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  • 平成19年度|
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  • 補助金

街路事業の実施に当たり、設計及び施工が適切でなかったため、橋りょう等の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの


(801) 街路事業の実施に当たり、設計及び施工が適切でなかったため、橋りょう等の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの

会計名及び科目 道路整備特別会計(平成20年度以降は社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定))
    (項)道路事業費
    (項)地方道路整備臨時交付金
部局等 鹿児島県
補助の根拠 道路法(昭和27年法律第180号)
  道路整備費の財源等の特例に関する法律(昭和33年法律第34号)
補助事業者
(事業主体)
鹿児島県
補助事業 都市計画道路3・6・4号島畑通線整備
補助事業の概要 橋りょうを架け替えるために、平成15年度から18年度までの間に橋台、橋脚、上部工等を施工するもの
事業費 588,147,000円 (うち国庫補助対象額467,042,000円)
上記に対する国庫補助金交付額 252,210,600円    
不当と認める事業費 447,765,000円 (うち国庫補助対象額326,660,000円)
不当と認める国庫補助金相当額 177,256,533円  

1 補助事業の概要

 この補助事業は、鹿児島県が、都市計画道路3・6・4号島畑通線の街路事業の一環として、肝属(きもつき)郡肝付町新富地内において、一級河川高山川に架かる橋りょうを新橋(橋長84.8m、幅員16.8m)に架け替えるために、平成15年度から18年度までの間に、下部工として橋台2基及び橋脚1基の築造、基礎杭の打設等を、上部工として2径間連続鋼床版鈑桁(ばんけた)の製作、架設等を工事費計588,147,000円(うち国庫補助対象額467,042,000円、国庫補助金252,210,600円)で実施したものである。
 このうち、橋台及び橋脚の基礎杭は、外径600mmの鋼管杭として、左岸側の橋台(以下「A1橋台」という。)については杭長49.5mを20本、右岸側の橋台(以下「A2橋台」という。)については杭長49.5mを16本、橋脚については杭長41.5mを20本、計56本打設するものである。
 本件橋りょうの設計は、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)、「杭基礎設計便覧」(社団法人日本道路協会編)等に基づいて行われている。示方書等によると、基礎杭と橋台及び橋脚のフーチングとの結合部(以下「結合部」という。)は、剛結合として設計することとされている。
 そして、同県は、本件橋りょうの結合部については、次のような構造とすれば結合部は剛そ結合となり、杭頭部の変位量、杭基礎の応答塑性率(注1) も許容値を下回ることなどから安全であるとして、これにより施工することにしていた(参考図参照)
〔1〕  杭頭部を橋台及び橋脚のフーチング内に100mm埋め込み、杭1本当たり16本の補強鉄筋を杭の外周部に配置して、杭に溶接して杭頭部を補強する。
〔2〕  補強鉄筋については、A1橋台には径29mm、A2橋台には径32mm、橋脚には径25mmの鉄筋を使用して、いずれも溶接長100mm、脚長10mmを確保するように溶接する。

2 検査の結果

 本院は、鹿児島県において、合規性等の観点から、設計及び施工が適切に行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図面、設計計算書、施工管理記録等の書類により検査したところ、橋りょうの結合部の設計及び施工が次のとおり適切でなかった。
 すなわち、示方書等によると、本件橋りょうの結合部のように、杭の外周部に補強鉄筋を溶接する場合には、応力計算を行い溶接部に生ずるせん断応力度(注2) が許容せん断応力度(注2) を下回って安全であるかを照査の上、溶接長及び脚長を決定することとされている。
 しかし、本件橋りょうの結合部の設計において、前記のとおり溶接長100mm、脚長10mmとしたのは、応力計算に先行して他の工事の設計図面を参考に本件設計図面を作成したことによるもので、設計計算書によると、A1及びA2橋台については、設計計算のソフトウェアに初期設定値として入力されている仮の値による応力計算を行ったのみで、上記設計図面の値による応力計算は行っていなかった。また、橋脚については、溶接長及び脚長に関する応力計算を行っていなかった。
 さらに、示方書によると、上記のA1及びA2橋台の応力計算においては、溶接部の許容せん断応力度は、鋼管杭の許容せん断応力度に基づいた72N/mm とすることとされているのに、誤って鉄筋の許容せん断応力度に基づいた94.5N/mm と過大に設定していた。
  そこで、設計図面どおりに溶接長を100mm、脚長を10mmとして、許容せん断応力度を72N/mm とした応力計算等の報告を求めて、その報告内容を確認するなどした。その計算結果によると、溶接部のせん断応力度は、A1橋台は91.8N/mm 、A2橋台は113.5N/mm 、橋脚は72.4N/mm となり、いずれも許容せん断応力度を上回っていた。
 また、示方書等によると、杭の外周部に補強鉄筋を溶接する場合には、鉄筋を1本ずつ確実に溶接しなければならないなどとされていることから、施工の状況についてみたところ、溶接作業を行うのに必要な資格を有していない者が本件杭頭部の溶接作業に従事していたり、監督職員が実際の溶接長及び脚長の測定を行っていなかったりしていた。
 そして、施工写真によると、溶接長及び脚長が不足している箇所が相当数見受けられるなどしており、補強鉄筋が1本ずつ確実に溶接されているとは認められないものとなっていた。
 以上のことから、本件橋りょうの結合部は、剛結合とはいえない状態になっており、改めて本件橋りょうの所要の安全度が確保されているかを確認する必要があると認められた。
 そこで、本件橋りょうの結合部を剛結合でないとした場合の設計計算等の詳細な報告を求めて、その報告内容を確認するなどした。その計算結果によると、次のように杭頭部の変位量、杭基礎の応答塑性率が設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
〔1〕  レベル1地震動(注3) 時において、A1橋台の杭頭部の変位量は21mmとなり、許容変位量15mmを大幅に上回っている。
〔2〕  レベル2地震動(注4) 時において、A2橋台の杭基礎の応答塑性率は5.5となり、許容塑性率(注1) 3.0を大幅に上回っている。
〔3〕  レベル2地震動時において、橋脚の杭基礎の応答塑性率は4.8となり、許容塑性率4.0を大幅に上回っている。
 このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと、また、請負人が結合部の溶接についての理解が十分でないまま施工していたのに、これに対する監督及び検査が十分でなかったことなどによると認められる。
 したがって、本件橋りょうは、結合部の設計及び施工が適切でなかったため、橋台2基、橋脚1基及びこれに架設された上部工等(これらの工事費相当額447,765,000円、うち国庫補助対象額326,660,000円)は所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに対する国庫補助金相当額177,256,533円が不当と認められる。

 応答塑性率・許容塑性率  構造物において上部構造の慣性力の作用位置に生ずる変位と構造物が降伏する時の変位との比を「応答塑性率」といい、その数値が設計上許される上限を「許容塑性率」という。橋りょうの耐震設計においては、基礎の応答塑性率が許容塑性率を下回り、基礎に生ずる損傷が橋りょうとしての機能の回復が容易に行い得る程度にとどまるように設計する。

 せん断応力度・許容せん断応力度  「せん断応力度」とは、外力が材に作用して、これを切断しようとする力が掛かったときに、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容せん断応力度」という。

 レベル1地震動  橋りょうの供用期間中に発生する確率が高い地震動をいう。

 レベル2地震動  橋りょうの供用期間中に発生する確率が低いプレート境界型の大規模な地震や内陸直下型地震を想定した地震動をいう。

(参考図)

橋りょう概念図

結合部詳細図

結合部詳細図