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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

民間教育訓練機関等に委託して実施する職業訓練について、職業の安定等を目的とする趣旨を踏まえて、就職者等から短期雇用者を除くことにより、就職支援経費の算定方法を適切なものとするよう改善させたもの


(5) 民間教育訓練機関等に委託して実施する職業訓練について、職業の安定等を目的とする趣旨を踏まえて、就職者等から短期雇用者を除くことにより、就職支援経費の算定方法を適切なものとするよう改善させたもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(雇用勘定) (項)雇用安定等事業費
部局等 厚生労働本省
補助の根拠 予算補助
補助事業者 独立行政法人雇用・能力開発機構
補助事業 職業訓練事業
補助事業の概要 能力開発事業として、民間教育訓練機関等に委託して職業訓練を実施するもの
知識等習得コース数 全3,205コース
就職支援経費実績額 26億2067万余円 (平成18、19両年度)
上記に係る国庫補助金交付額 26億2067万余円  
短期雇用者を除いた場合の就職支援経費の開差額 7億4291万余円 (平成18、19両年度)
上記に係る国庫補助金交付額 7億4291万円  

1 委託訓練の概要

 厚生労働省は、職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)等に基づき、職業に必要な労働者の能力を開発・向上させることを促進して、もって、職業の安定と労働者の地位の向上を図ることなどを目的として、求職者を対象とした職業訓練を実施している。そして、厚生労働省は、職業訓練のうち、民間教育訓練機関等に委託して実施する委託訓練(以下、この訓練を「委託訓練」という。)を、委託訓練の推進に関する同省職業能力開発局長通達に添付の委託訓練実施要領(平成13年12月能発第519号。以下「実施要領」という。)に基づき、独立行政法人雇用・能力開発機構(以下「機構」という。)及び都道府県に行わせている。
 上記の委託訓練のうち機構が実施する知識等習得コースは、公共職業安定所が受講指示等を行った求職者に必要な知識、技能等の職業能力を付与する訓練である。同コースに係る委託費は、厚生労働省が機構に対して交付する雇用開発支援事業費等補助金を財源として国が全額負担している。
 知識等習得コースに係る委託費は原則として訓練実施経費と就職支援経費から成り、このうち、就職支援経費は就職率の向上を図ることを目的として平成16年度に導入されたものである。同経費の額は、実施要領において、〔1〕 訓練修了者、〔2〕 訓練修了後3か月以内に就職した者(以下「就職者」という。)、〔3〕 訓練修了前に退所した者のうち退所時点で就職した者(以下「中退就職者」という。)の人数から、次の算定式により算定した就職率に応じて、受講生1人1月当たり最高21,000円(消費税込み。以下同じ。)とされている。

就職率=(就職者+中退就職者/訓練修了者+中退就職者)

 そして、上記の算定式で得られた就職率が70%以上の場合は就職支援経費の最高額を、50%以上70%未満の場合は最高額の半額をそれぞれ支給することとされており、50%未満の場合は支給しないこととされている。
 また、就職者及び中退就職者(以下「就職者等」という。)の範囲については、雇用形態及び雇用期間の定めの有無又は長短を問わないこととされていることから、常用労働者(注1) 及び自営業のほか、雇用期間が4か月未満である短期雇用のパートタイム労働者(以下「パート労働者」という。)、派遣労働者等(以下、これらを合わせて「短期雇用者」という。)も含まれることとされている。

 常用労働者  雇用契約において雇用期間の定めがないか又は4か月以上の雇用期間が定められている者

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、経済性等の観点から、就職支援経費が適切に支給されているかなどに着眼して、厚生労働省及び機構において、18年度に機構が委託契約を締結して、同年度中に修了した委託訓練の知識等習得コース全3,205コース(委託費計122億5063万余円、うち就職支援経費の実績額計26億2067万余円。支払は18、19両年度)について、委託契約書等の書類により会計実地検査を行った。そして、適切でないと思われる事態があった場合は、更に厚生労働省及び機構に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような状況となっていた。
 すなわち、就職支援経費の算定式で用いられる就職者等には、前記のとおり、短期雇用者も含まれていた。
 しかし、労働者の職業の安定等を目的とする職業訓練の趣旨からみて、短期雇用者を就職者等に含めることは適切ではなく、就職支援経費の算定に当たっては、これらを除くべきであると認められた。
 そこで、短期雇用者のうち、厚生労働省及び機構が民間教育訓練機関等の委託先から提出を受けている資料等によっては確認することができないパート労働者の人数について、本院において、厚生労働省の職業安定業務統計のデータから推計(注2) することとした。そして、この人数と短期雇用の派遣労働者の人数等を就職者等の人数から除外して就職支援経費を算定すると18億7775万余円となり、前記の実績額26億2067万余円(国庫補助金同額)に対して7億4291万余円(国庫補助金同額)の開差が生じていた。

 職業安定業務統計のデータから推計  全国の公共職業安定所における職業紹介業務の実績を集計した職業安定業務統計のデータのうち、平成18年度の就職件数について、全パート労働者に占める雇用期間が4か月以上の常用的パート労働者の人数割合91.3%を用いて短期雇用のパート労働者の人数を推計

 上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 機構Aセンターは、平成18年8月にB校と同年9月から11月までの3か月間に30人を受講生とした知識等習得コースの委託契約を締結して委託訓練を実施した。同センターは、訓練修了後、B校が各受講生の修了後3か月以内の就職状況を取りまとめた結果によると、修了者30人のうち就職者等が23人(就職者23人、中退就職者0人)となっていたことから、就職率を76.7%と算定して、最高額(受講生1人1月当たり21,000円)の就職支援経費1,890,000円を支給していた。
 しかし、就職者等の23人には短期雇用者4人(うちパート労働者1人(推計))が含まれており、この4人を就職者等から除外すると常用労働者等は計19人(就職者19人、中退就職者0人)、就職率は63.3%となることから、就職支援経費は最高額の半額(受講生1人1月当たり10,500円)の945,000円となり、実績額1,890,000円(国庫補助金同額)に対して、945,000円(国庫補助金同額)の開差が生じていた。
 このように、就職支援経費に係る就職率の算定に当たり、就職者等について雇用形態及び雇用期間の定めの有無又は長短を問わないこととして、就職者等の中に短期雇用者を含めている事態は、職業の安定等を目的とする職業訓練の趣旨からみて適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、厚生労働省において、16年度に知識等習得コースに係る委託費に就職支援経費を含めるに当たり、職業訓練の目的である職業の安定等の点からの検討が十分でなかったことによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、20年10月に、実施要領を改正して、就職支援経費の算定に用いる就職者等の範囲について、短期雇用者を除いて雇用期間の定めのない労働者又は4か月以上の雇用期間が定められている労働者に限定することとして、同月以降に契約を締結する委託訓練から適用することとする処置を講じた。