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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 補助金

予防治山事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため、床固工の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの


(728) 予防治山事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため、床固工の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)林野庁 (項)治山事業費
部局等 林野庁    
補助の根拠 森林法(昭和26年法律第249号)
補助事業者
(事業主体)
広島県
補助事業 予防治山
補助事業の概要 荒廃危険山地の崩壊等を未然に防止するために、平成18年度に床固工、護岸工等で構成される流路工を施工するもの
事業費 17,271,450円    
上記に対する国庫補助金交付額 8,635,725円    
不当と認める事業費 4,815,774円    
不当と認める国庫補助金相当額 2,407,887円    

1 補助事業の概要

 この補助事業は、広島県が、予防治山事業の一環として、庄原市川北町字盤ノ谷(はんのや)地内において、荒廃危険山地の崩壊等を未然に防止するために、平成18年度に、床固工、護岸工等で構成される流路工を工事費17,271,450円(国庫補助金8,635,725円)で実施したものである。
 この流路工(延長60.4m)は、流水によって渓床や渓岸が侵食されるのを防ぎ、水の流れる方向を固定させるとともに、渓床の土砂が流出するのを防ぐなどのために、渓間を横切る工作物である床固工(堤高3m、天端厚0.5m、堤底厚1.1m)を10.4mから14.0m間隔で5基設置して、これらの間にコンクリートの護岸工と底張りなどを配置する三面張りの構造となっている(参考図1参照) 。そして、床固工については、「治山技術基準解説」(林野庁監修。以下「技術基準」という。)等に基づき、次のとおり治山ダムの水叩(たた)き工の垂直壁(以下「垂直壁」という。)に準じて設計して、これにより施工していた。
ア 技術基準で、三面張りの流路工における床固工の天端厚は、垂直壁の天端厚の標準値である0.5mから1.0mに準じて決定することとされていることから、天端厚は0.5mとする。
イ 技術基準には垂直壁の下流法勾(のりこう)配の標準値が定められていないことから、技術基準に基づいて同県が制定した「治山事業設計積算運用集」で垂直壁の下流法勾配の標準値とされている1:0.2を下流法勾配として、上流法勾配は垂直とする。

2 検査の結果

 本院は、広島県において、合規性等の観点から、設計が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図書等の書類により検査したところ、床固工の設計が、次のとおり適切でなかった。
 すなわち、技術基準によると、三面張りの流路工における床固工の構造については、天端厚は垂直壁に準じて決定することとなっているが、下流法勾配等は重力式治山ダムの断面に準じて決定することとなっている。また、重力式治山ダムの断面の決定に当たっては、安定計算を行った上で、堤体の破壊に対する安定を満たすものでなければならないとされている。
 しかし、本件床固工5基の断面決定に当たって、前記のとおり、下流法勾配等を誤って重力式治山ダムではなく垂直壁に準じて決定しており、また、重力式治山ダムの断面決定の際必要とされる技術基準に基づく安定計算を行っていなかった。
 そこで、本件床固工について、その安全度を確認するために、技術基準に基づく安定計算等の詳細な報告を求めて、その報告内容を確認するなどした。その計算結果によると、堤体のコンクリートの重量である自重等による鉛直荷重及び堤体背面の土圧等による水平荷重の合力の作用位置が堤底厚の中央より下流側に0.437mの位置となり、安全な範囲である堤底厚の中央3分の1に収まる上限値の0.183mを下流方向へ大幅に逸脱していて安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった(参考図2参照) 。このため、堤底の上流端には引張応力(68.7kN/m )が生じていて、堤体の破壊に対する安定が確保されていない状態になっていた。
 このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのにこれに対する検査が十分でなかったことによると認められる。
 したがって、本件床固工5基(工事費相当額4,815,774円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額2,407,887円が不当と認められる。

(参考図1)

流路工概念図

(参考図2)

床固工断面図