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  • 平成18年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

政府開発援助の状況について


第3 政府開発援助の状況について

検査対象
(1)
(2)
(3)
外務省
国際協力銀行
独立行政法人国際協力機構
政府開発援助の内容
(1)
(2)
(3)
無償資金協力
円借款
技術協力
平成18年度実績
(1)
(2)
(3)
 
1641億7062万円
6598億5676万円
858億3515万円
 
現地調査実施国数並びに事業数及び対象事業費
11箇国
(1)
(2)
(3)
 
58事業
14事業
16事業
 
358億5760万円
1383億9182万円
92億6945万円
 
援助の効果が十分発現していないと認めたもの
水産無償資金協力
 沿岸漁業振興計画
草の根・人間の安全保障無償資金協力
 サン・ファン・ラ・ラグーナ市ごみ処理施設建設計画
 虐待児童のためのシェルター建設計画
円借款
 ビリビリ多目的ダム建設事業
 ウォノレジョ多目的ダム建設事業
 防災船調達事業
 園芸作物処理設備建設事業

1 政府開発援助の概要

 我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると教育、水供給及び衛生、運輸及び貯蔵、エネルギー、農林水産業、環境保護等の各分野となっている。
 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成18年度の実績は、無償資金協力(注1) 1641億7062万余円、円借款(注2) 6598億5676万余円(注3) 、技術協力(注4) 858億3515万余円等となっている。

 無償資金協力  開発途上にある海外の地域又は国の経済及び社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもの
 円借款  開発途上にある海外の地域又は国の経済及び社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として長期かつ低利の資金を貸し付けるもの
 債務繰延べを行った額532億0297万余円を含む。
 技術協力  開発途上にある海外の地域又は国の経済及び社会の開発に役立つ技術、技能、知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等を行うもの

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点、着眼点及び対象

 本院は、政府開発援助について、外務省が実施している無償資金協力、国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation。以下「JBIC」という。)が供与している円借款及び独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency。以下「JICA」という。)が実施している技術協力等(以下、無償資金協力、円借款及び技術協力等を合わせて「援助」という。)を対象として、外務省、JBIC及びJICA(以下「援助実施機関」という。) において、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査を実施している。
〔1〕 援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が援助の相手となる開発途上にある海外の地域又は国(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分検討しているか。
〔2〕 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、資金の供与等は法令、予算等に従って適正に行われているか。
〔3〕 援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。
〔4〕 援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
 また、相手国における事業の実施状況を中心に、有効性等の観点から次の点に着眼して現地調査を実施している。
〔1〕 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。
〔2〕 援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合、その関連事業の実施と、は行等が生じないよう調整されているか。
〔3〕 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は、当初計画したとおりに十分利用されているか。
〔4〕 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。

(2) 検査の方法

 本院は、国内において、外務本省、JBIC本店及びJICA本部に対して会計実地検査を行うとともに、海外において、在外公館、JBICの駐在員事務所及びJICAの在外事務所に対して会計実地検査を行っている。
 一方、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか、事業が計画どおりに進ちょくしているかなどを確認するためには、援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院は、調査を要すると認めた事業について、相手国に職員を派遣して、援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合には、援助実施機関を通じて入手している。

3 検査の状況

(1) 現地調査の対象及び検査の概況

 本院は、19年次に、上記の検査の観点、着眼点、対象及び方法で、検査を実施し、その一環として、11箇国において次の88事業について現地調査を実施した。
〔1〕 無償資金協力の対象となっている事業のうち58事業(贈与額計358億5760万余円)
〔2〕 円借款の対象となっている事業のうち14事業(18年度末までの貸付実行累計額1383億9182万余円)
〔3〕 技術協力事業のうち技術協力プロジェクト(注5) 16事業(18年度末までの経費累計額92億6945万余円)
 上記88事業の国別の現地調査実施状況は表1のとおりであり、このうち、草の根・人間の安全保障無償資金協力(14年度以前は草の根無償資金協力。以下同じ。)に係る17事業を除いた71事業を分野別にみると、農林水産業22事業、その他社会インフラ及びサービス11事業、運輸及び貯蔵9事業、教育8事業、保健6事業、エネルギー6事業等となっている。

表1 国別現地調査実施状況
国名
調査事業数
援助形態別内訳
無償資金協力
円借款
技術協力プロジェクト
事業数
援助額
(億円)
事業数
援助額
(億円)
事業数
援助額
(億円)
ボスニア・ヘルツェゴビナ
7
6
73
1
0
チリ
11(5)
7(5)
1
4
19
ドミニカ国
4
4
54
グレナダ
3
3
31
グアテマラ
4(1)
3(1)
19
1
29
インドネシア
12(1)
3(1)
12
7
844
2
10
ケニア
10(3)
7(3)
20
1
20
2
19
セントルシア
5
5
48
セルビア
4(1)
4(1)
40
南アフリカ
10(3)
9(3)
42
1
3
タイ
18(3)
7(3)
14
5
489
6
39
88(17)
58(17)
358
14
1,383
16
92
(注)
 ( )書きは、草の根・人間の安全保障無償資金協力の事業数を示し、無償資金協力の内書きである。


 なお、19年次に、上記11箇国のうちのインドネシアに加えてモルディブ、スリランカ 及びベトナム の計4箇国において、国会からの検査要請に関する報告を行うために必要な現地調査を実施した。

 技術協力プロジェクト  技術協力の中核をなすもので、技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等の事業を組み合わせたプロジェクトとして平成14年度から実施されている。13年度までは、プロジェクト方式技術協力として実施されていた。


(2) 現地調査対象事業に関する検査の状況

 現地調査を実施した事業のうち、次の事業については、援助の効果が十分発現していな いと認められた。

ア 水産無償資金協力事業

(ア) 沿岸漁業振興計画

a 事業の概要

 この事業は、セントルシアにおける漁業の振興と同国民に対して良質な水産物の安定供給を確保するため、漁業基地であるショゼール地区等2地区に水揚施設、流通施設等を整備するとともに、ショゼール地区での漁船の近代化を促し漁業生産量を増加させるなどのため、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)漁船及び船外機(以下「FRP漁船等」という。)を20隻調達するものである。
 外務省では、これに必要な資金として13年度から15年度までの間に計12億5746万円を贈与している。
 そして、相手国事業実施機関は、調達したFRP漁船等をすべて漁業者に売却することとしている。

b 調査の状況

 本院が、本件事業について実地に調査したところ、次のような状況となっていた。

 今回調査した範囲では、整備した水揚施設、流通施設等は、地元の漁業者等に活用され、漁業振興に寄与していると認められた。
 一方、相手国事業実施機関は、15年2月にFRP漁船等を1隻当たり42,000東カリブドル(邦貨換算額169万余円)で20隻調達しており、同額でショゼール地区の漁業者に売却することとしていた。しかし、FRP漁船等の売却は、当初は順調に進んだものの、その後売却が不振となり、調達から4年を経過した19年5月の本院の調査時点では、半数の10隻は売却されていたが、残り10隻(420,000東カリブドル。邦貨換算額1690万余円)は売却されておらず、相手国事業実施機関が保管し、定期的にメンテナンスを行っている状況となっていた。
 上記の事態に対して、相手国事業実施機関では、これまでポスターの配付、ラジオによる宣伝等を実施したとしている。そして、今後はFRP漁船等の売却価格を下げ、ショゼール地区だけでなく他の地区にも販路を拡大することを計画しているとのことである。
 上記のとおり、本件事業によって調達されたFRP漁船等20隻のうち、10隻についてはいまだ漁業者に売却されておらず、援助の効果が十分に発現していないと認められる。

c 本件事業に対する本院の所見

 このような事態が生じているのは、主として、調達した漁船数を上回る購入希望者がいるものの、FRP漁船等の売却価格が購入希望者の収入に見合っておらず、価格の面で折り合いがつかないため、売却が進んでいないという相手国の事情によるものであるが、外務省においては、援助の対象となったFRP漁船等の売却が促進され、援助の効果が十分に発現するよう、相手国に対して適時適切な指導及び助言を行う必要があると認められる。

イ 草の根・人間の安全保障無償資金協力事業

 草の根・人間の安全保障無償資金協力は、開発途上国の多様な援助ニーズに的確かつ迅速に対応するため、開発途上国の地方政府や非政府団体等(以下「団体」という。)が実施する比較的小規模のプロジェクトに対して、在外公館が資金を供与するものである。
 草の根・人間の安全保障無償資金協力の実施に当たっては、在外公館は、事業の内容、団体の事業実施能力や事業実施後の管理体制等について検討することとなっている。そして、外務本省の承認を受けた後、事業を実施する団体との間で、贈与契約を締結し、贈与契約で定められた供与限度額の範囲内で資金を団体に供与することとなっている。そして、在外公館は、事業の実施状況及び資金の使用状況を確認するため、団体から、事業の実施状況及び使用済資金の使途等を明らかにした中間報告書と最終報告書を提出させることとなっている。また、贈与契約において、契約締結後1年以内に事業を完了することと定められている。

(ア) サン・ファン・ラ・ラグーナ市ごみ処理施設建設計画

a 事業の概要

 この事業は、グアテマラ共和国(以下「グアテマラ」という。)のサン・ファン・ラ・ラグーナ市において、生ごみの有機肥料化によるごみの再利用を通じた地域の衛生環境改善及び農業生産強化のため、ごみ処理施設の建設と処理に係る資機材の購入を内容とするものである。
 在グアテマラ日本国大使館では、15年2月に本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、同年3月に事業費全額の36,967米ドル(邦貨換算額4,509,974円、現地通貨換算額288,346.81ケッツアル)を供与している。

b 調査の状況

 本院が、本件事業について実地に調査したところ、当初の施設建設予定地は変更され、ごみ処理施設は全く建設されていなかった。
 同団体及び同大使館によれば、本件事業の経緯は以下のとおりである。
 同団体は、本件事業の申請に先立って環境調査を行っていたが、その後、環境省等からの要求により再度環境調査を行ったため、施設建設の着手が遅れ、15年10月に環境省の建設許可が下りた後、同年11月に我が国の贈与した資金から60,188.83ケッツアル(邦貨換算額941,401円。以下、本件事業において為替レートは贈与契約時のレートによる。)を業者に支払って、同団体の所有地において施設の建設に着手した。また、環境調査の結果により、設計変更が生じたとして、事業予算が738,309.43ケッツアル(同11,547,748円)に増加したため、新たな支援先を探し、地方の社会開発のために設置されたグアテマラの社会投資基金(以下「FIS」という。)による支援を取り付けた。
 その後、16年11月にFISが現地を訪問した際、我が国の贈与した資金が使用された建設途中の施設について、不具合が見つかったため、同団体は、FISの求めに応じて、当該施設をいったん解体撤去した。そして、FISの支援により、同地において、17年3月に2度目の施設の建設が着手されたが、同年10月の熱帯低気圧によって生じた土石流のため、建設中の施設は崩壊した。
 このため、同団体では、同地での施設の建設が危険であると判断し、18年6月に施設の建設用地として他の場所に新たな土地を購入した。しかし、FISは、本件事業に対する支援よりも本件事業以外の熱帯低気圧による被害に係る復興事業の資金確保を優先することとし、また、その後、FIS自身が解散し、清算手続に入ったことにより、本件事業に対する支援を取り止めた。そのため、本件事業の事業資金は再び不足することとなった。
 上記のとおり、本件事業は資金の贈与から4年以上が経過してもごみ処理施設が全く建設されておらず、援助の効果が発現していないと認められる。
 そして、同大使館の説明によれば、これまで同団体等から報告書の提出や連絡を受けてきたが、贈与契約の変更等の手続については、状況を見極めた上で行うことが適当と判断し、同団体との間で契約の変更等の手続は行っていないとしている。
 なお、同団体では、我が国が贈与した資金及び利息のうち、前記のとおり、60,188.83ケッツアルをFISの指摘により解体撤去されるに至った施設の建設費に充て、そして、26,213ケッツアル(邦貨換算額409,992円)を外部監査費用に充てたため、現在、残金207,116.15ケッツアル(同3,239,461円)を同団体で保有しているとしている。

c 本件事業に対する本院の所見

 このような事態が生じているのは、主として熱帯低気圧による災害及びFISの支援中止によるものであるが、同団体において、事業申請前の環境調査が十分でなかったり、FISの指摘により施設を解体撤去したりしたことなどにもよると認められる。
 外務本省においては、本件事業に対する援助をこのまま継続すべきかどうか検討し、援助を継続する場合には、同大使館において、本件事業について贈与契約の変更等の手続を執った上で、今後、より一層現況把握に努め、同団体やグアテマラ政府等と緊密に連絡を取って、施設建設の着手を促すとともに、事業の完了を贈与契約締結後1年以内としている草の根・人間の安全保障無償資金協力の趣旨等を同団体に対し十分説明し、一層周知して早期に援助の効果を発現させる必要があると認められる。

(イ) 虐待児童のためのシェルター建設計画

a 事業の概要

 この事業は、タイ王国のバンコクにおいて、家庭等で虐待を受けた児童を保護しその生活環境を向上させるため、宿泊室、食堂、集会室等を備えた施設を建設するものである。
 在タイ日本国大使館では、14年8月に本件事業を実施する団体との間で贈与契約を締結し、これに必要な資金として同年10月に81,951米ドル(邦貨換算額9,998,022円)を供与している。

b 調査の状況

 本院が、本件事業について実地に調査したところ、多目的集会室兼室内運動場は運動場として使用されていたが、50人ないし60人が使用できる宿泊室には10人程度の児童が宿泊しているだけで、調理場は器具が撤去されていて調理できる状況にはなく、大食堂は数脚の卓子が置かれているだけで食堂としては使用されていなかった。また、本件施設は地域住民にも開放されていたが、浴室及び便所内の洗面施設は蛇口が壊されていて使用できない状況になっていた。そして、外務省及び同団体の説明によると、同団体では、16年8月の本件施設完成後1年間は当初計画どおり本件施設を使用していたが、本件贈与契約締結の1年6箇月前の13年1月及び本件施設完成後の17年1月にバンコク近郊県に設置した2施設に、17年8月、児童の大半を転居させたとしている。また、同大使館は、18年2月に本件施設の児童の多くが転居していることを確認し、本件施設の利活用について同団体を指導していたとしている。
 上記のとおり、本件施設は、児童の収容人数が当初計画を大幅に下回っていて、十分活用されておらず、援助の効果が十分に発現していないと認められる。

c 本件事業に対する本院の所見

 このような事態が生じているのは、主として、同団体が自ら設置した別の施設に児童の大半を転居させていたことによるが、本件施設が十分活用されていないことにかんがみ、外務本省及び同大使館は以下の点に留意する必要があると認められる。
〔1〕 外務本省においては、同大使館が、同団体に対し、本件施設の今後の利活用に向けて適切に助言等をするように指導すること
〔2〕 同大使館においては、本件施設の利活用に向けて引き続き適切な助言等を行うこと
 以上の事態を踏まえ、草の根・人間の安全保障無償資金協力事業の実施に当たっては、在外公館において、事業の継続性を確保するため、資金供与時に計画されていた施設の収容人数及び使用形態に変更が生じ得る場合には速やかに報告するよう団体を指導する必要があると認められる。

ウ 円借款事業

(ア) ビリビリ多目的ダム建設事業

a 事業の概要

 この事業は、インドネシア共和国(以下「インドネシア」という。)において、スラウェシ島南部の中心都市であるマカッサル市(旧ウジュンパンダン市)及び周辺地域の洪水被害の軽減、生活用水、工業用水及びかんがい用水の確保並びに電力需要に対処することを目的として多目的ダム及びその関連施設を建設するものである。
 JBICでは、これに必要な資金として4年6月から13年12月までの間に計251億7533万余円を貸し付けている。
 ビリビリ多目的ダムからの生活用水及び工業用水の供給については、本件事業により敷設された同ダムからマカッサル市の浄水場に至る原水導水管(総延長16.3km、口径1,500mm及び1,650mm)を通じて行うこととなっている。同市の水道整備計画等によると、増大する水需要に対応するため、同市はソンバオプ浄水場の建設を予定していて、1期事業として10年に処理能力1.0m3 /s の浄水場を整備し、2期事業として14年に処理能力を3.0m3 /s に増大させるための浄水場の拡張工事を完了する予定となっている。そして、上記の原水導水管は、同浄水場の最終的な処理能力3.0m3 /s に導水管及び浄水場におけるロスを考慮して、3.3m3 /s の原水を同浄水場に供給することができることとなっている。

b 調査の状況

 本院が、本件事業について実地に調査したところ、次のような状況となっていた。
〔1〕 同ダムは11年8月に完成し、JBICによれば、事業目的のうち、洪水被害の軽減、かんがい用水の確保及び電力需要への対処については効果が発現しているとしている。
 一方、生活用水及び工業用水の供給については、13年7月にソンバオプ浄水場の1期事業が完了したことから、同年11月から、本件事業により敷設された原水導水管を通じて同ダムからの原水の供給を開始していたが、19年4月の本院の現地調査時点において、原水導水管による供給実績は、1期事業により整備された浄水場の処理能力見合いの1.1m3 /s となっていて、原水導水管の送水能力3.3m3 /s に見合った原水供給が行われていなかった。この理由は、JBIC及び相手国事業実施機関等の説明によると、9年後半からのアジア通貨危機の影響等により、マカッサル市の資金調達が困難となり、同浄水場の2期事業である拡張工事が着工されていないためとしている。
 このように、円借款によって建設されたダム及び導水管による水供給が計画を下回っており、援助の効果が十分に発現していないと認められる。
〔2〕 16年3月に同ダム上流に位置するバワカラエン山で大規模な崩落が発生したことにより、崩落地点から下流35kmにある同ダムでは、貯水池への土砂の流入や水質の悪化によるダム機能の低下が懸念される状況となっていて、浄水場の処理能力が一時的に低下するなどの影響が出ていた。
 そして、JBIC及び相手国事業実施機関等の説明によると、大量の土砂が同ダム貯水池に流入したため、50年間の堆砂容量として想定している同ダムの設計堆砂容量2900万m3 に対して、ダム完成から約6年後の17年8月の実測値で堆砂量が2377万m3 に達しており、今後の堆砂量の増加によって有効貯水容量の減少が予想され、かんがい用水の減少や発電量の低下が懸念されているとしている。また、同ダム着工前の時点では、上流域で大規模な山体の崩壊が発生する可能性については認識されていなかったとしており、この崩落は大規模で集中的な降雨等予測不可能な天災が原因と考えられていて、更に詳細かつ科学的な原因の特定は行われていないとしている。
 なお、この事態を受けて、17年3月に借款契約を締結した円借款による緊急防災事業によって、ダム上流域の河床のしゅん渫工事等の対策が行われている。

c 本件事業に対する本院の所見

 前記〔1〕のような事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、JBICにおいても、援助の対象とした施設が有効に利用されるように、相手国が自国の予算で実施する事業の実現可能性や進ちょく状況等を把握し、必要に応じて、適時適切な助言等を行うとともに、援助の対象とした施設の利用状況等を把握し、援助対象事業の効果の発現を妨げている要因を取り除くことを相手国に一層働きかけていくことなどの措置を講ずる必要があると認められる。
 また、前記〔2〕の同ダム貯水池への土砂の流入の影響については、同ダムの所期の目的が妨げられることがないよう、JBICにおいて、ダム機能の維持のために、引き続き相手国事業実施機関等と協議を行い、援助の効果が十分発現するよう努める必要があると認められる。

(イ) ウォノレジョ多目的ダム建設事業

a 事業の概要

 この事業は、インドネシアにおける第2の都市であるスラバヤ市及び周辺地域への生活用水及び工業用水の原水供給、ブランタス川中流域に位置するトゥルンアグン県での洪水被害の軽減並びに電力供給の充実を目的として、同県にウォノレジョ多目的ダム及びトゥルンアグンポンプ施設を建設するなどするものである。
 JBICでは、これに必要な資金として6年10月から14年12月までの間に計172億4707万余円を貸し付けている。
 本件事業は、第1期事業としてダム建設等を、第2期事業として同ポンプ施設の建設(工事費1,055,123米ドル及び6,228,977,333インドネシアルピア、これらの邦貨換算額約2億円。邦貨換算は同施設が完成した13年度の出納官吏レートによる。)等をそれぞれ実施するもので、このうち、同ポンプ施設により、乾季渇水時に、同ダムとは別の水源であるパリットアグン水路から2.5m3 /sの水量をポンプ送水し、ブランタス川を経てスラバヤ市及び周辺地域へ原水を供給する計画となっている。

b 調査の状況

 本院が、本件事業について実地に調査したところ、次のような状況となっていた。
 JBICによれば、事業目的のうち、同ダムの建設等による洪水被害の軽減及び電力供給の充実については効果が発現しているとしている。
 しかし、同ポンプ施設によるポンプ送水については、14年10月の事業完了時から19年4月の本院の現地調査時点まで、試運転を除き、実施されていなかった。この理由は、JBIC及び相手国事業実施機関等の説明によると、本件事業が計画された当初、原水の浄水処理及び浄水供給を担うスラバヤ市水道公社は、同ダム及び同ポンプ施設から供給される原水を利用するために、カランピラン浄水場を拡張することとしていたが、アジア通貨危機の影響等により、その資金調達が一時的に困難となり、同浄水場を拡張していないためとしている。
 なお、スラバヤ市、同水道公社等は、19年9月現在、同浄水場拡張のための入札を実施中で、21年後半には完成する予定であるとしている。
 上記のとおり、円借款によって建設された施設のうち、同ポンプ施設は活用されておらず、援助の効果が十分に発現していないと認められる。

c 本件事業に対する本院の所見

 このような事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、JBICにおいても、援助の対象とした施設が有効に利用されるように、相手国が自国の予算で実施する事業の実現可能性や進ちょく状況等を把握し、必要に応じて、適時適切な助言等を行うとともに、援助の対象とした施設の利用状況等を把握し、援助対象事業の効果の発現を妨げている要因を取り除くことを相手国に一層働きかけていくことなどの措置を講ずる必要があると認められる。

(ウ) 防災船調達事業

a 事業の概要

 この事業は、インドネシアにおける国際的に重要な海上輸送路のうち、中東地域から我が国に原油を輸送するタンカーの輸送路として重要な役割を果たしていて最も優先度の高いマラッカ・シンガポール海峡において、警戒活動等により船舶事故の防止及び船舶火災や原油流出事故の際の迅速な対応を行うため、救難、油回収、消防等のための特殊設備を装備した総トン数500トン級の防災船2隻を調達し配備するものである。
 JBICでは、これに必要な資金として9年9月から18年6月までの間に計32億2149万余円を貸し付けている。
 本件防災船2隻の完成及び供用は、当初の計画では12年7月としていたが、実際には17年7月と当初の計画より約5年遅れていた。この原因は、相手国事業実施機関の説明によると、アジア通貨危機による混乱等の要因から、入札手続等に時間を要したこと、再入札が行われたことなどによるとしている。

b 調査の状況

 本院が、本件事業について実地に調査したところ、次のような状況となっていた。
 本件防災船2隻は、17年7月の供用開始当初から、マラッカ・シンガポール海峡よりも東側に当たるヌサ・トゥンガラ諸島等の周辺の警戒活動等を行っており、マラッカ・シンガポール海峡での警戒活動という本件事業の目的に沿った援助の効果が発現していないと認められる。
 このような事態に至った経緯について、JBICを通じて相手国事業実施機関に確認したところ、本件防災船2隻については、7年2月の援助の要請時点ではマラッカ・シンガポール海峡において運用する計画であったものの、アジア通貨危機による混乱等により建造及び供用開始が大幅に遅れたため、計画を変更し、他国からの融資により16年7月に別途調達した防災船2隻のうち1隻を、マラッカ・シンガポール海峡での警戒活動等に充てたとしている。そして、相手国事業実施機関では、この計画の変更は、上記の別途調達した2隻の納船前後に行われたものであるとしているが、この変更についてJBICに対し報告を行っておらず、JBICがこの変更を認識したのは、後述の沈没事故後であった。
 このように、我が国にとって重要な海峡であるマラッカ・シンガポール海峡における警戒活動等を行うために円借款により調達された防災船について、JBICにおいて、その運用が事業の目的に沿って行われているか十分に把握していなかった。
 また、17年7月の供用開始から10箇月後の18年5月に、本件防災船2隻のうち1隻がヌサ・トゥンガラ諸島沖を航行中に沈没し、その後の使用が不可能な状況となっていた。相手国事業実施機関の説明によると、この原因は悪天候及び船長・乗組員の操船ミスによるとしている。なお、この事故に関しては、インドネシア政府の海難審判庁で海難審判が行われ船長等の処分が行われた。

c 本件事業に対する本院の所見

 このような事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、JBICにおいても、今後の援助の実施に当たって、特に本件のように事業の進ちょくが予定よりも大幅に遅延した場合には、相手国政府の計画変更や運用状況等に十分留意し、必要に応じて相手国関係者と一層緊密な協議をするなどして、事業目的に沿った援助効果の発現に一層努める必要があると認められる。また、援助の対象とした資機材等の使用について、相手国に対して、適時適切な助言を行うなどの必要があると認められる。

(エ) 園芸作物処理設備建設事業

a 事業の概要

 この事業は、ケニア共和国における切り花などの園芸作物の収穫後の処理を改善するため、収穫した園芸作物の温度を短時間に急激に低下させるための処理(以下「予冷」という。)を行う予冷施設を7施設、予冷した園芸作物の温度上昇を防ぐための処理(以下「保冷」という。)を行う保冷施設を1施設、計8施設を建設するなどするものである。
 JBICでは、これに必要な資金として7年3月から13年7月までの間に計20億1600万円を貸し付けている。
 前記の予冷施設及び保冷施設は、各処理を行う園芸作物等を計量、梱包するための作業用スペース、梱包した園芸作物を予冷又は保冷するための予冷庫又は保冷庫等で構成されている。
 そして、これらの施設の管理運営体制については、相手国事業実施機関である園芸作物開発公社(Horticultural Crops Development Authority。以下「HCDA」という。)が農家から園芸作物を買い取り、各施設において予冷又は保冷し、輸出業者へ販売するまでを一元的に管理することとしていた。
 また、JBICが本件事業について15年7月に事後評価調査を実施し、17年1月に公表した事後評価報告書によると、13年3月に施設が完成して以降、前記8施設のうちマチャコス予冷施設を除く7施設において、各施設を園芸作物の集出荷の際の計量、梱包のための作業用スペースとして利用することはあるものの、各施設内の予冷庫又は保冷庫を用いて予冷施設又は保冷施設として利用することは全くない状況となっていたなどとしている。
 そして、上記の事後評価報告書では、本件事業の評価結果をA(非常に満足)からD(不満足)までの4段階のうち最も低いD評価にするとともに、HCDAに対し施設の輸出業者への貸与を検討することなどを提言している。

b 調査の状況

 本院が、本件事業について実地に調査をするなどしたところ、次のような状況となっていた。
 HCDAでは、施設の利用促進を図るため、施設の管理運営体制を見直して、17年6月から各施設の予冷庫又は保冷庫を契約期間を定めて輸出業者に貸与し、その利用料を徴収することとしていた。
 また、HCDAでは、各施設の予冷施設又は保冷施設としての利用率(注6) の目標について、施設完成当初は70%と定めていたが、15年以降はそれまでの実績を踏まえて50%に改めていた。
 そして、前記の管理運営体制の見直し以後の17年(6月以降)、18年、19年(4月末まで)の各年における各施設の利用率等の状況は表2のとおりとなっており、このうちサガナが0%から41.6%、ムエアが0%から25.0%、マチャコスが4.1%から14.2%、キブウェジが4.1%から25.0%となっていて、これら4予冷施設(建設費計7億8399万余円)については、利用率が当該期間を通じて目標の50%を下回っていた。

表2 各施設の利用率等の状況

表2各施設の利用率等の状況


注(1)
 建設費は、1ケニアシリングを1.78円(事業実施期間単純平均)で邦貨に換算し、千円未満を切り捨てている。
注(2)
 利用率は、小数点第2位以下を切り捨てている。

 このように利用率が低調な状況が継続している施設があるのは、HCDAの説明によれば、輸出業者が本件施設を使用せずに、各施設の周辺に自ら所有する予冷施設等を使用したり、収穫した園芸作物をナイロビ市内に自ら所有する予冷施設等に直接持ち込んだりして、輸出していたことなどによるとしている。
 本件借款の対象となった園芸作物処理施設については、その管理運営体制を見直すなど、HCDAによる利用率向上のための努力もあり、前記の事後評価報告書に記述されている15年7月当時の状況に比べて、事業全体としては一定の改善が見られるものの、8施設のうち4予冷施設において利用率が目標の50%を下回っているなど依然として低調な利用状況が継続しており、援助の効果が十分に発現していないと認められる。

c 本件事業に対する本院の所見

 このような事態が生じているのは、主として相手国の事情によると認められ、また、JBICではこれまでも事後評価における提言を踏まえた改善策の実施状況についてモニタリングを実施するなどしているが、各施設の一層の利用率向上のために、事業を取り巻く状況の変化等に応じた方策について引き続き相手国事業実施機関等と協議を行い、モニタリングによる現状の把握や各種助言を行うなど積極的な事後監理に取り組み、援助効果の十分な発現に努める必要があると認められる。

利用率=(貸与契約の実績がある予冷庫又は保冷庫数×契約月数(1箇月未満切上げ))/(各施設が保有する予冷庫又は保冷庫×月数)



 我が国の政府開発援助については、今後とも多額の予算が充てられることが見込まれることから、本院では、政府開発援助の事業効果等について引き続き検査していくこととする。