会計名
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一般会計
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部局等
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海上自衛隊補給本部
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廃電池の管理の概要
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廃電池から粗銀を回収して、この粗銀を精製したもの(精製銀)を銀電池製作時の官給品として使用するとともに、所要量を超えた廃電池を売り払うもの
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平成19年度末における廃電池の保管数及び廃電池から回収が見込まれる粗銀の量
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3,228個 17,430.4kg(精製銀換算量16,907.4kg)
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上記の廃電池から回収が見込まれる粗銀の試算額
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9億8060万円
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(平成20年10月22日付け 海上自衛隊補給本部長あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求する。
記
貴自衛隊は、潜水艦の遭難等の事故に対処するなどのため、横須賀所在の第2潜水隊群に潜水艦救難母艦「ちよだ」を、また、呉所在の第1潜水隊群に潜水艦救難艦「ちはや」をそれぞれ配備しており、各々に潜水艦救難活動に使用する深海救難艇(Deep Submergence Rescue Vehicle。以下「DSRV」という。)1艇及び人員移送用カプセル(Personnel Transfer Capsule。以下「PTC」という。)1基を搭載している。そして、これらのDSRV及びPTC並びに各地の部隊に供用している魚雷及び魚雷用標的の推進動力等に電力を供給するために、各種の銀電池を使用している。
貴自衛隊補給本部(以下「貴本部」という。)は、「海上自衛隊補給実施要領」(平成13年補本装補第509号)に基づき、平成18年1月に「銀電池からの銀等の回収及び銀電池の処分に関する基本計画について(通知)」(平成18年補本装艦第192号。以下「基本計画」という。)を定めている。
基本計画によれば、使用済み又は有効期限を経過した銀電池(以下「廃電池」という。)については、廃電池から粗銀(純度95%以上)を回収して、この粗銀を精製したもの(純度99.99%以上。以下、これを「精製銀」といい、粗銀及び精製銀を「銀」という。)を銀電池製作時の官給品として使用することにより、また、所要量を超えた廃電池については、これを処分(売払い)することにより、資源の有効活用及び銀の効率的な管理を図ることとなっている(以下、この一連の流れを「銀回収サイクル」という。)。
銀回収サイクルは、貴本部の指示により、以下のとおり行われることになっている。DSRV及びPTCの廃電池については、舞鶴地方総監部舞鶴造修補給所(以下「舞鶴造補所」という。)が、また、魚雷及び魚雷用標的の廃電池については、舞鶴地方総監部舞鶴弾薬整備補給所が、それぞれ、各地の部隊等から管理換を受けた後、廃電池から粗銀を回収することを粗銀回収会社に請け負わせたり、廃電池の売払いを行ったりすることになっている。そして、舞鶴造補所は、上記の回収した粗銀を一括して保管して、粗銀の精製を銀精製会社に請け負わせたり、銀電池製作のために精製銀の官給を電池製造会社に行ったりすることになっている。
基本計画によれば、貴本部は、銀電池製作に必要と見込まれる精製銀の所要量(以下「官給所要量」という。)について、2か年分の官給計画を定めることとなっている。そして、銀電池製作時に精製銀の円滑な官給を実施するために、この2か年分の官給所要量に相当する量の銀を、年度末在庫として確保することとなっている。
また、貴本部は、上記2か年分の官給所要量を維持するために、廃電池から粗銀を回収する作業期間を勘案するなどして、更に3か年分の官給所要量を満たす粗銀又は廃電池を保管して、全体で5か年分の官給所要量を確保するとしている。
そして、基本計画によれば、5か年分の官給所要量を超えて保管する廃電池については、貴本部が別途に年度処分計画を定めて、売り払うこととなっている。
貴本部は、銀電池の製作時に精製銀を官給するために、銀及び廃電池を相当量保管している。そこで、本院は、貴本部及び5地方総監部(注) において、効率性等の観点から、銀及び廃電池の保管状況並びに廃電池の売払状況は適切なものとなっているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、銀及び廃電池の現物の確認を行うとともに、物品管理簿等の書類により検査した。
検査したところ、銀及び廃電池の保管状況等並びに廃電池の売払状況について、次のような事態が見受けられた。
20年3月末現在において、舞鶴造補所等が保管している銀及び廃電池の保管量等は、表1のとおりであり、銀の保管量は計10,128.0kg(精製銀換算量計9,863.5kg、試算額計約5億7208万円相当)、廃電池の保管数は計3,228個、廃電池から回収が見込まれる粗銀の量は計17,430.4kg(同16,907.4kg、同約9億8063万円相当)、計27,558.4kg(同26,770.9kg、同約15億5271万円相当)となっていた。
銀の種類
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銀の保管量
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試算額
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精製銀
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1,312.1kg
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約7610万円相当
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粗銀
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8,815.9kg
(8,551.4kg)
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約4億9598万円相当
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計(A)
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10,128.0kg
(9,863.5kg)
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約5億7208万円相当
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廃電池の種類
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保管数
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粗銀回収見込量
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試算額
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DSRV用主蓄電池
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2,084個
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4,168.0kg
(4,042.9kg)
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約2億3449万円相当
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DSRV用応急電池
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228個
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22.8kg
(22.1kg)
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約128万円相当
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PTC用応急電池
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88個
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17.6kg
(17.0kg)
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約99万円相当
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魚雷用電池
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684個
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13,222.0kg
(12,825.3kg)
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約7億4386万円相当
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魚雷用標的用電池
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144個
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不明
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不明
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計(B)
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3,228個
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17,430.4kg
(16,907.4kg)
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約9億8063万円相当
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合計(A+B)
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27,558.4kg
(26,770.9kg)
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約15億5271万円相当
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注(1)
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銀の保管量及び粗銀回収見込量の( )書きは、精製銀換算量であり、粗銀精製時の回収割合を過去の実績(97%)を考慮して算定している。
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注(2)
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試算額は、銀及び廃電池から回収が見込まれる粗銀に係る価額であり、平成20年3月末現在の鉱山会社が地金を販売する際の基準価格を参考に、精製銀1kg当たり58,000円で算定していて、粗銀精製費用及び廃電池の解体等に必要な費用は控除されていない。
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注(3)
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粗銀回収見込量は廃電池の種類ごとの過去の回収実績を基に算定している。魚雷用標的用電池は過去に粗銀回収実績がないことから、粗銀回収見込量には含めていない。
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注(4)
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精製銀換算量は、小数点第2位以下を切り捨てているため、各項目の数値を合計しても計欄の数値と一致しない場合がある。
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一方、貴本部が19年度に作成した精製銀の官給計画によれば、表2のとおり、精製銀の官給所要量は19年度に計970.8kg、20年度に計1,033.8kgであり、年間の官給所要量は1,000kg程度となっており、銀電池の種類ごとの官給所要量の内訳では、DSRV用主蓄電池の製作に使用されるものが大部分を占めていた。
銀電池の種類
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平成19年度の官給所要量
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20年度の官給所要量
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DSRV用主蓄電池
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953.8kg
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953.8kg
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DSRV用応急電池
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10.0kg
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10.0kg
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PTC用応急電池
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7.0kg
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3.5kg
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魚雷用電池
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−
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66.5kg
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魚雷用標的用電池
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−
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−
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計
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970.8kg
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1,033.8kg
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そして、今後、DSRV及びPTCに使用する銀電池は、19、20両年度と同程度の調達数量が見込まれているものの、魚雷に使用する銀電池の調達数量は減少傾向にあることから、長期的にも今後の精製銀の官給所要量が大幅に増加する事情は想定されない。
したがって、銀及び廃電池の保管量(20年3月末現在)について、前記年間の精製銀の官給所要量(1,000kg程度)から推計すると、銀は約10か年分に相当する量を、また、廃電池から回収が見込まれる粗銀は約17か年分に相当する量をそれぞれ保管しており、5か年分の官給所要量を大幅に超えている状況であった。さらに、今後も、20年度から24年度までの5年間に、廃電池計1,604個(これらの廃電池から回収が見込まれる粗銀の量計3,790.4kg)が発生すると予想されている。
上記のとおり、19年度末に大量の銀を保管している状況を踏まえて、舞鶴造補所等の物品管理簿等により過去の保管状況を確認したところ、8年度から18年度までの各年度末における銀の保管量の推移は、表3のとおりである。これによれば、11年度末に粗銀だけで8,220.6kgを保管していたにもかかわらず、12、13両年度に3,944.2kg、1,461.2kg、計5,405.4kgの粗銀を廃電池から回収したため、13年度末には計19,030.0kgもの大量の銀を保管する状況となっていた。なお、13年度を最後に廃電池から粗銀を回収することは行われていない。
年度末
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粗銀の保管量
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精製銀の保管量
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銀の保管量計
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平成
8
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88.0kg
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不明
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不明
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9
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396.0kg
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不明
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不明
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10
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8,220.6kg
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不明
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不明
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11
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8,220.6kg
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不明
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不明
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12
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12,164.8kg
(3,944.2kg)
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不明
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不明
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13
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13,626.1kg
(1,461.2kg)
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5,403.9kg
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19,030.0kg
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14
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13,626.1kg
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3,425.1kg
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17,051.2kg
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15
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10,616.2kg
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4,103.8kg
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14,720.0kg
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16
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10,616.2kg
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3,547.3kg
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14,163.5kg
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17
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9,324.6kg
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3,741.9kg
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13,066.5kg
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18
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8,815.9kg
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2,626.3kg
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11,442.2kg
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注(1)
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平成8年度から12年度までの精製銀の保管量については、資料が保存されていないため不明である。
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注(2)
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粗銀保管量の( )書きは、当該年度の粗銀回収量である。
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貴本部は、廃電池の売払いについて、17年以前は具体的な基準を定めていなかったために、売払いを全く行っておらず、廃電池の保管量が毎年増加して、舞鶴造補所等では保管場所の確保が厳しい状況となっていた。
そこで、貴本部は、前記のとおり、基本計画を18年1月に作成して、5か年分の官給所要量を超える廃電池を売り払うとする基準を定めた。そして、貴本部は、基本計画に基づき、同年8月に、表4のとおり年度処分計画を定めて、同年11月に廃電池を売り払うよう舞鶴造補所等に指示した。
しかし、舞鶴造補所等から物品売払要求を受けた舞鶴地方総監部経理部は18年度について、19年2月に入札の公告をしたものの、仕様書に廃電池からの粗銀の回収率が明記されていなかったことなどのために、入札予定会社から応札することができない旨の連絡が多数あり、その結果、同年3月に入札の公告を取り消していた。
また、同経理部は、19年度について、仕様書に粗銀の回収率を記載して20年2月に入札を行ったものの、予定価格の算定に当たり、一部の廃電池について粗銀の回収率を見込んでいなかったり、精製銀の単価を当時の相場より高く見積もったりしていて予定価格を高く設定していたことから、予定価格を超える入札金額がなく入札が不調に終わっていた。
上記のことから、当該物品売払契約は本年8月現在においても締結には至っておらず、廃電池の売払いが行われていない状況であった。
廃電池の種類
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年度処分計画の処分予定数(A)
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全体保管数(B)(平成20年3月末現在)
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全体保管数に対する処分予定数の割合(A/B)
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DSRV用主蓄電池
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270個
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2,084個
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12.9%
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DSRV用応急電池
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30個
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228個
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13.1%
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PTC用応急電池
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20個
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88個
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22.7%
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魚雷用電池
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42個
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684個
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6.1%
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魚雷用標的用電池
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0個
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144個
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0.0%
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計
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362個
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3,228個
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11.2%
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前記のとおり、基本計画に定めた5か年分の官給所要量を超えて銀を確保しているため、現在保管している廃電池のすべてが売払いの対象となるが、貴本部は、廃電池の売払いの実績がなかったことなどから、上記の年度処分計画において、売払いに有用な情報を収集するために全体保管数の一部について試行的に売払いを指示したとしている。
しかし、貴本部は、売払いを指示した廃電池について、18、19両年度に売払契約の締結に至っていない事態となっているにもかかわらず、舞鶴地方総監部の関係部署から情報を収集して対応策を協議するなど廃電池の売払いを迅速に行うために十分な連携を行っていなかった。
以上のように、貴本部は、5か年分の官給所要量を超えて銀及び廃電池を大量に保管しているが、銀及び廃電池を保管している目的は、銀電池製作時の官給品として使用することにより資源の有効活用及び経費の節減を図るためであることから、必要な時期に必要な量の精製銀を官給できれば足りると認められる。したがって、銀及び廃電池の保管状況を勘案した銀回収サイクルを十分に検討した上で、現在保管している廃電池計3,228個(試算額計約9億8060万円相当)については、速やかに売り払う必要があると認められる。
上記のように、貴本部において、基本計画に定めた5か年分の官給所要量を超えて廃電池を保管していて廃電池の売払いが行われていない事態は、国の資産の効率的な活用の面から適切とは認められず、是正を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴本部において、銀及び廃電池の保管状況を勘案した銀回収サイクルを十分に検討しておらず、国の資産の効率的な活用を図るという認識が十分でなかったこと、また、廃電池の売払契約が締結に至っていないにもかかわらず、関係部署との売払いに関する連携が十分でなかったことによると認められる。
貴自衛隊は、資源の有効活用及び銀電池製作時の経費の節減を目的として、今後も引き続き精製銀の官給を実施する必要があるとしている。
ついては、貴本部において、銀及び廃電池の保管状況を勘案した銀回収サイクルを十分に検討した上で、基本計画に定めた5か年分の官給所要量を超える廃電池について、全体保管数を対象とした処分計画を作成するとともに、売払契約の締結に至っていない事態に関する情報を収集して対応策を協議するなど関係部署と連携を十分に行い、これらの廃電池を速やかに売り払うよう是正の処置を要求する。