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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • 不当事項|
  • 補助金

道路改築事業等の実施に当たり、落橋防止システムの設計が適切でなかったため、橋りょう上部工等の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの


(784)−(788) 道路改築事業等の実施に当たり、落橋防止システムの設計が適切でなかったため、橋りょう上部工等の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)国土交通本省
      (項)河川等災害復旧事業費
      (項)地域再生推進費
  道路整備特別会計(平成20年度以降は社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定))
      (項)北海道道路事業費
      (項)道路環境整備事業費
      (項)地方道路整備臨時交付金
  治水特別会計(治水勘定)(平成20年度以降は社会資本整備事業特別会計(治水勘定))
      (項)北海道河川事業費
部局等 5道県
補助の根拠 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)、地域再生法(平成17年法律第24号)、道路法(昭和27年法律第180号)、道路整備費の財源等の特例に関する法律(昭和33年法律第34号)、予算補助
補助事業者
(事業主体)
市4、町1、計5事業主体
補助事業 道路改築事業等
補助事業の概要 道路の拡幅又は被災等に伴い、橋りょうを新設し、又は架け替えるなどのために、平成16年度から18年度までに橋台の築造、橋りょう上部工の製作、架設等を行うもの
事業費の合計 376,486,950円 (うち国庫補助対象額228,575,550円)
上記に対する国庫補助金交付額の合計 134,048,666円    
不当と認める事業費 81,028,982円 (うち国庫補助対象額78,756,280円)
不当と認める国庫補助金相当額 45,948,500円  

1 補助事業の概要

 これらの補助事業は、5市町が、道路の拡幅又は被災等に伴い、橋りょうを新設し、又は架け替えるなどのために、下部工として橋台の築造、上部工としてプレストレストコンクリート桁(けた)(以下「PC桁」という。)の製作、架設等を実施したものである。
 これらの橋りょうの設計は、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づいて行われている。そして、示方書によると、設計で想定されない地震動が作用するなどした場合でも上部構造の落下を防止することができるように、落橋防止システムを設けることとされている。この落橋防止システムの構成は、変位制限構造(注1) 、落橋防止構造、桁かかり長(注2) 等の中から、橋りょうの形式、地盤条件等に応じて適切に選定することとされている。
 このうち変位制限構造と落橋防止構造は、地震時において要求される役割、両構造が作用し始める時期及び変位量が異なることから、これらを兼用すると、一方の機能の喪失が他方の機能の喪失に結びつくため、兼用してはならないとされている。そして、落橋防止構造は、構造的な損傷を少なくするために、橋軸方向の移動量を所定の範囲で可能な限り大きくすること、橋軸直角方向への移動にも対処できるようにすることとされている。
 また、落橋防止構造は、橋台がI種地盤(注3) に支持されていて上部構造の長さが50m以下の橋りょう又は上部構造の両端が剛性の高い橋台に支持されていて上部構造の長さが25m以下の橋りょうについては、橋軸方向の変位が生じにくい橋りょうに該当して、その設置を省略することができることとされている。ただし、所定の判定式により橋軸と支承の中心線とのなす角(以下「斜角」という。)の小さい斜橋であると判定された場合や地震時に橋りょうに影響を与える液状化が生ずる砂質土層等の不安定となる地盤がある場合には、予期しない大きな変位が生ずることがあるため、落橋防止構造の設置を省略してはならないとされている。
 そして、原形復旧を原則とされている災害復旧事業の場合でも、被災した橋りょうが木橋で原形復旧が不適当であるため、永久構造としてプレストレストコンクリート橋に架け替える場合には、上記と同様に示方書に基づき落橋防止構造の必要性を検討することとされている。

 変位制限構造  支承と補完し合って、上下部構造間の相対変位が大きくならないようにするためのもので、桁と橋台をアンカーバーで連結するなどしてその相対変位を制限する構造

(参考例)

変位制限構造概念図

 落橋防止構造、桁かかり長  桁と橋台の胸壁をPC鋼材で連結するなどして、上下部構造間に予期しない大きな相対変位が生じた場合に、これが桁かかり長(桁端部から下部構造頂部縁端までの長さ)を超えないようにする構造

(参考例)

落橋防止構造、桁かかり長概念図

  I種地盤  地震による揺れの大きさは、地盤の硬さなどにより異なり、耐震設計上ではこれを考慮する必要がある。示方書では、地盤の揺れの程度に応じて、I種地盤、II種地盤及びIII種地盤と分類している。概略の目安としては、I種地盤は良好な洪積地盤及び岩盤等が該当する。

2 検査の結果

 本院は、5市町において、合規性等の観点から、橋りょう工事の設計が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件各工事(事業費計376,486,950円、うち国庫補助対象額228,575,550円、国庫補助金134,048,666円)について、設計図面、設計計算書等の書類により検査したところ、落橋防止システムの設計が次のとおり適切でなかった。
 すなわち、5市町は、変位制限構造と落橋防止構造を兼用することとしたり、斜角の小さい斜橋と判定される場合や地震時に液状化が生ずる地盤がある場合であるのに落橋防止構造を設置しなかったりしていて、橋りょう上部工等(事業費相当額計81,028,982円、うち国庫補助対象額計78,756,280円)の所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額計45,948,500円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、事業主体において、示方書についての理解が十分でなかったり、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったり、災害復旧事業における原形復旧についての理解が十分でなかったりしたことなどによると認められる。
 これを事業主体別に示すと次のとおりである。

  道県名 事業主体 補助事業 年度 事業費
(国庫補助対象事業費)
左に対する国庫補助金交付額 不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金
          千円 千円 千円 千円
(784) 北海道 札幌市 川向中通線(仮称川向中通2号橋)新設工事 17
249,050
(15,057)
56,378
22,994
(8,113)
12,564

 この補助事業は、札幌市が、川向中通線の道路改築事業の一環として、同市東区丘珠町地内において、道路の拡幅等に伴い、一級河川丘珠藤木川に橋りょう(橋長18.6m、幅員9.2m)を新設するために、橋台2基の築造、PC桁の製作、架設等を実施したものである。そして、この橋りょうは、橋台の支承部を介して上部工と下部工を連結する構造となっている。
 同市は、落橋防止システムの設計に当たり、本件橋りょうを設置する地盤には液状化が生ずると判定された土層があり、地震時に不安定となる地盤がある場合に該当することなどから、変位制限構造及び桁かかり長に加えて、落橋防止構造が必要であるとしていた。そして、このうち変位制限構造及び落橋防止構造については、いずれも支承部のアンカーバーにより兼用して機能させることとして、変位制限構造に比べてより大きな水平力がかかる落橋防止構造に必要な耐力を確保するために、アンカーバーの径を50mmと決定して、これを設置すれば耐震設計上安全であるとして、これにより施工していた。
 しかし、示方書によると、変位制限構造と落橋防止構造は、兼用してはならないとされている。また、本件橋りょうの落橋防止構造は、上記のようにアンカーバーにより機能させることとしていたため、橋軸方向及び橋軸直角方向への移動に対処できないものとなっていた。
 したがって、本件橋りょう上部工等(これらの工事費相当額22,994,382円、うち国庫補助対象額22,845,280円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額12,564,750円が不当と認められる。

(785) 石川県 鳳珠郡穴水町 町道二子山線恵光寺橋上部工工事 17
15,057
(15,057)
6,938
8,113
(8,113)
3,738

 この補助事業は、穴水町が、町道二子山線の道路改築事業の一環として、同町前波地内において、二級河川前波川に架かる供用中の恵光寺橋を拡幅するために、PC桁の製作、架設等を実施したものである。そして、この橋りょう(拡幅部の橋長12.3m、幅員3.7m)は、斜角が65度の斜橋となっている(参考図 参照)。
 同町は、本件橋りょうの橋台がI種地盤に支持されていること、PC桁の長さが12.3mであることから、橋軸方向の変位が生じにくい橋りょうに該当するので、落橋防止構造の設置を省略しても耐震設計上安全であるとして、これにより施工していた。
 しかし、本件橋りょうの設計の基礎となっている設計計算書をみると、本件橋りょうは、所定の判定式により斜角の小さい斜橋であると判定されており、落橋防止構造を設置する必要があったにもかかわらず、最終的な検討結果としては、誤って、上記のとおり、落橋防止構造の設置が省略されていた。そして、同町は、誤った設計計算書どおりに落橋防止構造を省略していた。
 したがって、本件橋りょう上部工等(工事費相当額8,113,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額3,738,343円が不当と認められる。

(参考図)

橋りょう概念図

(786) 兵庫県 豊岡市 道八坂線道路災害復旧 17
26,828
(26,828)
22,616
11,983
(11,983)
10,101

 この補助事業は、豊岡市が、市道八坂線を復旧する道路災害復旧事業の一環として、同市出石(いずし)町谷山地内において、台風により被災した普通河川谷山川に架かる木橋を新橋(橋長16.5m、幅員4.7m)に架け替えるために、橋台2基の築造、PC桁の製作、架設等を実施したものである。そして、この橋りょうは、斜角が60度の斜橋となっている。
 同市は、本件工事が原形復旧を原則とした災害復旧事業であり、被災した木橋に落橋防止構造が設置されていなかったことから、本件橋りょうに落橋防止構造を設置しないこととして、これにより施工していた。
 しかし、災害復旧事業として被災した木橋をプレストレストコンクリート橋に架け替える際、当該橋りょうが斜橋である場合には、示方書に基づき、落橋防止構造の必要性を判定することとされている。そして、所定の判定式によると、本件橋りょうは斜角の小さい斜橋と判定され、落橋防止構造を設置しなければならないのに、同市は、このことについて認識していながら、上記のとおり、落橋防止構造を設置していなかった。
 したがって、本件橋りょう上部工等(工事費相当額11,983,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額10,101,669円が不当と認められる。

(787) 岡山県 浅口市 赤鉢橋災害復旧工事、迫1号橋災害復旧工事 16〜18
54,249
(48,436)
32,307
7,530
(6,064)
4,044

 この補助事業は、浅口市(平成18年3月20日以前は浅口郡鴨方町)が、河川等災害復旧事業の一環として、同市六条院中地内において、二級河川里見川に架かる市道安倉線及び迫ノ峠線の橋りょうを新橋に架け替えるために、赤鉢橋災害復旧工事(橋長13.0m、幅員2.8m)及び迫1号橋災害復旧工事(橋長11.5m、幅員2.8m〜4.1m)により、それぞれ橋台2基の築造、PC桁の製作、架設等を実施したものである。
 同市は、本件両橋りょうは、幅員が狭いなど小規模で利用が少ないことなどから、落橋防止構造を設置しないこととして施工していた。
 しかし、本件両橋りょうを設置する箇所にはいずれも液状化が生ずると判定された砂質土層等の不安定な地盤があり、示方書によれば、橋りょうの規模等にかかわらず落橋防止構造の設置を省略してはならないとされているのに、誤って、上記の理由から、落橋防止構造を設置する必要はないと判断していた。
 したがって、本件両橋りょう上部工等(工事費相当額計7,530,600円、うち国庫補助対象額計6,064,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額計4,044,688円が不当と認められる。

(788) 広島県 広島市 都市計画道路3・4・005号矢賀間所線整備 17、18
31,301
(30,345)
30,408
15,808
(29,751)
15,499

 この補助事業は、広島市が、都市計画道路3・4・005号矢賀間所線の街路事業の一環として、同市東区矢賀地区及び温品(ぬくしな)地区において、一級河川中山川に橋りょう(橋長15.0m、幅員14.9m〜19.3m)を新設するために、PC桁の製作、架設等を実施したものである。
 同市は、本件橋りょうのPC桁の両端が剛性の高い橋台に支持されていること、PC桁の長さが14.9mであることから、橋軸方向の変位が生じにくい橋りょうに該当するので、落橋防止構造の設置を省略しても耐震設計上安全であるとして、これにより施工していた。
 しかし、本件橋りょうの設計の基礎となっている設計計算書をみると、橋りょうを設置する地盤には、地震時に橋りょうに影響を与える液状化が生ずると判定されていた砂質土層があった。このため、本件橋りょうは、地震時に不安定となる地盤がある場合に該当して、落橋防止構造を設置する必要があったのに、同市は、誤って、この判定結果を用いることなく、落橋防止構造を省略していた。
 したがって、本件橋りょう上部工(工事費相当額30,408,000円、うち国庫補助対象額29,751,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額15,499,050円が不当と認められる。

(784)−(788)の計
376,486
(228,575)
134,048
81,028
(78,756)
45,948