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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成20年7月

厚生労働省において、療養給付費負担金の交付額の算定を適切なものにするため、国民健康保険における退職被保険者の被扶養者の適用を的確に行うよう改善させたもの


2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 20年度に新たな高齢者医療制度が創設されたことに伴い、退職者医療制度は廃止されることとなったが、26年度までの間に退職被保険者等となった者については、65歳に到達するまで、退職者医療制度を存続させる経過措置が執られることとなった。そして、20年度以降数年間は、退職被保険者等の数は増加することが見込まれており、引き続き退職被保険者等の適用を的確に行うなどその適切な運用が求められている。
 また、前記のとおり、退職被保険者については、届出を省略した適用ができるよう制度改正が行われたところであるが、退職被扶養者については、引き続き届出を省略した適用は認められておらず、専ら届出を勧奨するなどして適用が行われてきた。
 そこで、経済性等の観点から、国民健康保険の保険者である市町村において、退職被扶養者の適用が的確に行われ、ひいては、国庫負担金の交付額の算定が適切に行われているかに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 会計検査院は、17年11月から19年6月まで、28都道府県(注6) の277市区において、当該市区が届出を省略した適用を行った退職被保険者と同一世帯に属する退職被扶養該当者の適用状況等について被保険者台帳等の書類により会計実地検査を行った。

 28都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、山形、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、新潟、福井、長野、静岡、愛知、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、徳島、香川、高知、福岡、長崎、鹿児島各県

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

ア 届出勧奨を的確に行っていないもの

 上記の277市区のうち、28都道府県の211市区では、16年度に73,106人の退職該当者に届出を省略した適用を行い、退職被保険者としていた。そして、当該市区の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用して、退職被保険者に係る個別の世帯の状況及び収入額を確認したところ、当該退職被保険者と同一の世帯に属する者のうち、退職被扶養該当者と認められる者は35,062人であることが判明した。
 211市区では、退職被保険者の属する世帯に退職被扶養者の資格取得の届出を勧奨する文書を送付するなどの届出勧奨を行っていた。しかし、その後は、当該市区の保有する情報を活用することなく、退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯の把握や、届出を行わない世帯に対する再度の届出勧奨を行っていなかった。このため、退職該当者に届出を省略した適用を行ってから1年以上経過した17年度末においても、退職被扶養者の適用が行われていない一般被保険者(以下「未適用者」という。)は14,175人、退職被扶養該当者に対する未適用者の割合(以下「未適用率」という。)は40.4%となっていた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A市では、平成16年度に249人の退職該当者に届出を省略した適用を行っていた。そして、同市の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用して、退職被保険者に係る個別の世帯の状況及び収入額を確認したところ、当該退職被保険者と同一の世帯に属する者のうち、退職被扶養該当者と認められる者は124人であることが判明した。
 同市では、上記の適用に当たり、退職被保険者249人の属する世帯に、退職被保険者の被保険者証を郵送していたが、併せて、退職被扶養該当者がいる場合は市役所に出向いて届出を行うよう勧奨する文書を同封していた。しかし、その後は、同市の保有する情報を活用することなく、退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯の把握や、届出を行わない世帯に対する再度の届出勧奨は行っていなかった。このため、退職該当者に届出を省略した適用を行ってから1年以上経過した17年度末においても、未適用者は69人、未適用率は55.6%となっていた。

イ 届出勧奨を的確に行ってもなお未適用者がいるもの

 一方、前記の277市区のうち、211市区以外の20都道府県の66市区では、16年度に9,060人の退職該当者に届出を省略した適用を行い、退職被保険者としていた。そして、当該市区の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用して、退職被保険者に係る個別の世帯の状況及び収入額を確認したところ、当該退職被保険者と同一の世帯に属する者のうち、退職被扶養該当者と認められる者は3,820人であることが判明した。
 66市区では、退職被保険者の属する世帯に退職被扶養者の資格取得の届出を勧奨する文書を送付するなどして届出勧奨を行っていた。そして、その後退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯がある場合は、当該市区の保有する情報を活用してそれを把握した上で、これらの世帯に対し、電話、文書等により再度の届出勧奨を行っていた。この結果、42市においては未適用者がいなくなったが、24市区では退職該当者に届出を省略した適用を行ってから1年以上経過した17年度末においても、未適用者は712人、退職被扶養該当者2,425人に係る未適用率は29.3%、66市区の全体でみると18.6%となっていた。
 上記のとおり、届出勧奨を的確に行っている66市区における未適用率は、的確に行っていない211市区における未適用率よりも低くなっていた。また、66市区では届出勧奨を的確に行ってもなお、一部の市区において未適用者が相当数に上る状況となっていた。
 このように、退職被扶養者の適用が的確に行われていない事態は、国民健康保険と被用者保険との間の費用負担の不合理を是正し、国民健康保険の健全な財政運営を図るために設けられている退職者医療制度の趣旨にそぐわないものである。また、退職被扶養者の適用を的確に行っている保険者と的確に行っていない保険者との間で国庫負担金の交付が公平を欠く結果にもなっている。これらのことなどから、上記の事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(過大に交付される結果となっていた国庫負担金)

 前記アの211市区と、イの24市区との計235市区の17年度末における未適用者14,887人に係る退職者該当年月日から17年度末までの医療給付費は計49億3662万余円(13年度〜17年度)であり、これに係る国庫負担金計18億8219万余円が過大に交付される結果となっていると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 厚生労働省において、前記の事態について十分に把握しておらず、市区の保有する被保険者の収入等に関する情報を活用し、退職被扶養該当者がいるのに届出を行わない世帯を把握することなどにより、届出を省略した適用が可能となるのに、退職被扶養者に係る届出を省略した適用についての制度を整備していなかったこと
イ 市区において、退職被扶養者に係る届出勧奨を的確に行っていなかったこと、また、都道府県において、市区における届出勧奨の実施状況を十分把握しておらず、当該市区に対する助言が十分でなかったこと、さらに、厚生労働省において、退職被扶養者に係る届出勧奨の具体的な方法などについて明確に示していなかった