象として会計実地検査を行った。
 検査に当たっては、直轄及び補助事業を実施している事務所等に赴いて、作業日報等の捨石均し等の施工に関する書類により潜水作業を行った潜水士の人数等の確認を行うなどして、捨石均し等における潜水作業の施工状況等を検査した。

(検査の結果)

 これら591工事における捨石均し等の施工状況等は、次のとおりとなっていた。
 施工方法は、積算基準で設定している施工方法以外に、1隻の潜水士船に潜水士2人、潜水送気員、潜水連絡員各1人の計4人が乗船して、2人の潜水士が交互に潜水して捨石均し等を施工する方法(以下「2人交互潜水方法」という。)と2人の潜水士が同時に潜水して捨石均し等を施工する方法(以下「2人同時潜水方法」という。)の2通りの方法が見受けられた(参考図参照)
 捨石均し等の水深区分ごと、施工方法別の割合は、表2のとおり、水深15m未満では1人の潜水士による施工が過半数を占めているのに対して、水深15m以上では2人の潜水士による施工が過半数を占めていた。

表2 施工方法別の割合
(単位:%)

水深区分
施工方法
10m未満
10〜15m未満
15〜20m未満
20〜25m未満
25〜30m未満
全体
1人潜水
66
52
35
18
21
55
2人潜水
33
45
60
75
70
43
(2人交互潜水)
(11)
(26)
(45)
(67)
(61)
(24)
(2人同時潜水)
(22)
(19)
(15)
(8)
(9)
(19)
(注)
 潜水士数不明の工事があるため、100%にはならない。


 この2人の潜水士による施工が過半数を占める水深15m以上での捨石均し等を伴う工事としては、直轄事業として7地方整備局等(注3) が施行した82工事、工事費307億7478万余円及び補助事業として10港湾管理者(注4) が施行した53工事、工事費総額170億7807万余円(国庫補助金120億5699万余円)、計135工事、工事費総額計478億5286万余円(国庫補助金120億5699万余円)が施行されていた。そして、捨石均し等工費については、積算基準に基づき、直轄事業分で15億5013万余円、補助事業分で7億8801万余円と算定されていた。
 これら水深15m以上の施工箇所における135工事の施工状況等についてみると、上記の事態に加えて次のような状況となっていた。
 施工箇所は、波浪の影響を受ける防波堤等の外郭施設の整備工事が123工事で91%、岸壁等の係留施設の整備工事が12工事で9%となっており、2人の潜水士による施工方法別の割合は、2人交互潜水方法が79%、2人同時潜水方法が21%となっていた。
 そして、2人の潜水士で捨石均し等を施工した理由を調査したところ、主な理由は、水深が深いことから高気圧規則で潜水時間が制限を受けること、波浪の影響を受けやすい施工箇所では工程管理が困難で作業の予定が立てにくいことから潜水士船1隻当たり及び1日当たりの潜水時間を長く確保し、効率的な施工を行うためであった。
 以上のように、水深15m以上の施工箇所における捨石均し等は、潜水時間が大幅に制限されることなどから過半数が2人の潜水士で施工されており、この2人の潜水士による施工方法のうち、2人同時潜水方法では水中で潜水士同士のエアーホースが絡まる危険性があるなどのため、2人交互潜水方法が前記のとおり大多数を占めている状況であった。
 そこで、この2人交互潜水方法で捨石均し等を施工したとすると、1日当たりの潜水時間は、1人の潜水士で潜水作業した場合に比べて、表3のとおり、大幅に増加することとなり、捨石均し等工費は、1人の潜水士の労務費の増加分を考慮しても、それ以上に1日当たりの潜水時間が増加して1日当たりの施工面積が増加することから、1人の潜水士で積算した場合に比べて経済的になると認められた。

表3 水深区分ごとの潜水時間及び潜水時間率
水深区分
潜水時間(分)
潜水時間率(%)
(積算基準)
1人潜水
 
2人潜水
(積算基準)
1人潜水
 
2人潜水
15〜20m未満
240
330
67
92
20〜25m未満
200
270
56
75
25〜30m未満
170
240
47
67

 したがって、水深15m以上における捨石均し等の積算において、2人交互潜水による施工の実態を反映していない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(低減できた積算額)

 上記により、本件各工事の捨石均し等工費を2人交互潜水方法で修正計算すると、積算額を直轄事業分で約4686万円、補助事業分で約2546万円(国庫補助金相当額約2027万円)低減できたと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、国土交通省において、水深15m以上における捨石均し等を2人の潜水士で施工している状況が多数見受けられるのに、この施工状況を十分把握しておらず、積算基準に反映していなかったことによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省では、19年9月に、捨石均し等工費の積算に当たっては、積算基準において水深15m以上の水深区分に2人交互潜水の基準を設定し、これを適用して積算することとする文書を発し、同年10月以降発注する工事から適用することとする処置を講じた。

 8地方整備局等  東北、関東、北陸、近畿、中国、九州各地方整備局、北海道開発局、内閣府沖縄総合事務局
 52港湾管理者等  東京都、大阪府、宮城、山形、茨城、神奈川、富山、静岡、愛知、三重、兵庫、鳥取、岡山、広島、山口、愛媛、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県、横浜、川崎、横須賀、大阪、呉、今治、福岡、北九州、八代、上天草、天草、鹿児島、奄美、石垣、宮古島各市、長島、南種子、屋久、瀬戸内、和泊各町、三島、十島、大和、宇検各村、四日市港、那覇港両管理組合、新居浜港務局、大阪湾臨海環境整備センター
 7地方整備局等  東北、関東、北陸、近畿、九州各地方整備局、北海道開発局、内閣府沖縄総合事務局
 10港湾管理者  東京都、山形、広島、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県、鹿児島市、三島、十島両村

(参考図)

2人交互潜水方法の概念図

2人交互潜水方法の概念図