会計名及び科目 | 一般会計 | (組織) | 農林水産本省 | (項) | 農業者年金等実施費等 | |||
(組織) | 林野庁 | (項) | 林業振興費等 | |||||
(項) | 治山事業費 | |||||||
平成17年度以前は、国有林野事業特別会計(治山勘定) | ||||||||
(項) | 治山事業費 | |||||||
(組織) | 水産庁 | (項) | 水産業振興費 | |||||
国営土地改良事業特別会計 | (項) | 土地改良事業費等 | ||||||
部局等 | 農林水産本省、林野庁、水産庁、北海道開発局、東北、関東、東海、近畿、九州各農政局 | |||||||
委託事業の概要 | 農林水産省所管事務に関する各種調査等の実施 | |||||||
委託の相手方 | 12道府県知事 | |||||||
支払額 |
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区分経理が行われていないなどのため根拠資料により十分確認することができなかった旅費、人件費及び賃金の支出額 |
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農林水産省(外局、地方支分部局及び特別の機関を含む。以下「同省」という。)は、農林水産省設置法(平成11年法律第98号)第3条、第4条等の規定に基づき、農林水産業の発展、森林の保続培養等の任務を達成するため様々な事務を所掌している。 そして、同省は、上記事務の実施の一環として、都道府県知事との間で委託契約を締結することにより、都道府県知事に対して、保安林整備事業、農業者年金等監査指導委託事業等の多数の事業の実施を委託している(以下、これらの委託事業を「農林水産委託事業」という。)。
同省と各都道府県知事との間で締結される農林水産委託事業の実施に関する委託契約書(以下「委託契約書」という。)によると、農林水産委託事業の実施に要する経費(以下「委託費」という。)の交付、精算等の手続及び委託費の経理は、おおむね次のとおり行うものとされている。
ア 都道府県知事は、同省との間における委託契約の締結により農林水産委託事業を実施して、当該事業を終了したときは、同省に対して当該事業の成果を記載した委託事業実績報告書(当該委託調査等の実施に要した委託費の経費の内訳及び額を記載した収支精算報告を含む。以下「精算報告書」という。)を提出する。
イ 同省は、精算報告書の提出を受けたときは、委託費の精算に係る審査等を行い、適正と認めたときは、都道府県知事に対して、精算払いの場合には委託費の交付額の確定の手続を行って当該額の交付を行い、概算払いの場合には当該額の確定の手続を行って委託費の精算の手続を終了する。
ウ 都道府県知事は、委託費の経理に当たっては、帳簿を備えて収入支出の額を記載して、その出納を明らかにしておかなければならない。
また、都道府県知事は、上記の帳簿及び委託費の支出内容を証する証拠書類(以下、これらを合わせて「根拠資料」という。)を当該委託事業終了の年度の翌年度から5年間保管しなければならない。
さらに、委託契約書によると、同省は、必要があると認めたときは、都道府県知事に対して、委託事業の実施状況、委託費の使途その他必要な事項について報告を求め、又は実地に調査できるものとされている。
本院は、農林水産省及び12道府県(注1)
において会計実地検査を行い、平成14年度から18年度までの間に12道府県において実施された保安林整備事業、農業者年金等監査指導委託事業等の計74委託事業(注2)
(以下「74委託事業」という。)について支払われた委託費を対象として、合規性等の観点から、委託費の経理が適正に行われているかなどに着眼して、精算報告書等の書類により検査した。
上記の74委託事業に係る14年度から18年度までの間の12道府県における事業数(注3)
及び委託費の交付額(精算額同額)の年度別の推移は、次表のとおりとなっている。
年度 | 事業数 | 交付額(精算額)(円) |
平成14 | 140 | 247,925,705 |
15 | 128 | 473,161,260 |
16 | 126 | 372,835,670 |
17 | 128 | 284,531,357 |
18 | 124 | 299,781,067 |
計 | 646 | 1,678,235,059 |
検査したところ、次のとおり不適切な事態が見受けられた。
ア 12道府県における委託費の会計経理の状況
12道府県において、委託費の経理に当たり、その支出等を担当者の補助簿等に記録していた例は見受けられたものの、委託費の支出等を記録した正規の帳簿を備えて、当該帳簿に委託費の支出等をその都度記録することにより、各道府県の事業(以下「県単独事業」という。)、国庫補助事業等の経費と委託費とを委託事業ごとに明確に区分して経理(以下「区分経理」という。)していた例はほとんど見受けられなかった。
すなわち、12道府県は、一部の例外的な場合を除き、県単独事業、国庫補助事業等の経費と委託費とを区分することなく一体的に経理していた。そして、区分経理を行うことが比較的容易と思料される旅費、人件費及び臨時職員に対する賃金等(以下「賃金」という。)についても、区分経理を行っていた例はほとんど見受けられなかった。
そこで、12道府県が実施した74委託事業の精算報告書に記載された旅費、人件費及び賃金に係る根拠資料の有無等について更に検査した。
その結果、委託費について、区分経理が行われていないなどのため、精算報告書に記載された旅費、人件費又は賃金の支出実績等を根拠資料により十分確認することのできないものが、14年度から18年度までの間に12道府県が実施した計71委託事業(注4)
(以下「71委託事業」という。)において、2億1406万余円見受けられた。
上記について事例を示すと、次のとおりである。
A県は、平成14年度から18年度までの間に実施した農業者年金等監査指導委託事業において、当該委託事業の用務に係る出張旅費として計790,000円を支出した旨を記載した精算報告書を作成して同省に提出しており、同省はこれに基づき、毎年度、委託費の精算を行っていた。
しかし、検査の結果、同県は、当該委託費の計上された予算科目からの旅費の支出に当たり、当該委託費と他の事業経費との経理を区分していなかった。そして、精算報告書に記載されていた上記の旅費計790,000円のうち計510,504円については、当該委託事業の実施と明確な関連性がある旅費の支出であることを根拠資料により十分確認することはできなかった。
さらに、12道府県の中には、文書管理規程上、委託費等の国庫金に関する会計書類の保存期間が委託契約書で約定されている5年よりも短期間となっていたものなども見受けられた。
イ 同省における委託費の交付、精算等に係る審査及び指導の状況
前記のとおり、委託契約書によると、同省は、必要があると認めたときは、都道府県知事に対して、当該委託事業の実施状況、委託費の使途その他必要な事項について報告を求め、又は実地に調査できるものとされている。
しかし、検査の結果、同省が14年度から18年度までの間に12道府県において実施された71委託事業に係る委託費の経理の状況等について実地の調査を実施した例はなく、また、71委託事業に係る委託費の経理の状況等について報告を求めた例もほとんど見受けられなかった。
以上のことから、同省は、各道府県における歳出予算科目、会計事務処理の方法、文書管理規程等の内容等を含む委託費の会計経理の実態について必ずしも十分に把握しておらず、委託費の交付、精算等に当たり、適切かつ十分な審査を行っていなかったと認められた。
上記ア及びイのように、71委託事業に係る委託費について区分経理が行われていないなどしているのに、同省がこのような会計経理の実態について十分把握することのないまま委託費の交付、精算等を行っていた事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 同省において、
(ア) 委託契約書の約定が必ずしも明確なものではなく、委託費の経理に当たっては、その支出等を記録する正規の帳簿を整備して、当該支出等を当該帳簿にその都度記録することにより、委託事業ごとに他の事業経費との経理を明確に区分することなどを明示していなかったこと
(イ) 都道府県における歳出予算科目、会計事務処理の方法、文書管理規程の内容等を含む委託費の会計経理についての実態把握が十分でなく、都道府県に対する次のような事項についての周知徹底が十分でなかったこと
〔1〕 委託費については、その支出等を記録する正規の帳簿を整備して、当該支出等を当該帳簿にその都度記録することにより、経理を明確に区分する必要があること
〔2〕 根拠資料については、各都道府県の文書管理規程における文書の保存期間にかかわらず、5年間の整備及び保存を行う必要があること
〔3〕 精算報告書の作成及び提出に当たっては、十分な根拠資料に基づく委託費の経費別の支出実績額を記載する必要があること
(ウ) 委託費からの旅費及び賃金の支出は、各委託事業の実施要領等に定める委託調査等の実施と直接関係のある出張又は用務に従事した場合に限る旨の周知徹底が十分でなかったこと
イ 12道府県において、
(ア) 委託費の区分経理、根拠資料の整備、保存等に関する委託契約書の約定の趣旨を踏まえた委託費の適切な経理を行っていなかったこと
(イ) 委託費の交付、精算等に当たり、必ずしも十分な根拠資料に基づくことのない経費別内訳を記載した精算報告書を作成して、これを同省に提出するなどしていたこと
なお、上記のほか、同省において、都道府県が委託契約書の約定を踏まえた委託費の適切な経理を行っていないと認めるときは、委託費を交付せず又は交付済みの委託費についてはその返還を求めることができる旨の約定を整備していなかったことも、前記の事態の一つの要因となっていたと認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、同省では、次のとおり、20年9月以降、委託費の会計経理の適正化を図るとともに、都道府県における委託費の会計経理の状況等の実態を十分に把握して、委託費の交付、精算等に当たり適切な審査を行うための処置を講じた。
ア 委託契約書の約定を改定するなどして、委託費の経理に当たっては、正規の帳簿を整備して、委託費の支出等を当該帳簿にその都度記録することにより、委託事業ごとに委託費と他の事業経費との経理を明確に区分することなどを明示するとともに、今後、都道府県がこれらの約定に反する不適切な経理を行ったと認めるときは、委託費を交付せず又は交付済みの委託費についてはその返還を求めることができることとした。
イ 都道府県に対して、上記のような委託契約書の改定の主旨、すなわち、委託費の区分経理を徹底すること、根拠資料については各都道府県の文書管理規程における文書の保存期間にかかわらず5年間の整備及び保存の徹底を図ること、精算報告書の作成及び提出に当たっては十分な根拠資料に基づく経費別の支出実績額を記載することなどについて、文書によりその周知徹底を図った。
ウ 委託費からの旅費及び賃金の支出は、各委託事業の実施要領等に定める委託調査等の実施と直接関係のある出張又は用務に従事した場合に限る旨を委託契約書に明示するなどした。