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生活保護費負担金の経理が不当と認められるもの


(193)−(206) 生活保護費負担金の経理が不当と認められるもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費
平成11年度以前は、
(組織)厚生本省 (項)生活保護費
部局等 (1) 6都府県
(2) 千葉県
(3) 福岡県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者
(事業主体)
(1) 市10、特別区2、計12市区
(2) 千葉県木更津市
(3) 福岡市
国庫負担対象事業 生活保護事業
国庫負担対象事業の概要 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するために、その困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
上記に対する国庫負担金交付額 (1)  173,496,361円 (平成10年度〜19年度)
(指摘対象被保護世帯分)
(2)  4,249,143,064円 (平成17年度〜19年度)
(3)  181,657,115,598円 (平成14年度〜18年度)
適切と認められない事態の態様 (1) 保護費が過大に支給されているもの
(2) 返還金等の調定額の算出が適切でないもの
(3) 架空の保護費を国庫負担対象事業費に含めているもの
不当と認める国庫負担金交付額 (1)  69,652,300円 (平成10年度〜19年度)
(2)  2,900,174円 (平成17年度〜19年度)
(3)  24,642,112円 (平成14年度〜18年度)
 97,194,586円

1 制度の概要

(1) 生活保護費負担金の概要

 生活保護費負担金(以下「負担金」という。)は、都道府県又は市町村(特別区を含む。)が、生活に困窮する者に対して、最低限度の生活を保障するために、その困窮の程度に応じて必要な保護を行う場合に、その費用の一部を国が負担するものである。この保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産や能力等あらゆるものを活用することを要件としている。
 そして、負担金の各事業主体に対する交付額は、次により算定することとなっている。
 すなわち、事業主体において、当該年度に調査、決定(以下「調定」という。)した返還金等の額(以下「返還金等の調定額」という。)を費用の額から控除して、これに過年度の返還金等の調定額に係る不納欠損額を加えて国庫負担対象事業費を算出する。そして、これに国庫負担率を乗じて負担金の交付額を算定する。

費用の額-返還金等の調定額+不納欠損額=国庫負担対象事業費、国庫負担対象事業費×国庫負担率(3/4)=負担金の交付額

 この費用の額、返還金等の調定額及び不納欠損額は、それぞれ次により算定することとなっている。
ア 費用の額は、次の〔1〕 及び〔2〕 に〔3〕 を加えて算定する。
〔1〕  保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)を単位として、その所在地域、構成員の数、年齢等の別に応じて算定される生活費の額から、被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定される額を控除して決定された保護費の額の合計額
〔2〕  被保護者が医療機関で診察、治療等の診療を受けるなどの場合の費用(診療報酬等)について、その全額又は一部を事業主体が負担するものとして決定された保護費の額の合計額
〔3〕  事業主体の事務経費
イ 返還金等の調定額は、被保護者が急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けた場合等において、事業主体に対して返還しなければならない額であり、事業主体において、当該年度に納入されると否とにかかわりなく調定した額とされている。
ウ 不納欠損額は、過年度の返還金の調定額のうち5年間納入されなかった場合などに不納欠損処理された額を計上して、上記のアからイを控除した額に加えて国庫負担対象事業費を算出する。
 そして、上記の返還金等の調定額の算出については、本院の指摘により、平成17年9月に、厚生労働省において、事業主体に対して適正な算出方法の周知徹底を図るなどの改善の処置が執られたところである(平成16年度決算検査報告「生活保護費に係る返還金等の調定額の算出を適切に行わせることなどにより、生活保護費国庫負担金の算定が適正なものとなるよう改善させたもの」 参照)。

(2) 生活保護業務の概要

 生活保護業務の実施機関である都道府県知事又は市町村長(特別区の長を含む。)は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関する事務所等(以下「福祉事務所」という。)の長に対して保護の決定及び実施に関する事務を委任することができることとなっている。
 福祉事務所には、福祉事務所長、保護担当の管理者等(以下、合わせて「管理者」という。)のほか、管理者の指揮監督を受けて、現業業務の指導監督を行う所員(以下「査察指導員」という。)、保護決定の手続や被保護世帯の指導援助等の現業を行う所員(以下「現業員」という。)等を置くこととなっている。
 そして、現業員が行う保護の実施に関する事務のうち、保護費の支給決定等に係る事務については、おおむね次のようなものとなっている。
ア 保護費の支給決定に当たっては、被保護世帯からの申請、届出等に基づいて、最低生活費、保護費等の算定額等を取りまとめた調書(以下「保護決定調書」という。)を作成して、管理者の決裁を受ける。
イ 被保護世帯の生計の状況の変動により保護費の変更が生じたときも、上記のアと同様の事務処理を行う。
ウ 保護の廃止に当たっては、保護の要否を検討した上で、保護廃止について管理者の決裁を受ける。
 また、保護の目的を達するために必要があるときは、被保護者に代わり事業主体が住宅扶助費のうち家賃、教育扶助費のうち学校給食費等を納付先に納付すること(以下「代理納付等」という。)ができることとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 生活保護は、生活に困窮するすべての者に対してひとしく最低限度の生活を保障する制度であり、公正な運営が強く求められていることから、本院は、合規性等の観点から、事業主体が収入の認定等を適切に行い保護が適正なものとなっているか、負担金の算定は適正に行われているか、保護費の支給決定等に係る事務が法令に沿って適正に行われているかなどに着眼して、17都道府県及び25都道府県の152市区において、事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に事業主体に事態の詳細について報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(2) 検査の結果

 検査の結果、7都府県の14事業主体において、負担金97,194,586円が過大に交付されていて不当と認められる。
 これを態様別に示すと次のとおりである。
ア 保護費が過大に支給されているもの

12市区 69,652,300円

イ 負担金の算定において返還金等の調定額の算出が適切でないもの

1市 2,900,174円

ウ 負担金の算定において架空の保護費を国庫負担対象事業費に含めているもの

1市 24,642,112円

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによるものと認められる。
ア 被保護世帯において事実と相違した届出を行っているのに事業主体において収入の認定等に当たっての調査確認が十分でなかったこと
イ 前記のとおり、厚生労働省は、負担金の適正な算定について周知徹底を図ったとしていたが、事業主体において、なお理解が十分でなかったこと
ウ 福祉事務所における管理者及び査察指導員による指導・監督が十分でなかったこと
エ 都府県において適正な生活保護の実施に関する指導が十分でなかったこと
 これを都府県別・事業主体別に示すと次のとおりである。

都府県名 事業主体 年度 国庫負担対象事業費 左に対する負担金 不当と認める国庫負担対象事業費 不当と認める負担金 摘要
千円 千円 千円 千円

ア 保護費が過大に支給されているもの

(193) 千葉県 船橋市 10〜19 37,312 27,984 18,579 13,934 年金収入を認定していなかったものなど
(194) 東京都 墨田区 14〜19 10,110 7,582 7,895 5,921 年金収入を過小に認定していたものなど
(195) 江戸川区 13〜18 16,336 12,252 3,637 2,728 就労収入を過小に認定していたもの
(196) 八王子市 13〜19 33,165 24,874 8,001 6,001 就労収入を認定していなかったものなど
(197) 静岡県 沼津市 16〜19 8,610 6,457 3,697 2,773
(198) 大阪府 大阪市 14〜18 13,889 10,416 8,991 6,743 一時金収入を認定していなかったものなど
(199) 堺市 10〜18 21,406 16,054 7,385 5,539 年金収入を認定していなかったもの
(200) 吹田市 13〜19 14,111 10,583 4,190 3,142 就労収入を過小に認定していたものなど
(201) 門真市 16〜19 21,929 16,446 7,353 5,515
(202) 岡山県 玉野市 12〜19 44,692 33,519 15,418 11,563
(203) 笠岡市 15〜18 4,286 3,215 4,190 3,142 一時金収入を認定していなかったもの
(204) 香川県 高松市 15〜19 5,479 4,109 3,529 2,647 年金収入を認定していなかったもの
アの計 231,328 173,496 92,869 69,652

 6都府県の12事業主体において、被保護者が就労して収入を得ていたり、年金を受給していたり、一時金収入を得たりなどしているのに、計22被保護世帯から事実と相違した届出がなされて、事業主体はこれにより収入を実際の額より過小に認定するなどして保護費の額を決定していた。このため、保護費の支給に係る負担金69,652,300円が過大に交付されていた。
 上記の事態について、一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A事業主体は、平成16年に世帯Bを対象として保護を開始して、引き続き保護を実施していた。そして、同年6月から19年3月までの各月の保護費の支給に当たり、同世帯からの収入はないとの届出に基づき収入を0円と認定して保護費の額を決定して、計4,499,260円を支給していた。しかし、実際には、同世帯の世帯主は、この間に就労して収入として認定されるべき計2,227,640円を得ており、このため同額の保護費が過大に支給されていた。

イ 負担金の算定において返還金等の調定額の算出が適切でないもの

(205) 千葉県 木更津市 17〜19 5,665,524 4,249,143 3,866 2,900 返還金等の調定額を適切に算出していなかったもの

 木更津市は、被保護者に保護費の返還等の事由が発生したときには、当該年度に納入されると否とにかかわりなく当該返還金等について調定することとなっているのに、当該年度に納入が可能な額についてのみ調定して、これを納入させていた。
 そして、同市は、負担金の算定に当たり、返還金等のうち当該年度に納入が可能として調定した額のみを費用の額から控除していた。
 この結果、平成19年度末において、債権管理中の返還金等計14,121,673円のうち、本来調定すべきであったのに調定されなかった返還金等3,866,899円が費用の額から控除されずに、負担金が算定されていた。
 したがって、国庫負担対象事業費3,866,899円が過大に算定されており、これに係る負担金2,900,174円は交付の必要がなかったと認められる。

ウ 負担金の算定において架空の保護費を国庫負担対象事業費に含めているもの

(206) 福岡県 福岡市 14〜18 242,209,487 181,657,115 32,856 24,642 架空の保護費を国庫負担対対象事業費に含めていたもの

 福岡市城南福祉事務所の現業員Cは、平成14年7月から19年2月までの間に保護費を支給した8世帯分について、就労収入の増加等により保護の廃止等を行うべきであることを把握していたにもかかわらず、この事務処理を行わず、虚偽の保護決定調書を作成するなどして架空の保護費の支給手続を行い、これに基づき支給された保護費計31,192,971円を領得していた。
 また、上記のとおり保護の廃止等の手続が行われていなかったために、同福祉事務所においては、8世帯分のうち3世帯分について、代理納付等していた住宅扶助費及び教育扶助費計1,663,180円が過大に支給されていた。
 したがって、現業員Cにより領得されていた保護費31,192,971円及び代理納付等した住宅扶助費等1,663,180円、計32,856,151円が国庫負担対象事業費に含まれていたために、これに係る負担金24,642,112円が過大に交付されていた。

ア、イ、ウの合計 248,106,340 186,079,755 129,592 97,194  

 上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、同省において、生活保護の適正実施について事業主体への指導を徹底するとともに都道府県等の監査等を通じて事務処理の適正化を図る必要があると認められる。