会計名及び科目 | 農業共済再保険特別会計(家畜勘定) | (項)農業再保険費 | |
部局等 | 農林水産本省 | ||
事業の根拠 | 農業災害補償法(昭和22年法律第185号) | ||
事業の概要 | 農業者が不慮の事故によって受ける家畜等の損失を補てんするために、農業共済組合等が行う家畜共済事業のうち牛を対象とするもの | ||
著しく低額な基準単価を設定していた連合会 | 6連合会 | ||
過大となっていた共済金相当額 | 1億4343万余円 | (平成18、19両年度) | |
上記のうち国の再保険金相当額 | 7171万円 |
農林水産省は、農業災害補償法(昭和22年法律第185号)に基づき、農業者が不慮の事故によって受ける損失を補てんして農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的として、農業災害補償制度を運営している。
この制度は、原則として、〔1〕 市町村等の各地域ごとに設立される農業共済組合(以下「組合」という。)等が行う共済事業、〔2〕 都道府県ごとに設立される農業共済組合連合会(以下「連合会」という。)が行う保険事業及び〔3〕 国が行う再保険事業の3段階により構成されている。このうち、組合等が行う共済事業は、対象とする作物等により牛等の家畜、水稲等の農作物等に区分されている。
そして、組合等は、組合員等に対して支払う共済金の支払責任の一部を連合会の保険に付して、また、連合会は、組合等に対して支払う保険金の支払責任の一部を国の再保険に付することとなっている。
この制度の運営については、国は連合会の業務又は会計の状況を、都道府県は組合等の業務又は会計の状況を検査するなどして、それぞれ連合会又は組合等の指導監督を行うこととなっている。 この制度について、図で示すと次図のとおりである。
図 共済掛金及び共済金の流れ(概念図)
農林水産省は、一般会計と区分して農業共済再保険特別会計を設置して、再保険事業に関する経理を運営している。平成19年度の同特別会計の家畜勘定に係る歳入決算額は461億8146万余円、歳出決算額は320億3751万余円となっている。そして、当該歳入決算額のうち牛を対象とする家畜共済事業(以下「牛共済」という。)に係る共済掛金国庫負担金は312億7217万余円であり、また、歳出決算額のうち牛共済に係る再保険金は205億3867万余円となっている。
牛共済は、農業災害補償法、「家畜共済の事務取扱要領及び事務処理要領について」(昭和61年61農経B第804号農林水産省経済局長通知。以下「要領」という。)等により、次のとおりとされている。
牛を飼養する組合員等は、共済対象の牛に死亡、廃用(注1)
、疾病等の共済事故が発生した場合には、組合等に通知しなければならないこととなっている。そして、国は共済金の5割に相当する額を再保険金として連合会に支払い、連合会はこの額に共済金の3割に相当する額を加えて保険金として組合等に支払って、組合等はこの額に共済金の2割に相当する額を加えて共済金として組合員等に支払うこととされている。
共済事故のうち廃用事故の場合の共済金は、組合等が次式により算定することとなっている。
共済金=(廃用牛の評価額−肉皮等残存物価額)×共済金額(注) /共済価格(注)
そして、この式において、肉皮等残存物価額については、廃用となった牛の肉皮等の売渡価額と、共済金算定の基礎となる基準単価に当該廃用となった牛の枝肉(注2)
の重量を乗ずるなどして算出した基準額とを比較して、高い方の額を採用することとされている。
連合会等は、上記の基準単価を設定するに当たり、都道府県内で飼養されている牛が主に出荷されている食肉市場(以下「要領想定市場」という。)から入手した枝肉取引価額の情報を基にして肉質等ごとの1kg当たりの平均値を算定して、これを基準単価として設定することとされている。
前記のように、売渡価額と基準額とを比較して肉皮等残存物価額を決定する取扱いは、5年度から導入されている。これは、3年4月の牛肉の輸入自由化以降、国産の牛の枝肉取引価額が低下して、組合員等による牛の枝肉の販売努力が低下したことなどによって共済金が増加する傾向が生じたために、組合員等に販売努力を促すとともに、牛共済の安定的運営を図ることを目的としている。
本院は、有効性等の観点から、連合会等が基準単価を適切に設定できるよう要領等が定められているかなどに着眼して検査した。そして、18、19両年度に支払った牛共済に係る共済金計62億6920万余円(うち国の再保険金計31億3457万余円)を対象として、農林水産本省、23道県管内の23連合会等(注3) 及び107組合等において会計実地検査を行い、23連合会等が設定した基準単価の設定根拠を確認するなどして検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
23連合会等のうち6連合会は、基準単価の設定に当たり、要領想定市場を特定できないため、県内の食肉市場から入手した肉質等ごとに区分されていない枝肉取引価額の情報の中から最安値を抽出したり、過去に設定した根拠が明確でない基準単価を見直すことなくそのまま用いたりなどして基準単価を設定していた。これらのことにより、6連合会が肉質等ごとに18、19両年度に設定した計36の基準単価のうち、計29の基準単価は、食肉中央卸売市場の枝肉取引価額の平均値(注4)
(以下「中央市場の平均値」という。)に比べて3割から7割程度の額であり、著しく低額となっていた。
そして、6連合会管内の24組合等が18、19両年度にこれら著しく低額な基準単価を用いて算定した共済金計11億8611万余円(うち国の再保険金計5億9305万余円)は、中央市場の平均値を基準単価として試算した共済金相当額計10億4267万余円と比べて、計1億4343万余円(うち国の再保険金相当額計7171万余円)が過大となっていた。
A県下の4組合は、平成18、19両年度に、A県農業共済組合連合会(以下「A連合会」という。)が設定した基準単価を用いて算定した共済金計451,897,889円(うち国の再保険金計225,947,453円)を組合員に支払っていた。
A連合会は、上記の基準単価の設定に当たって、要領想定市場を特定できなかったため、県内の5箇所の食肉市場から枝肉取引価額の情報を入手しようとしたが、これら食肉市場が枝肉取引価額の情報を公表していないことなどから、当該情報を入手できなかった。そして、13年度に設定した根拠が明確でない基準単価を見直すことなく肉質等ごとに18、19両年度に計6の基準単価を設定していて、これらの設定した基準単価(250円/kgから320円/kg)は、公表されている中央市場の平均値(361円/kgから835円/kg)に比べて4割から7割程度の額であり、著しく低額となっていた。
このため、4組合がこの基準単価を用いて算定した前記の共済金は、中央市場の平均値を基準単価として試算した共済金相当額計398,910,224円と比べて、計52,987,665円(うち国の再保険金相当額計26,492,897円)が過大となっていた。
このように、牛共済において、6連合会が著しく低額な基準単価を設定してこれを用いて管内の24組合等が共済金を算定している事態は、共済金が適切に算定されていないばかりか、連合会間、組合間、組合員間の公平性も確保されていないことになり適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、農林水産省において、連合会等が要領想定市場を特定できない場合に、食肉市場から入手できる適正な枝肉取引価額の情報を用いて基準単価を設定する方法を要領等に定めていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、20年9月に、連合会等が要領想定市場を特定できない場合でも基準単価を適切に設定できるよう、食肉市場から入手できる適正な枝肉取引価額の情報を用いて基準単価を設定する方法を新たに要領に追加して、これを連合会等に周知し、同年10月から改正要領に基づいて連合会等が新たに設定する基準単価により共済金の算定を行うよう組合等に周知する処置を講じた。