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  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第13 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

河川の現況に基づく流量によりはん濫解析等を行うことにより、洪水時の迅速な避難の確保と水害による人的被害の軽減を目的とした浸水想定区域図の作成が適切なものとなるよう改善させたもの


(10) 河川の現況に基づく流量によりはん濫解析等を行うことにより、洪水時の迅速な避難の確保と水害による人的被害の軽減を目的とした浸水想定区域図の作成が適切なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目
治水特別会計(治水勘定)
(項)総合流域防災事業費
部局等
国土交通本省
補助の根拠
河川法(昭和39年法律第167号)
水防法(昭和24年法律第193号)
補助事業者
(事業主体)
2府県
補助事業
総合流域防災
補助事業の概要
洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、水害による人的被害を軽減することを目的として、水防法に基づき洪水予報河川又は水位情報周知河川に指定された河川等について実施する浸水想定区域図の作成に必要な調査等
はん濫解析等が適切に行われていない事業費
3963万円
(平成17、18両年度)
上記に対する国庫補助金交付額
1321万円
 

1 事業の概要

 平成16年に、局所的な集中豪雨等により、集中豪雨の影響を受けやすく流域面積が小さい中小河川における洪水が数多く発生し、甚大な被害がもたらされた。これを契機として、17年5月に水防法(昭和24年法律第193号)が改正され、国土交通省及び都道府県では、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、水害による人的被害を軽減することを目的として、浸水が想定される区域図の作成に必要な調査等の事業を実施することとなった。そして、国土交通省では、これらの事業に要する費用の一部として国庫補助金を都道府県に交付している。
 国土交通大臣又は都道府県知事は、水防法等に基づき、17年度から21年度までに、洪水予報河川(注1) 又は水位情報周知河川(注2) に指定する河川において、当該河川がはん濫した場合に浸水が想定される区域(以下「浸水想定区域」という。)を指定し、浸水想定区域及び浸水した場合に想定される水深を表示した図面(以下「浸水想定区域図」という。)を作成し、一般に公表するとともに、関係市町村及び特別区の長に通知することとなっている。
 そして、国土交通大臣又は都道府県知事は、国土交通省河川局制定の浸水想定区域図作成マニュアル、中小河川浸水想定区域図作成の手引き等に基づき、河川の現況調査や洪水によるはん濫の解析等(以下、これらを「はん濫解析等」という。)を行い浸水想定区域図を作成することとなっている。浸水想定区域図の作成に当たっては、河川の流下能力やダム等の洪水調節能力等を前提としてはん濫解析等を行うこととなっている。

 洪水予報河川  国土交通大臣又は都道府県知事が、水防法に基づき、流域面積が大きい河川で洪水により国民経済上重大な損害を生じるおそれがあるとして指定した河川
 水位情報周知河川  国土交通大臣又は都道府県知事が、水防法に基づき、流域面積が小さく洪水予報を行う時間的余裕がない洪水予報河川以外の河川で、洪水により国民経済上重大な損害又は相当な損害を生じるおそれがあるとして指定した河川

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 浸水想定区域図は、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、水害による人的被害を軽減することを目的として作成されることから、住民にとって河川の現況に基づく正確な情報を提供することが重要となっている。
 そこで、効率性等の観点から、浸水想定区域図が河川の現況に基づく正確なものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、22道府県(注3) において会計実地検査を行った。そして、22道府県が17、18両年度に実施した浸水想定区域図の作成に必要な調査等の事業129件、事業費12億9268万余円(国庫補助金4億3089万余円)を対象として、実績報告書等の書類により検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、2府県(注4) が実施した事業5件、事業費3963万余円(国庫補助金1321万余円)において、はん濫解析等が適切に行われておらず、浸水想定区域図が河川の現況に基づくものとなっていない事態が見受けられた。
 すなわち、浸水想定区域図の作成に当たり、計画中で着工時期も未定となっているダムの洪水調節能力を見込むなどしていて、河川の現況に基づかない流量によりはん濫解析等を行っていた。
 この結果、河川の現況に基づく流量によりはん濫解析等を行った場合には、浸水が想定される箇所であるにもかかわらず浸水想定区域に含まれていない箇所があるなど、浸水想定区域の範囲が正確なものとなっておらず、浸水想定区域図の作成が適切に行われていなかった。
 また、中小河川は集中豪雨の影響を受けやすく、短時間に局地的に雨が降ることにより河川の流量が最大となり、はん濫、洪水が短時間で発生する傾向があることから、河川の現況に基づく正確な浸水想定区域を住民に周知しないと、住民の避難を効果的に確保することができないおそれがあると認められた。
 上記の事態について事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

 A県は、浸水想定区域を指定するためのはん濫解析等を行う際に、Bダム建設関連の付け替え道路等の準備工事が進ちょくしていること、見直しが検討されていたBダム本体の事業について平成17年7月にC地方整備局が継続の方針を表明したこと、Bダム建設について地元市町村の強い要望があったことなどからBダムの本体着工が近いと考え、流域上流に計画中のBダムの洪水調節能力(950m3 /s)を見込んで、はん濫解析に用いる流量を1,900m3 /sとして17年度に浸水想定区域図を作成していた。
 しかし、Bダムは、完成時期はもとより本体着工時期も未定となっていた。
 そこで、Bダムの洪水調節能力(950m3 /s)を見込まず、はん濫解析に用いる流量を2,850m3 /sとしてはん濫解析をしたとすると、浸水想定区域の範囲が現行より大幅に拡大し、浸水深が大きくなると見込まれる。
 また、上記の浸水想定区域図は、国が14年度にBダムの洪水調節能力を見込まずに作成、公表した下流部の浸水想定区域図との整合性が取れていないことなどから、いまだ公表されていない状況となっていた。

 したがって、河川の現況に基づかない流量によりはん濫解析等を行っていたため、浸水想定区域の範囲が正確なものとなっていない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、府県において、浸水想定区域図の作成に当たり、河川の現況に基づいた正確な調査を行うことの重要性について認識が十分でなかったことによると認められる。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省では、19年9月に、都道府県に対して通知を発し、浸水想定区域図の作成に当たり、計画中、事業実施中のダム等がある場合には、工事の進ちょく状況を踏まえ、ダム等の洪水調節能力を適切に評価するなどして浸水想定区域図公表時点における河川の現況に基づく流量によりはん濫解析等を行うよう技術的助言を実施し、浸水想定区域図の作成が適切に行われるよう処置を講じた。

 22道府県  北海道、京都、大阪両府、岩手、宮城、秋田、茨城、埼玉、新潟、静岡、愛知、三重、兵庫、奈良、鳥取、山口、徳島、香川、長崎、大分、宮崎、鹿児島各県
 2府県  京都府、三重県