科目
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(款)建設仮勘定
(款)受託工事
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部局等
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九州旅客鉄道株式会社本社
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工事名
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「小倉・西小倉間紫川B・PC桁作架他3工事」等6工事
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鉄道橋工事の概要
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河川改修、道路拡幅等に伴う鉄道橋の架替え等のため、国、県等からの負担金等により鉄道橋工事を実施するもの
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工事費
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7億4976万余円(平成16年度〜18年度)
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契約
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平成16年11月〜18年12月 指名競争契約、随意契約
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検査対象とした鉄道橋工事の数
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32工事
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耐震性能IIが確保されていない鉄道橋工事の数
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6工事
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不適切と認めた工事費
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3672万円
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九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」という。)では、平成16年度から18年度までの間に河川改修、道路拡幅等に伴う鉄道橋の架替え等のため、国、県等からの負担金等により「小倉・西小倉間紫川B・PC桁作架他3工事」等32工事を工事費総額35億6686万余円で実施している。
鉄道橋の耐震設計は、「鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計」(平成11年10月、国土交通省監修、財団法人鉄道総合技術研究所編)等(以下「設計標準」という。)に基づき行うこととされている。
設計標準では、11年以降、構造物の設計耐用期間(約100年間)内に数回程度発生する確率を有する地震動であるL1地震動及び構造物の設計耐用期間内に発生する確率は低いが非常に強い地震動であるL2地震動を想定し、構造物が設計上保持すべき耐震性能を定めている。
そして、重要度の高い構造物(注1)
については、L2地震動を想定した場合の耐震性能は、下記の耐震性能II及び耐震性能IIIを満たすことが求められている。
〔1〕 耐震性能II:地震後に構造物の機能が早期に回復できる性能
〔2〕 耐震性能III:地震後に構造物が修復不可能となったとしても、落橋等のように構造物全体系が崩壊することのない性能
上記の性能を確保するため、鉄道橋においては橋脚及び橋台(以下「下部工」という。)等と支承部について、所要の耐力を有することとされている(参考図1参照)
。
支承部は、桁と下部工の間に設置される部材であり、〔1〕桁から受ける鉛直力を下部工に伝達する支承本体、〔2〕桁から受ける水平力を下部工に伝達するとともに桁の移動を制限する移動制限装置、〔3〕地震時に桁が下部工から落下するのを防止する落橋防止装置、〔4〕上記の〔1〕から〔3〕が設置される桁側の埋込部である桁端及び〔5〕同様に〔1〕から〔3〕が設置される下部工側の埋込部である桁座(以下、これら〔1〕から〔5〕を合わせて「装置等」という。)から構成されている(参考図2参照) 。
設計標準によれば、支承部の設計がL2地震動に対し耐震性能IIを満たしているかどうかについての照査は、L2地震動が支承部に作用する水平力(以下「支承部の設計水平力」という。)より、装置等の所要の耐力が大きいことを確認することとされている。そして、支承部の設計水平力は、下部工の最大応答震度(注2) に桁等の重量を乗じて算出することとされている。
平成7年兵庫県南部地震において桁及び下部工に大きな損傷がもたらされたことや、支承部は桁の移動を制限し落橋を防止する重要な機能を有するものであることから、支承部については、適切な耐震設計が求められる。そこで、合規性等の観点から、設計計算書等において必要とされる耐震性能を満足する設計となっているかなどに着眼して検査した。
本院は、JR九州において会計実地検査を行った。そして、JR九州が16年度から18年度までの間に重要度の高い構造物である鉄道橋(重要線区とされている線区に係る鉄道橋等)の桁の架替え等を行っている前記の32工事を対象として、設計計算書、設計図面等の書類により検査するとともに、JR九州に、支承部の設計水平力の算出時に用いる震度について報告を求め、その内容を確認するなどの方法により検査を行った。
支承部の設計水平力を算出する際に用いる震度等について検査したところ、次のような状況となっていた。
すなわち、次表及び次図のとおり、複数ある下部工のうちいずれの下部工の震度を用いるかについて区々となっていたり、支承部の設計水平力を算出する際に最大応答震度又は降伏震度等(注3)
を用いたりしていた。
下部工の震度の適用方法
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適用した下部工の震度の種類
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該当工事数
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該当する支承部に接続しない下部工の震度を用いたもの
(18工事)
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ア 最大応答震度
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14工事
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イ 降伏震度等
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4工事
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該当する支承部に接続する下部工の震度を用いたもの
(14工事)
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ウ 最大応答震度
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12工事
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エ 降伏震度
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2工事
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計
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32工事
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図 最大応答震度と降伏震度の比較(下部工の荷重−変位曲線の概念図)
そして、設計標準によれば、支承部の設計水平力を算出する際には、下部工の最大応答震度を用いることとされているが、いずれの位置の下部工の最大応答震度を用いるかについては明示されていなかった。
これらのことから、支承部の設計水平力の算出について財団法人鉄道総合技術研究所に確認したところ、該当する支承部に接続する下部工の最大応答震度(以下「支承部直下の最大応答震度」という。)を用いて算出するのが正当であるとの見解であった。
したがって、「支承部直下の最大応答震度」を用いて、前記の32工事における支承部の設計水平力について再計算を行うと次のとおりであった。
表のアの14工事のうち、3工事については、L2地震動における桁ずれ量よりも桁座寸法が大きいため落橋しないことから耐震性能IIIを満たすものの、所要の耐力が、支承部の設計水平力に対して90%から98%となる移動制限装置及び桁座があり、支承部の耐震性能IIが確保できないものとなっていた。
表のイ及びエの6工事のうち、3工事については、L2地震動における桁ずれ量よりも桁座寸法が大きいため落橋しないことから耐震性能IIIを満たすものの、所要の耐力が、支承部の設計水平力に対して78%から98%となる移動制限装置、桁端及び桁座があり、支承部の耐震性能IIが確保できないものとなっていた。
そして、耐震性能IIが確保できないものとなっていた上記の6工事(工事費7億4976万余円)の支承部に係る工事費相当額は、〔1〕 579万余円、〔2〕 3092万余円、計3672万余円である。
以上のように、鉄道橋支承部の設計に当たり、支承部の設計水平力を算出する際には「支承部直下の最大応答震度」を用いるべきであるのに、該当する支承部に接続しない下部工の最大応答震度を用いていたり、降伏震度等を用いていたりして所要の耐震性能IIが確保されていない状態となっているのは適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、JR九州において支承部の耐震設計における下部工の最大応答震度の取扱いについての認識が不足していたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、JR九州では、19年9月に通知を発し、鉄道橋支承部の設計において、L2地震動に対する支承部の設計水平力を算出する際には、「支承部直下の最大応答震度」を用いて設計を行い、チェックリストによる確認を行うなどの処置を講じた。
なお、所要の耐震性能IIが確保されていない6橋りょうについては、同年10月末までに補修工事を完了している。
鉄道橋概念図
支承部概念図