会計名及び科目 | 一般会計 (組織)外務本省 (項)国際分担金其他諸費 | ||
部局等 | 外務本省 | ||
国際機関への我が国の拠出金の概要 | 我が国が国際機関と協議の上、自発的に拠出することとした資金 | ||
閉鎖の状態にある我が国が拠出した信託基金の数及び拠出金額 | 10信託基金 | 165億0704万余円 | (平成2年度〜14年度) |
上記のうち拠出残余金額が確定している信託基金の数及び拠出金額 | 8信託基金 | 152億8990万余円 | (平成2年度〜14年度) |
上記のうち我が国の拠出残余金額 | 3億9751万円 | (平成20年8月末) |
外務省は、国際連合(以下「国連」という。)に代表される国際機関に対して、その活動に必要な経費に充てるために拠出金を支出している。この拠出金は、我が国が国際機関と協議の上、自発的に資金を提供するものである。
国連の決算については、事務総長が会計報告を作成して、会計検査委員会に提出することとなっている。会計検査委員会は、監査を実施して監査報告書を事務総長に提出することとなっており、監査の結果、問題点があった場合は、同報告書において勧告を行うこととなっている。そして、事務総長は、その監査結果を総会に報告することとなっている。
国連には、通常予算のほか、加盟国の拠出金や寄付金等により賄われる信託基金、特別勘定等がある。これらのうち信託基金は、拠出国に帰属する資金を国連が自らの事業に充てるために所有、管理及び使用する勘定であり、国連の総会等の承認により設立されることとなっている。また、信託基金は、他に定めがない限り、通常予算と同様、2年ごとに会計報告が作成されることとなっており、この会計報告は、会計検査委員会に提出されることとなっている。
国連における信託基金設立から閉鎖までの手続は、一般的に次のとおりである(次図
参照)。
すなわち、拠出国は、国連との間に具体的な活動目的、活動地域、拠出合意額等について、書簡を交換する(〔1〕 )。国連は、総会等の承認により信託基金を設立する(〔2〕 )。そして、国連からの拠出要請(〔3〕 )に基づき、拠出国は拠出金を支払う(〔4〕 )。国連は、拠出を受けた信託基金について、事業を実施する機関に資金を交付して、事業を実施させる(〔5〕 )。国連は、2年ごとにそれぞれの信託基金について会計報告を作成して、会計検査委員会へ提出する(〔6〕 )。会計検査委員会は、監査を実施して監査報告書を提出する(〔7〕 )。信託基金について、国連は、拠出国に事業実施報告、会計報告等を行う(〔8〕 )。信託基金の事業が交換した書簡の目的を達成するなどして終了する(〔9〕 )と、国連は、信託基金の閉鎖を決定して(〔10〕 )、残余金を算定して拠出国に返還等の照会を行う(〔11〕 )。この照会に対して、拠出国は、残余金の処理を確定して国連に回答する(〔12〕 )。国連は、拠出国の回答に基づき、残余金を返還するための小切手(以下「返還小切手」という。)を振り出すなどして残余金の処理を行う(〔13〕 )。
会計検査委員会は、「平成16−17会計年度監査報告書(18年7月)」において、長期に活動を停止していて閉鎖すべき信託基金を調査して特定するよう勧告しており、当該2年間に一切の支出がない信託基金を掲記している。
国際機関への拠出金は、自発的に資金を提供するものであり、拠出先の信託基金において支援した事業が終了したときは、我が国の拠出額に応じた残余金(以下「拠出残余金」という。)について、早期に返還を受けるなどして有効に活用する必要がある。
そこで、本院は、国際機関へ支出した拠出金について、合規性、有効性等の観点から、外務省が、信託基金の閉鎖に際して、拠出残余金に係る国際機関からの照会等を適切に処理しているか、長期に活動を停止している信託基金を適切に把握しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、国際機関から外務省に対して拠出残余金の返還等の照会があった信託基金及び国際機関の監査報告書、会計報告等において長期に活動が停止している又は長期に事業支出がないとされていた信託基金を対象として、外務本省において、国際機関から提出された事業実施報告書等の書類、信託基金の状況等について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、国連から信託基金閉鎖の照会文書等が来ており、外務省において既に信託基金の閉鎖を承知していたのに、長期にわたり回答しないままにしていたものが4信託基金あった。また、信託基金が長期に活動を停止するなどしていたのに、同省においてその実態を把握していなかったものが6信託基金あった。
これら10信託基金のうち、国連において既に拠出残余金額が確定している8信託基金に対する我が国の拠出残余金額は、平成20年8月末現在で計3,517,812米ドル(邦貨換算額3億9751万余円)となっていた(表1
参照)。
表1 | 閉鎖の状態にある信託基金における我が国の拠出残余金等 | (単位:千米ドル) |
信託基金名 | 拠出年 | 拠出額 | 拠出目的 | 確定している我が国の拠出残余金額 |
〔1〕 ボスニア・ヘルツェゴビナ警察支援プログラム信託基金 | 平成8年 9年 |
1,700 550 |
警察への支援及び訓練 | 303 |
〔2〕 東ティモール暫定行政機構信託基金 | 11年 | 9,312 | 公共的機関及び公共サービスの復旧 | 1,865 |
〔3〕 国際支援検証委員会活動のための信託基金 | 2年 | 1,000 | ニカラグア反革命武装勢力の自発的な帰還及び定住の促進 | 8 |
〔4〕 サラエボの基本的公共サービス復旧のための信託基金 | 6年 | 1,020 | サラエボの復旧及び基本的公共サービスの提供 | 111 |
〔5〕 反アパルトヘイト広報信託基金 | 2−3年 4−5年 |
10 20 |
反アパルトヘイトセンターに対する支援 | 国連が算定中 |
〔6〕 東ティモールの平和的解決のための信託基金 | 11年 | 10,110 | 同地域の自治に関する直接投票実施等の国連監視団の支援 | 国連が算定中 |
〔7〕 緊急人道支援の啓発信託基金 | 9年 | 256 | 緊急人道支援活動に対する啓発及び支援 | 59 |
〔8〕 カンボジア信託基金 | 4−5年 | 5,765 | カンボジア人道支援計画に対する支援 | 565 |
〔9〕 複合緊急事態における人道的挑戦信託基金(神戸ワークショップ) | 14年 | 273 | 紛争下の文民保護をテーマとするワークショップ開催経費支援 | 106 |
〔10〕 中東湾岸危機信託基金 | 3年 | 100,000 | イラクの難民問題に対する緊急支援 | 496 |
計 | 130,017 (16,507,048千円) |
− | ||
上記のうち拠出残余金額が確定している分 | 119,877 (15,289,908千円) |
3,517 (397,512千円) (20年8月末現在) |
そして、上記の10信託基金について、次のような事態が見受けられた。
ボスニア・ヘルツェゴビナ警察支援プログラム信託基金(以下「ボスニア信託基金」という。)、東ティモール暫定行政機構信託基金(以下「東ティモール暫定信託基金」という。)、国際支援検証委員会活動のための信託基金(以下「国際支援信託基金」という。)及びサラエボの基本的公共サービス復旧のための信託基金(以下「サラエボ信託基金」という。)の4信託基金については、外務省が国連から信託基金の閉鎖及び拠出残余金の返還を知らせる照会文書を受領するなどして既に信託基金の閉鎖を把握していた。しかし、同省は、照会に対して直ちに回答しなかったり、回答期限後に国連から送付された返還小切手作成の通知に対処しなかったり、返還小切手失効後の拠出残余金の送金先を照会する通知に対処しなかったりしていた。
上記の4信託基金について、それぞれの事態の詳細は次のとおりである。
ア ボスニア信託基金については、16年3月に、国連から国際連合日本政府代表部(以下「国連代表部」という。)あてに、拠出残余金の処理についての照会があった。これについて、国連代表部は、外務本省に非公式の報告を行っていた。しかし、その後、外務本省からの対処方針の指示がなく、国連代表部は、国連に回答しておらず、本院検査時(19年12月)まで3年8か月が経過していた。
イ 東ティモール暫定信託基金については、16年7月に、国連から国連代表部あてに、拠出残余金の処理について同年8月末までに回答を求める照会があった。これについて、国連代表部は、外務本省に公式の連絡文書(以下、国連代表部等の在外公館と外務本省との公式の連絡文書を「公電」という。)による報告を行っていた。しかし、その後、外務本省からの対処方針の指示がなく、国連代表部は、国連に回答しておらず、本院検査時まで3年4か月が経過していた。そして、回答期限を経過した16年9月に、国連から国連代表部あてに、作成した返還小切手を受け取りに来るよう通知があったが、国連代表部は、外務本省への報告をせずに、返還小切手を受け取りに行かなかった。
ウ 国際支援信託基金については、17年4月に、国連から国連代表部あてに、作成した返還小切手を受け取りに来るよう通知があった。これについて、国連代表部は、本来であれば事前に国連から受け取るべき拠出残余金の処理についての照会について、国連に確認していなかった。また、返還小切手については、国連代表部が、外務本省に非公式の報告を行っていたが、外務本省からの対処方針の指示がなく、国連代表部は、返還小切手を受け取りに行かず、通知時から本院検査時まで2年7か月が経過していた。
その後、19年5月に国連から国連代表部あてに、拠出残余金の送金先についての照会があり、これについて、同年7月に国連代表部は、外務本省に公電による報告を行っていた。しかし、外務本省からの対処方針の指示がなく、国連代表部は、国連に回答していなかった。
エ サラエボ信託基金については、16年10月に、国連から国連代表部あてに、拠出残余金の処理について同年11月末までに回答を求める照会があった。これについて、国連代表部は、外務本省に非公式の報告を行っていた。しかし、その後、外務本省からの対処方針の指示がなく、国連代表部は、国連に回答しておらず、本院検査時まで3年1か月が経過していた。そして、回答期限を経過した17年1月に、国連から国連代表部あてに作成した返還小切手を受け取りに来るよう通知があった。これについて、国連代表部は、外務本省に非公式の報告を行っていたが、その後、外務本省からの対処方針の指示がなく、返還小切手を受け取りに行かなかった。
その後、19年5月に国連から国連代表部あてに、拠出残余金の送金先についての照会があり、これについて、国連代表部は同年7月に、外務本省に公電による報告を行っていた。しかし、外務本省からの対処方針の指示がなく、国連代表部は、国連に回答していなかった。
このように、外務省は、国連からの拠出残余金に係る照会、返還小切手の作成の通知等に対して直ちに回答を行うべきであるのに、長期にわたりこれを行わないままにしていた。
外務省は、前記のとおり、信託基金が閉鎖されるまで国連から定期的に事業実施報告、会計報告等を受けることとなっていることから、信託基金が長期に活動を停止している場合等には、これらの書類等によりその状況を把握し得る立場にあった。
しかし、本院が検査したところ、反アパルトヘイト広報信託基金及び東ティモールの平和的解決のための信託基金の2信託基金は、国連の監査報告書によると、少なくとも14年以降支出がなく長期にわたり活動を停止しており、閉鎖したものと同様な状態(以下「閉鎖状態」という。)になっていた(表2
参照)。
また、同省は、緊急人道支援の啓発信託基金、カンボジア信託基金、複合緊急事態における人道的挑戦信託基金(神戸ワークショップ)及び中東湾岸危機信託基金の4信託基金について、20年6月又は7月に、国連から拠出残余金の処理方法についての照会があるまで、閉鎖状態になっていたことを把握していなかった。これらの4信託基金は、会計報告等によると、それぞれ2年間から8年間支出がなく長期にわたり活動を停止していた(表2
参照)。
信託基金名 | 拠出年 | 支出がなく活動を停止した年 | 活動停止期間 |
〔5〕 反アパルトヘイト広報信託基金 | 平成2−3年 4−5年 |
14年 | 6年間 |
〔6〕 東ティモールの平和的解決のための信託基金 | 11年 | 14年 | 6年間 |
〔7〕 緊急人道支援の啓発信託基金 | 9年 | 18年 | 2年間 |
〔8〕 カンボジア信託基金 | 4−5年 | 12年 | 8年間 |
〔9〕 複合緊急事態における人道的挑戦信託基金(神戸ワークショップ) | 14年 | 15年 | 5年間 |
〔10〕 中東湾岸危機信託基金 | 3年 | 16年 | 4年間 |
このように、同省は、信託基金の活動状況を十分把握しておらず、このため活動を停止している信託基金について国連に対して早期に閉鎖手続を行い拠出残余金の返還等を行うよう働きかけていなかった。
以上のように、外務省が、国連からの拠出残余金の返還等の照会文書等を長期にわたり回答しないままにしていたり、拠出した信託基金が長期に活動を停止するなどしていて閉鎖状態になっていたことを把握していなかったりしていて、拠出残余金の返還受入れなどに係る事務処理が早期に行われておらず、拠出残余金の有効な活用が図られていない事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、外務省において、主として次のことによると認められた。
ア 拠出した信託基金の閉鎖により、国連から拠出残余金の返還等の照会を受けるなどしていたのに、これらを処理する者を定めていないなど、拠出残余金の返還等について対応するための具体的な事務手続を定めていなかったこと
イ 閉鎖状態になっている信託基金を把握して早期に拠出残余金の返還受入れなどを進めることの必要性を十分認識しておらず、このための体制が整備されていなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、外務省は、20年9月に「国連の信託基金における拠出残余金の取扱に関するガイドライン」、「国連(又は国際機関)が管理する信託基金への拠出残余金の処理に係る改善について」及び「国際機関に対する拠出残余金の歳入手続マニュアル」を定めるとともに、外務本省各課等及び在外公館に通知を発して、拠出残余金を早期に処理するよう次のような処置を講じた。
ア 拠出残余金に係る国際機関からの照会を処理する担当課等を明確にして、国際機関からの照会に対する回答期限、返還小切手の取扱担当課等を定めるなど返還受入事務についての具体的な事務手続を定めた。
イ 国際機関からの照会に対して、公電による報告・指示を徹底すること、外務本省の担当課等において拠出後の信託基金の状況把握を確実に行うため定期的に注意を喚起する文書を発すること、拠出残余金額について把握する課等を定めて情報を一元的に管理することなどにより、拠出残余金を早期に処理する体制を整備した。
なお、同省は、拠出残余金額が確定している8信託基金のうち、2信託基金について拠出残余金の返還を行うよう、6信託基金について他の信託基金に振り替えるよう同年10月までに国連に通知した。また、拠出残余金額が確定していない2信託基金については、拠出残余金額が確定し次第、拠出残余金の返還を行うよう同月に国連に通知した。