会計名及び科目 | 年金特別会計(業務勘定) (項)業務取扱費 | |
部局等 | 社会保険庁 | |
契約の概要 | 国民年金、健康保険及び厚生年金保険に係る社会保険オンラインシステムを用いた届書等の入力及び出力業務、発送業務等を行わせるもの | |
共同処理業務の請負契約に係る予定価格の積算額 | 19億3297万余円 | (平成19年度) |
低減できた積算額 | 2億5056万円 | (平成19年度) |
社会保険庁は、国民年金、健康保険(注1)
及び厚生年金保険の各事業の業務を行っており、その一環として、社会保険オンラインシステムを用いた届書等の入力及び出力業務、封入、発送等の発送業務等を行っている。
各地方社会保険事務局は、これらの業務の合理化及び効率化を図ることを目的として、社会保険庁が定めた「共同処理の実施について」(平成13年庁保発第26号社会保険庁運営部長通知)等(以下「通知等」という。)に基づき、仕様書等を定めて、従来各社会保険事務所等が行っていた業務を地方社会保険事務局に集約して共同で処理する業務(以下「共同処理業務」という。)を外部の業者に請け負わせて実施している。そして、47社会保険事務局における共同処理業務の請負契約に係る予定価格の積算額は計19億3297万余円となっており、その支払額は毎年度多額に上っている。
通知等によると、共同処理業務の内容は、事務処理機器によるデータの入力及び出力業務、手作業等で行う発送業務等となっており、その作業時間は、午前8時30分から午後5時までとなっている。
また、共同処理業務に従事する者は、電子計算機の操作等についての知識等を有して作業に従事する者(以下「業務従事者」という。)、業務従事者の服務等を統括管理して指揮命令を行う責任者(以下「責任者」という。)及び責任者の不在時の補助となる者(以下「責任者補助」という。)に区分されている。そして、請負業者は業務を開始する前までに、責任者及び責任者補助の設置について各地方社会保険事務局の承認を得ることとなっている。
本院は、経済性等の観点から、共同処理業務の請負契約に係る仕様書等の決定及び予定価格の積算が、業務の実態を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して、26社会保険事務局(注2) において会計実地検査を行うとともに、残余の21社会保険事務局を含めた47社会保険事務局について、予定価格調書等の書類により検査した。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に社会保険庁及び各地方社会保険事務局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。
検査したところ、共同処理業務の請負契約に係る予定価格の積算において、次のような事態が見受けられた。
各地方社会保険事務局における請負業者の共同処理業務の実態を確認したところ、業務従事者の中には、電子計算機の操作等を行っている者と、手作業を行っている者が混在している状況であった。
そして、3社会保険事務局(注3)
においては、予定価格の積算に当たり、業務従事者の作業内容により電子計算機の操作等の業務と手作業での業務とを明確に区分して、手作業での業務については電子計算機の操作等を行う者よりも安価な手作業に従事する者の人件費単価で積算を行っていた。
これに対して、上記の3社会保険事務局以外の44社会保険事務局は、業務従事者のすべてが電子計算機の操作等を行う者であるとして、これに相当する人件費単価を用いていた。
しかし、手作業での業務については、電子計算機の操作等を行う者より安価な手作業に従事する者の人件費単価を用いることにすれば、人件費が大幅に減少することになると認められた。
そして、電子計算機の操作等の業務と手作業での業務とを明確に区分していた上記の3社会保険事務局のうち、山梨社会保険事務局が共同処理業務に係る作業時間に対する手作業での業務割合を36.9%と最も低く算出しており、この割合及び積算参考資料を用いて算出した人件費単価を基に、これより安価な人件費単価を用いていた3社会保険事務局(注4)
を除く41社会保険事務局(注5)
の業務従事者の人件費を修正計算すると、積算額は計1億9967万余円(後記(3)に係る修正を考慮していない。)過大となっていた。
3社会保険事務局(注6)
は、予定価格の積算に当たり、責任者及び責任者補助の人数を算出して、これにそれぞれの人件費単価を乗ずるなどして積算していた。
しかし、業務を開始する前までに請負業者から提出されて、3社会保険事務局が承認した人数を確認したところ、それぞれ1人となっていて、3社会保険事務局が積算で算出していた人数よりも少なくなっており、これにより支障なく作業が行われていた。このことから、3社会保険事務局が承認した人数により人件費を修正計算すると、積算額は計4171万余円過大となっていた。
上記について事例を示すと次のとおりである。
A社会保険事務局は、総作業時間から業務の実施に必要な人数を責任者1人、責任者補助7.2人などと算出して、これにそれぞれの人件費単価を乗ずるなどして人件費を積算していた。
しかし、同事務局が承認した責任者及び責任者補助の人数はそれぞれ1人となっており、これにより支障なく作業が行われていたことから、責任者及び責任者補助をそれぞれ1人、業務従事者を残りの6.2人として人件費を修正計算すると、同事務局の積算額は2086万余円過大となっていた。
なお、上記の3社会保険事務局以外の44社会保険事務局においては、積算で算出していた責任者及び責任者補助の人数と、各地方社会保険事務局に事前に提出されて承認した人数とにかい離はなかった。
ア 6社会保険事務局(注7)
は、責任者、責任者補助及び業務従事者の人件費を積算するに当たり、積算参考資料に記載されている人件費単価を基に積算していた。
しかし、共同処理業務の作業時間は、前記のとおり午前8時30分から午後5時までとなっているのに、積算参考資料に記載されている人件費単価は時間外勤務手当等を含んだものであった。このことから、人件費は時間外勤務手当等を含まない人件費単価に基づいて算出するべきであり、これに基づき修正計算すると、積算額は計721万余円(前記(1)に係る修正を考慮していない。)過大となっていた。
上記について事例を示すと次のとおりである。
B社会保険事務局は、業務従事者の人件費について、積算参考資料に記載されているサービス業に従事する者の月額現金給与額を1月当たりの所定内労働時間数である172時間で除して1時間当たりの単価を決定していた。しかし、この月額現金給与額には時間外勤務手当等が含まれているものであった。このことから、時間外勤務手当等を含まない給与額を所定内労働時間数で除して人件費を修正計算すると、同事務局の積算額は194万余円過大となっていた。
イ 5社会保険事務局(注8)
は、予定価格を積算するに当たり、作業内容ごとに積算参考資料に記載されている人件費単価にそれぞれ作業時間を乗じて、更に諸経費を加えるなどして積算していた。
しかし、上記の積算参考資料に記載されているシステム運用業務の技術者料金等はシステム運用業者等の諸経費込みの料金であるため、更に諸経費を加算するのは諸経費を二重に計上することになると認められた。このことから、諸経費を加算しないで人件費を修正計算すると、計395万余円(前記(1)に係る修正を考慮していない。)過大となっていた。
上記について事例を示すと次のとおりである。
C社会保険事務局は、積算参考資料に記載されているシステム運用業務の技術者料金を用いて責任者の人件費を算出して、これに諸経費に相当する金額を加えて予定価格を積算していた。しかし、この技術者料金はシステム運用業者の諸経費込みの料金であることから、諸経費を加算しないで人件費を修正計算すると、同事務局の積算額は131万余円過大となっていた。
このように、共同処理業務の請負契約に係る予定価格の積算に当たり、すべての業務従事者が電子計算機の操作等を行うとして人件費単価を決定していたり、責任者及び責任者補助の人数の実態を勘案して算出していなかったりするなどしていた事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
上記により、平成19年度の共同処理業務の請負契約に係る予定価格の積算額について修正計算すると積算額は計16億8240万余円となり、前記の各地方社会保険事務局の積算額計19億3297万余円と比べて、計2億5056万余円(前記(1)及び(3)の事態は重複しているものがあるため、それぞれの事態を合計した金額とは一致しない。)低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、社会保険庁において、次のようなことなどによると認められた。
ア 各地方社会保険事務局に対して通知等を発する際に、共同処理業務を経済的に実施するための検討及び確認が十分でなかったこと
イ 各地方社会保険事務局が不適切な予定価格の積算を行っていたのに、その状況を十分に把握しておらず、経済的な積算となるような統一的な取扱いを示すなど各地方社会保険事務局に対する指導が十分でなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、社会保険庁は、20年9月に、各地方社会保険事務局に対して、次のような内容の事務連絡を発して、21年度の共同処理業務の請負契約から適用する処置を講じた。
ア 共同処理業務の請負契約に係る仕様書において定めるべき業務従事者の要件について、電子計算機の操作等を伴う者と伴わない者に区分して、それぞれの事務分掌を定めたこと
イ 予定価格の積算に当たり、上記の区分に基づいて人件費を適切に算出すること、責任者及び責任者補助の人数は実態を勘案して算出すること、人件費単価には時間外勤務手当等を見込む必要がないこと及び諸経費は二重に計上することのないようにすること
(注1) | 健康保険 健康保険法(大正11年法律第70号)の改正により、従来政府が管掌していた健康保険は、平成20年10月1日以降、全国健康保険協会が管掌することとなった。ただし、被保険者の資格の取得及び喪失の確認、標準報酬月額及び標準賞与額の決定等の業務については、引き続き社会保険庁が行うこととなっている。
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(注2) | 26社会保険事務局 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、島根、岡山、広島、香川、愛媛、福岡、佐賀、大分、鹿児島各社会保険事務局
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(注3) | 3社会保険事務局 北海道、山梨、宮崎各社会保険事務局
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(注4) | 3社会保険事務局 山形、茨城、大阪各社会保険事務局
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(注5) | 41社会保険事務局 青森、岩手、宮城、秋田、福島、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、鹿児島、沖縄各社会保険事務局
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(注6) | 3社会保険事務局 東京、大阪、福岡各社会保険事務局
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(注7) | 6社会保険事務局 山梨、岐阜、滋賀、京都、和歌山、香川各社会保険事務局
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(注8) | 5社会保険事務局 青森、秋田、山形、新潟、佐賀各社会保険事務局
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