会計検査院は、平成17年6月8日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一) 検査の対象
外務省、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)
(二) 検査の内容
政府開発援助(ODA)についての次の各事項
1 開発コンサルタント、NPO等への委託契約の状況について
特に
・対コスタリカODAにおける株式会社パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)に係る不祥事の概要、同種事案の有無
・外務省、JICA及びJBICのPCI等日本の開発コンサルタント会社に対する事務・業務の委託契約の状況
2 草の根・人間の安全保障無償援助の実施状況について
3 スマトラ沖地震の緊急援助の実施状況について
参議院決算委員会は、17年6月7日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成15年度決算審査措置要求決議」を行っている。
このうち、上記検査の要請に関する項目の内容は、次のとおりである。
12 ODAにおける不正事案について
昨年9月、コスタリカへのODA事業「テンピスケ川中流域農業総合開発計画」で、同国政府機関「国土地理院」への再委託料として(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)に支払われた約231,000ドル(約2,500万円)のうち、コスタリカ側に支払われた約59,000ドルを除いた約172,000ドル(約1,800万円)が政府機関の口座に入金されないまま使途不明になっていることが、独立行政法人国際協力機構(JICA)の調査で明らかになった。JICAは、「不正又は不誠実な行為」があったとして、同年12月、指名停止6か月の処分を行った。なお、PCIは、コスタリカ側に支払われた約59,000ドルを除いた約172,000ドル(プラス利息分)を今年1月JICAに返還した。
上記事案を受けてJICAは、PCIが過去5年間に受注した類似の案件について調査を実施し、本委員会においてその結果を聴取した。それによれば、調査の結果4か国4案件において実態と異なる再委託契約を行いJICAに対して不正な請求を行っていたことが新たに判明したことを踏まえて、JICAはPCIに対して新たに9か月の指名停止措置をとり、不正請求額合計1,527万円相当及び利息分の返還を請求した。
ODAの実施に際して、再度開発コンサルタント会社の不祥事が起きることのないよう、外務省は、再発防止のためにより透明性の高い事業を遂行するように指導監督すべきであり、またJICAは、再委託契約手続の各段階を見直して、再委託先に関する情報のJICA在外事務所への報告の徹底、入札時の同事務所員による立会いの励行、再委託契約にかかわるすべての会計書類のJICAへの提出、JICA在外事務所が設置されていない地域への現地調査団派遣など監督体制強化の措置を講ずべきである。
PCIを始めとするODAに関するコンサルタント会社への委託業務についての会計検査については、過去に不正事案がなかったかなどの実態を十分に調査した上、実施すべきである。
13 草の根・人間の安全保障無償について
グローバル化が急進する中、感染症、環境問題といった国境を超える問題が世界中で広がっている。また、多発する地域紛争や経済的な要因により、難民や国内避難民などの非自発的な人の移動が大きな問題となっている。こうした問題を克服するためには、人間の生存、生活、尊厳を直接に脅かす深刻かつ広範な脅威から人々を保護し、個人やコミュニティが自立するための能力を育成することが必要である。これが「人間の安全保障」の考え方であり、我が国は、人間の安全保障分野における取組を推し進めるために、1999年3月国連に「人間の安全保障基金」を設置し、積極的に支援を行ってきた。
平成15年度予算から、開発途上国の現地住民に直接裨益するきめ細かな援助として高い評価を得てきている草の根無償資金協力(平成14年度予算100億円)に、人間の安全保障の考えをより強く反映させ、「草の根・人間の安全保障無償」として、主にNGOを被供与団体とし、迅速な実施が求められる緊急の支援にも対応していくこととした(平成15年度草の根・人間の安全保障無償資金協力予算150億円)。
供与限度額の原則1,000万円以下は草の根無償資金協力時と変更はないが、最大供与額を従来の5,000万円から1億円に引き上げた。
政府は、15年度から実施した「草の根・人間の安全保障無償」について、それまでの草の根無償と比較して、その意義、効果等について調査・検討する必要がある。
15 スマトラ沖地震に対する緊急援助の実施状況について
昨年末に発生したスマトラ沖地震及びインド洋津波被害に関し、我が国は5億ドルを限度とする協力を関係国及び国際機関等に対して無償で供与することを決定した。このうちの半分の2億5,000万ドルはユニセフ、世界食糧基金等の国際機関経由で、残りの2億5,000万ドルはインドネシア、スリランカ等の被災国に直接送金されている。しかし、後者の二国間供与分については、資金が相手側に届いているにもかかわらず、調達がまだ実施されていない部分がある。
政府は、今後の緊急支援においてその趣旨が生かされないというものがないよう、スマトラ沖地震に関し緊急支援として供与した援助について、その実施状況を調査する必要がある。
前記の要請により実施した会計検査の結果について、18年9月21日、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、この報告を「18年報告」という。)。
18年報告のうち、「第2 開発コンサルタント、NPO等への委託契約の状況について」及び「第4 スマトラ沖地震の緊急援助の実施状況について」は、18年報告の検査の結果に対する所見において、引き続き検査を実施する必要があるものの検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとした。