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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 医療費

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が過大となっていたもの


(98) 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が過大となっていたもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等 厚生労働本省(支出庁)
11労働局(審査庁)
支払の相手方 183医療機関
過大な支払となっていた労災診療費 手術料、入院料等
過大支払額 33,677,068円 (平成17、18両年度)

1 保険給付の概要

(1) 労働者災害補償保険

 労働者災害補償保険は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対して療養の給付等の保険給付を行うほか、労働福祉事業(平成19年4月以降は社会復帰促進等事業)を行う保険である。

(2) 療養の給付に要する診療費の支払

 療養の給付は、保険給付の一環として、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)の請求に基づき、都道府県労働局長の指定する病院若しくは診療所又は労働福祉事業で設置された病院において、診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、労働局で請求の内容を審査して、その結果に基づき、厚生労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号労働省労働基準局長通達。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。この算定基準によると、労災診療費は、労災診療の特殊性等を考慮して、〔1〕 健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕 初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定めて、これにより算定することとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、全国47労働局のうち、12労働局において会計実地検査を行い、合規性等の観点から、各労働局の審査に係る17年度又は18年度の労災診療費の支払が算定基準に基づき適正になされているかなどに着眼して、診療費請求内訳書等の書類により検査した。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(2) 過大な支払となっていた事態

 検査の結果、11労働局の審査に係る労災診療費のうち、手術料、入院料、処置料、初診料、再診料、麻酔料等が過大に支払われていたものが183医療機関について33,677,068円あり、不当と認められる。
 これらの事態について、その主なものを示すと次のとおりである。

ア 手術料に関するもの

 手術料は、創傷処理、植皮術等の区分ごとの所定点数により算定することとなっている。また、1回の皮切により手術を行い得る範囲(以下「同一手術野」という。)の手術につき、2以上の手術を同時に行った場合の手術料は、主たる手術の所定点数のみにより算定することとなっている。
 しかし、前記11労働局管内の145医療機関では、手術料について、本来算定すべき区分の所定点数によらず、異なる区分のより高い所定点数により算定したり、同一手術野につき2以上の手術を同時に行っているのに主たる手術の所定点数によらず、それぞれの手術の所定点数を合算して算定したりするなどしていた。このため、手術料207件で22,218,344円が過大に支払われていた。
 上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A病院では、傷病労働者Bに対する脾(ひ)臓損傷に係る手術料の算定に当たり、脾臓を摘出したとして脾摘出術の区分の所定点数18,500点に深夜加算の100分の80を加算した33,300点に11円50銭を乗じた382,950円としていた。しかし、実際には脾臓を摘出せず縫合を行ったことから、当該手術料は、脾摘出術の区分ではなく、脾縫合術の区分の所定点数11,400点に深夜加算の100分の80を加算した20,520点に11円50銭を乗じた235,980円と算定すべきであり、このため手術料が146,970円過大となっていた。

イ 入院料に関するもの

 入院料のうち特定入院料は、救命救急入院料、回復期リハビリテーション病棟入院料等の区分ごとに算定できる要件を満たす場合に、当該区分の所定点数により算定することとなっている。
 しかし、前記11労働局管内の32医療機関では、算定できる要件を満たしていないのに救命救急入院料等の特定入院料を算定するなどしていた。このため、入院料63件で6,685,328円が過大に支払われていた。
 このような事態が生じていたのは、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、前記の11労働局において、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによると認められる。
 上記の過大に支払われていた労災診療費の額を労働局ごとに示すと、次のとおりである。

労働局名 医療機関数 過大支払件数 過大支払額
千円
北海道 12 18 3,236
青森 12 25 1,760
埼玉 15 24 4,227
千葉 16 24 1,908
東京 34 321 5,453
神奈川 30 67 6,079
滋賀 12 26 2,332
京都 15 85 3,460
大阪 18 23 2,456
大分 8 61 933
沖縄 11 51 1,827
183 725 33,677

 上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、同省において、医療機関に対する労災診療費等に係る説明会を開催して労災診療費算定基準の周知徹底を図るとともに、診療費請求内訳書等に係る審査の強化を図る必要があると認められる。