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  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

国土交通省及び独立行政法人水資源機構における水門設備工事に係る入札・契約の実施状況について


第6 国土交通省及び独立行政法人水資源機構における水門設備工事に係る入札・契約の実施状況について

検査対象
(1)
国土交通省
(2)
独立行政法人水資源機構(平成15年9月30日以前は水資源開発公団)
水門設備の概要
水門扉の開閉を行うことにより、支川への逆流を防止したり、流水を貯留したりするもので、河川用水門設備、ダム用水門設備、可動堰等に区分される
検査の対象とした契約年度
平成13年度〜18年度
上記の検査対象に係る水門設備工事の契約件数
(1)
(2)
2,180件
290件
2,470件
 
上記の契約に係る契約金額
(1)
(2)
1055億円
193億円
1249億円
 

1 検査の背景

(1) 水門設備の概要

 国土交通省は、流域における治水及び水利に関する施策の企画、立案及び推進並びに河川、水流及び水面の整備、利用、保全その他の管理等を行っている。そして、地方支分部局として全国に8地方整備局及びその管下の事務所等並びに北海道開発局及びその管下の開発建設部等を設置している(以下、これらを合わせて「地方整備局等」という。)。また、独立行政法人水資源機構(平成15年9月30日以前は水資源開発公団。以下「水資源機構」という。)は、水資源の開発又は利用のための施設の改築等及び水資源開発施設等の管理等を行っている。そして、本社のほか地方機関として2支社及び2局並びにその管下の建設所等を設置している(以下、これらを合わせて「機構本社等」という。)。
 そして、国土交通省及び水資源機構は、河川管理施設として、多数の水門設備を築造している。水門設備は、河川水位が上昇したときに水門扉の開閉を行うなどにより、能動的に自然物を扱う設備であり、開閉するために多くの設備を組み合わせたシステムとなっている。水門設備を築造箇所及び規模により大別すると、次のとおりである。

ア 河川用水門設備は、河川を横断して設けられる制水施設で、支川等が合流する本川の堤防に設けられ、本川の水位が上昇した時に水門を閉めることによって支川等への逆流を防ぐ機能を有している。そして、扉体面積が10m2 未満の小形水門、10m2 以上50m2 未満の中形水門、50m2 以上の大形水門に区分されている。

イ ダム用水門設備は、ダム(河川を横断して、流水を貯留する目的で設けられるもののうち高さ15m以上のもの)の堤体に設けられ、洪水時においてダム下流の洪水被害を軽減するため、水門を閉めることによって流水をダムに貯留するなどの機能を有している。

ウ 可動堰は、堰(河川の流水を制御するために、河川を横断して設けられたダム以外の施設であって、堤防の機能を有しないもの)の一つで、水位の調整を行う機能を有している。

(2) 公共工事に係る入札・契約制度

 水門設備工事を含め、公共工事の入札・契約制度に関しては、「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(平成6年1月閣議了解)、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年法律第127号)等に基づき、予定価格が「政府調達に関する協定」(平成7年条約第23号)等で定められた基準額である450万SDR(注1) (水資源機構の場合は1500万SDR)以上である場合に一般競争入札を実施する措置が執られたり、工事発注に関する情報公表を拡充するなどの透明性の向上等の入札・契約の適正化に資する措置が執られたりしてきた。

SDR  SDRはIMF(国際通貨基金)の特別引出権(Special Drawing Rights)であり、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドの加重平均方式により決定されている。邦貨換算額は2年ごとに見直されており、450万SDRの邦貨換算額は、平成13年度が7.5億円、14年度及び15年度が6.6億円、16年度及び17年度が7.3億円、18年度が7.2億円となっており、1500万SDRの邦貨換算額は、13年度が25億円、14年度及び15年度が22.2億円、16年度及び17年度が24.3億円、18年度が24.1億円となっている。


 国土交通省では、17年5月、鋼橋工事において、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)第3条の規定に違反する行為(以下「談合」という。)が行われたことを契機に、これまで行ってきた談合防止対策の効果を検証し、同年7月に「入札談合の再発防止対策について」を公表した。そして、同年10月から、一般競争入札の実施を予定価格3億円以上の工事まで、更に18年度中に予定価格2億円以上の工事まで拡大した。また、水資源機構は、18年9月から、一般競争入札の実施を予定価格2億円以上の工事まで拡大した。
 国土交通省及び水資源機構が、工事の発注に当たって適用している入札・契約方式の推移は表1のとおりである。

表1 国土交通省及び水資源機構の入札・契約方式の推移
表1−1 国土交通省
予定価格\年月日 17年10月13日以前 17年10月14日 18年度中 19年度中
450万SDR 一般競争 一般競争 一般競争 一般競争
3億円 公募型指名競争
2億円 公募型指名競争
1億円 工事希望型指名競争 工事希望型競争 工事希望型競争[通常指名競争は原則廃止]
  通常指名競争 工事希望型競争[水門設備工事については原則すべて一般競争]

表1−2 水資源機構
予定価格\年月日 14年3月31日以前 14年4月1日 18年9月27日 19年7月1日
1500万SDR 一般競争 一般競争 一般競争 一般競争
5億円 公募型指名競争 公募型指名競争
3億円 通常指名競争
2億円 通常指名競争
1億円 通常指名競争
  通常指名競争[水門設備工事については原則すべて一般競争]

(注)
 公募型指名競争は、入札参加希望者を公募し、その応募者から提出された技術資料に基づき当該工事の施工に必要な技術力等を審査して入札参加業者を指名する入札・契約方式であり、工事希望型競争は、発注者が入札参加業者を選択し、提出された技術資料を審査して、その中から入札条件すべてを満たす者が入札に参加できる入札・契約方式である。


 なお、国土交通省及び水資源機構は、後述の水門設備工事に係る談合事件を契機に、一般競争入札の実施を19年度中に1億円以上(水門設備工事については19年度当初から原則すべて)の工事に拡大した。

(3) 水門設備工事における官製談合事件

 14年7月、「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」(平成14年法律第101号。以下「官製談合防止法」という。)が成立し、15年1月から施行された。官製談合防止法は、入札談合等関与行為を排除し、防止するための措置について定めている。官製談合防止法が排除し防止しようとする入札談合等関与行為は、国等の職員又は国等が2分の1以上を出資している法人の役員若しくは職員が入札談合等に関与する行為であって、〔1〕事業者等に入札談合等を行わせること、〔2〕特定の者をあらかじめ指名し、又は特定の者との契約を希望する旨の教示・示唆をすること、〔3〕入札談合等を行うことが容易となる秘密情報を特定の者へ教示・示唆すること、のいずれかに該当する行為とされている。
 そして、官製談合防止法において、公正取引委員会は、入札談合等につき入札談合等関与行為があると認めるときは、各省各庁の長等に対し、当該入札談合等関与行為を排除するために必要な入札及び契約に関する事務に係る改善措置を講ずべきことを求めることができるとされ、当該入札談合等関与行為が既になくなっている場合においても、特に必要があると認めるときは、当該入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を講ずべきことを求めることができるとされている。
 公正取引委員会は、18年3月、国土交通省及び水資源機構が発注した水門設備工事の入札において談合の疑いがあるとして、水門設備業者に立入り検査を実施した。
 そして、19年3月、上記の水門設備工事において談合があったとして、入札に参加した水門設備業者に対し、排除措置命令を行うとともに、地方整備局等発注の58件、機構本社等発注の7件、計65件の契約について課徴金納付命令を行った。
 また、上記の命令と同日に、国土交通大臣に対し、国土交通省の職員が落札を予定する者についての意向を事業者に示していたなどの入札談合等関与行為を行っていた事実が認められたとして、官製談合防止法に基づき入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講ずるよう求めた。さらに、国土交通省大臣官房長及び水資源機構理事長に対し、退職者について上記と同様の行為を行っていた事実が認められたとして、職員等が退職後に同様の行為をすることがないよう必要な措置を執ることなどの要請を行った。
 本院に対しては、上記の命令と同日付けで、公正取引委員会から、国土交通省に対して入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講ずるよう求めた旨の通知が行われている。

(4) 国土交通省及び水資源機構の対応

 国土交通省及び水資源機構は、上記の水門設備工事における官製談合事件等を契機に、入札談合への関与行為に関する事実関係の調査を行うとともに、今後の入札談合防止対策について検討するために、19年1月、外部の有識者を加えた入札談合防止対策検討委員会(国土交通省)や入札談合調査等委員会(水資源機構)を設置した。そして、それぞれ今後の入札談合防止対策について検討を行い、同年3月、当面の対策を公表した。
 国土交通省及び水資源機構が公表した当面の対策の主なものは、次のとおりである。
〔1〕 職員等のコンプライアンスの徹底
〔2〕 詳細設計と施工とを一括で発注するなど多様な発注方式の採用等の入札方式の改善
〔3〕 建設業法の営業停止処分や指名停止措置の強化
〔4〕 水門設備工事に係る談合事件に関与した企業等に対する退職者の就職の自粛の要請
 また、国土交通省は、前記の委員会において引き続き検討を行い、同年6月に「水門設備工事に係る入札談合等に関する調査報告書」を公表した。一方、水資源機構も、前記の委員会において引き続き検討を行い、同月に「水門設備工事に係る入札談合行為への元職員の関与等に関する調査報告書」を公表した。
 そして、国土交通省及び水資源機構は、それぞれの報告書(以下「委員会調査報告書」という。)において、在職時はもとより退職後も談合行為に関与することのないよう、コンプライアンスに関する研修・講習の実施、職員等からの通報制度の整備、監察・監査体制の強化、入札・契約方式の改善などを実施することとしており、さらに、今回の談合事件に退職者が関与していたことから、18年度末の退職者に対して資料を配布し、コンプライアンスの徹底が図られるよう促した。
 なお、国土交通省は、入札談合等への関与行為があったと認定した1人を含む8人の職員に対し、停職又は戒告の懲戒処分等を行っている。


2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 前記のとおり、国土交通省及び水資源機構では、水門設備工事に係る官製談合事件を契機として入札談合防止対策について検討し、委員会調査報告書を公表した。このような状況等を踏まえ、合規性、経済性等の観点から、地方整備局等及び機構本社等が発注した水門設備工事の入札・契約の実施状況について、次のような点に着眼して検査を実施した。
〔1〕 入札・契約事務は適正に実施されているか
〔2〕 予定価格の積算は適正に実施されているか
〔3〕 談合により生じた損害の回復等は適正に行われているか

(2) 検査の対象

 検査に当たっては、表2のとおり、地方整備局等及び機構本社等が13年度から18年度までの間に入札・契約を実施した水門設備工事2,470件全工事(当初契約金額1249億0583万余円)を対象とした。

表2 地方整備局等及び機構本社等の契約年度別内訳
(単位:件・千円)
年度
北海道開発局管内
東北地方整備局管内
北陸地方整備局管内
関東地方整備局管内
中部地方整備局管内
近畿地方整備局管内
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
13
40
926,289
66
3,013,920
18
821,037
68
3,709,230
33
1,027,425
58
2,471,070
14
29
1,486,380
58
2,389,327
21
1,166,760
69
3,806,355
28
1,080,450
43
1,537,777
15
32
2,813,685
56
7,453,845
19
1,411,935
56
2,809,380
28
1,353,030
48
2,512,072
16
45
1,617,084
47
2,066,610
22
2,352,525
51
2,798,407
27
1,064,595
34
1,085,826
17
41
2,063,722
32
954,478
8
229,110
30
1,473,622
20
1,067,104
30
994,560
18
39
1,449,556
27
605,052
20
822,215
23
1,042,860
15
468,300
18
809,970
226
10,356,717
286
16,483,232
108
6,803,582
297
15,639,855
151
6,060,904
231
9,411,276

年度
中国地方整備局管内
四国地方整備局管内
九州地方整備局管内
地方整備局等計
機構本社等
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
13
28
2,345,280
21
497,700
130
4,098,465
462
18,910,416
43
4,457,880
505
23,368,296
14
37
2,253,300
21
1,062,600
127
5,126,782
433
19,909,732
46
1,472,887
479
21,382,620
15
27
1,371,300
20
935,340
127
3,437,815
413
24,098,403
53
5,469,817
466
29,568,220
16
26
1,844,850
19
668,640
85
2,657,235
356
16,155,772
58
5,005,581
414
21,161,353
17
24
5,776,627
16
676,830
66
2,204,926
267
15,440,981
44
1,696,747
311
17,137,729
18
25
1,440,747
13
672,105
69
3,713,115
249
11,023,920
46
1,263,696
295
12,287,616
167
15,032,104
110
4,513,215
604
21,238,339
2,180
105,539,226
290
19,366,609
2,470
124,905,835

(3) 検査の方法

 本院は、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき提出された証拠書類等のほか、入札・契約状況等に関する調書等を徴取し、これらの調査、分析を行うとともに、国土交通本省、北海道開発局及び同局管内に所在する2開発建設部、8地方整備局及び同局管内に所在する11事務所並びに水資源機構本社及び1建設所において、予定価格の算定状況や工事の発注状況などについて会計実地検査を行った。


3 検査の状況

(1) 水門設備工事の概要

 検査の対象とした2,470件の工事を、その内容に応じて、設備の新設(新設)、既存設備の劣化部分の機能復旧等の修繕(修繕)、既存設備の劣化部分等の取替え(取替)、既存設備の劣化部分等の一部の製作据付(改造)の別に区分すると、新設668件(27.0%)、修繕1,032件(41.8%)、取替439件(17.8%)、改造331件(13.4%)となっている。
 また、設備の築造箇所及び規模により区分すると、河川用小形水門設備1,188件(48.1%)、河川用中形水門設備182件(7.4%)、河川用大形水門設備152件(6.2%)、ダム用水門設備576件(23.3%)、可動堰192件(7.8%)、その他180件(7.3%)となっている。

(2) 入札・契約方式の適用状況

 検査の対象とした2,470件の工事を入札・契約方式別に示すと、表3のとおりであり、全体の契約件数ベースで、通常指名競争入札が68.2%、随意契約が15.5%となっている(表3−1)。

表3 入札・契約方式の適用状況
表3−1 地方整備局等及び機構本社等
(単位:件・千円)
年度
一般競争
公募型競争等
通常指名競争
随意契約
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
13
1
939,750
23
8,749,860
410
11,996,775
71
1,681,911
505
23,368,296
14
2
1,459,500
33
6,478,185
380
11,580,082
64
1,864,852
479
21,382,620
15
5
7,700,700
31
9,935,100
361
10,564,102
69
1,368,318
466
29,568,220
16
2
3,087,651
22
7,212,576
330
9,501,618
60
1,359,508
414
21,161,353
17
24
6,829,714
39
2,565,097
176
5,800,375
72
1,942,542
311
17,137,729
18
202
9,844,539
19
605,157
27
890,568
47
947,352
295
12,287,616
236
(9.6%)
29,861,855
167
(6.8%)
35,545,975
1,684
(68.2%)
50,333,521
383
(15.5%)
9,164,484
2,470
124,905,835

表3−2 地方整備局等
(単位:件・千円)
年度
一般競争
公募型競争等
通常指名競争
随意契約
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
13
1
939,750
21
5,914,860
381
10,585,575
59
1,470,231
462
18,910,416
14
2
1,459,500
33
6,478,185
339
10,151,767
59
1,820,280
433
19,909,732
15
5
7,700,700
25
5,818,050
319
9,229,657
64
1,349,995
413
24,098,403
16
1
724,500
20
5,649,420
289
8,450,200
46
1,331,652
356
16,155,772
17
24
6,829,714
39
2,565,097
143
4,178,860
61
1,867,309
267
15,440,981
18
201
9,641,133
19
605,157
0
0
29
777,630
249
11,023,920
234
(10.7%)
27,295,298
157
(7.2%)
27,030,769
1,471
(67.5%)
42,596,060
318
(14.6%)
8,617,098
2,180
105,539,226

表3−3 機構本社等
(単位:件・千円)
年度
一般競争
公募型指名競争
通常指名競争
随意契約
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
13
0
0
2
2,835,000
29
1,411,200
12
211,680
43
4,457,880
14
0
0
0
0
41
1,428,315
5
44,572
46
1,472,887
15
0
0
6
4,117,050
42
1,334,445
5
18,322
53
5,469,817
16
1
2,363,151
2
1,563,156
41
1,051,417
14
27,856
58
5,005,581
17
0
0
0
0
33
1,621,515
11
75,232
44
1,696,747
18
1
203,406
0
0
27
890,568
18
169,722
46
1,263,696
2
(0.7%)
2,566,557
10
(3.4%)
8,515,206
213
(73.4%)
7,737,460
65
(22.4%)
547,386
290
19,366,609

(注)
 「公募型競争等」は、公募型指名競争、競争性を高めた公募型指名競争、工事希望型指名競争、工事希望型競争である。


 このうち、地方整備局等発注の契約についてみると、前記のとおり、国土交通省が、17年10月以降、一般競争入札の実施を450万SDR以上の工事から2億円以上の工事に拡大してきたことにより、一般競争入札の占める割合が大幅に増加し、18年度においては249件のうち201件(80.7%)を占めている状況である。一方、通常指名競争入札は16年度まで契約件数の約8割を占めていたが、18年度は皆無となっている。
 次に、随意契約の状況についてみると、地方整備局等発注の工事では計2,180件のうち318件(14.6%)、機構本社等発注の工事では計290件のうち65件(22.4%)となっている(表3−2、3)。これに対し、一般土木工事における随意契約の割合は、13年度から17年度における地方整備局等発注の契約(北海道開発局管内分及び港湾空港関係を除く。)でみると、3.1%となっており、これに比べて水門設備工事の随意契約の割合は高いものとなっている。
 また、地方整備局等発注の随意契約318件の随意契約とした理由について、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)における随意契約を締結できる場合の要件により区分すると、表4のとおりとなっている。

表4 地方整備局等における随意契約の理由別契約件数
(単位:件)
年度
随意契約件数
A
B
C
13
59
55
1
3
14
59
57
2
0
15
64
55
2
7
16
46
43
2
1
17
61
59
0
2
18
29
26
0
3
318
295
(92.8%)
7
(2.2%)
16
(5.0%)
A:契約の性質又は目的が競争を許さない場合
B:緊急の必要により競争に付することができない場合
C:予定価格が少額である場合その他

 随意契約とした理由が契約の性質又は目的が競争を許さない場合に該当するとした295件の工事の内訳をみると、新設21件、修繕160件、取替60件、改造54件となっている。
 そして、新設工事21件の随意契約とした理由について、地方整備局等は、これらの工事は前年度に発注した水門設備工事に引き続き当該設備の据付等を実施するもの(以下「継続工事」という。)であり、この場合、各装置が一体となって機能するために製作精度を十分判断して現地で据え付ける必要があり、この精度の詳細は前年度に施工した業者しか判断できないこと、製作工と据付工を別の業者が行うとシステム全体として不具合が生じ、設備に重大な障害を生じさせるおそれがあることなどから、前年度に施工した業者と随意契約を結んだとしている。
 また、新設工事以外の修繕、取替及び改造工事(以下「修繕等工事」という。)計274件の随意契約とした理由については、新設時に施工した業者又はその関連業者は、その設備の構造、機能等を熟知しており、さらに、業者特有の技術をもって設計、施工していて、修繕等工事が既設設備と密接不可分の関係にあることなどから、当該新設時に施工した業者等と随意契約を結んだとしている。
 しかし、18年8月に財務大臣から各省各庁の長あてに「公共調達の適正化について」(平成18年財計第2017号)が通知され、随意契約の適正化を図ることとされたことから、水門設備工事においても、18年度の随意契約件数は減少し、19年度からは、契約の性質又は目的が競争を許さないという理由での随意契約は原則として行われなくなった。これについて国土交通省は、継続工事では国庫債務負担行為の活用等を図ったり、修繕等工事では新設時に施工した業者から取得した関係資料を他の業者に提供したりすることにより、入札・契約方式の競争化が図られたことなどによるとしている。
 なお、機構本社等発注の随意契約65件中30件の契約については、随意契約とした理由を予定価格が少額であることとしている。

(3) 入札と落札の状況

ア 通常指名競争入札における指名業者の選定

 検査の対象とした2,470件の工事のうち、通常指名競争入札が適用された件数は、計1,684件(68.2%)である(表3−1)。
 これらの指名競争入札における指名業者数については、国土交通省の場合は予決令において、水資源機構の場合は工事請負契約の事務処理要領(昭和37年水公達昭和37年第4号)において、なるべく10人以上の業者を指名しなければならないこととされている。
 このことから、前記の通常指名競争入札のほとんどにおいて10者以上を指名しているが、9者以下の指名となっているものも71件あり、このうち5者以下の指名となっているものが31件ある。そして、中には、事例1のとおり、業者選定過程で特段の理由もなく過度に指名業者を絞り込んでいるものも見受けられた。

<事例1>

 A地方整備局が平成13年度に通常指名競争入札により契約したB工事(河川用小形水門設備取替工事)では、表5のとおり、有資格者749社から、当該工事に対する地理的条件、不誠実な行為の有無、経営状況、工事成績、手持ち工事等の状況によって20社まで絞り込んだ後、当該工事施工についての技術的適性の項目を設定して、10社を下回る6社に絞り込み、さらに、受注機会の均等性及び当該工事施工についての技術的条件によって最終的に3社まで絞り込み、指名を行っていた。

表5 過度に指名業者を絞り込んだ例
(単位:社)

表5過度に指名業者を絞り込んだ例(単位:社)

イ 一般競争入札における入札者数と落札率

 地方整備局等発注の契約は、前記のとおり、17年10月及び18年度中に一般競争入札の適用範囲が拡大されている。そこで、17年10月以降の一般競争入札における入札者数をみたところ、表6のとおり、1者入札となっている契約が17年度24件中7件(29.2%)、18年度201件中93件(46.3%)見受けられた。

表6 一般競争入札において1者入札となっている契約件数
(単位:件)
17年度
18年度
契約件数
うち1者入札
契約件数
うち1者入札
A
B
C
A
B
C
北海道開発局管内
5
1
0
0
1
39
8
8
2
18
東北地方整備局管内
2
0
0
0
0
20
4
3
2
9
北陸地方整備局管内
3
1
0
0
1
16
8
0
0
8
関東地方整備局管内
1
1
0
0
1
12
6
0
0
6
中部地方整備局管内
4
1
0
0
1
9
6
0
0
6
近畿地方整備局管内
1
1
0
0
1
15
11
0
0
11
中国地方整備局管内
6
0
0
1
1
12
6
2
0
8
四国地方整備局管内
2
1
0
0
1
13
4
0
1
5
九州地方整備局管内
0
0
0
0
0
65
17
0
5
22
24
6
0
1
7
201
70
13
10
93
A:入札に参加を希望した業者が1者しかいなかったもの
B:入札に参加を希望したが、入札公告に定めた競争参加資格に欠けるとして排除された結果、1者となったもの
C:その他

 これを工事内容別にみると、表7のとおり、修繕等工事では1者入札が半数を超え、新設工事に比べて著しく多くなっており、複数の入札参加業者による競争が行われていない結果となっている。そして、1者入札となっている契約の平均落札率は、新設工事、修繕等工事のいずれも、複数の業者が参加した入札の平均落札率に比べて相当高くなっている。
 このような1者入札の状況については、今後の推移を注視する必要がある。

表7 一般競争入札の工事内容別・入札者数別の契約件数及び落札率
(単位:件・%)
年度
新設
修繕等
複数の者による入札
1者入札
複数の者による入札
1者入札
複数の者による入札
1者入札
件数
平均落札率
件数
平均落札率
件数
平均落札率
件数
平均落札率
件数
平均落札率
件数
平均落札率
17
12
72.2
2
84.1
5
87.5
5
94.6
17
76.7
7
91.6
18
49
80.8
14
94.0
59
87.6
79
95.3
108
84.5
93
95.1
61
79.1
16
92.8
64
87.6
84
95.2
125
83.5
100
94.8

 なお、1者入札となっている修繕等工事計84件のうち、新設時に施工した業者の確認ができない11件を除く73件の請負業者をみたところ、49件は新設時に施工した業者又はその関連業者であった。

ウ 談合が行われた期間とそれ以降の期間における落札率

 公正取引委員会によると、水門設備工事において談合が行われていたのは13年7月から17年5月まで(以下「談合認定期間」という。)とされている。そこで、17年5月以前とその後の期間において地方整備局等及び機構本社等が競争入札を実施した契約について、落札率を調査した。
 その結果、表8のとおり、談合認定期間の全入札の平均落札率は95.2%となっていたが、それ以降の期間は90.1%と低下しており、このうち18年度についてみると、89.3%と更に低下している。

表8 談合認定期間とそれ以降の期間の平均落札率
(単位:件・%)
談合認定期間
(13年7月1日から17年5月31日(注) )
それ以降の期間
(17年6月1日から19年3月31日)
左のうち18年度分
件数
平均落札率
件数
平均落札率
件数
平均落札率
北海道開発局管内
139
93.4
79
89.6
39
88.9
東北地方整備局管内
202
94.6
42
92.2
20
91.9
北陸地方整備局管内
74
95.4
21
91.9
16
92.0
関東地方整備局管内
170
95.2
37
89.6
16
91.4
中部地方整備局管内
109
96.5
26
91.1
10
90.0
近畿地方整備局管内
143
96.0
28
92.8
15
91.7
中国地方整備局管内
117
96.6
45
89.5
24
92.8
四国地方整備局管内
72
95.5
26
86.5
13
81.6
九州地方整備局管内
405
95.3
119
89.4
67
87.5
機構本社等
158
94.5
61
90.8
28
88.9
1,589
95.2
484
90.1
248
89.3

 談合認定期間の始期は、地方整備局等発注の河川用水門設備にあっては平成13年7月1日、地方整備局等発注のダム用水門設備にあっては13年8月1日、機構本社等発注の水門設備にあっては13年9月1日。


エ 修繕等工事の受注業者と落札率

 検査の対象とした修繕等工事で競争入札を実施したもの計1,154件のうち、新設時に施工した業者又はその関連業者が修繕等工事も請け負っているものは721件で、62.5%を占めている。そして、これらの工事の談合認定期間とそれ以降の期間の平均落札率は、それぞれ95.6%、94.5%となっており、この平均落札率の差は、表8における水門設備工事全体の平均落札率の低下に比べてわずかなものとなっている。
 一方、新設時に施工した業者等が修繕等工事を請け負っていないものの平均落札率は、談合認定期間で94.0%、それ以降の期間で90.9%となっており、上記の新設時に施工した業者等が修繕等工事も請け負っているものの平均落札率の低下に比べて差が大きくなっている。

(4) 工事費内訳書の提示・提出及び確認

ア 工事費内訳書の提示・提出

 工事費内訳書とは、入札参加業者が第1回の入札時にその入札価格の内訳を記載し提示・提出するものであり、その内容は、入札前に発注者から示された数量総括表を参考に、費目、工種等に相当する項目に対応した数量、単価及び金額等を明らかにしたもので、様式は自由とされている。
 国土交通省は、入札及び契約における不正行為の排除等を徹底するなどのために、公共工事について、表9のとおり、入札・契約方式に応じて、すべて又は一定の割合で工事費内訳書を提示・提出させることとしている。

表9 国土交通省の公共工事における工事費内訳書の提示・提出割合
施行開始時期
一般競争
公募型指名競争
通常指名競争
平成6年度
すべて(提示)
(提示等求めず)
(提示等求めず)
14年1月1日
すべて(提示)
3割程度(提出)
(提示等求めず)
14年8月1日
すべて(提示)
5割程度(提出)
1割程度(提出)
15年3月13日
すべて(提出)
5割程度(提出)
1割程度(提出)
15年6月1日
すべて(提出)
すべて(提出)
2割程度(提出)
16年12月22日
すべて(提出)
すべて(提出)
2割程度以上(提出)

 そして、工事費内訳書が未提示又は未提出である業者の入札を無効とすることができることとし、さらに、談合があると疑うに足りる事実があると認めた場合には、必要に応じて工事費内訳書を公正取引委員会に提出することとしている。
 また、水資源機構は、15年9月から、すべての一般競争入札について工事費内訳書を提出させることとし、17年10月から、その範囲をすべての公募型指名競争入札に拡大している。しかし、同機構にあっては、検査の対象とした機構本社等発注の水門設備工事の契約(計290件、表3−3)では、通常指名競争入札と随意契約がほとんどとなっていて、一般競争入札の実績が2件しかないこと、17年度以降の公募型指名競争入札の実績がないことから、工事費内訳書の実際の提出件数は、わずか2件に過ぎなかった。このため、水門設備工事において、工事費内訳書の提出が限られていた18年度までは、そのチェックによる不正行為の排除等は行えない状況となっていた。

イ 工事費内訳書の確認

 本院において、地方整備局等発注の水門設備工事の入札参加業者から提出された工事費内訳書を調査したところ、公正取引委員会により談合が行われたと認定された契約の中で、次のように規則性のある事例が見受けられた。

<事例2>

 C地方整備局が公募型指名競争入札を行ったD工事(ダム用水門設備新設工事)において、10社が入札に参加している。
 そして、一般に、一般管理費等の金額を算定するための一般管理費等率は各社ごとに異なることが想定されるが、本院において、入札参加業者から提出された工事費内訳書に記載された工事原価及び一般管理費等の金額から一般管理費等率を算出したところ、この工事については、表10のとおり、落札者の一般管理費等率(10.2%)と同じ一般管理費等率である社が2社見受けられた。

表10 工事費内訳書の規則性の例
(単位:円)

表10工事費内訳書の規則性の例(単位:円)

 また、次の事例のように、工事費内訳書を不正行為の排除等のために有効に活用できない結果となっているものも見受けられた。

<事例3>

 各入札参加業者の工事費内訳書は任意の様式等で作成させることとなっているが、C地方整備局は、一般競争入札を行ったE工事(ダム用水門設備新設工事)において、同局が表計算ソフトを用いて費目、工種、数量等を記入した工事費内訳書の様式を書き込み可能な状態の電子媒体で、入札参加希望業者に提供していた。
 この結果、表11のとおり、7社中5社がこれをそのまま使い、金額以外の様式等が全く同じ工事費内訳書を提出していた。このため、入札参加業者の間で連絡等があるかなどの不正行為の排除等のためのチェックに、工事費内訳書を活用できない状況となっていた。

表11 工事費内訳書の様式等が同じ例
業者名
罫線
文字の大きさ
文字の配置
字体
a社(落札者)
一致
一致
一致
ゴシック
b社
一致
一致
一致
ゴシック
c社
一致
一致
一致
ゴシック
d社
一致
一致
一致
ゴシック
e社
一致
一致
一致
ゴシック
f社
一致
一致
一致
明朝
g社
不一致
一致
不一致
明朝

 また、工事費内訳書を提出させる目的は、前記のとおり、入札及び契約における不正行為の排除等であるが、地方整備局等に工事費内訳書の活用状況について報告を求めたところ、他の入札参加業者と同じ様式となっていないか、記載事項に不備がないかなどの形式的なチェックにとどまっていたものが見受けられた。
 なお、水門設備工事に関し、談合認定期間において、国土交通省が、自ら行った工事費内訳書のチェックにより入札談合等が行われたと疑うに足りる事実があるとして、工事費内訳書を公正取引委員会に提出した実績はなかった。

(5) 水門設備工事における予定価格の積算

 国土交通省は「機械設備工事積算基準」等により、水資源機構は「積算基準及び積算資料(機械編)」等により水門設備工事の予定価格を積算しているが、これに記載されていない機器単体費や一部の労務費(製作・据付歩掛かり)等については、特別調査(注2) や見積りにより積算することとしており、見積りによる場合は、上記の積算基準等において原則として3者以上から見積りを徴取することとされている。

 特別調査  機器単体費等を積算する場合、物価調査機関に特定の品目を指定して市場価格の調査をさせるものをいう。


 しかし、水門設備工事の機器単体費や一部の労務費(製作・据付歩掛かり)について見積りを徴取している項目がある地方整備局等823件、機構本社等114件、計937件の工事のうち、1者からしか見積りを徴取していない項目があるものが地方整備局等で166件(20.2%)、機構本社等で15件(13.2%)、計181件(19.3%)あり、実勢取引価格を反映したものとなっているか確認できない状況であった。また、この181件のうち、直接製作費(注3) 及び直接工事費(注4) の積算額の合計額に占める見積りによる積算額の割合が50%以上のものが地方整備局等で64件(38.6%)、機構本社等で5件(33.3%)、計69件(38.1%)あり、中にはこの割合が100%であるものも地方整備局等で1件見受けられるなど、水門設備工事の予定価格に占める見積りによる積算額の割合は大きいものとなっている。このような状況の下では、見積りの徴取を適切に行わない場合には、予定価格の積算が限られた業者の見積りに左右されることになる可能性もある。

 直接製作費  工場で製作するために直接投入される材料費、機器単体費、労務費、塗装費と直接経費の合計額
 直接工事費  工事を施工するために直接投入される材料費、労務費、塗装費等と直接経費の合計額

(6) 水門設備工事の設計・施工と入札・契約方式

 水門設備のうち、その約半数を占める河川用小形水門設備については、建設省(13年1月以降は国土交通省)制定の土木構造物標準設計により標準設計が示されており、実際の設計の多くが標準設計に準拠して行われているのに対し、それ以外の河川用水門設備やダム用水門設備、可動堰については、現場条件により水門の形が異なることや規模が大きくなると個別に設計した方が有利な場合も多いことなどから標準化が進んでいない。しかし、これらの水門においても、水門設備を構成する水門機器等の標準化は可能であると考えられる。そして、これらの標準化が進めば、設計業務後の施工契約で水門設備を製作できる業者が増え、競争性が向上する可能性があり、また、標準化が進むと、維持管理が容易になり、維持管理の面でも効率化が図られる可能性もある。
 また、河川用中形及び大形水門設備、ダム用水門設備、可動堰の設計・施工には、水圧が高かったり、径間長が長かったりするなどの理由で高度な技術を要するものがあり、このような水門設備は水門設備業者により製品に違いがみられ、この中には、水門設備業者の技術力が優越的となっていて、設計業務を請け負う設計コンサルタントは水門設備業者の協力がないと設計が極めて困難なものもある。しかし、高度な技術を要する水門設備にはこうした特性があるにもかかわらず、一部試行で行われている設計施工一括発注方式等の場合を除いて、その他の工事と同様に、設計・施工分離の原則から、設計業務と施工業務を分離して発注している。このような現在の入札方式は、上記の特性を十分踏まえた適切な入札制度になっているか、なお検討の要がある。

(7) 入札・契約方式の改善に対する取組状況

 国土交通省及び水資源機構は、水門設備工事に係る官製談合事件を契機に、再発防止のために、19年6月の委員会調査報告書にまとめられた対策として、職員等のコンプライアンスの徹底等を図るほか、入札・契約方式の改善に取り組むこととしている。そして、国土交通省は、入札手続における競争性、透明性、公正性を高める観点から、次のような発注方式を導入し、又は活用を図ることとしている。

(ア) 詳細設計付き施工発注方式

 構造の細部の設計及び実際の施工に必要な仮設等の設計を工事と同時に契約する方式

(イ) 設計施工一括発注方式

 構造物の形式や構造の検討などの設計を工事と同時に契約する方式

(ウ) 本体・設備一括発注方式

 複数の工事種別を一括して契約する方式

(エ) CM方式

 コンストラクションマネージャー(CMR)が技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、各種のマネジメント業務を行う方式

 このような入札・契約方式の改善を行うことについて、国土交通省は、19年6月の委員会調査報告書において、「水門設備工事など設備工事の中には、専門性が高いため、設計者よりも施工業者にノウハウが蓄積され、施工業者の設計者等への事前協力の度合いが事実上の競争になっていた場合がある。また、施工可能な事業者が限られる場合や設計と施工がより密接に関連している場合など、特殊性を有するものがある。このため、これらの実態を踏まえた入札契約制度として、施工業者が設計段階から適切に関与するなど、多様な発注方式を採用するとともに、入札契約手続における競争性、透明性、公正性を一層高めることが必要である」としている。
 しかし、今回導入した(ア)の詳細設計付き施工発注方式以外の方式について、国土交通省の公共工事全体でみると、(ウ)の本体・設備一括発注方式については試行しているものの適用件数も把握していない状態である。また、(イ)の設計施工一括発注方式については9年度から18年度までで90件(うち水門設備は、9年度、14年度、15年度で各1件)、(エ)のCM方式については12年度から18年度までで21件(うち水門設備は0件)の適用実績はあるものの、次のようなことから、いずれも試行段階の状態である。
 すなわち、(イ)の設計施工一括発注方式については、10年6月社団法人土木学会が取りまとめた「設計・施工技術の一体的活用方式の公共工事への適用性に関する研究業務報告書」において、「チェック・バランス機能が働きにくい」、「最初の段階で設計基準が明確ではないので、建造物が出来上がった段階で、オーナーが失望したり、各当事者間での紛争を招きやすい」、「プロジェクト後期になってからの設計要求条件の変更は困難であり、できるとしても高価である」とされている。また、(エ)のCM方式についても、14年2月、国土交通省が取りまとめた「CM方式活用ガイドライン」において、「CMRに対しては、法令等による公的位置づけがなされていない」、「CMRの設計者、施工者からの独立性を確保することが必要である」、「CMRのチームリーダーとなるCMr(個人)には、高い倫理性とともに、マネジメントの経験・知識など、CM業務に関する高度な能力が要求される」、「新たな民間資格の検討が必要になると考えられる」とされている。したがって、今後、これらの課題を踏まえ適切に実施していく必要がある。
 一方、水資源機構においては、上記(ア)、(イ)及び(ウ)の方式を今後試行的に取り入れることとしている段階である。

(8) 水門設備工事業者に対する違約金の請求

ア 違約金特約条項の設定

 国土交通省は15年6月1日以降、水資源機構は同年8月6日以降に入札・契約手続を開始する契約について、違約金に関する特約条項(注5) (以下「違約金特約条項」という。)を付すこととし、その旨、地方整備局等又は機構本社等に通達している。

 違約金に関する特約条項  独占禁止法第3条の規定などに違反したことにより、公正取引委員会が請負業者に対し課徴金の納付命令を行い、当該納付命令が確定したなどの場合は、発注者の請求に基づき請負代金額(契約締結後に請負代金額の変更があった場合には、変更後の請負代金額)の10分の1に相当する金額を違約金として支払わなければならないとする特約条項


 しかし、上記の通達で指定した日(以下「通達指定日」という。)以降に入札・契約手続を開始したにもかかわらず、通達直後で徹底できなかったり、契約金額が少額である場合に契約書に代えて請書を徴取する際に違約金特約条項を付すことを失念したりしたことなどにより、水門設備工事において違約金特約条項が付されていない契約が、地方整備局等と機構本社等を合わせて計50件(15年度34件、16年度11件、17年度2件、18年度3件)見受けられた。
 違約金特約条項は、談合防止のために設けられたものであることから、その趣旨に沿って確実に付す必要がある。

イ 違約金の請求

 各地方整備局は、公正取引委員会から談合の認定を受けた国土交通省の水門設備工事58件の契約のうち、通達指定日以降に入札・契約手続を開始し違約金特約条項が付されている契約で、かつ、しゅん功しているもの27件について、19年7月に、計7億1778万余円の違約金の請求を行っており、これらは同月中に全額国庫に納入された。また、違約金特約条項が付されているがしゅん功していない7件については、しゅん功後、請負代金額の確定を待って違約金を請求することにしている。
 また、水資源機構においても、19年7月、談合認定を受けた7件の契約のうち、通達指定日以降に入札・契約手続を開始し違約金特約条項が付されているもの5件について、計4億4347万余円の違約金の請求を行っており、同月中に全額納入された。

ウ 損害賠償の請求

 公正取引委員会から談合の認定を受けた契約のうち、違約金特約条項が付されていないものは、いずれも通達指定日以前に入札・契約手続が開始されたもので、国土交通省で24件、水資源機構で2件ある。これらについては、契約上は違約金を請求できないことから、同省及び同機構において損害賠償を請求することを検討中である。

4 本院の所見

ア 公共工事にあっては、競争性、透明性、公正性を確保し、談合の防止を図るとともに、経済的な予算執行を行うことが求められている。

 今回、水門設備工事に係る官製談合事件を踏まえ、国土交通省及び水資源機構が実施した水門設備工事の入札・契約の実施状況を検査したところ、次のような状況が見受けられた。

(ア) 国土交通省では、17年度以降において、一般競争入札の適用範囲が拡大されているが、1者入札となっているものが17年度24件中7件(29.2%)、18年度201件中93件(46.3%)見受けられており、複数の入札参加業者による競争がなされていない結果となっている。また、修繕等工事については、国土交通省及び水資源機構で競争入札を実施した工事のうち62.5%の工事において新設時に施工した業者又はその関連業者が請け負っていた。
 そして、水門設備工事の現状についてみると、河川用小形水門設備については、標準化が進んでいるものの、その他の河川用水門設備やダム用水門設備、可動堰については、水門設備を構成する水門機器等の標準化も進んでいない状態となっている。
 また、高度な技術を要する水門設備についても設計業務と施工業務を分離して発注する現在の入札方式は、水門設備業者の技術力が設計コンサルタントより優越的な立場にあり、後者は前者の設計協力を必要とするという特性を十分踏まえた適切な入札制度になっているか、なお検討の必要がある。一方、入札談合防止対策として、設計施工一括発注方式等の多様な発注方式を適用することとしているが、課題もあり、現時点では本格的に実施できる段階には至っていない。
(イ) 国土交通省の水門設備工事では、入札参加業者が提出した工事費内訳書において、不自然な規則性が見受けられたり、地方整備局等が工事費内訳書の様式等を入札参加希望業者に提供していたため、工事費内訳書を入札及び契約における不正行為の排除等のためのチェックに活用できない結果となったりしているものが見受けられた。また、水資源機構では、工事費内訳書を提出させることとしている入札・契約方式による契約が少なく、不正行為の排除等という目的に寄与させることができない状況となっていた。
(ウ) 水門設備工事の機器単体費や一部の労務費等の積算に当たり、見積りによる場合は原則として3者以上から見積りを徴取することとされているのに、1者からの見積りによって積算していて、実勢取引価格を反映したものとなっているか確認できないものが多数あったほか、見積りが占める割合が大きいため、予定価格の積算が業者の見積りに左右されかねない状況も見受けられた。
(エ) 違約金特約条項は、国土交通省では15年6月1日以降、水資源機構では同年8月6日以降入札・契約手続を開始する工事に付すこととされているが、付していない水門設備工事の契約が多数見受けられた。

イ 国土交通省及び水資源機構においては、今回の官製談合事件等によって失った国民の信頼を回復するために、職員等のコンプライアンスの徹底に努めるなど、委員会調査報告書にまとめられた対策を確実に実施するとともに、以下のような対応を図っていくことが必要であると考えられる。

(ア) 水門設備工事における競争性等の向上の観点から、可能な限り水門設備を構成する水門機器等の標準化を進めるとともに、入札・契約方式の競争性、透明性、公正性を確保するため、高度な技術を要する水門設備については、多様な発注方式が可能となるよう努めること
(イ) 工事費内訳書については、公正な入札を執行できるかどうか疑義があるなどの事態を発見できる場合があることから、効果的な活用方法を検討すること
(ウ) 水門設備工事の機器単体費や一部の労務費等を見積りにより積算する場合は、原則として3者以上から見積りを徴取することについて、確実に実施していくこと
(エ) 違約金特約条項を契約に付すことを徹底するとともに、違約金特約条項が付されていない契約で、談合により生じた損害が回復されていないものについて、損害の回復に努めること

 本院としては、今後とも上記のことが適切に実施され、再発防止対策の効果が十分発現しているか、引き続き検査していくこととする。