国庫補助事業については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)において、各省各庁の長は、その所掌の補助金等に係る予算の執行に当たっては、補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに特に留意し、補助金等が公正かつ効率的に使用されるように努めなければならないとされている。
また補助事業者等も、補助金等が貴重な財源でまかなわれるものであることに留意し、法令の定め及び補助金等の交付の目的に従って誠実に国庫補助事業を行うように努めなければならないとされている。
この国庫補助事業において、談合等の事実が確定するなどした場合、事業主体は、受注者等に対し、これによって被った損害の回復等を図ることとして違約金等を請求することになるが、違約金等を収納した場合、当該国庫補助事業の実施に要した費用は、実質的に、収納した違約金等の額に相当する分が減少することから、交付を受けた国庫補助金は過大に交付されていることとなる。そこで、国庫補助金が違約金等に係る国庫補助金相当額分だけ過大に交付されていると認識した一部の事業主体においては、これを申し出て自主的に国へ返還しており、前記のとおりの実績となっているところである。
以上のことから、経済性等の観点から、国庫補助事業の事業主体において、談合等に係る違約金等を速やかに収納し、これに係る国庫補助金相当額を速やかに国に返還しているかなどに着眼して検査した。
20都道府県(注1)
における30事業主体が発注した国土交通省所管の国庫補助に係る工事及び測量、設計等の委託業務(以下「工事等」という。)に関し、受注者等が談合等を行ったとして、14年度から18年度までの間に、独占禁止法に違反し公正取引委員会から排除措置命令(排除勧告)若しくは課徴金納付命令を受けたり、刑法の競売入札妨害罪、談合罪の容疑で逮捕若しくは起訴されたりしていて、19年3月末時点において、受注者等の談合等の事実が確定している計1,859工事等、契約額計720億4985万余円(国庫補助金相当額336億1073万余円)を検査の対象とした。
そして、上記の事業主体において会計実地検査を実施した。検査に当たっては、事業主体に国庫補助金の受給状況、入札・契約状況等に関する調書の作成を依頼し、提出を受けた調書の内容を確認するなどして、契約書等における違約金条項の有無や違約金等の収納の状況、これに係る国庫補助金相当額の取扱い等について検査した。
検査したところ、16府県(注2) における23事業主体の計1,314工事等、契約額計560億3926万余円(国庫補助金相当額262億1722万余円)において、次のような事態が見受けられた。
ア 違約金等は収納されているが、これに係る国庫補助金相当額の国への返還が行われていないもの
16事業主体 計925工事等 違約金等収納済額計18億7847万余円 (これに係る未返還分の国庫補助金相当額8億3156万余円)
13府県(注3) の16事業主体では、各事業主体が発注した国庫補助事業に係る計925工事等、契約額計388億7844万余円(国庫補助金相当額180億7883万余円)において、談合等の事実が確定したことを受け、違約金条項に基づく違約金の請求を行ったり、損害金の調査、算定及び請求を行ったりして、談合等によって被った損害を回復している。しかし、これらの事業主体においては、収納された違約金等計18億7847万余円に係る国庫補助金相当額8億3156万余円の国への返還が行われていない。
<事例>
A市では、B県に所在する建築業者が、遅くとも平成11年4月以降から、公正取引委員会が審査を開始した14年10月まで、A市住宅都市局が公募型指名競争入札又は指名競争入札において指名し発注した建築工事において、共同して受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしたとして、16年3月、公正取引委員会から計91建築業者が課徴金の納付命令を受け、同命令が確定したことから、同年7月、これら業者に対して、同市の工事請負契約約款等に基づいて違約金等の請求を行っている。その後、請求に応じなかった業者に対する訴訟の提起や、地方裁判所による和解案の提示などを経て、19年3月末時点で、国庫補助事業に係るもの計63工事分の違約金等計8億3714万余円が、同市の一般会計の雑入として収納されている状況である。
しかし、これに係る国庫補助金相当額4億1168万余円の国への返還は行われていない。
イ 違約金等の請求を行っていないもの
7事業主体 計389工事等 契約額計171億6082万余円 (これに係る国庫補助金相当額81億3838万余円)
6県(注4) の7事業主体では、各事業主体が発注した国庫補助事業に係る計389工事等、契約額計171億6082万余円(国庫補助金相当額81億3838万余円)について、談合等の事実が確定しているが、これについて違約金等の請求を行っていない。これらの工事等は、契約書等に違約金条項の記載がなく、談合等によって被った損害金の調査、算定及び請求も行っていないものや、違約金条項を設けているのにこれに基づく違約金の請求を行っていないものである。
<事例>
C市では、平成16年2月に同市が発注した国庫補助事業である道路改良工事において、17年2月に、この工事を受注した同市に所在する土木建設会社の役員等が、競売入札妨害罪等で起訴される事態が発生し、17年5月までに全員の刑が確定している。しかし、同市では、本件のような事態が発生した場合には、「賠償金として、この契約による請負代金額の10分の1に相当する額を指定する期間内に支払わなければならない」とする違約金条項が当該工事の工事請負契約書に規定されていたにもかかわらず、違約金の請求を行っていない状況である。
仮に本件における違約金を契約額1億1397万余円の10%として算定した場合、違約金相当額は1139万余円となり、これに係る国庫補助金相当額は、569万余円となる。
以上のように、違約金等が収納されているのに、これに係る国庫補助金相当額を国へ返還していなかったり、違約金条項などに基づく損害の回復を図っておらず、国庫補助金相当額の国への返還も行っていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、事業主体である地方公共団体において、収納した違約金等については、結果として、国庫補助金が過大に交付された事態になっていることについての認識及び国庫補助事業について談合等の事実が確定するなどした場合には、その損害の回復に努めることがより一層求められているのに、このことについての認識が十分でなかったこと、また、国土交通省において、違約金等に係る国庫補助金相当額の返還等の取扱いについて定めがなかったことなどによると認められた。