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  • 平成19年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第4節 特定検査対象に関する検査状況|
  • 第2 租税特別措置(青色申告特別控除)等の適用状況等について

第2 租税特別措置(青色申告特別控除)等の適用状況等について


第2 租税特別措置(青色申告特別控除)等の適用状況等について

検査対象
財務省、国税庁、65税務署、経済産業省、中小企業庁
会計名及び科目
一般会計
国税収納金整理資金
(款)歳入組入資金受入
(項)各税受入金
租税特別措置
(青色申告特別控除)の概要
青色申告の一層の普及・奨励を図り、適正な記帳慣行を確立して、申告納税制度の実をあげるとともに事業経営の健全化を推進することを目的として、青色申告者の記帳の程度によって一定額を事業所得等の金額から控除する特別措置
上記の租税特別措置に係る減収見込額
(財務省試算)
660億円(平成19年度)

1 検査の背景

(1) 租税特別措置の概要

 租税特別措置(以下「特別措置」という。)は、租税制度上、特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより、国による経済政策や社会政策等の特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとされており、公平・中立・簡素という税制の基本理念の例外措置として設けられているものであり、租税特別措置法(昭和32年法律第26号。以下「措置法」という。)等に規定されている。
 税収の減少(以下「減収」という。)をもたらす特別措置には、税額控除や所得計算上の特別控除等の手法を用いて税の軽減又は免除になるもの(以下「税の減免」という。)と特別償却や準備金等の手法を用いて一時的にその課税を猶予して、課税の延期になるもの(以下「課税の繰延べ」という。)とがある。
 税の減免は、実質的には減免された税額相当額の補助金を交付したことと同様の結果になるものといわれている。また、課税の繰延べは、実質的には繰り延べられた税額相当額を無利息で貸し付けたことと同様の結果になり、利子補給の効果があるといわれている。
 特別措置の適用による平成19年度における租税の減収見込額の総額は7兆5310億円(財務省の「租税特別措置法の規定による特例に係る増減収見込額」による。)となっている。

(2) 特別措置の策定等

 特別措置を行政上の政策に導入している省庁(以下「関係省庁」という。)は、毎年行われる税制改正の審議に当たり、各政策の目的に基づき、特別措置の新設、拡充及び延長を希望する旨を記載した要望書を財務省に提出している。それらの内容については、財務省と関係省庁との折衝、政府・与党税制調査会での議論を経て、税制改正要綱の閣議決定が行われ、この要綱に沿った措置法等の改正案は、閣議決定を経た上で内閣から国会に提出されて、国会で審議・議決されることになる。なお、これとは別に国会議員により改正案が国会に提出される場合(議員立法)もある。
 そして、措置法等に基づく国民(納税義務者)に対する課税は国税庁により執行される。

(3) 関係省庁における政策の検証

 関係省庁は、特別措置についてその拡充、延長等の改正の要望をする際に、財務省に対して特別措置による減収見込額を提示することなどにより当該特別措置の効果等の検証を行っている。また、14年4月から「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号。以下「政策評価法」という。)が施行されたことに伴い、行政機関の長は、政策評価に関する基本計画や事後評価の実施に関する計画を定めて、これらに基づき事前評価や事後評価を実施しており、特別措置についてもその効果等の検証を行っている。

(4) 過去の決算検査報告に掲記した特別措置及び20年次検査で取り上げる特別措置

 国民の税に関する関心は高く、少子・高齢化の急速な進展など経済社会の構造が大きく変化している中で、持続的な経済社会の活性化の実現を図る取組としての税制改革に期待が寄せられている。また、財政状況が悪化していることから、税制について種々の議論が行われており、その中で特別措置についても議論がなされているところであり、特別措置の目的や効果を検証して、公平、中立等という税制の基本理念に照らして見直すことが必要とされている。
 このことから、本院は、15年次から19年次までの間に特別措置の適用状況等について順次取り上げており、「措置法に規定されている特別措置の法人税関係のもの」、「社会保険診療報酬の所得計算の特例(厚生労働省)」、「肉用牛売却所得の課税の特例及び農地等についての相続税の納税猶予の特例(農林水産省)」、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(経済産業省)」及び「生命保険料控除等(金融庁)」について、検査の状況を「特定検査対象に関する検査状況」として決算検査報告に掲記したところである。
 20年次は、青色申告特別控除について、19年度における租税減収見込額が660億円と多額になっていることなどから、その適用状況及び関係省庁である経済産業省等における検証状況を検査することとした。そして、青色申告特別控除が普及・奨励を図ろうとする青色申告制度には、青色申告特別控除以外の各種特典があることから、これらの適用状況について、また、青色申告制度は正確な記帳による正確な申告を奨励するために設けられたものであることから、青色申告特別控除の適用者の申告における必要経費の状況についても検査することとした。

(5) 青色申告特別控除の概要

ア 青色申告制度

 青色申告制度は、申告納税制度が適正に機能するよう正確な記帳による正確な申告を奨励するために、昭和25年に創設されたものである。
 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う者は、納税地の所轄税務署長にその年の3月15日までに青色申告に係る承認申請書を提出するなどして、税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書等を「青色の申告書」により提出することができることとなっている(以下、この承認を受けた者を「青色申告者」といい、それ以外の者を「白色申告者」という。)。そして、青色申告者は、一定水準の記帳を行うとともに帳簿書類を保存することが義務付けられる一方、申告に際し税法上の特典を受けることができることとなっている(所得税法(昭和40年法律第33号)第148条等)。

イ 青色申告特別控除

 青色申告特別控除は、青色申告の特典のうちの一つであり、青色申告の一層の普及・奨励を図り、適正な記帳慣行を確立して、申告納税制度の実をあげるとともに事業経営の健全化を推進することを目的として、所得金額から一律10万円の控除を行う青色申告控除制度に代えて、平成4年度税制改正において創設されたものである。
 現在、青色申告者のうち、正規の簿記の原則に従い記録(注1)している青色申告者には、65万円を限度とする特別控除(注2)が認められており、その他の青色申告者には、10万円を限度とする特別控除が認められている(措置法第25条の2)。

 正規の簿記の原則に従い記録  正規の簿記の原則は、少なくとも次のような要件を満たすものでなければならないこととされている。〔1〕 帳簿は、資産、負債、資本に影響を及ぼす取引の全部について継続的に記録し、その記録に基づいて損益計算書、貸借対照表が作成されるものであること、〔2〕 帳簿の記録が整然として一つの体系をなしており、帳簿間の記録の連絡が明瞭(りょう)であり、記録の試算、照合が可能であること、〔3〕 帳簿の記録が、証ひょう書類又は伝票その他の原始記録によってなされ、記録の真実性が実証されること
 65万円を限度とする特別控除  不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を行う者のみが適用を受けることができる。また、不動産所得のみを有する場合で、65万円を限度とする特別控除の適用を受けるには、不動産の貸付けが事業的規模で行われていることが必要とされている。

ウ 青色申告特別控除額の推移及び記帳義務

 青色申告特別控除額の推移と青色申告者及び白色申告者の記帳義務の内容は、表1のとおりである。

表1 青色申告特別控除額の推移と青色申告者及び白色申告者の記帳義務の内容
申告者の区分
青色申告者
白色申告者
正規の簿記の原則に従い記録
(a)
簡易な簿記の方法により記録
(b)
現金主義により記録
(c)
記帳義務あり
(簡易な方法により記録)
(d)
記帳義務なし
(記録保存義務あり)
(e)
記帳義務なし
(記録保存義務なし)
(f)
不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を行う者(不動産所得については事業的規模)
不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を行う小規模事業者(前々年分の所得が300万円以下の者)
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う者のうち前々年分又は前年分の所得が300万円を超える者
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う者のうち前々年分又は前年分の確定申告書等を提出した者
左記以外の者(白色申告者で(d)及び(e)以外の者)
青色申告特別控除適用あり
(青色申告特別控除額の推移)
青色申告特別控除適用なし
平成5年〜
35万円
35万円
10万円
10年〜
45万円
45万円
10万円
12年〜
55万円
45万円
10万円
17年〜
65万円
10万円
(注)
 (b)欄の「簡易な簿記の方法により記録」とは、財務大臣が定める簡易簿記の方法により取引の記録をすることである。(d)欄の「簡易な方法により記録」とは、その年の取引のうち総収入金額及び必要経費に関する事項を財務大臣が定める簡易な記録の方法で記録することであり、簡易な簿記の方法よりも更に簡易なものである。山林所得を生ずべき業務を行う青色申告者は、正規の簿記の原則に従い記録するか、簡易な簿記の方法により記録しなければならない。そして、青色申告特別控除額は10万円となっている。

 申告納税制度は、納税者が年間所得を自らの責任において計算することが前提とされており、それは同時に、そのために必要な記帳等を要求していることでもあるが、当初は、記帳義務制度を導入するのではなく、正確な記帳の誘引策としての青色申告制度を導入するにとどまっていた。
 そして、昭和59年度税制改正において、申告納税の基本に立った申告水準の向上等を図り、税負担の公平確保に資するための納税環境の整備の一環として、記帳義務のなかった白色申告者のうちの事業所得等が300万円を超える者(表1の(d))に対して、簡易な方法による記帳義務が課された。この記帳義務により、記帳をせざるを得ないのであれば、特典のある青色申告を選択した方が有利であるとして、おのずとより高度な記帳に移行していくことが期待されている。

エ 国税庁統計資料による青色申告割合

 国税庁の統計資料によると、全国規模での営業等所得者(注3) (申告納税額を有する者)の青色申告割合(青色申告者及び白色申告者の合計数に対する青色申告者数の割合)の推移は、表2のとおりである。

表2 営業等所得者(申告納税額を有する者)の青色申告割合の推移
区分
青色申告者及び白色申告者の合計数 〔1〕
〔1〕 のうち青色申告者数 〔2〕
青色申告割合(〔2〕 /〔1〕 )
青色申告承認者数
翌年3月15日現在
千人
千人
千人
昭和25年分
2,000
82
4
94
40
1,349
449
33
759
50
2,055
1,093
53
2,168
平成元年分
3,094
1,625
53
3,098
5
2,972
1,481
50
3,053
10
1,649
909
55
3,069
15
1,780
977
55
3,189
16
1,813
996
55
3,239
17
1,826
1,003
55
3,234
18
1,765
974
55
3,262

 青色申告特別控除が導入された平成5年に50%であった青色申告割合は、おおむね横ばいに推移して18年は55%となっている。

 営業等所得者  事業所得者(事業所得だけを有する者及び事業所得の金額が他の所得金額より大きい者をいう。)のうち、営業等から生ずる所得が事業所得のうちで最も大きい者をいう。

オ 適正な記帳慣行確立等のための施策

 国税庁は、青色申告制度が創設されて以来、青色申告の普及と育成に努めてきたが、国税庁の担当者のみでの青色申告者等の指導には限界があることから、昭和38年に全国青色申告会総連合と日本税理士会連合会と3者共同してこの指導の円滑な実施を図ることとした。また、国税庁が、以前から小規模事業者を対象に経営や技術改善の指導を独自に行ってきた商工会議所と商工会の協力を得るために、同年に中小企業庁に対して協力を要請したところ、39年以降商工会議所と商工会が主として青色申告新規申請者を対象として継続記帳指導を実施することとなった。現在においても、国税庁は、記帳指導を希望する者を対象に記帳指導を行うとともに、各種説明会等で青色申告の説明と勧奨を行い、青色申告制度の普及に努めており、また、正確な記帳に基づく正確な申告が行えるよう情報提供を行っている。平成19年度においては、税務署及び税務署が委託した税理士等が記帳指導をした人数は3.8万人となっている。
 そして、中小企業庁は、国税庁の要請以後、小規模事業者の経営の改善・発達を支援する事業として、小規模企業の経営基盤の充実を図るために、全国の商工会議所、商工会等の記帳指導員等を通じて記帳指導等を実施してきた。17年度までは中小企業庁が都道府県とともに商工会議所、商工会等に対して補助を行っていて、その金額は17年度では、人件費補助567,747,302円、指導事業費補助360,297,598円となっている。その後、都道府県に税源移譲も含めた事業移行を行ったことから、現在は都道府県が補助を行っている。中小企業庁は、全国の商工会議所、商工会等の上部組織である日本商工会議所及び全国商工会連合会に対して引き続き補助を行っていて、19年度において人件費補助としてそれぞれ35,375,000円、122,443,000円を支出している。

カ 青色申告特別控除等に係る議論

 政府税制調査会は、「わが国税制の現状と課題」(平成12年7月)において、青色申告特別控除は、4年度税制改正において、それまでのみなし法人課税制度及び青色申告控除制度の廃止と併せて創設されたものであり、今後、この特別措置の政策効果の状況を注視していく必要があるとしている。そして、個人事業者は、交際費について、法人の場合と異なり、事業との関連があれば、上限なく必要経費への算入が認められているが、事業との関連性は個人事業者の個別判断にゆだねられて客観性が少ないとの指摘があるとしている。また、青色事業専従者給与等の制度により特に青色申告者の事業所得については、専従者給与の支払による配偶者などへの所得分与が可能となっている面があるとの指摘があり、この点については、就労の実態などに照らして、過大な給与の支払などがある場合には、制度の厳正な運用により対処することが適当であると考えるとしている。
 「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(平成14年6月)において、給与所得控除に係る議論の中で、一般の被用者の間では、事業経営者は法人形態を利用して税負担の軽減を図り得る、その所得捕捉(そく)が十分に行われていないのではないか、といった不公平感が根強いとしている。
 また、「個人所得課税に関する論点整理」(平成17年6月)において、戦後、シャウプ勧告に従い、記帳慣行が未成熟という状況の下で申告納税制度の定着を図るために青色申告制度が導入され、その後、同制度の下で記帳水準は着実に向上してきた。また、適正・公平な課税の実現に向け、税務調査をはじめとする課税当局の努力が今日まで継続されている。しかし、事業所得に係る必要経費についてみれば、その範囲が必ずしも明確ではなく、本来、必要経費に算入できない家事関連費について混入を防止する制度的担保が存在しない。そうした中、一般の給与所得者にとって、日常生活において目にする個人事業者の行動に納得し難い思いを抱くこともあり、税負担の不公平感が醸成されているとしている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 青色申告特別控除は、青色申告の一層の普及・奨励を図り、適正な記帳慣行を確立して、申告納税制度の実をあげるとともに事業経営の健全化を推進するために創設された特別措置であり、青色申告制度は、申告納税制度が適正に機能するよう正確な記帳による正確な申告を奨励するために創設された制度である。
 申告書等による検査では、事業の実態を反映させた正確な記帳による正確な申告を行っているのかを十分には把握できない面もあるが、青色申告特別控除等の目的、必要経費に算入できない家事関連費等に係る議論等を踏まえて、合規性、有効性等の観点から、〔1〕 青色申告特別控除の適用状況(青色申告割合等)はどのようになっているか、〔2〕 青色申告の他の特典の適用状況はどのようになっているか、〔3〕 青色申告者(青色申告特別控除の適用者)の必要経費のうち、青色事業専従者給与や必要経費に算入できない家事費・家事関連費の混入が懸念される接待交際費と減価償却費(事業用車両分)の状況等はどのようになっているか、〔4〕 青色申告特別控除の検証は適切に行われているかに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

 本院は、財務省、国税庁、65税務署(注4) 、経済産業省及び中小企業庁において会計実地検査を行った。上記の税務署においては、次のように申告書の抽出を行い、その内容を分析するなどして検査した。

ア 青色申告特別控除の適用の対象となっている者は、事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行う者である。このうち、抽出の対象を申告者数が多い営業等所得者及び不動産所得者(注5) とした。

イ 事業規模が大きく所得金額が高額な者ほど、より正確な記帳による正確な申告の実現が期待されており、また、高額な接待交際費等を計上することが多いと推測されることから、抽出の対象を高額所得者とした。そして、納税者の自主的な申告の状況を把握するために、確定申告書(注6) を抽出することとした。

ウ 18年分の確定申告書の総所得金額等(注7) が高い者から順に1税務署当たり20人程度の営業等所得者(以下「高額営業等所得者」という。)の確定申告書(白色申告書を含む。)計1,298件、同様に1税務署当たり20人程度の不動産所得者(以下「高額不動産所得者」という。)の確定申告書(白色申告書を含む。)計1,292件を抽出した。

エ 高額営業等所得者と対比するために、平均的所得金額の営業等所得者(以下「中堅営業等所得者」という。)の確定申告書を抽出することとして、総所得金額等の平均(注8) が約538万円であったことから、18年分の確定申告書の総所得金額等が500万円の者から高い方へ順に1税務署当たり10人程度の営業等所得者の確定申告書(白色申告書を含む。)計642件を抽出した。

 65税務署  札幌中、石巻、郡山、白河、相馬、竜ヶ崎、足利、大宮、行田、所沢、東松山、春日部、高田、佐渡、佐久、千葉東、柏、麹町、神田、日本橋、京橋、芝、麻布、四谷、東京上野、浅草、目黒、大森、渋谷、杉並、荻窪、王子、荒川、足立、江戸川北、武蔵野、戸塚、緑、川崎北、小田原、甲府、松任、岐阜北、岐阜南、大垣、富士、名古屋中、近江八幡、上京、東淀川、北、東、東大阪、兵庫、須磨、和歌山、広島東、高松、今治、香椎、福岡、久留米、佐賀、宮崎、鹿児島各税務署
 不動産所得者  不動産所得が他の所得より大きい者をいう。
 確定申告書  税務署は高額所得者を優先的に実地調査の対象としており、また、接待交際費等については重点的に調査・指導を行っていることから、分析の対象となった納税者の自主的な申告である確定申告書の内容は、税務署の実地調査により是正されることがある。
 総所得金額等  総所得金額(配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得等の金額の合計額)、山林所得金額、退職所得金額等の合計額
 総所得金額等の平均  国税庁統計資料によると、平成18年分の申告納税者は823万人、その総所得金額等の合計額は44兆3205億円であり、1人当たり平均値は約538万円となっている。

3 検査の状況

(1) 青色申告特別控除の適用状況

ア 営業等所得者(申告納税額を有する者)全体の青色申告割合の状況

 65税務署における営業等所得者(申告納税額を有する者)は290,741人であり、その青色申告割合は表3のとおりである。

表3 営業等所得者(申告納税額を有する者)の所得水準別青色申告割合
(単位:人)
区分\総所得金額等
100万円
未満
100万円以上
300万円未満
300万円以上
500万円未満
500万円以上
1000万円未満
1000万円以上
3000万円未満
3000万円
以上
営業等所得者
(申告納税額を有する者)
36,284
144,737
62,230
29,250
13,691
4,549
290,741
そのうち
青色申告者
14,392
76,153
38,363
21,676
11,749
4,154
166,487
青色申告割合
(%)
39.6
52.6
61.6
74.1
85.8
91.3
57.2

 総所得金額等300万円未満の者は181,021人おり、このうち青色申告者は90,545人でその割合は50.0%である。一方、総所得金額等1000万円以上の者は18,240人おり、このうち青色申告者は15,903人でその割合は87.1%であり、総所得金額等が高額なほど青色申告割合は高い状況となっている。そして、全体の青色申告割合は57.2%である。なお、国税庁が公表している営業等所得者(申告納税額を有する者)の青色申告割合は55%となっており、65税務署の青色申告割合の57.2%はこの全国平均と同程度である。

イ 青色申告特別控除の適用状況(青色申告割合等)

 65税務署において抽出した高額営業等所得者1,298人、高額不動産所得者1,292人及び中堅営業等所得者642人における青色申告特別控除の適用状況は、表4のとおりである。

表4 青色申告特別控除の適用状況(青色申告割合等)
(単位:人)
区分
白色申告者数
〔1〕
青色申告者数
〔2〕

〔1〕 +〔2〕
 
(10万円控除適用)
(65万円控除適用)
高額営業等所得者
86
(6.6%)
1,212
(93.4%)
123
(9.4%)
1,089
(83.8%)
1,298
(100.0%)
高額不動産所得者
238
(18.4%)
1,054
(81.6%)
526
(40.7%)
528
(40.8%)
1,292
(100.0%)
中堅営業等所得者
200
(31.1%)
442
(68.9%)
189
(29.4%)
253
(39.4%)
642
(100.0%)
(注)
 高額営業等所得者1,298人を所得水準別にみると、総所得金額等が5000万円以上1億円未満の者649人、1億円以上の者360人などとなっている。また、高額不動産所得者1,292人は、5000万円以上1億円未満の者426人、1億円以上の者219人などとなっている。

 高額営業等所得者1,298人のうち、青色申告者(青色申告特別控除の適用者)は1,212人で青色申告割合は93.4%と高く、この1,212人のうち正規の簿記による記帳が要件とされている65万円控除の適用者は1,089人で全体の83.8%である。一方、白色申告者も86人おり、6.6%を占めている。この86人の中には、総所得金額1億円以上の者も30人おり、また、収支内訳書に内訳を一切記載せずに売上金額及び経費の総額のみを記載している者も見受けられる。高額営業等所得者における白色申告者の事例を示すと、次のとおりである。

<事例1>

 事業者Aは、平成18年分の所得税の確定申告書において、事業収入1億4733万余円から経費等6547万余円を控除して事業所得8185万余円を算出している。同人は白色申告者(税理士関与)であり、上記の経費等の主なものは、売上原価3551万余円、給料賃金1466万余円、外注工賃307万余円となっており、配偶者Bを対象者として事業専従者控除(白色事業専従者に対する最大86万円を上限とする控除)86万円を適用している。
 高額不動産所得者1,292人のうち、青色申告者(青色申告特別控除の適用者)は1,054人で青色申告割合は81.6%と高いが、この1,054人のうち正規の簿記による記帳が要件とされている65万円控除の適用者は528人で全体の40.8%であり高額営業等所得者の83.8%と比べると低い。一方、白色申告者も238人おり、18.4%を占めている。この238人の中には、総所得金額1億円以上の者も23人おり、また、税理士が関与している者も188人いる。
 中堅営業等所得者642人のうち、青色申告者(青色申告特別控除の適用者)は442人で青色申告割合は68.9%であり高額営業等所得者の93.4%と比べると低い。そして、この442人のうち、正規の簿記による記帳が要件とされている65万円控除の適用者は253人で全体の39.4%であり、高額営業等所得者の83.8%と比べると低い。
 このように、中堅営業等所得者より高額営業等所得者の方が青色申告割合は高く、65万円控除の適用者の比率も高いが、高額営業等所得者においても、また、高額不動産所得者においても一定数の白色申告者がいる。そして、高額営業等所得者より高額不動産所得者の方が白色申告者が多い。

(2) 青色申告の他の特典の適用状況

ア 青色申告の他の特典の適用状況

 65税務署において抽出した青色申告である高額営業等所得者1,212人、高額不動産所得者1,054人及び中堅営業等所得者442人における青色申告特別控除以外の青色申告の特典の適用状況は、表5のとおりである。

表5 青色申告の特典の適用状況(青色申告特別控除を除く。)
(単位:人)
区分\種別
青色事業専従者給与
貸倒引当金
少額減価償却資産
その他
 
うち
税額控除
高額営業等所得者
(計1,212人)
783
(64.6%)
593
(48.9%)
475
(39.1%)
93
(7.6%)
39
(3.2%)
高額不動産所得者
(計1,054人)
143
(13.5%)
0
(0.0%)
71
(6.7%)
8
(0.7%)
0
(0.0%)
中堅営業等所得者
(計442人)
233
(52.7%)
66
(14.9%)
27
(6.1%)
2
(0.4%)
0
(0.0%)
(計2,708人)
1,159
659
573
103
39
(注)
 複数の特典を適用している者もいる。

 青色申告特別控除以外の青色申告の特典の中で適用率が最も高い特典は青色事業専従者給与の必要経費算入であり、高額営業等所得者1,212人のうち783人で64.6%、高額不動産所得者1,054人のうち143人で13.5%、中堅営業等所得者442人のうち233人で52.7%である。これは、個人事業者が生計を一にする親族に給与を支払ってもその支払額を必要経費に算入することは原則としてできないが、青色申告者が生計を一にする親族で専らその事業に従事する青色事業専従者に対して、青色事業専従者給与に関する届出書に記載されている金額の範囲内で給与を支払った場合には、労務の対価として相当と認められる額を必要経費に算入することが認められるという特典である。
 その次に適用率が高い特典は、売掛金等の貸倒れによる損失の見込額の一括評価による貸倒引当金の設定であり、高額営業等所得者1,212人のうち593人で48.9%、そして、取得価額を即時償却できる中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例であり、高額営業等所得者1,212人のうち475人で39.1%である。
 上記以外のその他の特典は、高額営業等所得者1,212人のうち93人で7.6%である。 この中には中小企業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除や情報通信機器等を取得した場合等の所得税額の特別控除などの税額控除がある。

イ 青色申告の特典に係る減税相当額の状況等

 青色申告特別控除を含む青色申告の特典に係る減税相当額の状況を示した統計資料はないことから、青色申告の特典に係る減税相当額の試算を行うこととした。65税務署において抽出した青色申告である高額営業等所得者1,212人のうち、青色申告特別控除のほかに、課税の繰延べではなく税の減免である、青色事業専従者給与の必要経費算入と税額控除の両方を適用している者は21人(1.7%)であり、その減税相当額は表6のとおりである。

表6 青色申告の特典に係る減税相当額別人数
(単位:人)
特典等\減税相当額
25万円未満
25万円以上
100万円未満
100万円以上
300万円未満
300万円以上
600万円未満
600万円以上
平均額
青色申告特別控除
21
0
0
0
0
21
240,500円
青色事業専従者給与
0
0
16
4
1
21
2,511,718円
税額控除
14
6
1
0
0
21
243,550円
減税相当額の合計
0
0
15
5
1
21
2,995,769円
(注)
 一括評価による貸倒引当金の設定及び中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例については、課税の繰延べであることから、試算の対象外としている。

 21人の減税相当額の合計の平均額は2,995,769円であり、最も高い者は6,428,200円であり、中には、申告所得税額に対する割合が44.3%となっている者も見受けられる。青色申告の特典別に減税相当額をみると、青色申告特別控除については、すべての者が上限の240,500円(青色申告特別控除額650,000円×税率37%)であり、青色事業専従者給与の必要経費算入については、平均額は2,511,718円であり、最も高い者は6,110,000円である。このように、青色申告特別控除より青色事業専従者給与の必要経費算入の方が減税相当額は高い。
 青色申告の特典に係る減税相当額の試算の事例を示すと、次のとおりである。

<事例2>

 事業者Cは、平成18年分の所得税の確定申告書において、事業収入1億2044万余円から経費等6094万余円を控除して事業所得5949万余円を算出して、総所得金額を6107万余円、税額を1855万余円としている。上記の経費等の内訳についてみると、青色申告特別控除65万円、青色事業専従者給与800万円が含まれており、また、中小企業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除28万余円を適用している。そして、これらの青色申告の特典に係る減税相当額は、青色申告特別控除24万余円、青色事業専従者給与の必要経費算入225万余円、上記所得税額の特別控除28万余円、計277万余円となっている。

(3) 青色申告者(青色申告特別控除の適用者)の必要経費の状況等

ア 青色申告者(青色申告特別控除の適用者)の必要経費の状況

 所得税法第45条第1項によると、個人の消費生活上の費用である家事費については必要経費に算入できず、また、家事関連費については、同法施行令第96条で規定する次に掲げるものは必要経費に算入できるが、それ以外のものは算入できないこととなっている。
〔1〕  その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合のその部分に相当する経費
〔2〕  〔1〕 のほか、青色申告者の家事関連費のうち、取引の記録等に基づいて業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費
 青色申告制度は、申告納税制度が適正に機能するよう正確な記帳による正確な申告を奨励するために創設されたものであり、正確な記帳とは、形式だけでなく事業の実態を反映させた質的にも正確なものであり、これによる正確な申告を青色申告者は行うこととなっている。
 青色申告者である高額営業等所得者1,212人及び高額不動産所得者1,054人の必要経費についてみると、計上されることが多い経費項目は、給料賃金(青色事業専従者以外の使用人に支払った給料及び賃金)、青色事業専従者給与、接待交際費、減価償却費、地代家賃、管理委託費等である。
 これらのうち、就労の実態を反映させていない可能性がある青色事業専従者給与、必要経費に算入できない家事費・家事関連費の混入が懸念される接待交際費と減価償却費(事業用車両分)を分析することとした。

(ア) 青色事業専従者給与

a 青色事業専従者給与の状況

 高額営業等所得者1,212人及び高額不動産所得者1,054人のうち、青色事業専従者給与を計上している者は783人(64.6%)及び143人(13.5%)であり、青色事業専従者は885人及び154人である。これらのうち、12か月間従事している青色事業専従者は840人及び148人であり、その給与の状況は、表7のとおりである。

表7 青色事業専従者の給与水準別人数
(単位:人)
青色申告者の区分\青色事業専従者給与
300万円未満
300万円以上
600万円未満
600万円以上
900万円未満
900万円以上
1200万円未満
1200万円以上
1500万円未満
1500万円以上
平均額
高額営業等所得者
74
278
258
110
39
81
840
8,206,769円
高額不動産所得者
60
69
16
3
0
0
148
3,557,197円
134
347
274
113
39
81
988
7,510,274円

 高額営業等所得者における青色事業専従者840人の給与平均額は8,206,769円であり、高額不動産所得者における青色事業専従者148人の給与平均額は3,557,197円である。そして青色事業専従者給与1200万円以上の者は高額営業等所得者における青色事業専従者で120人おり、14.2%を占めている。
 高額営業等所得者の方が高額不動産所得者より青色事業専従者が多く、高額な給与が支払われている。

b 青色事業専従者給与の届出業務別状況

 高額営業等所得者における青色事業専従者840人を届出業務別・給与水準別にみると、表8のとおりである。

表8 高額営業等所得者における青色事業専従者の届出業務別・給与水準別人数
(単位:人))
専従者の届出業務\青色事業専従者給与
300万円未満
300万円以上
600万円未満
600万円以上
900万円未満
900万円以上
1200万円未満
1200万円以上
1500万円未満
1500万円以上
平均額
医師
0
4
2
6
8
50
70
22,395,813円
看護師及び薬剤師
2
30
42
19
9
11
113
8,591,829円
公認会計士及び税理士
0
2
1
0
0
1
4
10,282,635円
総務、経理及び事務
72
242
213
85
22
19
653
6,606,389円
74
278
258
110
39
81
840
8,206,769円

 青色事業専従者840人のうち、医師は70人で8.3%であり、その給与平均額は22,395,813円、看護師及び薬剤師は113人で13.4%であり、その給与平均額は8,591,829円、総務、経理及び事務の者は653人で77.7%であり、その給与平均額は6,606,389円である。
 青色事業専従者給与1200万円以上の者は前記のとおり120人おり、これを届出業務別にみると、給与水準がもともと高い医師58人等の資格保有者は79人で65.8%を占めている一方、総務、経理及び事務の者も41人で34.1%を占めている。
 届出業務が総務、経理及び事務の者に対して1500万円以上の青色事業専従者給与が支払われている事例は、次のとおりである。

<事例3>

 事業者Dは、平成18年分の所得税の確定申告書において、事業収入1億5498万余円から経費等1億0984万余円を控除して事業所得4514万余円を算出している。上記の経費等の内訳についてみると、配偶者E(届出業務は一般事務会計、届出給与は1700万円)への青色事業専従者給与1700万円を必要経費に算入している。

(イ) 接待交際費

 高額営業等所得者1,212人及び高額不動産所得者1,054人における接待交際費の計上の状況は、表9のとおりである。

表9 接待交際費の金額別人数
(単位:人)
青色申告者の区分\接待交際費
100万円未満
(うち計上なし)
100万円以上
400万円未満
400万円以上
800万円未満
800万円以上
1200万円未満
1200万円以上
高額営業等所得者
464
(24)
517
146
47
38
1,212
高額不動産所得者
1,026
(868)
25
2
0
1
1,054
1,490
(892)
542
148
47
39
2,266

 高額営業等所得者1,212人についてみると、接待交際費400万円以上の者は231人で19.0%であり、このうち、1200万円以上の者も38人(3.1%)おり、最も高額な者は107,789,221円である。一方、100万円未満の者は464人で38.2%であり、計上していない者も24人いる。
 また、接待交際費の対売上比率の状況をみると、5%以上の者は56人(最高は18.8%)、3%以上5%未満の者は77人、1%以上3%未満の者は379人、1%未満の者は700人であり、1,212人に対するそれぞれの人数の割合は4.6%、6.3%、31.2%、57.7%である。
 高額不動産所得者1,054人についてみると、接待交際費を計上している者は186人で17.6%であり、400万円以上の者は3人である。この中には、接待交際費として48,062,609円(対売上比率14.9%)を計上している者がいる。一方、計上していない者は868人で82.3%である。
 また、接待交際費の対売上比率の状況をみると、5%以上の者は1人、3%以上5%未満の者は3人、1%以上3%未満の者は34人、1%未満の者は1,016人であり、1,054人に対するそれぞれの人数の割合は0.1%、0.3%、3.2%、96.3%である。
 このように、接待交際費を計上していない者から高額な接待交際費を計上している者までおり、接待交際費の計上については、納税者により大きな差異がある。
 個人事業者の接待交際費については、必要経費に算入できる金額に上限は設けられていないが、業務の遂行上必要と認められるものに限られている。
 1200万円以上の接待交際費(対売上比率4.6%)を計上している事例は次のとおりである。

<事例4>

 事業者Fは、平成18年分の所得税の確定申告書において、事業収入2億6650万余円(その99.9%が社会保険診療報酬)から経費等2億1600万余円を控除して事業所得5049万余円を算出している。上記の経費等の内訳についてみると、接待交際費1251万余円(対売上比率4.6%)を必要経費に算入している。

(ウ) 減価償却費(事業用車両分)

 青色申告者が車両を事業と家事の両方で使用する場合、所得税法施行令第96条で規定する業務の遂行上必要であることが明らかにされる部分に相当する金額に限って当該車両の減価償却費を必要経費に算入できることとなっている。高額営業等所得者及び高額不動産所得者2,266人のうち、事業用車両を保有している者は1,082人(高額営業等所得者930人、高額不動産所得者152人)で47.7%である。この1,082人のうち、減価償却明細書により保有台数、取得価額等を確認できるのは1,040人であり、その保有車両1,893台について、取得価額別・事業割合別(注9) にみると、表10のとおりである。

 事業割合  家事で使用した部分と事業で使用した部分の合計のうちの事業で使用した部分の割合

表10 事業用車両の取得価額別・事業割合別台数
(単位:台)
事業割合\取得価額
200万円未満
200万円以上
400万円未満
400万円以上
600万円未満
600万円以上
800万円未満
800万円以上
50%未満
17
24
22
11
8
82
50%以上
80%未満
68
121
78
50
64
381
80%以上
90%未満
32
76
51
34
49
242
90%以上
100%未満
19
35
28
25
34
141
100%
384
282
148
97
107
1,018
不明
7
12
4
3
3
29
527
550
331
220
265
1,893
注(1)
決算書に接待交際費の勘定科目がない者等を計上していない者としている。
注(2)
他の所得における接待交際費は含めていない。

 この1,040人のうち、取得価額800万円以上の車両を保有している者は225人で保有者の21.6%であり、その台数は265台で全体の台数の13.9%である。このうち、事業割合を100%としている車両は107台で40.3%(全体の台数の5.6%)となっている。
 そして、取得価額800万円以上の車両を保有している者225人について、保有台数別にみると、表11のとおりである。

表11 取得価額800万円以上の車両を所有している者の保有台数別人数
(単位:人)
青色申告者の区分\保有台数
1台
2台
3台
4台
高額営業等所得者
176
(72)
26
(8)
5
(3)
1
(1)
208
(84)
高額不動産所得者
16
(4)
1
(1)
0
(0)
0
(0)
17
(5)
192
(76)
27
(9)
5
(3)
1
(1)
225
(89)
(注)
 括弧内は事業割合100%の者である。

 高額営業等所得者は208人であり、このうち取得価額800万円以上の車両を複数台保有している者は32人(事業用車両を保有する高額営業等所得者の3.4%)である。
 高額不動産所得者は17人であり、高額営業等所得者と比べると少なく、このうち取得価額800万円以上の車両を複数台保有している者は1人である。
 必要経費に算入できる減価償却費は、車両の取得価額の大きさや台数に制限はないが、所得税法施行令第96条で規定する業務の遂行上必要であることが明らかにされる部分に相当する金額に限られている。
 取得価額800万円以上の車両を複数台保有している事例を示すと、次のとおりである。

<事例5>

 事業者Gは、平成18年分の所得税の確定申告書において、事業収入1億8093万余円から経費等1億3851万余円を控除して事業所得4241万余円を算出している。同人は、事業用車両として、800万円以上の車両2台(取得価額1210万余円、919万余円)、これ以外に800万円未満の車両1台(取得価額301万余円)を保有しており、事業割合をそれぞれ100%としてこれらに係る減価償却費163万余円を、上記の所得の算出において必要経費に算入している。

イ 法人成り前の青色申告者の必要経費と法人成り後の青色申告法人の経費との比較

 個人事業者が会社を設立して、個人事業で行っていた事業を会社で継続して行うことを「法人成り」というが、個人事業(医業)を行っていた青色申告者が青色申告法人を設立してその法人の代表者となっているもの94件を65税務署のうちの42税務署において抽出して、その法人成り前の青色申告者の必要経費と法人成り後の青色申告法人の経費を比較・分析することとした。比較・分析の対象としたのは、法人成り前の青色事業専従者給与と法人成り後の役員報酬(生計を一にする親族分(注10) )であり、期間については1年間で比較するために、法人成り前については廃業した年の前年分、法人成り後については法人成りした事業年度の翌事業年度分とした。

 生計を一にする親族分  代表者と生計を一にする親族である役員に係る報酬のみを集計している。そして、法人税申告書等により代表者との続柄、住所を確認できる者のうち、配偶者並びに代表者と住所が一致する親及び子を代表者と生計を一にする親族としている。

 法人成り前の青色申告者の青色事業専従者給与の合計額の状況と法人成り後の青色申告法人の役員報酬(生計を一にする親族分)の合計額の状況を比較すると、表12のとおりである。

表12 青色事業専従者給与の合計額及び役員報酬(生計を一にする親族分)の合計額の金額別事業体数
(単位:人、法人括弧内:%)
区分\給与又は報酬の合計額
0円
300万円未満
300万円以上
600万円未満
600万円以上
900万円未満
900万円以上
1200万円未満
1200万円以上
1500万円未満
1500万円以上
 
うち
100万円未満
法人成り前の青色申告者
21
(22.4)
6
(6.3)
1
(1.0)
21
(22.4)
32
(34.0)
8
(8.5)
4
(4.3)
2
(2.1)
94
(100.0)
法人成り後の青色申告法人
14
(14.9)
5
(5.3)
2
(2.1)
14
(14.9)
27
(28.7)
9
(9.6)
14
(14.9)
11
(11.7)
94
(100.0)

 青色事業専従者給与の合計額が1200万円以上の者は6人で6.3%(最高21,600,000円)であるが、法人成り後の役員報酬(生計を一にする親族分)の合計額が1200万円以上の法人は25法人で26.5%(最高22,700,000円)と増加している。
 そして、上記94件のうち、法人成り前の青色事業専従者給与の合計額より法人成り後の役員報酬(生計を一にする親族分)の合計額の方が増加しているものは67件で71.2%であり、このうち増加率が100%以上のものも13件、13.8%ある。なお、同額であるものは17件で18.0%である。
 法人成り前の青色事業専従者の人数及び給与の状況と法人成り後の役員(生計を一にする親族)の人数及び報酬の状況を比較すると、表13のとおりである。

表13 青色事業専従者及び役員(生計を一にする親族)の給与等水準別人数
(単位:人 括弧内:%)
区分\給与又は報酬
300万円未満
300万円以上
600万円未満
600万円以上
900万円未満
900万円以上
1200万円未満
1200万円以上
1500万円未満
1
500万円以上
 
うち
100万円未満
法人成り前の青色事業専従者
8
(10.3)
1
(1.2)
24
(30.8)
32
(41.0)
8
(10.3)
5
(6.4)
1
(1.2)
78
(100.0)
法人成り後の役員
(生計を一にする親族)
28
(25.5)
21
(19.0)
24
(21.8)
26
(23.6)
10
(9.1)
16
(14.6)
6
(5.4)
110
(100.0)
法人成り後の役員
(その他の親族)
56
(84.8)
32
(48.4)
3
(4.6)
3
(4.6)
0
(0.0)
2
(3.0)
2
(3.0)
66
(100.0)

 青色事業専従者は78人(青色申告者1人当たり0.82人)である一方、法人成り後の役員(生計を一にする親族)は110人(1法人当たり1.17人)と増加している。
 青色事業専従者給与についてみると、300万円未満の者は8人で10.3%、300万円以上1200万円未満の者は64人で82.0%、1200万円以上の者は6人で7.6%である。一方、法人成り後の役員報酬についてみると、300万円未満の者は28人で25.5%、300万円以上1200万円未満の者は60人で54.5%、1200万円以上の者は22人で20.0%であり、青色事業専従者給与と比べると低額な者と高額な者の割合が高い。
 そして、役員報酬が300万円未満の者28人のうち、法人成り前は青色事業専従者ではなく法人成り後に新たに役員となっている者は24人である。この24人のうち、非常勤役員は15人であり、また、法人成り前は青色申告者の被扶養者であった者は18人である。
 なお、生計を一にする親族ではないその他の親族の役員が66人おり、役員報酬についてみると100万円未満の者は32人(48.4%)であり、そのうち非常勤役員は24人である。
 そして、法人成り前は青色事業専従者であり、法人成り後は役員となっている者73人について、これらの者の業務内容に大幅な変化があったのかについては把握できないが、法人成り前後での給与等の増減をみると、青色事業専従者給与より役員報酬の方が増加している者は53人で72.6%であり、このうち増加率が100%以上の者(最高297.3%)も11人、15.0%いる。
 青色事業専従者から役員となっている配偶者に青色事業専従者給与より高額な役員報酬を支払い、さらに、被扶養者から新たに役員となっている子に役員報酬を支払っている事例を示すと、次のとおりである。

<事例6>

 事業者H(医師)は、平成16年分の所得税の確定申告書において、事業収入1億0384万余円から経費等6165万余円を控除して事業所得4218万余円を算出している。上記の経費等の内訳についてみると、配偶者I(医師資格無、届出業務は受付、医療事務等)への青色事業専従者給与420万円を必要経費に算入している。そして、17年3月に法人成りしており、18年12月期の法人税の確定申告書等(収入9073万余円)における役員報酬についてみると、青色事業専従者であった配偶者Iへの役員報酬1200万円(青色事業専従者給与420万円に対して185.7%増)、Hの16年の確定申告書において扶養控除の対象だった子Jへの役員報酬350万円(常勤・経理担当)、同様の子Kへの役員報酬120万円(非常勤・監事)、合計1670万円を損金に算入している。

ウ 青色申告者等と関連同族法人との間の経費の支払状況

 個人事業者は、自らが株主又は役員となる法人(以下「関連同族法人」という。)を設立して関連同族法人に不動産の管理委託をすることにより、親族を関連同族法人の役員にして役員報酬を支払ったり、自らが役員報酬を受け取って給与所得控除を差し引いたりすることができる。そして、この関連同族法人への管理委託費については、実態等に照らして過大な支払を行う個人事業者が散見されることから、国税庁は重点的に調査・指導を行っている。
 そこで、正確な記帳による正確な申告を奨励するために設けられた青色申告制度において、前記の青色申告者である高額不動産所得者が、関連同族法人に管理委託費を支払い、そして、当該関連同族法人から本人又はその親族が役員報酬を受け取っている事態を分析することとした。
 高額不動産所得者1,054人のうち、管理委託費等を必要経費に算入している者は762人(72.2%)であり、そのうち管理委託費が明らかに関連同族法人に支払われていることを申告書上で確認できる者は21人(2.7%)(支払先の関連同族法人は22法人)である。管理委託費の最低額は1,485,714円、最高額は93,728,748円であり、平均額は24,334,557円となっている。また、不動産賃貸料収入に対する管理委託費の割合(管理委託の対象不動産を把握できないので不動産賃貸料収入は全額としている。)は、最低1.6%、最高29.6%であり、平均は12.4%となっている。
 この関連同族法人22法人の役員報酬についてみると、すべての法人で役員である青色申告者本人又はその親族に対して役員報酬を支払っており、その状況は、表14のとおりである。

表14 役員報酬の金額別人数
(単位:人)
役員報酬
300万円未満
300万円以上
600万円未満
600万円以上
900万円未満
900万円以上
1200万円未満
1200万円以上
1500万円未満
1500万円以上
平均額
役員数
17
(9)
13
(10)
11
(8)
3
(2)
7
(4)
6
(4)
57
(37)
6,903,333円
(6,926,486円)
(注)
 損金に算入されないものは除いている。また、括弧内は、親族であり内数である。

 青色申告者本人又はその親族である役員は57人(1法人当たり平均2.5人)であり、このうち青色申告者本人は20人、親族は37人である。
 役員報酬1200万円以上の者は13人で22.8%であり、このうち親族は8人である。そして、役員報酬が最も高額な者は18,000,000円(給与所得控除2,600,000円)であり、役員報酬の平均額は6,903,333円である。
 青色申告者が管理委託費を関連同族法人に支払い、その関連同族法人から本人等が役員報酬を受け取っている事例を示すと、次のとおりである。

<事例7>

 不動産所得者Lは、平成18年分の所得税の確定申告書において、不動産賃貸料等収入1億7280万余円から経費等9412万余円を控除して不動産所得7868万余円を算出し、給与所得636万円(収入840万円)等と合わせて、総所得金額を8650万余円としている。上記の経費等には、関連同族法人Mへの管理委託費3600万円(不動産賃貸料等収入に対する割合20.8%)が含まれている。同法人の18年7月期の法人税の確定申告書等によると、同法人は、同人の管理委託費のみを営業収益としており、同人への役員報酬840万円(給与所得控除204万円)、配偶者Nへの役員報酬360万円(給与所得控除126万円)、合計1200万円(役員報酬の法人の経費全体に占める割合は37.8%)を損金に算入している。

(4) 青色申告特別控除の検証状況

ア 青色申告特別控除等に係る要望の状況

 経済産業省は、青色申告特別控除について、青色申告の普及・奨励をしつつ、適正な記帳慣行を確立し、記帳水準を一層向上させることにより青色申告の質的向上を図り、青色申告制度の健全な発展を図ることなどのために、7、8、9、10各年度の税制改正要望において、青色申告者の勤労性を考慮した特別控除額の引上げを要望して、9年度及び14年度において、青色申告特別控除の簡易な簿記の方法により記録している者についての経過措置の延長(9年度は正規の簿記の原則に従い記録している者と同額の35万円、14年度は45万円の適用)を要望している。また、みなし法人課税の廃止によりなくなった青色申告者の勤労性への配慮として、11年度以降は、特別控除額の引上げではなく、新たな制度の創設の要望を毎年度行っている。そして、経済産業省は中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例、中小企業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除などについて、各種の要望を行っているが、これらは青色申告の普及・奨励を図るための青色申告の特典でもある。

イ 税制改正の要望の際の検証の状況

 青色申告特別控除に係る税制改正要望を経済産業省は上記のとおり7、8、9、10、14各年度において行っており、14年度の要望の内容及びその際の検証の状況は、表15のとおりである。

表15 経済産業省の平成14年度税制改正要望(青色申告特別控除関係)
内容
要望の内容
(要約)
 青色申告に係る個人事業主の勤労性に配慮するため、個人事業主の所得から給与所得控除額の1/2相当額(最低控除額65万円)を控除する制度を所得税法上に創設する。
 青色申告特別控除の簡易な簿記の方法により記録している者についての適用(控除額45万円、適用期間5年〜14年)を延長する。
減税見込額
調査中
政策の達成目標
 青色申告者である個人事業者の勤労性を正当に評価し、法人税と所得税の間の課税の不公平を解消する。

 特別措置の適用状況に関するデータの収集や特別措置の効果の測定には難しい面があるとして、この要望書においては、減税見込額欄が調査中となっていて具体的な減税見込額は記載されていなかった。また、この要望書において、青色申告者の勤労性に配慮した新たな制度の創設も併せて要望していて、政策の達成目標欄の内容はこの新たな制度のものであり、青色申告特別控除に係る要望の達成目標は記載されておらず、政策の達成目標が明確になっていなかった。そして、同様の事態が10年度等の要望書でも見受けられた。
 財務省は、経済産業省から提出を受けたこれらの要望書等に基づいて検証を行っていた。

ウ 政策評価法による検証の状況

 経済産業省は、政策評価法に基づき「政策評価基本計画」(計画期間は18年度から22年度までの5年間)及び「事後評価実施計画」(毎年度)を定めて、経済産業省の行政分野全般について6政策・34施策に整理して、施策を基本的な単位とし、施策の成果に着目して設定した目標の達成度合いを評価する実績評価を行うことを基本としている。また、必要に応じて個別に事業レベルでの評価(事業評価)を行うこととしている。19年度においては、事前評価においては34施策すべてについて、事後評価においては15施策について、評価を行っている。
 19年度の政策−施策−事業体系において、記帳指導等による小規模事業者の経営の改善・発達を支援するための日本商工会議所及び全国商工会連合会に対する補助金は、施策「経営革新・創業促進」の施策目標を実現するための具体的措置として位置付けられていたが、適正な記帳慣行を確立して、申告納税制度の実をあげるとともに事業経営の健全化を推進するための青色申告特別控除は、施策目標を実現するための具体的措置として位置付けられていなかった。
 一方、青色申告の他の特典でもある、中小企業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除や中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例などは、施策「経営安定・取引の適正化」などの施策目標を実現するための具体的措置として位置付けられていた。
 なお、20年度から、青色申告特別控除は、施策「経営革新・創業促進」の施策目標を実現するための具体的措置として位置付けられている。
 財務省は、政策評価法に基づき「政策評価に関する基本計画」(計画期間は20年度から24年度までの5年間)及び「政策評価の実施に関する計画」(毎年度)を定めて、事前評価については事業評価方式、事後評価については実績評価方式により行うことを基本としている。そして、実績評価の実施に当たり、あらかじめ財務省の主要な政策分野すべてについて、38の「政策の目標」(総合目標6、政策目標27、組織運営の方針5)、その細目となる目標(業績目標)を設定している。なお、政策目標には実施庁である国税庁が達成すべき目標も含まれており、財務省はこの目標に対する実績の評価も同様に行うことになっている。
 19年度の実績評価(国税庁分を含む。)においては、業績目標「納税者の視点に立った適切な情報の提供、相談等に対する迅速かつ的確な対応」の施策として、青色申告特別控除等の特典がある青色申告制度の説明と勧奨を行うなどして青色申告の普及に努めることとなっており、その状況を把握するための指標として「所得税青色申告承認者数」が利用されていたが、青色申告特別控除そのものは実績評価に取り込まれていなかった。

4 本院の所見

(1) 検査の状況

 青色申告特別控除は、青色申告の一層の普及・奨励を図り、適正な記帳慣行を確立して、申告納税制度の実をあげるとともに事業経営の健全化を推進するための特別措置であり、青色申告制度は、申告納税制度が適正に機能するよう、正確な記帳による正確な申告を奨励するための制度である。
 このような青色申告特別控除等の目的、必要経費に算入できない家事関連費等に係る議論等を踏まえて、合規性、有効性等の観点から、青色申告特別控除の適用状況、青色申告者の必要経費の状況等について、税務署の調査・指導が行われる前の納税者の自主的な申告である確定申告書等により検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 青色申告特別控除の適用状況

(ア) 営業等所得者の青色申告割合は57.2%であり、所得水準別にみると、総所得金額等1000万円以上の者で87.1%、総所得金額等300万円未満の者で50.0%となっている。

(イ) 高額営業等所得者のうち、青色申告者は93.4%、65万円控除適用者は83.8%である一方、白色申告者も6.6%いる。また、高額不動産所得者のうち、青色申告者は81.6%、65万円控除適用者は40.8%である一方、白色申告者も18.4%いる。

イ 青色申告の他の特典の適用状況

 青色申告特別控除以外の青色申告の特典の適用率についてみると、高額営業等所得者において、青色事業専従者給与の必要経費算入が64.6%、一括評価による貸倒引当金の設定が48.9%、中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例が39.1%である。特典別の減税相当額を試算すると、青色申告特別控除についてはすべての者が240,500円であり、青色事業専従者給与の必要経費算入については平均額は2,511,718円で最も高い者は6,110,000円であり、青色事業専従者給与の必要経費算入の方が減税相当額は高い。

ウ 青色申告者(青色申告特別控除の適用者)の必要経費の状況等

(ア) 青色申告者の必要経費の状況

a 青色事業専従者給与についてみると、高額営業等所得者において給与額1200万円以上の者は840人のうち120人で14.2%であり、このうち、医師等の資格保有者は79人で65.8%である一方、総務、経理及び事務の者は41人で34.1%である。
b 接待交際費についてみると、高額営業等所得者において、支出額1200万円以上の者は1,212人のうち38人(最高額107,789,221円)で3.1%、対売上比率5%以上の者は56人(最高比率18.8%)で4.6%である。
c 減価償却費(事業用車両分)についてみると、高額営業等所得者及び高額不動産所得者で事業用車両の取得価額を確認できる1,040人、1,893台のうち、取得価額800万円以上の車両を保有している者は225人で21.6%、その台数は265台で13.9%である。そして、この225人のうち取得価額800万円以上の車両を複数台保有している者は33人で14.6%であり、また、この265台のうち事業割合を100%としている車両は107台で40.3%である。

(イ) 法人成り前の青色申告者の必要経費と法人成り後の青色申告法人の経費との比較

 法人成り94件のうち、法人成り前の青色事業専従者は78人である一方、法人成り後の役員(生計を一にする親族)は110人と増加している。また、法人成り前は青色事業専従者であり、法人成り後は役員となっている者73人のうち、法人成り前の青色事業専従者給与より法人成り後の役員報酬の方が高い者は53人で、72.6%である。

(ウ) 青色申告者等と関連同族法人との間の経費の支払状況

 高額不動産所得者1,054人のうち関連同族法人に管理委託費を支払っていることが確認できる青色申告者は21人(22法人)であり、この22法人すべてで役員である青色申告者本人又はその親族に対して役員報酬を支払っており、その役員数は57人である。

エ 青色申告特別控除の検証状況

 経済産業省が青色申告特別控除額に係る要望を行う際の検証においては、政策の達成目標が明確になっていないなどの課題が見受けられた。そして、財務省は提出を受けたこれらの経済産業省の検証による要望書等に基づいて検証を行っていた。
 経済産業省の政策評価においては、青色申告の特典でもある、中小企業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除などは施策目標を実現するための具体的措置として位置付けられていたが、青色申告特別控除は19年度までは施策目標を実現するための具体的措置として位置付けられていなかった。そして、財務省の政策評価においては、青色申告制度の説明と勧奨を行うなどして青色申告の普及に努めることとなっており、その状況を把握するための指標として所得税青色申告承認者数が利用されていたが、青色申告特別控除そのものは評価に取り込まれていなかった。

(2) 所見

 申告書等による検査では、事業の実態を反映させた正確な記帳による正確な申告を行っているのかを十分には把握できない面もあるが、税務署の調査・指導が行われる前の納税者の自主的な申告である確定申告書等により検査したところ、高額所得者においても一定数の白色申告者が見受けられたり、高額な青色事業専従者給与を支払っている者、高額な接待交際費を支払っている者などが見受けられたりした。
 経済産業省は、特別措置の適用状況に関するデータの収集や特別措置の効果の測定には難しい面があるとしているが、青色申告特別控除の検証の内容を一層充実することにより、政策の実効性を高めていくとともに国民に対する説明責任を果たしていくことが肝要である。
 そして、財務省は、申告納税制度が適正に機能するよう、青色申告特別控除等について今後とも十分に検証していくことが肝要である。
 国税庁は、申告納税制度が適正に機能するよう、記帳指導、各種説明会等を通して青色申告の普及・奨励を図ったり、申告が適正でないと認められる納税者に対して調査・指導を行ったりするなどしているところであるが、正確な記帳による正確な申告を実現するための取組を一層充実していくことが肝要である。
 本院としては、今後とも特別措置の適用状況等について、引き続き注視していくこととする。