部局等
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中小企業金融公庫(平成20年10月1日以降は株式会社日本政策金融公庫)本店
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契約名
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包括保証保険契約
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契約の概要
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中小企業金融公庫が信用保証協会から保険料の納付を受けて、保険事故の発生に際して保険金を支払うことを約するもの
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引受限度額を超えている期間が生じていた信用保証協会数
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13信用保証協会
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引受限度額を超えている期間の保険引受額
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119億6274万円(平成17、18両事業年度)
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中小企業金融公庫(以下「公庫」という。)は、中小企業金融公庫法(昭和28年法律第138号)に基づき、各都道府県等に設立された52の信用保証協会(以下「協会」という。)の行う債務保証を包括的に保険する中小企業信用保険事業を実施している。
公庫は、中小企業信用保険法(昭和25年法律第264号。以下「保険法」という。)等に基づき、事業年度の半期ごと(上期は4月から9月まで、下期は10月から翌年3月まで。)に、各協会を相手方として、それぞれの協会が中小企業者の金融機関からの借入れについて債務の保証をした額の総額が一定の金額に達するまで、その債務保証につき、公庫と当該協会との間に保険関係が成立する旨を定める包括保証保険契約(以下「保険契約」という。)を締結している。
保険契約によると、保険法等に基づき、公庫が保険を引き受けるべき期間(以下「引受期間」という。)内に協会が債務の保証をすると、普通保険、無担保保険等の保険種類(注1)
ごとに定めた保険引受けの限度額(以下「引受限度額」という。)に達するまで保険関係が自動的に成立することとなっている。
保険契約等に際して公庫が協会に送付している文書によると、協会は、引受期間内の債務保証の実績の総額(以下「実績額」という。)が保険種類ごとの引受限度額を超えると見込まれる場合には、引受限度額の変更申込額、効力発生希望日等を記入した保険契約変更申込書を効力発生希望日の2週間前を目途として公庫に提出することとなっている。これを受けて公庫は、引受限度額を増額して、原則として効力発生日までに変更契約を締結することとなっている。
中小企業信用保険事業は毎年国から多額の出資金を受けて運営されていることから、より一層保険契約の適切な実施が求められている。そこで、本院は、公庫において、合規性、有効性等の観点から、保険契約の事務手続が保険法等に基づいて適切に行われているか、また、保険契約の管理体制が適切に機能しているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、平成17事業年度から19事業年度までの52協会に係る保険契約を対象として、公庫において、保険契約証、協会から提出された保証通知書等の書類により検査した。さらに、52協会のうち16協会については、保険契約の申込書等の書類により契約内容を実地に調査するとともに、残りの36協会については、公庫に同様の調査を求めて、その調査結果の内容を公庫において確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
変更契約は、原則として効力発生日までに締結することとなっている。しかし、公庫が作成した「中小企業信用保険の実務解説」には、変更契約時における効力発生日のそ及に関する記述があり、公庫は37協会と締結した17年度下期から19年度上期までの保険契約において、実績額が引受限度額を超えてから、引受期間終了後に効力発生日を引受限度額を超える前日までそ及させて変更契約を締結するなどしていた。
そして、このように効力発生日のそ及が上記の実務解説により慣行的に行われている状況にあって、公庫及び協会は、引受限度額に対する実績額を各月末時点でしか把握しておらず、保険引受けの状況等を適切に把握する体制を整備してこなかった。
このため、公庫が13協会(注2)
と締結した17、18両年度各期の変更契約において協会から申込みのあった効力発生希望日により、効力発生日を実際に実績額が引受限度額を超えた以降の日としていたため、実績額が引受限度額を超えている期間が生じていた。そして、次表のとおり、公庫は、当該期間に引受限度額を超えて計119億6274万余円の保険を引き受けていた。
年度・期
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協会数
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変更前引受限度額
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変更後引受限度額
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実績額が引受限度額を超えている期間の保険引受額
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平成
17年度上期
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3
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96,825
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138,225
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3,257
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17年度下期
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4
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14,476
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20,627
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677
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18年度上期
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4
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109,888
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134,763
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5,593
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18年度下期
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7
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84,277
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103,183
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2,433
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合計
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13
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305,466
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396,798
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11,962
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A協会は、平成18年度上期の保険契約における無担保保険について、9月中に実績額が引受限度額を超えることが見込まれたため、同月20日に同月22日を効力発生希望日とする変更申込書を提出して、同月22日に公庫との間で効力発生日を同日とする増額の変更契約を締結した。
しかし、無担保保険に係る実績額については、9月1日に既に引受限度額を超えており、同協会は、上記の変更契約の効力発生日である同月22日の前日までの期間に、395件、45億0871万余円の債務保証を行っていた。
そして、公庫は、8月末時点で実績額が引受限度額を超えていないことを把握していたものの、実際に引受限度額を超えた日については把握していなかったため、上記の引受限度額を超えていた期間の債務保証について保険を引き受けていた。
このように、引受限度額による実績額の統制を形がい化する効力発生日のそ及の適用が背景となって、公庫において実績額が引受限度額を超えている期間に保険を引き受けていた事態は、引受限度額の範囲内で将来の保険事故に備える保険法の趣旨等からみて適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、協会において引受限度額を適切に管理していなかったことにもよるが、公庫において、次のことなどによると認められた。
ア 協会の引受限度額に対する実績額の状況について、各月末時点でしか把握していなかったこと
イ 実績額に対して引受限度額が不足するなどの事態を監視する体制が適切でなかったこと
ウ 効力発生日のそ及に関して明確な運用基準等を定めていなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、公庫は、前記の13協会と正しい効力発生日を確認する書類を取り交わして、52協会に対して管理体制の強化を要請するとともに、20年9月までに、次のような処置を講じた。
ア 公庫のシステムを改造するなどして、保険引受けの進ちょく状況を日単位で把握して審査できる体制を整備した。
イ 実績額に対して引受限度額が不足する事態を生じないよう、引受限度額に対する実績額の割合が一定の数値に達した段階で協会と協議するなど引受限度額の管理体制を整備した。
ウ 効力発生日のそ及については、災害等の特別な場合を除き認めないとする運用基準を策定して、協会に周知徹底を図った。