科目
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固定資産
事業用固定資産
有形固定資産
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部局等
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独立行政法人水資源機構
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財務諸表作成の根拠
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独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)
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財務諸表に計上すべき固定資産の価額の基礎となる工事費
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89億8363万円
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(平成19年10月24日付け 独立行政法人水資源機構理事長あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴機構では、農業、水道及び工業用水を各利水者に安定的に供給するため、愛知用水公団が建設し、昭和43年に水資源開発公団が承継した豊川用水事業に係るダム、堰等の水源、取水施設及び幹線、支線水路等の施設(建設費総額503億余円。以下、これらの施設を「豊川用水施設」という。)を、平成15年10月1日の設立時に水資源開発公団から承継し、管理している。
豊川用水施設は、独立行政法人水資源機構会計規程(水機規程平成15年度第15号。以下「会計規程」という。)により事業用固定資産に計上されており、18事業年度末における当該資産価額は、構築物61億2629万余円、機械装置5億3544万余円など合計85億3359万余円となっている。
豊川用水施設の管理は、豊川用水施設等に関する施設管理規程(水公規程平成14年度第11号。以下「管理規程」という。)等に基づいて行うこととされている。管理規程等では、ダム、幹線水路等の農業、水道及び工業用水の共用施設については貴機構が自ら管理することとし、支線水路(延長約548km)、畑地かんがい施設等の農業用水の専用施設(以下、これらを「農業専用施設」という。)については、豊川総合用水土地改良区等4土地改良区に管理を委託することとしている。
豊川用水施設は、昭和43年の管理開始から相当の年月が経過しており、老朽化に伴う改築工事等が順次実施されてきている。
水資源開発公団では、平成2年2月に豊川水系が水資源開発促進法(昭和36年法律第217号)に基づく水資源開発水系に指定されたことから、自ら管理するダム、幹線水路等の施設について、事業実施計画に基づき、豊川用水施設緊急改築事業(元年度〜10年度)、豊川用水二期事業(11年度〜20年度)により改築等を行っている。そして、豊川用水二期事業については、貴機構が引き続き実施している。
一方、管理を委託している農業専用施設については、周辺環境の変化や、経年劣化による漏水事故等の頻発により、施設の修繕等の維持管理を行っていた土地改良区の負担が増加し、収支を圧迫する要因となっていたことから、同公団では、昭和61年度に抜本的対策を検討したが、豊川水系が水資源開発水系に指定されていなかったため、同公団により施設を改築することはできない状況であった。
このため、62年度に愛知県が事業主体となった「県営かんがい排水事業豊川総合用水地区」が農林水産省国庫補助事業として事業化され、当該事業により、貴機構において豊川総合用水土地改良区に管理を委託している農業専用施設が順次改築されてきている。そして、事業の実施に当たり、同公団、同県及び豊川総合用水土地改良区との間で「豊川用水施設の改築及び追加工事等に係る県営かんがい排水事業豊川総合用水地区の施行に関する協定書・同覚書」(以下「協定」という。)が締結されており、協定では、同県は実施施工区間ごとに事前に同公団の承認を受けて工事を実施し、完了検査には同公団が立ち会うことなどが定められている。さらに、工事完了後の施設は、速やかに同県から同公団に引き継ぐこととされ、その財産権は同公団に帰属するとされている。なお、この協定は、貴機構設立後も引き続き適用することとされている。
独立行政法人は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)により、毎事業年度、貸借対照表等の財務諸表を作成し、当該事業年度の終了後3箇月以内に主務大臣に提出し、その承認を受けなければならないとされている。
そして、独立行政法人がその会計を処理するに当たっては、独立行政法人の会計に関する認識、測定、表示及び開示の基準を定める「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」(平成17年6月改訂。独立行政法人会計基準研究会等。以下「会計基準」という。)等に従わなければならないとされている。
会計基準によれば、独立行政法人の資産とは、過去の取引又は事象の結果として当該法人が支配する資源であって、それにより当該法人のサービス提供能力又は将来の経済的便益が期待されるものとされ、無償で取得した資産の価額については、公正な評価額をもって取得原価とし、これを基礎として計上しなければならないとされている。このうち固定資産(償却資産)の会計処理は、寄附金によりその資産を取得した場合の扱いに準じ、貸方については資産見返の負債項目を計上し、毎事業年度、減価償却相当額を取り崩して収益に振り替えることとされている。
独立行政法人は、制度の基本として国による事前関与・統制を極力排し、事後チェックへの重点の移行を図るため、主務大臣の監督、関与その他の国の関与を必要最小限のものとすることとされた。この事後チェックのためには業績評価が正しく行われるための情報が提供されなければならないとされており、このような目的に資するため正確な財務報告が求められる。
そこで、正確性等の観点から、貴機構の管理する施設が固定資産として財務諸表に適切に表示され、財務諸表の真実性が確保されているかなどに着眼して検査した。
本院は、本社、中部支社及び豊川用水総合事業部において会計実地検査を行った。検査に当たっては、県営かんがい排水事業に係る工事等完了引継ぎ書等の書類により同県から引き継がれた施設を把握するとともに、工事件数、工事費等を把握するため、貴機構に県営かんがい排水事業の実施状況について調査を求め、その調査結果等により引き継がれた施設が貴機構の財産として財務諸表に正確に計上されているか確認を行った。
検査したところ、次のとおり、改築された農業専用施設が固定資産として財務諸表に計上されていない事態が見受けられた。
貴機構では、協定に基づき、平成15年10月から19年3月までの間に同県が施行した農業専用施設の改築工事(旧施設の撤去等を含む)77件により改築された施設(工事費計21億4529万余円)を各工事完了後に同県から引き継いでいるが、会計規程に無償で取得した固定資産について、計上すべき資産の価額及び会計処理方法等が規定されていないことなどから、これらの施設について固定資産として計上していなかった。しかし、これらの施設は、会計基準でいう貴機構の支配する資源であり、貴機構が受益地に対して農業用水を安定的に供給するものであることから、無償で取得した固定資産として計上すべきであると認められる。
水資源開発公団では、協定に基づき、昭和63年3月から平成15年9月までの間に、同県が施行した農業専用施設の改築工事(旧施設の撤去等を含む)268件により改築された施設(工事費計68億3834万余円)を各工事完了後に同県から引き継いでいたが、これらの施設について固定資産として計上していなかった。また、同公団の解散により、貴機構に同施設に係る権利、義務が承継され、15年10月に会計基準が適用されることとなった後も、貴機構は、これらの施設について固定資産として計上していなかった。しかし、これらの施設は、〔1〕と同様、貴機構が支配する資源であることなどから、同公団から承継した固定資産として計上すべきものであると認められる。
上記(1)及び (2)のとおり、改築された農業専用施設(345件工事、工事費計89億8363万余円)は、貴機構の支配する資源であることなどから、計上すべき資産の価額及び会計処理方法等を規定し、固定資産として財務諸表に計上すべきものであると認められる。
そして、前記のとおり、会計規程に無償で取得した固定資産について、計上すべき資産の価額及び会計処理方法等が規定されていないことなどから、これらの施設を固定資産として計上しようとした場合、その価額を確定することができない状況となっている。
貴機構において、上記〔1〕及び〔2〕のとおり、改築された農業専用施設を固定資産として財務諸表に計上していない事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴機構において、改築された農業専用施設を固定資産として計上すべきであることについての認識が十分でなかったため、無償で取得した固定資産について、計上すべき資産の価額及び会計処理方法等が規定されていなかったことなどによると認められる。
独立行政法人制度においては業績評価が正しく行われるための情報が提供されなければならないとされており、このような目的に資するため正確な財務報告が求められている。
そして、貴機構は、産業の発展及び人口の集中に伴い用水を必要とする地域に対し安定的に水を供給するため、水資源開発促進法に基づき、水資源の開発又は利用のための施設の改築等及び水資源開発施設等の管理等を行っており、改築された農業専用施設についても、農業用水を安定的に供給するための貴機構の施設として位置付けている。
ついては、貴機構において、改築された農業専用施設のように無償で取得した固定資産について、計上すべき資産の価額及び会計処理方法等を規定し、正確な資産の価額を計上した財務諸表を作成するよう、是正改善の処置を求める。