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配電設備の改修工事の実施に当たり、設計が適切でなかったため、配電盤等の地震時の機能の維持が確保されていない状態になっているもの


(345) 配電設備の改修工事の実施に当たり、設計が適切でなかったため、配電盤等の地震時の機能の維持が確保されていない状態になっているもの

科目
建設付帯設備費(資産)
除却費(撤去費用)
受託事業費(営業外)
部局等
成田国際空港株式会社本社
工事名
成田空港管理ビル低圧幹線設備改修工事(共有)
工事の概要
成田空港管理ビルの配電設備を改修するため、平成18年度に配電盤、分電盤、ケーブル等の更新等を行うもの
工事費
116,602,500円
(当初契約額 117,600,000円)
 
請負人
株式会社NAAファシリティーズ
契約
平成18年10月 随意契約
支払
平成19年5月
不適切な設計となっている工事費
19,065,000円
 

1 工事の概要

 成田国際空港株式会社(以下「成田会社」という。)では、平成18年度に国土交通省東京航空局成田空港事務所(以下「空港事務所」という。)、千葉県警察成田国際空港警察署(以下「空港警察署」という。)等が入居している成田空港管理ビル(以下「管理ビル」という。)に電気を供給するための配電盤、分電盤等の配電設備を改修するなどの工事を工事費116,602,500円(当初契約額117,600,000円)で実施している。
 この工事は、管理ビル内の各階事務室、廊下等の照明、コンセント等へ電気を供給している配電設備が設置後30年以上経過して電気の供給機能が低下したため、受変電室に設置されている配電盤3面、各階の電気室等に設置されている分電盤25面、これらを接続するケーブル等を更新することなどにより機能の回復を図るために行うものである。
 成田会社では、本件配電盤及び分電盤(以下「配電盤等」という。)の設計、製作及び設置は請負人に行わせることとし、請負人から提出された製作図及び耐震設計計算書(以下「設計計算書等」という。)を審査、承諾し、これにより工事を施工させていた。
 そして、設計計算書等では、配電盤等の設置に当たっては、床又は壁にアンカーボルトで固定することにより地震時の水平移動、転倒等を防止し、耐震性を確保することとし、このアンカーボルトについては、「建築設備耐震設計・施工指針」(国土交通省国土技術政策総合研究所及び独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)等に基づき耐震設計計算を行うこととしていた。
 上記の耐震設計指針等によれば、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力(注) 等を算出する際に用いる係数である設計用標準震度については、表1のとおり、建築物や設備機器等の地震時又は地震後の用途等を考慮して重要度の高い順に耐震クラスS、同A及び同Bの3段階に分類された中から適切な耐震クラスを適用し、機器を設置する階数により所定の係数を用いることとしている。

表1 設備機器の設計用標準震度(係数)
建築設備機器の耐震クラス
耐震クラスS
耐震クラスA
耐震クラスB
上層階、屋上及び塔屋
2.0
1.5
1.0
中間階
1.5
1.0
0.6
地階及び1階
1.0
0.6
0.4

 そして、成田会社では、本件配電盤等の設置に当たり請負人と協議した際、設計用標準震度については、耐震クラスAを適用することとし、これに基づき請負人から提出された設計計算書等を審査した結果、アンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力(注) を下回っていたことから、本件配電盤等は地震時の機能の維持が確保され安全であるとして、これにより施工させていた(参考図参照)

2 検査の結果

 本院は、成田会社本社において、合規性等の観点から、設計が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件工事について、契約図書、設計計算書等の書類により検査したところ、アンカーボルトの設計が次のとおり適切でなかった。
 すなわち、耐震クラスについては、前記のとおり、耐震設計指針等において、建築物や設備機器等の地震時又は地震後の用途等を考慮して適用することとされており、震災等の際の災害応急対策活動に必要な施設において、その施設の目的に応じた活動を行うために必要な設備機器については耐震クラスSを適用することとされている。そして、本件管理ビルに入居している空港事務所、空港警察署等は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)等により災害応急対策活動を行うための施設とされており、配電盤等は施設の目的に応じた活動を行うために必要な設備機器であることから、耐震設計計算に当たっては、耐震クラスAより重要度の高い耐震クラスSを適用すべきであったと認められる。
 そこで、配電盤等のアンカーボルトについて、耐震設計指針に基づいて耐震クラスAを耐震クラスSとして改めて耐震設計計算の報告を求め、その報告内容を確認したところ、表2のとおり、配電盤等4面(配電盤1面及び分電盤3面)を固定しているアンカーボルト(径12mm、埋込長さ90mm、1面当たり4本、計16本)は、地震時にこれらに作用する引抜力が許容引抜力を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

表2 アンカーボルトに作用する引抜力
名称
供給先
 アンカーボルトに
 地震時に作用する     許容引抜力
 引抜力
配電盤
分電盤15面
 14.16kN/本    >    9.20kN/本
電気室分電盤
空港事務所等
 10.53kN/本    >    9.20kN/本
空港警察署分電盤
空港警察署
 10.54kN/本    >    9.20kN/本
空港警察署分電盤
同上
 13.62kN/本    >    9.20kN/本

 このため、配電盤等4面について、地震時に移動又は転倒して破損し、配電盤等に接続しているケーブル等が断線するなどした場合には、これらケーブル等により接続されている負荷設備に電気が供給されないこととなる。
 このような事態が生じていたのは、成田会社において、配電盤等のアンカーボルトの設計に当たり、耐震設計指針の理解が十分でなかったことなどによると認められる。
 したがって、配電盤等4面は、アンカーボルトの設計が適切でなかったため、地震時の機能の維持が確保されておらず、配電盤等4面及び接続しているケーブル等に係る工事費相当額19,065,000円が不当と認められる。

 引抜力・許容引抜力  「引抜力」とは、機器に地震力が作用する場合に、ボルトを引き抜こうとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。その数値が設計上許される上限を「許容引抜力」という。


(参考図) 配電盤等概念図

(参考図)配電盤等概念図