要請を受諾した年月日
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平成17年6月8日
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検査の対象
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外務省、独立行政法人国際協力機構
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検査の内容
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政府開発援助(ODA)についての検査要請事項
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報告を行った年月日
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平成20年10月8日
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会計検査院は、平成17年6月8日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項 |
(一) 検査の対象 |
外務省、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)
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(二) 検査の内容 |
政府開発援助(ODA)についての次の各事項
1 開発コンサルタント、NPO等への委託契約の状況について 特に ・対コスタリカODAにおける株式会社パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)に係る不祥事の概要、同種事案の有無 ・外務省、JICA及びJBICのPCI等日本の開発コンサルタント会社に対する事務・業務の委託契約の状況 2 草の根・人間の安全保障無償援助の実施状況について 3 スマトラ沖地震の緊急援助の実施状況について |
参議院決算委員会は、17年6月7日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成15年度決算審査措置要求決議」を行っている。
このうち、スマトラ沖地震の緊急援助の実施状況に係る要請に関する項目の内容は、次のとおりである。
15 スマトラ沖地震に対する緊急援助の実施状況について
昨年末に発生したスマトラ沖地震及びインド洋津波被害に関し、我が国は5億ドルを限度とする協力を関係国及び国際機関等に対して無償で供与することを決定した。このうちの半分の2億5,000万ドルはユニセフ、世界食糧基金等の国際機関経由で、残りの2億5,000万ドルはインドネシア、スリランカ等の被災国に直接送金されている。しかし、後者の二国間供与分については、資金が相手側に届いているにもかかわらず、調達がまだ実施されていない部分がある。
政府は、今後の緊急支援においてその趣旨が生かされないというものがないよう、スマトラ沖地震に関し緊急支援として供与した援助について、その実施状況を調査する必要がある。
前記の要請により実施したこれまでの会計検査の結果については、18年9月21日及び19年9月12日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、18年9月の報告
を「18年報告」、19年9月の報告
を「19年報告」という。)。
18年報告及び19年報告のうち「スマトラ沖地震の緊急援助の実施状況について」は、「検査の結果に対する所見」において、それぞれ、ノン・プロジェクト無償資金協力事業(以下「ノンプロ無償資金協力事業」という。)に係る資金の執行状況について引き続き検査を実施して、その検査の結果を取りまとめが出来次第報告することとした。
ア 18年報告の検査の観点、着眼点、対象及び方法
18年報告の検査の観点、着眼点、対象及び方法は、次のとおりである。
(ア) 18年報告の検査の観点及び着眼点
本院は、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
〔1〕 16年12月26日に発生したスマトラ沖地震及びインド洋津波被害(以下「津波等災害」という。)に対する被災国及び国際機関からの要請に対して、我が国政府はどのようにして財政的支援の規模、方法を決定したか
〔2〕 緊急援助物資供与及び緊急無償資金協力事業については、相手国においてどのように受け入れられて実施されているか、供与された物資や資金は、その趣旨に沿って使用されているか
〔3〕 ノンプロ無償資金協力事業に供与された資金(以下「ノンプロ無償資金」という。)については、国別に、
a 相手国において援助がどのように受け入れられて実施されているか、被災地における需要の把握及び事業内容の決定がどのようになされているか
b 供与された資金は交換公文、附属文書等に従って使用されているか、各案件に係る契約手続や資金の支払は決定された事業内容に従って行われているか、契約手続や資金の支払が遅延しているものはないか
c 援助の対象となった施設及び機材は、当初決定された事業内容に即して被災地においてその趣旨に沿って使用されているか
(イ) 18年報告の検査の対象
本院は、津波等災害に際して、我が国が無償で供与することを決定した5億米ドルのうち、二国間供与分の緊急援助としてインドネシア共和国、モルディブ共和国、スリランカ民主社会主義共和国(以下「スリランカ共和国」という。)及びタイ王国の4か国(以下「4か国」という。)に供与した次の財政的支援2億5000万米ドル相当を対象として検査した。
〔1〕 独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency。以下「JICA」という。)が4か国に対して実施した緊急援助物資供与
〔2〕 外務省が4か国のうちタイ王国を除く3か国(以下「3か国」という。)に対して実施した緊急無償資金協力事業及びノンプロ無償資金協力事業
(ウ) 18年報告の検査の方法
本院は、外務本省及びJICA本部において会計実地検査を行い、我が国政府の対応状況、援助の制度的枠組み、実施手順等について説明を聴取したほか、在外公館及びJICAの在外事務所からの報告資料等に基づき事業の実施状況について検査した。また、職員を3か国に派遣して、在外公館及びJICAの在外事務所において会計実地検査を行い、相手国事業実施機関等から提出された報告書等の関係書類に基づき事業の実施状況について検査した。
また、本院は、相手国の協力が得られた範囲で、事業の実施状況について相手国事業実施機関等から説明を聴取した。さらに、一部の案件については、外務省の職員等の立会いの下に、事業の進ちょく状況を確認するなど実地に調査した。
イ 18年報告の検査の結果に対する所見
18年報告の検査の結果に対する所見は、次のとおりである。
我が国は、4か国を始めとしてインド洋沿岸諸国が大規模な被害を受けた前例のない津波等災害に対して、相手国の要請及び緊急首脳会議における支援措置等の合意などを受けて当面の復旧・復興に必要となる支援額としての援助の規模を決定した。
このうち4か国に対する緊急援助物資供与については、会計検査院は、我が国が援助の要請に応じて供与した物資が、災害発生直後の17年1月5日までに4か国に対してすべて引き渡されていたことを、関係書類等で確認した。そして、これらの物資は、被災地に届けられその趣旨に沿って使用されているとの説明を受けた。
また、3か国に対する緊急無償資金協力については、我が国が援助の要請に応じて供与した資金は、使途報告書によれば、スリランカ共和国では17年4月、モルディブ共和国では同年6月までにその趣旨に沿って使用されたとしていた。そして、インドネシア共和国については、18年1月に提出された使途報告書によれば、17年2月1日に我が国から供与された資金は全額支出済であるとしていたが、我が国以外から供与された資金も合わせた全体額について、津波等災害に関する援助のために使用されたとする報告となっており、我が国の供与した資金の具体的使途等を特定することができない状況となっていた。
3か国に対するノンプロ無償資金協力事業については、17年1月にインドネシア共和国に対しては146億円、モルディブ共和国に対しては20億円、スリランカ共和国に対しては80億円が供与されて以来、3か国とも交換公文に定められた使用期限である12か月以内に調達口座へ資金の移動がすべてなされ、我が国と各相手国との間における政府間協議会によって、分野の別に実施する案件の内容が決定されていた。
そして、案件実施のために締結した契約の実績額について、資金供与額に対する契約締結済額の割合である契約締結率は、18年3月末現在、モルディブ共和国及びスリランカ共和国では90%以上であるのに比べて、インドネシア共和国では58.4%となっている。
ノンプロ無償資金による事業の内容は、3か国とも、施設の工事に係る契約が多く契約締結に先立って工事前の詳細設計等が必要であり時間を要すること、また契約締結後も工事の完了までに相応の工期を要し、工事の進ちょくに応じて資金を支払うことになっていることから、資金供与額に対する支払済額の割合である支払率は、インドネシア共和国では20.5%、モルディブ共和国では30.2%、スリランカ共和国では42.8%となっていた。
また、3か国とも、供与されたノンプロ無償資金はすべて政府口座から調達口座に移動されていたが、調達口座における残高状況をみると、ノンプロ無償資金が供与されて1年2か月を経過した18年3月末において、インドネシア共和国では約116億円、モルディブ共和国では約14億円、スリランカ共和国では約46億円が残されていた。
ノンプロ無償資金協力事業は、津波等災害に対する緊急援助として実施されたものであるため、相手国において、速やかに、必要な施設が建設され機材が調達されて、被災地等で災害復旧・復興のために使用されることが必要である。
したがって、会計検査院としては、本件ノンプロ無償資金協力事業によって施設が建設され、機材が調達されて完了することとなる事業について、施設の建設や機材の調達のための資金の執行状況について引き続き検査を実施し、取りまとめが出来次第報告することとする。
また、今回実施されたノンプロ無償資金協力事業は、従来のノンプロ無償資金協力事業と比べて大規模なものであり、対象となった事業のうちには、中長期的な事業効果が期待される施設の案件も含まれている。外務省においては、17年12月に中間評価を公表し、さらに、今後とも同様な評価を行うことにしている。
そして、会計検査院としては、緊急援助の最終受益者である被災地の住民に援助が届き、また、中長期的な事業効果が発現されるかどうか、外務省が行う本件ノンプロ無償資金協力事業に対する評価を踏まえた上で、今後の利活用の状況について注視していく。
なお、会計検査院は、我が国を含めた各国等からインドネシア共和国政府に供与された津波等災害の援助資金による復興再建事業に対して同国会計検査院が行う会計検査活動を支援するための国際会議等に参加し、協力を行ってきている。
ア 19年報告の検査の観点、着眼点、対象及び方法
19年報告の検査の観点、着眼点、対象及び方法は、次のとおりである。
(ア) 19年報告の検査の観点及び着眼点
本院は、18年報告において記述したノンプロ無償資金協力事業に係る検査の観点及び着眼点と同様に、有効性等の観点から次の点に着眼して検査した。
〔1〕 相手国において援助がどのように受け入れられて実施されているか、被災地における需要の把握及び事業内容の決定がどのようになされているか
〔2〕 供与された資金は交換公文、附属文書等に従って使用されているか、各案件に係る契約手続や資金の支払は決定された事業内容に従って行われているか、契約手続や資金の支払が遅延しているものはないか
〔3〕 援助の対象となった施設及び機材は、当初決定された事業内容に即して被災地においてその趣旨に沿って使用されているか
(イ) 19年報告の検査の対象
18年報告の検査の結果に対する所見で記述したとおり、本院は、外務省が3か国に対して実施したノンプロ無償資金協力事業を対象として、この事業によって施設が建設されて、機材が調達されて完了することとなる事業に係る資金の執行状況について、19年次においても引き続き検査した。
(ウ) 19年報告の検査の方法
本院は、18年報告において記述した検査の方法と同様に、外務本省及びJICA本部において会計実地検査を行い、我が国政府の対応状況、援助の制度的枠組み、実施手順等について説明を聴取したほか、在外公館及びJICAの在外事務所からの報告資料等に基づき事業の実施状況について検査した。また、職員を3か国に派遣して、在外公館及びJICAの在外事務所において会計実地検査を行い、相手国事業実施機関等から提出された報告書等の関係書類に基づき事業の実施状況について検査した。
また、本院は、相手国の協力が得られた範囲で、事業の実施状況について相手国事業実施機関等から説明を聴取した。さらに、一部の案件については、外務省の職員等の立会いの下に、事業の進ちょく状況を確認するなど実地に調査した。
イ 19年報告の検査の結果に対する所見
19年報告の検査の結果に対する所見は、次のとおりである。
ア 会計検査院は、我が国が17年1月にインドネシア共和国に対して146億円、モルディブ共和国に対して20億円、スリランカ共和国に対して80億円の資金を供与したノンプロ無償資金協力事業の実施状況について、18年次に引き続き19年次においても、施設の建設や機材の調達のために供与された資金の執行状況を中心に、有効性等の観点から検査した。
案件実施のために締結した契約についてみると、表15のとおり、資金供与額に対する契約締結済額の割合である契約締結率は、19年3月末現在、モルディブ共和国及びスリランカ共和国では18年3月末現在と同様に90%以上となっており、インドネシア共和国では18年3月末現在の58.4%から89.8%に上昇していた。
資金供与額に対する支払済額の割合である支払率は、19年3月末現在、インドネシア共和国では62.7%、モルディブ共和国では80.9%、スリランカ共和国では77.5%となっていた。これは、ノンプロ無償資金による事業の内容は、施設の工事に係る契約が多く、契約締結後も工事の完了までに相応の工期を要し、工事の進ちょくに応じて資金を支払うことになっているため、18年3月末現在に比べて工事が進ちょくし、3か国の19年3月末現在の支払率が上昇したことによるものである。そして、調達口座における残高は、19年3月末において、インドネシア共和国では約54億円、モルディブ共和国では約4億円、スリランカ共和国では約18億円に減少していた。
国名
|
年月
|
政府口座から調達口座への受入金額(円)
|
調達口座での資金の執行状況
|
|||||
契約
|
支払
|
支払後の残高(無単位は円、$は米ドル)
|
||||||
件数
|
金額(円)
|
契約締結率(%)
|
金額(円)
|
支払率(%)
|
||||
インドネシア共和国
|
18年3月末
|
14,600,059,325
|
108
|
8,526,959,242
|
58.4
|
2,990,672,270
|
20.5
|
11,609,387,055
|
19年3月末
|
14,600,059,325
|
169
|
13,106,386,978
|
89.8
|
9,156,431,271
|
62.7
|
5,443,628,054
|
|
モルディブ共和国
|
18年3月末
|
2,000,002,235
|
20
|
1,956,669,286
|
97.8
|
604,208,723
|
30.2
|
136,066,407
$10,504,212.91 邦貨換算額計 1,396,571,956 |
19年3月末
|
2,000,002,235
|
21
|
1,891,686,658
|
94.6
|
1,617,101,824
|
80.9
|
5,633,264
$3,182,777.54 邦貨換算額計 387,566,568 |
|
スリランカ共和国
|
18年3月末
|
8,000,009,316
|
86
|
7,506,743,290
|
93.8
|
3,423,649,226
|
42.8
|
4,576,364,911
|
19年3月末
|
8,000,009,316
|
96
|
7,778,198,010
|
97.2
|
6,201,120,890
|
77.5
|
1,798,893,247
|
注(1)
|
契約件数にはJICSとの調達代理契約が含まれ、契約金額にはその概算額(上限額)が含まれる。
|
注(2)
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「政府口座から調達口座への受入金額」には我が国から供与された資金のほかに、政府口座において発生し調達口座に入金された利息(インドネシア共和国59,325円、モルディブ共和国2,235円、スリランカ共和国9,316円)を含む。
|
注(3)
|
モルディブ共和国及びスリランカ共和国における「支払後の残高」は、調達口座において発生した利息が含まれているため、「政府口座から調達口座への受入金額」から「支払」欄の金額を差し引いた金額とは一致しない。
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注(4)
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インドネシア共和国及びモルディブ共和国については、一部の案件において締結された既存の契約が解除され、これに代わり新規に契約を締結するなどしているものがあり、モルディブ共和国では、18年3月末現在と比べて、契約締結率は低下している。
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注(5)
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「契約締結率(%)」及び「支払率(%)」は小数点第2位以下を四捨五入している。
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イ ノンプロ無償資金協力事業の中には、契約が締結されたが給付が完了に至っていない案件や、一部の案件において締結された既存の契約が解除され、これに代わり新規に契約を締結するなどしているものも見受けられる。これらの案件については、外務省において、被災地における需要等に応じた的確な実施や給付の早期完了に向けて相手国政府と一層連携し、また、相手国政府に働きかけを継続して行うことが必要である。
ノンプロ無償資金協力事業は、津波等災害に対する緊急援助として実施されたものであるため、相手国において、速やかに必要な施設が建設され機材が調達されて、これらの施設や機材が被災地等で災害復旧・復興のために使用されることが必要である。
したがって、会計検査院としては、本件ノンプロ無償資金協力事業によって施設が建設され、機材が調達されて完了することとなる事業に係る資金の執行状況について引き続き検査し、取りまとめが出来次第報告することとする。
また、事業が更に進ちょくし、ノンプロ無償資金協力事業が完了することとなった場合には、中長期的な事業効果が期待される災害復興のための施設の案件も含まれていることなどから、外務省においては、事業効果の評価を的確に行うことが必要である。
そして、会計検査院としては、緊急援助の最終受益者である被災地の住民に援助が届き、また、中長期的な事業効果が発現されるかどうか、外務省が行う本件ノンプロ無償資金協力事業に対する評価を踏まえた上で、今後の利活用の状況について引き続き検査していくこととする。
ア 検査の観点及び着眼点
本院は、18年報告及び19年報告において記述したノンプロ無償資金協力事業に係る検査の観点及び着眼点を踏まえて、有効性等の観点から次の点に着眼して検査した。
〔1〕 外務省は、給付が完了していない案件や既存の契約を解除して新たに契約を締結することにしている案件等について、その早期の完了や的確な実施に向けて、どのような対応をしているか
〔2〕 供与された資金は交換公文、附属文書等に従って使用されているか、各案件に係る契約手続や資金の支払は決定された事業内容に従って行われているか、契約手続や資金の支払が遅延しているものはないか
〔3〕 援助の対象となった施設及び機材は、当初決定された事業内容に即して被災地においてその趣旨に沿って使用されているか
イ 検査の対象
19年報告の検査の結果に対する所見で記述したとおり、本院は、外務省が3か国に対して実施したノンプロ無償資金協力事業を対象として、この事業によって施設が建設されて、機材が調達されて完了することとなる事業に係る資金の執行状況について、20年次においても引き続き検査した。
ウ 検査の方法
本院は、18年報告及び19年報告において記述した検査の方法と同様に、外務本省及びJICA本部において会計実地検査を行い、我が国政府の対応状況、援助の制度的枠組み、実施手順等について説明を聴取したほか、在外公館及びJICAの在外事務所からの報告資料等に基づき事業の実施状況について検査した。また、職員をインドネシア共和国及びモルディブ共和国の2か国(以下「2か国」という。)に派遣して、在外公館及びJICAの在外事務所において会計実地検査を行い、相手国事業実施機関等から提出された報告書等の関係書類に基づき事業の実施状況について検査した。
また、本院は、相手国の協力が得られた範囲で、事業の実施状況について相手国事業実施機関等から説明を聴取した。さらに、一部の案件については、外務省の職員等の立会いの下に、事業の進ちょく状況を確認するなど実地に調査した。
なお、スリランカ共和国については、20年1月以降、同国の治安状況が悪化したため、今回、本院は同国における会計実地検査を実施することができなかったが、モルディブ共和国における現地調査に立ち会った在スリランカ日本国大使館(モルディブ共和国を兼轄)の職員等からスリランカ共和国の状況について説明を聴取した。
本院は、20年次に実施した本件事案の検査において、在庁して関係書類の分析等の検査を行ったほか、43.7人日を要して、外務本省、JICA本部等に対する会計実地検査及び2か国における現地調査を行った。
ア 3か国に対するノンプロ無償資金協力事業の概要
(ア) ノンプロ無償資金協力事業の制度的枠組み
我が国は、今回の津波等災害の甚大さ及び緊急性にかんがみて、津波等災害による損害に対処するための事業の実施に迅速に貢献することを目的として、昭和62年度から行われてきたノンプロ無償資金協力事業の枠組みにより資金供与を実施することにした。そして、その際、迅速な調達を行うことを可能にするため、従来認められていなかった被援助国内における現地調達を認めることにした。また、ノンプロ無償資金協力事業は原則として物品の調達を対象としていたが、被災状況に応じた柔軟かつ的確な支援を行うことを可能にするため、施設の建設のほか輸送、医療活動等の役務の調達を認めることにした。さらに、ノンプロ無償資金協力事業で調達した物品が無償で被災者等に配布されたり、公共事業に使われたりすることを想定して、調達した資機材を相手国内で売却するなどして得た対価を積み立てる見返り資金の積立義務を免除するなど枠組みに変更を加えた。
(イ) 事業の実施手順
平成17年1月17日に閣議決定されて、外務省が同日に3か国と取り交わした交換公文及び附属文書によれば、同省は資金を相手国政府が開設した日本国内の銀行口座(以下「政府口座」という。)に、同年3月末までに円貨で支払うこととなっている。
そして、相手国政府は、この資金(この資金から発生した利息を含む。以下同じ。)による必要な資機材等の調達に当たっては、附属文書の規定によって、事業の円滑な実施と適切な調達の実施が確保できるように、調達代理機関を選定することとなっている。そして、相手国政府と調達代理機関とが締結した契約(以下「調達代理契約」という。)に基づき、調達代理機関が相手国政府に代わって資機材等の調達に必要な業務を行い、相手国政府は調達代理手数料を支払うこととなっている。
ノンプロ無償資金協力事業は、特定の事業の実施を前提として資金を供与するものではなく、また、より迅速な援助を実施するとの観点から、一般プロジェクト無償資金協力事業で行われている事前調査としてのJICAによる基本設計調査は行われていない。しかし、今回のノンプロ無償資金協力事業では、多くの施設の設置や修復案件を対象にしていることから、JICAは、別途実施していた緊急開発調査等において、相手国政府の要請を受けて、必要に応じてノンプロ無償資金協力事業で対象としている施設の設計等を取り込んで実施した。
外務省は、3か国に対して、調達代理機関として財団法人日本国際協力システム(Japan International Cooperation System。以下「JICS」という。)を推薦して、3か国は、17年1月又は2月にJICSと調達代理契約を締結した。この調達代理契約によると、JICSは、相手国政府から調達を希望する資機材等の品目の提示を受けた後、資機材等の代金の支払に必要な資金を政府口座から調達代理機関としてのJICSの口座(以下「調達口座」という。)に受け入れて、調達口座から、業者に代金を支払うこととなっている。そして、JICSは、調達代理機関として行ったすべての支払や調達口座における資金の残高についての定期報告書や資金の使用がすべて終わった後の最終報告書を相手国政府と我が国の外務省に提出することとなっている。また、外務省は、JICSから上記の報告書の提出を受けるほか、事業の進ちょく状況や契約の実績についても報告を受けることとなっている。これらを通じて、相手国政府及び外務省は、契約の履行や事業の進ちょく状況を確認することができることになっている。
(ウ) 援助の実施
外務省は、3か国から我が国に対して援助の要請があったことを受けて、17年1月19日に、ノンプロ無償資金協力事業に充てるため、16年度一般会計予算の(項)経済協力費(目)政府開発援助経済開発等援助費から、表1のとおり、3か国に計246億円の資金を供与した。
内訳\国名
|
インドネシア共和国
|
モルディブ共和国
|
スリランカ共和国
|
計
|
供与額
|
146
|
20
|
80
|
246
|
供与年月日
|
平成17年1月19日
|
平成17年1月19日
|
平成17年1月19日
|
イ ノンプロ無償資金協力事業の実施状況
(ア) 資金の執行状況
20年3月末現在で案件実施のために締結した契約の契約締結率(資金供与額に対する契約締結済額の割合)、支払率(資金供与額に対する支払済額の割合)及び調達口座における残高等の推移についてみると表2のとおりとなっていた。
国名
|
年月
|
政府口座から調達口座への受入金額(円)
|
調達口座での資金の執行状況
|
|||||
契約締結
|
支払
|
支払後の残高(無単位は円、$は米ドル、LKRはスリランカルピー)
|
||||||
件数
|
金額(円)
|
契約締結率(%)
|
金額(円)
|
支払率(%)
|
||||
インドネシア
共和国 |
平成18年3月末
|
14,600,059,325
|
108
|
8,526,959,242
|
58.4
|
2,990,672,270
|
20.5
|
11,609,387,055
|
19年3月末
|
14,600,059,325
|
169
|
13,106,386,978
|
89.8
|
9,156,431,271
|
62.7
|
5,443,628,054
|
|
20年3月末
|
14,600,059,325
|
177
|
14,410,499,844
|
98.7
|
13,327,126,106
|
91.3
|
1,272,933,219
|
|
モルディブ
共和国 |
18年3月末
|
2,000,002,235
|
20
|
1,956,669,286
|
97.8
|
604,208,723
|
30.2
|
136,066,407
$10,504,212.91 邦貨換算額計 1,396,571,956 |
19年3月末
|
2,000,002,235
|
21
|
1,891,686,658
|
94.6
|
1,617,101,824
|
80.9
|
5,633,264
$3,182,777.54 邦貨換算額計 387,566,568 |
|
20年3月末
|
2,000,002,235
|
20
|
1,858,914,573
|
92.9
|
1,754,557,496
|
87.7
|
0
$2,098,827.31 邦貨換算額計 251,859,277 |
|
スリランカ
共和国 |
18年3月末
|
8,000,009,316
|
86
|
7,506,743,290
|
93.8
|
3,423,649,226
|
42.8
|
4,576,364,911
|
19年3月末
|
8,000,009,316
|
96
|
7,778,198,010
|
97.2
|
6,201,120,890
|
77.5
|
1,798,893,247
|
|
20年3月末
|
8,000,009,316
|
97
|
7,907,704,728
|
98.8
|
7,152,277,548
|
89.4
|
836,879,261
LKR9,802,259.89 邦貨換算額計 847,736,589 |
|
計
|
20年3月末
|
24,600,070,876
|
294
|
24,177,119,145
|
98.3
|
22,233,961,150
|
90.4
|
2,109,812,480
$2,098,827.31 LKR9,802,259.89 邦貨換算額計 2,372,529,085 |
注(1)
|
契約締結件数にはJICSとの調達代理契約が含まれ、契約締結金額にはその概算額(上限額)が含まれる。
|
注(2)
|
「政府口座から調達口座への受入金額」には我が国から供与された資金のほかに、政府口座において発生して調達口座に入金された利息(インドネシア共和国59,325円、モルディブ共和国2,235円、スリランカ共和国9,316円)を含む。
|
注(3)
|
モルディブ共和国及びスリランカ共和国における「支払後の残高」は、調達口座において発生した利息が含まれているため、「政府口座から調達口座への受入金額」から「支払」欄の金額を差し引いた金額とは一致しない。
|
注(4)
|
「契約締結率(%)」及び「支払率(%)」は、小数点第2位以下を四捨五入している。
|
(イ) 案件に係る契約の進ちょく状況
20年3月末現在で案件に係る契約の進ちょく状況の推移についてみると、表3のとおりとなっていた。
国名
|
年月
|
案件数
|
予定契約件数
|
契約進ちょくの段階
|
||
契約相手方の選定開始件数
|
契約締結の終了件数
|
契約に基づく給付の完了件数
|
||||
インドネシア共和国
|
平成18年3月末
|
14
|
123
|
111
|
107
|
45
|
19年3月末
|
15
|
174
|
171
|
168
|
129
|
|
20年3月末
|
15
|
177
|
177
|
176
|
169
|
|
モルディブ共和国
|
18年3月末
|
3
|
19
|
19
|
19
|
8
|
19年3月末
|
3
|
20
|
20
|
20
|
15
|
|
20年3月末
|
3
|
19
|
19
|
19
|
15
|
|
スリランカ共和国
|
18年3月末
|
14
|
94
|
85
|
85
|
26
|
19年3月末
|
14
|
96
|
96
|
95
|
54
|
|
20年3月末
|
14
|
97
|
97
|
96
|
76
|
ウ 外務省におけるノンプロ無償資金協力事業の実施に関する評価等
外務省は、18年報告で記述したように、津波等災害の発生から1年後の17年12月に、「スマトラ沖大地震及びインド洋津波被害2国間無償資金協力に係る中間評価報告書」を公表して、その報告書において、ノンプロ無償資金協力事業の案件の進ちょく状況、案件の妥当性、施設及び機材の活用度、案件完了後に期待される効果等についての中間評価を記述している。そして、外務省は、ノンプロ無償資金協力事業が完了していないことから事後評価を行っていないが、事業が進ちょくして20年12月までにすべての事業が完了する見通しとなったことから、21年中に事後評価を実施する予定であり、その具体的な時期、内容等について検討中であるとしている。
本院としては、ノンプロ無償資金協力事業が実施中であるため、外務省による事後評価が行われておらず、援助の対象となった施設及び機材が被災地において事業の趣旨に沿って使用されているかを検査する段階にはないが、同事業が完了した後において外務省が実施する事後評価を踏まえて、中長期的な事業効果が発現されているかどうかについて、引き続き検査していくこととする。
ア 本院は、我が国が17年1月にインドネシア共和国に対して146億円、モルディブ共和国に対して20億円、スリランカ共和国に対して80億円の資金を供与したノンプロ無償資金協力事業の実施状況について、18、19両年次に引き続き20年次においても、施設の建設や機材の調達のために供与された資金の執行状況を中心に、有効性等の観点から検査した。
案件実施のために締結した契約についてみると、資金供与額に対する契約締結済額の割合である契約締結率は、20年3月末現在、インドネシア共和国では98.7%、モルディブ共和国では92.9%、スリランカ共和国では98.8%となっていた。そして、資金供与額に対する支払済額の割合である支払率は、20年3月末現在、インドネシア共和国では91.3%、モルディブ共和国では87.7%、スリランカ共和国では89.4%となっていた。
このように、契約締結率に比べて支払率が低くなっているのは、ノンプロ無償資金による事業の内容は、施設の工事に係る契約が多く、契約締結後も工事の完了までに相応の工期を要して、工事の進ちょくに応じて資金を支払うことになっているためである。しかし、資金供与後3年余りが経過して工事が進ちょくしたことなどにより、3か国の合計で支払率が90.4%にまで上昇して、契約締結率との差がなくなってきている。また、調達口座における残高も、20年3月末において、インドネシア共和国では約13億円、モルディブ共和国では約3億円、スリランカ共和国では約8億円にまで減少している。さらに、その残高には、工事の進ちょくに応じて今後支払うこととなる額や瑕疵(かし)担保の保証期間が経過すれば支払うこととなる額等が含まれているため、残高は今後一層減少することになる。そして、外務省の説明によれば、3か国において、今後新たに締結する予定の契約はないとしている。
ノンプロ無償資金協力事業の中には、表4のとおり、20年3月末において、契約は締結したが資材の調達や作業員の確保ができなかったこと、治安状況が悪化したこと、契約を解除して新たな契約を締結したことなどから、契約に基づく給付が完了していない案件が見受けられた。しかし、相手国事業実施機関等の説明によれば、これらの案件についても、20年12月までにはすべての給付が完了するとしている。
国名
|
給付完了率
|
100%
|
50%以上100%未満
|
50%未満
|
計
|
インドネシア共和国
|
平成18年3月末現在
|
0
|
5
|
9
|
14
|
19年3月末現在
|
2
|
9
|
4
|
15
|
|
20年3月末現在
|
12
|
2
|
1
|
15
|
|
モルディブ共和国
|
18年3月末現在
|
0
|
1
|
2
|
3
|
19年3月末現在
|
1
|
2
|
0
|
3
|
|
20年3月末現在
|
2
|
1
|
0
|
3
|
|
スリランカ共和国
|
18年3月末現在
|
3
|
3
|
8
|
14
|
19年3月末現在
|
8
|
3
|
3
|
14
|
|
20年3月末現在
|
11
|
2
|
1
|
14
|
|
計
|
18年3月末現在
|
3
|
9
|
19
|
31
|
19年3月末現在
|
11
|
14
|
7
|
32
|
|
20年3月末現在
|
25
|
5
|
2
|
32
|
また、当初の契約見込額と契約締結額との間に差額が生じたこと、治安状況の悪化等から事業を中止したこと、請負業者の不履行で契約を解除したことなどにより、最終的には供与額に未使用額が生ずることになる。外務省は、3か国が実施した津波復興事業の費用の一部にこの未使用額を充てる案等について、3か国政府と協議を行っているとしている。
そして、外務省は、この状況を受けて、21年中に事後評価を実施することにしている。
なお、3か国のうちスリランカ共和国については、同国の治安状況が悪化したため、本院は同国における会計実地検査を実施することができなかったが、モルディブ共和国における現地調査に立ち会った在スリランカ日本国大使館の職員等からスリランカ共和国の状況について説明を聴取した。
イ 本件ノンプロ無償資金協力事業の実施に関して、外務省は、給付が完了していない一部の案件について、早期の完了を確実なものにするため、相手国政府と一層連携して、相手国政府に対する働きかけを継続して行う必要がある。
また、中止又は解除した契約のうちに、請負業者に支払った前払金等が返還されていない事態が見受けられた。このまま前払金等が返還されない場合には、資金が有効に活用されないことになることから、外務省は、早期の返還が実現するよう相手国政府に対する働きかけを継続して行う必要がある。
さらに、外務省は、供与額の最終的な使用額及び未使用額を明らかにするとともに、未使用額については、相手国政府と十分協議の上、資金の適切な活用方法を検討する必要がある。
本件ノンプロ無償資金協力事業は、16年12月26日に発生した大地震及びそれに伴う大規模な津波による被害に対する緊急援助として実施されたものであるが、17年1月19日に3か国に供与された計246億円による施設の建設や機材の調達等の案件は、3年余りを経過して、給付が完了したものが着実に増加してきている。これらの施設や機材が、被災地等における災害復旧・復興のため、今後とも有効に活用されることが望まれる。
以上のとおり報告する。 そして、本院としては、3か国への供与額の最終的な使用額及び未使用額について、外務省から報告を受けるとともに、同省が事業完了後に行うとしている本件ノンプロ無償資金協力事業に対する事後評価を踏まえた上で、未使用額の具体的な活用結果を含めて、中長期的な事業効果について引き続き検査していくこととする。