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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第29 独立行政法人水資源機構|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

談合等に係る違約金条項について、課徴金減免制度の適用を受けて課徴金の納付を免除された事業者に対しても違約金を請求することができるよう改善させたもの


談合等に係る違約金条項について、課徴金減免制度の適用を受けて課徴金の納付を免除された事業者に対しても違約金を請求することができるよう改善させたもの

科目
一般勘定
部局等
独立行政法人水資源機構
違約金請求の概要
談合等により生じた損害の回復を図るために、契約条項に基づき請負代金額等の一定割合に相当する額を受注者に対して請求するもの
課徴金減免制度の概要
談合などの違反行為を行った事業者が公正取引委員会の調査開始日よりも前に違反事実を申告するなど法律に定められた要件を満たす場合、当該事業者に対し公正取引委員会が課徴金の納付を免除又は減額するもの
水門談合事件に係る違反行為対象契約において違約金条項が付されていた契約及び契約金額
6件
55億9013万余円
(平成15、16両年度)
上記のうち検査の対象とした契約及び契約金額
6件
55億9013万余円
 
上記のうち課徴金納付を免除された事業者と締結した契約及び契約金額
1件
11億5535万円
(平成16年度)

1 談合等に係る違約金条項等の概要

(1) 談合等に係る違約金条項の制定

 独立行政法人水資源機構(平成15年9月30日以前は水資源開発公団。以下「機構」という。)は、産業の発展及び人口の集中に伴い用水を必要とする地域に対する水の安定的な供給の確保を図るため、水資源の開発又は利用のための施設の改築等の公共工事等を多数実施している。
 近年、公共工事等における受注者等が、入札に当たり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)第3条の規定に違反し談合を行ったとして、公正取引委員会から独占禁止法第7条第1項等に規定する排除措置命令等を受けたり、刑法(明治40年法律第45号)第96条の3に規定する競売入札妨害罪、談合罪等の容疑で逮捕等されたりする事態(以下、法律の規定に違反するこれらの行為を「談合等」という。)が数多く発生している。
 上記のように、公共工事等の入札において談合等があった場合には、受注者等の不法行為等による損害が生ずることとなるが、機構は、機構に生じた損害の回復を容易にするとともに、談合等に対する抑止効果を期待して、15年7月に、機構発注の工事及び建設コンサルタント業務等(以下「工事等」という。)の契約において、当該工事等に関し談合等の不正行為を行った受注者に対し、請負代金額(契約締結後に請負代金額の変更があった場合には、変更後の請負代金額。以下同じ。)等の10分の1に相当する額を違約金として支払わせる違約金条項を制定し、同年8月6日以降に入札公告等の入札手続を開始する契約に適用することとし、その旨を支社等に通達している。
 その後、機構は、国土交通省等が発注した鋼橋上部工事に関して大規模な談合行為が発生したことを踏まえ、17年12月に、政府調達に関する協定(平成7年条約第23号)の適用を受ける工事について、受注者の悪質性が特に際立っている場合には、請負代金額の10分の1に相当する額の違約金に加え、請負代金額の100分の5に相当する額の違約金を支払わなければならないとするなど違約金条項の強化を行っている。

(2) 違約金条項の適用

 機構が定めた違約金条項では、受注者(共同企業体にあっては、その構成員)が、機構と締結した契約について次のいずれかに該当したとき、受注者は違約金として請負代金額の10分の1に相当する額などを支払わなければならないこととされている。
〔1〕  受注者が独占禁止法第3条の規定に違反したことなどにより、公正取引委員会が受注者に対し、独占禁止法第7条の2第1項の規定に基づく課徴金の納付命令(以下「課徴金納付命令」という。)を行い、当該命令が確定したとき
〔2〕  受注者(法人にあっては、その役員又は使用人を含む。)の刑法第96条の3又は独占禁止法第89条第1項若しくは第95条第1項第1号に規定する刑が確定したとき
 また、機構は、公正取引委員会が受注者に対して行った課徴金納付命令が確定した場合、どの契約が課徴金納付命令の対象となったかを確認するため、公正取引委員会に対し、課徴金納付命令の対象となった契約(以下「課徴金算定対象契約」という。)について照会した後、課徴金算定対象契約であると認められた契約については、受注者に対して違約金条項に基づく違約金の請求を行っている。

(3) 独占禁止法の改正

 17年4月に独占禁止法が改正(18年1月施行)されたことにより、課徴金減免制度の導入や審判手続等の見直しが行われるなど、独占禁止法の執行力・抑止力の強化が図られている。

ア 課徴金減免制度の導入

 課徴金減免制度は、カルテルからの離脱インセンティブを与え、カルテルの発見、解明を容易にして、競争秩序の早期回復を図るために導入されたもので、違反行為の実行としての事業活動を行った事業者が自ら違反事実を申告するなど法律で定める要件に該当すれば、当該事業者の課徴金を減免する制度である。
 すなわち、課徴金を納付すべき事業者が、公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち最初に公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行ったなどの要件に該当する場合には、公正取引委員会は、独占禁止法第7条の2第7項の規定に基づき、課徴金の納付を命じないものとするとされている。そして、公正取引委員会は、これにより課徴金の納付を命じないこととしたときは、当該事業者に対し、文書をもってその旨を通知することとされている。
 また、当該違反行為をした事業者のうち2番目又は3番目に公正取引委員会に上記の報告等を行ったなどの要件に該当する場合には、公正取引委員会は、独占禁止法第7条の2第8項又は第9項の規定に基づき、課徴金の額の一定割合を減額するものとするとされている。

イ 課徴金減免制度の適用を受けた事業者名等の公表

 公正取引委員会は、18年9月に、「課徴金減免制度の適用を受けた事業者名等の取扱いに関する方針」を定め、課徴金の納付を免除した事業者(以下「免除事業者」という。)又は課徴金の額を減額した事業者(以下「減額事業者」という。)から申出があった場合、当該事業者の名称、所在地、代表者名及び免除の事実又は減額の率を公表することとしている。

(4) 排除措置命令における認定事実

 公正取引委員会は、独占禁止法第3条等の規定に違反する談合などの行為があるときは、独占禁止法第7条等の規定に基づき、事業者等に対し排除措置命令を行うことができることとされている。そして、排除措置命令は、独占禁止法第49条の規定に基づき、文書によってこれを行い、排除措置命令書には、違反行為に関して公正取引委員会が認定した事実(以下「認定事実」という。)及びこれに対する法令の適用などを示さなければならないこととされている。そして、この認定事実には、違反行為者、違反行為の対象となった契約の種類、発注者及び入札方法、違反行為があった期間等が含まれるが、個別の契約件名、契約年月日等については示されない場合が多い。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 公正取引委員会は、18年3月に、機構が発注した水門設備工事の入札において談合の疑いがあるとして、水門設備業者に立入り検査を実施し、19年3月に、同工事において談合があったとして、入札に参加した水門設備業者に対し、排除措置命令を行うとともに課徴金納付命令を行っている。そして、排除措置命令書において、違反行為があったとされる期間に入札が行われていて、かつ、違反行為の対象となっていたとされている契約の種類及び入札方法に該当する契約(以下「違反行為対象契約」という。)のうち、違約金条項が付されているものは6件(契約金額計55億9013万余円)となっている。
 そして、公正取引委員会は、19年3月に、免除事業者及び減額事業者からの申出に基づき、上記の機構発注の水門設備工事における談合事件(以下「水門談合事件」という。)について、当該事業者名等を公表している。
 また、課徴金減免制度は、競争秩序の早期回復を図るために導入された措置であるのに対し、違約金条項は、談合等により被ることになる損害の早期回復などのために発注者が契約上付するもので、両者は、それぞれ趣旨・目的が異なるものである。
 このような状況を踏まえ、合規性、経済性、効率性等の観点から、水門談合事件に係る違約金の請求は適切に行われているか、違約金条項は課徴金減免制度の導入を踏まえた適切な内容となっているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の対象及び方法)

 水門談合事件に係る違反行為対象契約において違約金条項が付されていた前記6件の契約(契約金額計55億9013万余円)を検査の対象とした。
 検査に当たっては、水門談合事件に係る契約について本院が作成及び提出を求めた調書等を分析するとともに、機構本社において、上記の契約に係る違約金の請求状況等のほか、水門談合事件後の違約金条項の見直し状況について、会計実地検査を行った。
 (本件の検査の背景等については、「国及び国が資本金の2分の1以上を出資している法人における談合等に係る違約金条項の導入状況等について」 参照)

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 検査の対象とした6件の契約のうち、課徴金算定対象契約は5件であり、残りの1件は免除事業者1社との契約となっていた(表1 及び表2 参照)。

表1 課徴金算定対象契約並びに免除事業者及び減額事業者との契約の状況
(単位:件、千円)
区分
検査対象契約
うち違約金を請求しているもの
うち違約金が納入されているもの
契約年月
件数
契約金額
件数
契約金額
違約金請求額
件数
収納金額
課徴金算定対象契約
15年12月
17年2月
5
4,434,780
5
4,434,780
443,478
5
443,478
 
うち減額事業者2社注(1) との契約
16年3月
16年10月
2
923,349
2
923,349
92,334
2
92,334
免除事業者1社注(2) との契約
16年10月
1
1,155,357
0
0
 
6
5,590,137
5
4,434,780
443,478
5
443,478
 減額事業者2社  JFEエンジニアリング株式会社及び日立造船株式会社
 免除事業者1社  三菱重工業株式会社

表2 免除事業者との契約の概要
(単位:千円)
契約件名
契約方式
契約年月日
契約金額
徳山ダム利水・水位低下用放流ゲート設備工事
指名競争契約
16年10月18日
1,155,357

 課徴金算定対象契約5件について、機構は、19年7月に、違約金条項に基づき計4億4347万余円の違約金の請求を行い、いずれも請求後一月以内に全額納入されていた。そして、この5件(契約金額計44億3478万円)のうち2件(契約金額計9億2334万余円)は減額事業者2社との契約に係るもので、納入された違約金は計9233万余円であった。
 一方、上記の減額事業者と同時に名称等が公表された免除事業者との契約1件(契約金額11億5535万余円)については、独占禁止法の改正により課徴金減免制度が導入された17年4月より前に締結されたものであり、免除事業者が減額事業者と同様に違反行為を行い機構が損害を被ることになっていても、機構の違約金条項では、課徴金の納付が免除された場合には、受注者に対し違約金を請求する場合の条件(以下「請求条件」という。)には該当しないとして、違約金の請求は行っていない。
 しかし、受注者が課徴金減免制度の適用を受け、課徴金の納付を免除されても、発注者は、談合により被った損害について、損害賠償請求等により適切に回復する必要がある。このことに関し、機構は、上記1件の契約について、別途、損害賠償を請求することを検討中であるとしている。
 上記について、談合により生じた損害の回復という点からみると、違約金条項は、これを契約書に付することにより、談合等が発覚した場合に、損害の発生及び損害額の証明を要することなく、あらかじめ約定した一定の額の違約金の請求を行い、収納することを可能とするものである。また、違約金条項を付している場合、受注者が談合等を行っていないとして違約金の支払に応じない場合も、発注者は違約金として請求する額について証明を要しないことから、早期に訴訟を提起することが可能となる。一方、違約金条項を契約書に付していない場合、損害を回復するためには損害賠償等を請求することとなるが、損害額の算定が困難であったり、提訴した場合に裁判が長期化したりなどして、早期かつ確実に損害を回復できないおそれがある。
 このように、違約金条項は談合等により被った損害の早期回復に資するものであるが、機構は、独占禁止法の改正を受けて、免除事業者との契約についても違約金を請求できるよう検討してきたものの、排除措置命令書の違反行為対象契約の中には受注調整が行われていない契約が含まれている可能性があるとして、水門談合事件後も工事の契約を多数締結しているにもかかわらず、違約金条項の見直しには至っておらず、損害賠償を請求する方針としていた。しかし、受注調整が行われていない契約が含まれている可能性があることにより受注者が違約金の請求に応じないおそれがあるにしても、免除事業者は、違反行為の実行としての事業活動を行ったことにより課徴金を納付すべき事業者とされた者が課徴金の納付を免除されたもので、個別の契約について受注調整を行っているものがあるのであるから、当該契約について、違約金条項に基づく速やかな損害の回復ができない状況となっている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、機構において、上記のような事情はあったものの、損害の速やかな回復に資するための違約金条項の見直しがより重要であることについての認識が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、機構は、違約金条項の見直しを行い、20年8月1日以降に入札手続を開始する工事の契約から、違約金条項の請求条件に違反行為対象契約に係る事項を追加するなどして、免除事業者に対しても違約金を請求することができるよう処置を講じた。