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  • 平成19年12月

裁判員制度に係る広報業務の実施状況について


3 検査の状況

(1) 最高裁判所

ア フォーラムにおける新聞社による不適切な募集

 前記のとおり、17、18両年度のフォーラムの運営を行っている地方新聞社の発表等によれば、フォーラム4回において2新聞社が不適切な募集を行ったとしている。
 上記の事態について、フォーラムの請負業者である電通は、運営を行った全地方新聞社から聞き取りを行い、最高裁判所にその状況及び再発防止策について報告を行った。また、不適切な募集を行った2新聞社はいずれも、募集に係る経費については、フォーラムの運営費とは別に支払ったとしており、最高裁判所においても、上記の2新聞社が提出した請求書において、謝礼金が含まれていないことを確認したとしていた。
 そして、会計検査院が検査した範囲では、2新聞社が不適切な募集に要した経費について、最高裁判所が電通を通じて請求を受けて経費を負担している事態は、現時点で見受けられなかった。

イ 企画競争随契に係る不適切な契約手続

(ア) 契約書の事後作成

 最高裁判所では、14件の契約において、事業の実施を先行させ、契約書の作成等を事後に行っており、このうち3件については、契約書の作成を履行の完了後に行っていた。そして、上記14件のうち10件において、用度課では、事後に契約書を作成する際に、契約書の日付を実際の日付よりさかのぼって記載していた。これを17年度フォーラムを例として、「裁判員制度タウンミーティングの企画及び企画実施業務」(契約金額3億4126万余円)について示すと、図1のとおり、事実と異なる契約年月日については、おおむね契約内容の中心事項が履行される日以前の日付になるようにしていた。なお、上記14件中の残りの4件については、上記のような事態が国会で指摘された時点(19年2月14日)では契約書を作成していなかったがその後契約書を作成したものである。

図1 平成17年度フォーラムにおける実際の契約手続の例(表3番号3 参照)

図1平成17年度フォーラムにおける実際の契約手続の例(表3番号3参照)

 また、14件の契約については、最高裁報告書の記載のほか、次のような事態が見受けられた。
a 契約に係る内部決裁等についても、用度課では、契約書の日付と同様に起案及び決裁の日付をさかのぼって記載していた。
b ホームページに事実と異なる契約年月日を公表していたものが9件あり、公表の有無が確認できないものが3件あった。
c 特例政令の適用がある4件については、いずれも事実と異なる契約年月日を官報に公示していた。
 これら不適切な契約手続の状況を態様別に整理すると表3のとおりとなる。そして、これら14件の企画競争随契について、招請の公示、仕様の詳細決定、予定価格算定、契約書の締結等の実際の日付と書面上の日付を整理すると別表1のとおりとなる。

表3
 14件の契約における不適切な契約手続の状況

番号 年度 契約名 契約金額
(千円)
態様
1 2 3 4 5 6
1 平成17 裁判員制度広報用ビデオの制作 14,000      
2 17 裁判所ウェブサイトリニューアル等業務一式 31,198      
3 17 裁判員制度タウンミーティングの企画及び企画実施業務
図1 参照)
341,268        
4 17 裁判員制度広報用ロゴ等の製造 2,880      
5 17 裁判員制度広報のメディアミックス企画及び企画実施業務 599,550   注(2)
   
6 17 裁判員制度広報用映画の制作 69,997        
7 18 裁判員制度タウンミーティングの企画及び企画実施業務 339,983        
8 18 裁判員制度広報メディアミックス企画及び実施業務 599,970      
9 18 映画予告編広告(シネマアドバタイジング)用コンテンツの制作 19,700      
10 18 裁判員制度広報用映画の制作 68,880        
11 18 映画予告編広告(シネマアドバタイジング)用コンテンツ上映の実施業務 25,993      
12 18 裁判員制度広報用イラスト入りパンフレットの製造 12,957        
13 18 裁判員制度広報用アニメーションの制作 27,996          
14 18 裁判員制度メールマガジン開設等作業請負業務 4,620          
  3 10 4 9 3 4

注(1)
 態様欄の1から6までの区分は次のとおりである。
 履行完了後に契約書が作成されていたもの
 契約書を作成する際に事実と異なるさかのぼった契約年月日を記載していたもの
 本件事態が国会において指摘された日(平成19年2月14日)以降に契約書を作成したもの
 事実と異なる契約年月日をホームページに公表していたもの
 ホームページでの公表の有無が確認できないもの
 特例政令の適用があるもので、事実と異なる契約年月日を官報に公示していたもの
注(2)
 変更契約についてもさかのぼった契約年月日を記載していた。

 また、上記の14件以外の契約についても検査したところ、確認できた範囲において、17、18両年度における他の企画競争随契(21件、契約金額計3億5891万余円)及び企画競争随契以外の裁判員制度広報関連契約(2件、契約金額計656万余円)についても、契約書の作成等の手続を実際には履行の着手後に行っているなどの事態が見受けられた(契約の詳細については別表2 参照)。
 なお、法務省では、企画競争随契の手続に当たり、業者の選定が終わった後も、仕様が確定し契約書を作成するまで業者が契約内容の履行に着手することのないよう、契約担当局課から選定業者に対して指示を行っていたとしており、検査した範囲では、契約書の作成等の手続を事後に行うなどの不適切な処理は見受けられなかった。

(イ) 随意契約理由の妥当性の検討

 最高裁判所では、企画競争の実施に際し、企画競争随契とする理由の妥当性について用度課内でりん議を行うことになっているが、企画競争の実施伺い等の決裁書類中に競争入札によらない理由についての具体的な記述がなく、随意契約とする理由の妥当性についてどのような検討がなされていたか、事後に確認できない状況となっていた。
 したがって、最高裁判所においては、競争入札によらない理由を決裁書類で明確にし、随意契約の妥当性について検討した結果を適時適切に記録しておくなどする必要があると思料される。

(ウ) 業者の選定手続

 企画競争において提案書を審査する基準(以下「審査基準」という。)に複数の評価項目を設定し、参加業者に示すなどの方法は、発注者がどのような企画を求めているかを参加業者に具体的に伝達するとともに、発注者によって不透明な業者選定が行われないようにするという、競争性、透明性の確保のために必要なものである。
 そこで、審査基準の評価項目の設定状況等についてみると表4のとおりとなっていた。

表4
 評価項目の設定、提示額に対する評価及び採点方法

番号 年度 契約名 〔1〕 評価項目の設定 〔2〕 提示額に対する評価 〔3〕 採点方法
複数の項目 大項目ごとの配点 小項目ごとの配点 提示額の多寡で評価 積算の合理性等で評価
1 平成17 裁判員制度広報用ビデオの制作 注(2)
×
×   注(3)
2 17 裁判所ウェブサイトリニューアル等業務一式  
3 17 裁判員制度タウンミーティングの企画及び企画実施業務 ×  
4 17 裁判員制度広報用ロゴ等の製造 × × (提示額に対する評価なし)
5 17 裁判員制度広報のメディアミックス企画及び企画実施業務 ×  
6 17 裁判員制度広報用映画の制作 ×  
7 18 裁判員制度タウンミーティングの企画及び企画実施業務 ×  
8 18 裁判員制度広報メディアミックス企画及び実施業務 ×  
9 18 映画予告編広告(シネマアドバタイジング)用コンテンツの制作 ×  
10 18 裁判員制度広報用映画の制作  
11 18 映画予告編広告(シネマアドバタイジング)用コンテンツ上映の実施業務  
12 18 裁判員制度広報用イラスト入りパンフレットの製造 ×  
13 18 裁判員制度広報用アニメーションの制作 ×  
14 18 裁判員制度メールマガジン開設等作業請負業務  
○ 14
△ -
× -
○ 10
△ 2
× 2
○ 2
△ 2
× 10
5 8 ○ 4
△ 9
- 1

注(1)
〔1〕 評価項目の設定及び〔3〕 採点方法欄の○印等の区分は次のとおりである。
〔1〕 :○
 説明会時に参加業者に示されているもの
   説明会時に参加業者に示されていないが、採点の際に設定されているもの
  ×  設定されていないもの又は不明なもの
〔3〕 :○
 小項目ごとに評価し、加算して採点しているもの
   大項目ごとに評価し、加算して採点しているもの
   不明
注(2)  すべての項目が同比重となっているが、その旨は説明会時の資料では開示していない。
注(3)  大項目ごとに5段階評価を行っている。

a 審査基準における評価項目の設定等

 最高裁判所の前記14件の企画競争随契では、審査基準が複数の評価項目から構成されており、そのうち大項目の配点については10件が説明会時に参加業者に示されていた。
 上記の10件のうち2件では、総合点を3ないし6個程度の大項目に割り振り、更にこれを2ないし7個程度の小項目に区分した上で採点することとされており、評価者は比較的容易に評点を付けることができ、この評点を集計すれば、自動的に優劣がつけられるような形式となっていた。一方、他の契約では、小項目に区分されているものの、それぞれの配点が示されていないものが多数見受けられた。今後、最高裁判所においては、審査基準の小項目ごとの配点を示したり、評点の指標について明確な基準を設けたりするなど、透明性の確保に向けてより工夫する必要があると思料される。
 また、審査基準の小項目ごとの配点が明確に示されていないことは、当初選定された企画全体のうちどの企画にどの程度の評点を付けたのかが明確とならないため、企画を変更する必要が生じた場合に、新たに実施するものを含めた企画全体と変更前の企画全体とが同一性を保ち、業者を選定した趣旨を損なうことがないか、またそのためにどのような配慮を行ったのかが十分確認できないという点でも問題がある。この意味においても、透明性の確保のために、評価者の評価と採点との結び付きが明確となるような工夫が求められる。
 これについて事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

 平成17年度メディアミックス契約(請負業者廣告社株式会社(以下「廣告社」という。)、契約金額5億9955万円)の業者選定に当たり、最高裁判所では五つの大項目を評価項目としていた。その後、仕様の確定に当たり、当初提案書に記載された事項のうち金額でおおむね3割に相当するラジオ及び地方紙への広告をほぼ同額で他の企画に変更していた。これについて最高裁判所では、実施されないこととなるラジオ及び地方紙への広告を含めた変更前の企画全体と新たに実施するものを含めた企画全体との同一性を保つように配慮したとしている。しかし、最高裁判所では、五つの大項目ごとの採点は行っていたが、小項目ごとに評価を行ったり、評点について明確な基準を設けたりしていなかった。このため、評価者の評価と採点との結び付きが明確になっておらず、企画全体の同一性を保つために、最高裁判所においてどのような配慮を行ったのか明確に確認できない状況となっていた。

b 提示額に対する評価

 最高裁判所における前記14件の企画競争随契では、いずれも、説明会において、文書又は口頭で契約の上限金額等として目安となる金額が参加業者に示されていた。そして、参加業者が企画案の見積りとして提示した額(以下「提示額」という。)は、一部を除きおおむね最高裁判所の示した目安となる金額に近接していた。
 このような状況となっているのは、説明会において、提示額に対する評価方法を説明せずに目安となる金額のみを示したことから、各業者の提案においては、提示額の多寡よりも、最高裁判所が示した目安となる金額で実施することができる企画とすることに重点が置かれたことなどに起因していると思料される。また、実際の採点において、提示額の多寡を直接採点に反映していたものは、表4のうち〔2〕 に示すように14件中5件となっていた。企画競争随契による場合に、上限金額等として目安となる金額を示しつつ、経費面における競争性、透明性をより高めていくためには、審査基準中の「経費」の項目において、参加業者の提示額の多寡がどの程度評価されるかについて、できる限り明確にしていくなどの工夫が望まれる。さらに、業者の提示額の多寡を含めて採点する場合には、総合評価方式による一般競争入札の実施が可能かについても検討することが必要である。

c 企画の採点方法及び審査手続

 最高裁判所においては、企画競争の参加業者が提案書を基にプレゼンテーションを行った後、まずこれに参加した経理局を含めた関係局課のメンバーによって、それぞれの企画に対する検討を行い、企画選定の方針案を協議していた。その後、この協議結果に沿って担当者が作成した評点案を素案として、関係局課においてそれぞれ決裁を経る手続が行われ、最終的には刑事局長等が業者を選定するという方式が執られていた。
 しかし、企画の審査に当たって、前記aのとおり、審査基準において小項目ごとの配点を示したり、評点の明確な基準を設けたりなどしていれば、企画の検討を行ったメンバーが各項目を採点し、これを集計することでより客観的で透明性のある評点の算定が可能となると思料される。

(エ) 予定価格

 予定価格については、仕様が確定した後、業者から見積書を徴取し、その項目ごとに積算資料、参考見積りなどから積算を行っているとしている。そして、最高裁報告書によれば、見積りのチェックを厳格に行うことに傾注したことが契約締結作業の遅れの一因であるとしている。しかし、予定価格の算定について、次のような事態が見受けられた。

a 積算方法

 積算方法についてみると、選定業者が提出した見積書の総額と最高裁判所が積算資料等に基づいて算定した積算額とを比較し、総額が安価な見積額をそのまま採用しているものや、選定業者の見積額と最高裁判所が算定した積算額とを内訳項目ごとに比較し、項目ごとに安価な方を採用して積み上げているものがあるなど、同種の契約に対して積算方法が統一されていない状況となっていた。また、新聞広告掲載料の積算に当たり、複数の者から参考見積書を徴することなどにより予定価格を低減させることが可能な場合があるのに、各新聞社が料金表等で示している金額のみにより算定していた。

b 予定価格の算定

 仕様の詳細決定の遅れ及び業務の集中により、短時間で予定価格の算定を行わなければならなかったことなどから、過大な積算となっていたり、算定すべき費用を加算していなかったりしていた。また、業者の選定後、仕様の詳細や予定価格が改定され、契約締結に至るまでの過程で企画、仕様等が変更になる場合には、その変更内容を積算に反映すべきところ、これを反映しないまま予定価格を算定していた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

 最高裁判所では、平成17年度フォーラム契約(請負業者電通、契約金額3億4126万余円)の予定価格の積算に当たり、新聞広告掲載料について、モノクロ料金とすべきところを誤ってカラー料金として算定するなどしたため、6390万余円が過大となっていた。また、フォーラムの実施に当たって、実際には作業しない人員を見込んでいたなどのため、2110万円が過大となっていた。一方で、各フォーラム会場の事務局関係費や会場で必要な制作物等について算定すべき費用を加算していなかったものなどがあり、これらを修正して計算した修正算定額は、最高裁判所が算定した予定価格に比べて4310万余円低額となる。なお、修正算定額は契約金額を上回っている。
 また、同じ事業を年度別に比較したところ、それぞれの事業内容が同様であるにもかかわらず、その内訳をみると、それぞれの項目の金額が著しく変動しているものが見受けられた。これは、前年度の積算を次年度において実態に即して見直したことによるほか、最高裁判所の積算額が、選定業者の見積書の金額と著しく異なったため、項目ごとに金額を増減させるなどして調整を行ったものと推測される。このような処理を経た積算は、実態を的確にとらえたものとはなっていないと認められる。
 これについて事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

 平成18年度裁判員制度広報用映画の制作契約(契約金額6888万円)の予定価格の積算に当たり、最高裁判所では、積算資料等に基づいて算定した積算額と選定業者から提出された見積書の金額とを項目ごとに比較し、安価な方を集計するなどして予定価格を算定していた。このため、予定価格が選定業者から提出された見積額総額を下回ることになった。そこで、最高裁判所は、予定価格が見積額総額を上回るようにするため、選定業者に対し、見積書の金額を項目ごとに増減させるなどの調整を依頼していた。なお、最高裁判所が積算資料等に基づいて算定した積算額の総額はこの見積額総額を上回っている。

ウ 広報業務の実施

(ア) 契約書類の内容

 広報業務の実施は、契約書・仕様書に基づいて行われるべきものであるが、前記のとおり、最高裁判所ではこれら契約書類の作成を事後に行っていた。
 また、事後に作成された契約書類についても、業者の提案書をほぼそのままの形で仕様書としていて、必要な条件が明記されていなかったり、契約後に生じた変更内容等を反映した契約の変更が適切に行われていなかったりするなど、契約書類の記載事項について十分な検討・チェックがなされないまま形式的に契約書類が作成されているものが、次のとおりあった。

a 契約書類の記載事項

 タレントを起用する広報では、制作物についてその媒体や使用期間に制限があることが通例であり、そのような制限の内容を契約書類に明記しておくことが必要である。
 しかし、最高裁判所において、請負業者から納品された制作物に係る使用期間等を契約書類に明記していないものが次のとおり見受けられた。

<事例4>

 平成18年度メディアミックス契約(契約金額5億9997万円)において、最高裁判所はタレントを掲載した制作物について1年間使用することを必要としていたことから、選定業者である廣告社は、本件契約におけるタレントの起用に際し、同社とタレントのスケジュールを管理しているA社との間で、最高裁判所の広報活動のためになされるタレントの広告出演及び当該出演による制作物の使用の期間を18年10月1日から19年9月30日までの1年間とする契約(以下「広告出演・使用契約」という。)を締結した。
 最高裁判所は、メディアミックス契約が18年度末に終了し、全額を支払った後も、納品された制作物を広告出演・使用契約に基づき19年9月30日まで継続して使用できることについて、事前に廣告社に確認し、事後的にも広告出演・使用契約に係る契約書の写しを廣告社から受領して確認をしていたものの、その旨をメディアミックスの契約書・仕様書に記載していなかった。
 なお、最高裁判所は、19年度のメディアミックス契約について、使用期間の合意を契約書に明記したとしている。

b 契約の変更

 個々の契約内容が仕様書に基づき実施されているかについて検査したところ、契約締結後に事業の変更や事業の一部不実施があったにもかかわらず、契約の変更が適切に行われていないものが次のとおり見受けられた。

<事例5>

 最高裁判所では、平成18年度フォーラム契約(請負業者電通、契約金額3億3998万余円)において、仕様書では、各会場でのフォーラム実施後、開催を運営した地方新聞社の新聞に、フォーラムの概要と共に啓発広告を掲載することとしていた。そして、その新聞広告の原稿を請負業者である電通が作成することを前提に、同社の見積金額に基づき(このうち原稿制作費270万円)契約書を作成した。しかし、最高裁判所では、契約締結後に、メディアミックス契約で廣告社が作成した図柄を編集して新聞用原稿とし、啓発広告として掲載するよう電通に仕様書とは別の指示を行い、図柄の編集費用26万余円を電通から廣告社に直接支払わせた。しかし、最高裁判所ではこれに応じて契約額を減額するなどの検討を行っていなかった(図2 参照)。

図2 平成18年度フォーラムの新聞用原稿作成の関係

図2平成18年度フォーラムの新聞用原稿作成の関係

(イ) 監督・検査体制

a 履行完了時の検査における契約書等の不備

 履行完了時の検査は契約書・仕様書の内容が適切に履行されているかを確認する行為であるが、前記のとおり仕様が明確でない又は適切に変更されていない状態であったり、契約内容の履行が完了した時点で契約書が作成されていなかったりしていたことから、検査がこれらの書類に基づいて実施されていなかった。

b 監督・検査の相互牽制等

 契約履行時の立会い、指示等の監督の職務及び給付の完了を確認する検査の職務は、契約の適正な履行を確保する上で重要なものであり、前記のとおり、相互牽制のため特別の必要がある場合を除き両者を兼ねることはできないとされている。しかし、監督職員が任命されずに担当局課の職員が事実上の監督行為を行い、またそのうちの1名が検査職員に任命されているなど、監督の職務と検査の職務の区別が明確でないものが、フォーラム、メディアミックス、広報用映画の制作等の10契約で見受けられた。
 また、フォーラムにおける現地での確認状況についてみると、検査職員は現地で総合統括として当日立ち会った地方裁判所の総務課長等から報告を受け、業者からの報告書と併せて確認するだけで検査を行っていた。そして、18年度においては、検査職員は各地方裁判所に対し、運営マニュアルどおり開催されたか、スタッフの人数等を確認するなどした上で、開催後に電話等で報告することなどを指示していた。なお、最高裁判所では17年度においても同様の確認・報告方法が執られたとしているが、最高裁判所から各地方裁判所への具体的な指示を示す資料が確認できない状況となっている。しかし、このような場合は、フォーラムを開催した地方裁判所ごとに監督職員を任命するなどして、現地での確認を実施する職員の責任を明確にする必要があったと思料される。

(ウ) 制作物の利用状況

 17、18両年度の裁判員制度広報用映画制作に係る請負契約において取得した35mmフィルム3本(取得価額相当額計1714万余円)について、取得することについての事前の具体的な調査・検討及び取得後の使用計画の検討や、貸出しなどについての市町村等の関係機関に対する周知が十分でなかったことなどのため、1本が一度使用されたのみで貸出しの実績は全くなく、取得の目的に沿った利用がなされていなかった。
(平成18年度決算検査報告「裁判員制度広報用映画制作に係る請負契約において取得した35mmフィルムについて、具体的な使用計画を検討するなどして有効に利用するよう改善させたもの」 参照)

エ 裁判員制度広報の実施体制、内部牽制等の状況

 最高裁判所では、裁判員制度広報に際し、フォーラム、メディアミックス等については総務局、映画、ビデオの作成等の裁判手続の紹介については刑事局、ウェブサイトの構築、メールマガジンの実施等の一般広報については広報課といった広報実施局課の割当てを行っている。一方、契約事務については、前記のとおり、用度課が所掌しており、内部監査については事務総局経理局監査課(以下「監査課」という。)が担当している。
 そこで、各局課間の連携は十分行われているか、内部牽制は機能しているかなどについてみると、次のとおりとなっていた。

(ア) 広報実施局課と用度課との連絡調整

 広報実施局課は、予定価格及び契約書の作成に必要な仕様の確定について、契約事務の担当である用度課に対し、決裁等を経た文書による依頼通知を行っていないなど、適時適切な連絡調整がなされていなかった。そして、広報実施局課は、業者選定後に契約書が未作成のまま、当該業者に企画内容を履行させていた。一方、用度課においても、契約書の作成を事後に行っていた。

(イ) 内部牽制等の状況

 最高裁判所では、当該案件が会計法令にのっとって適切に行われているかを事前に確認するため、契約締結に係る内部決裁を行う際にはすべて監査課を経由することになっているが、監査課では、決裁書類に事実と異なる起案日、契約年月日等が記載されていたにもかかわらず、そのまま決裁するなどしており、監査課による内部牽制が機能していない状況となっていた。

オ 再発防止策等の状況

 最高裁判所では、これまでに、不適切な契約事務処理の再発防止、企画競争における業者選定手続の工夫、関係局課の連携の強化等に向けて、19年度の裁判員制度広報の実施に当たり、以下の措置を講ずることとした。

(ア) 用度課の職員を2名増員し、裁判員制度広報に係る契約を専属的に処理させるなど事務態勢を整備した。また、企画策定の当初段階から、用度課と広報実施局課との間でプロジェクトチームを立ち上げるなどして連携を強化し、実現可能な調達スケジュールを策定してそのスケジュール管理を徹底することとし、経理局長に対して事務の進ちょく状況を適宜報告させることとした。

(イ) 企画競争を行う場合は、随意契約の理由のほか、企画競争の評価項目、基準、配点等を具体的に明らかにした上で、経理局長までの決裁を受ける扱いとした。また、19年5月に、「裁判員制度広報企画評価等検討会」を設置し、特に重要と認められる案件について、審査基準の作成や企画選定において、外部の有識者等の意見を反映させることとした。

(ウ) 予定価格の積算方法を統一するとともに、新聞広告掲載料等の積算に当たっては複数の者から参考見積書を徴した上で、公表資料等との比較検討を行うこととした。

(エ) 裁判員制度広報の全契約案件について監督職員と検査職員の任命を明確に区別して行うこととし、また、監督・検査の実効を上げることを目的として、監督職員及び検査職員に対する説明会を19年4月に開催した。

(2) 法務省

ア シンポジウムにおける新聞社による不適切な募集

 前記のとおり、18年度のシンポジウムの運営を行っている地方新聞社の発表等によれば、最高裁判所と同様、シンポジウム1回において新聞社が不適切な募集を行ったとしている。
 上記の事態について、法務省における不適切な募集の確認状況及び請負契約からの謝礼金の支払の有無について検査したところ、法務省は、運営を行った全地方新聞社及び請負業者である電通から聞き取りを行い、他の新聞社において同様の募集を行っていなかったこと、不適切な募集を行った新聞社は、募集に係る経費については、シンポジウムの運営費とは別に支払っていたことを確認したとしていた。
 そして、会計検査院が検査した範囲では、新聞社が不適切な募集に要した経費について、法務省が電通を通じて請求を受け、経費を負担している事態は、現時点で見受けられなかった。

イ 企画競争随契に係る不適切な契約手続

(ア) 招請

 法務省が17、18両年度に締結した裁判員制度広報に係る企画競争随契6件について、招請に係る周知方法を確認したところ、3件は取引実績のある業者等に電話により参加を打診しているのみで、庁舎掲示板やホームページでの公示を行っていなかった。また、1件は庁舎掲示板への公示は行っていたが、ホームページでの公示は行っていなかった。
 業者選定の競争性、透明性の見地からは、招請はより広く、公開された方法で行われることが望まれ、特に電話のみによる招請は、他の業者がそれを知り得ない点において、業者選定の競争性、透明性を損なうものとなっていた。しかし、18年財務大臣通知が示された後に行われた招請(1件)は、これにのっとり庁舎掲示板及びホームページによる公示が行われている。なお、最高裁判所においては、検査した範囲では、上記のような電話のみによる招請といった事態は見受けられなかった。

(イ) 一般競争入札実施の可能性

 法務省においても、裁判員制度に係る広報関連契約の多数について、最高裁判所と同様に企画競争随契を実施している。
 また、法務省では17年度の広報用の配布物の調達契約(契約金額1039万余円)について、数量と予算額を提示し、製品の種類、デザイン等を提案させる企画競争を実施し、最も優れた企画を提案した業者と契約を締結していた。しかし、広報用の配布物として使用される製品は品目が限られており、法務省が事前に配布物に係る情報を収集した上で、発注者側で製品・仕様を特定して競争入札により調達することも可能である。現に、最高裁判所では同種の調達について、製品・仕様を定めて競争入札を実施していたことから、法務省においても最高裁判所からこれらの情報を収集するなどして、一般競争入札の可否について検討し、その結果によっては、一般競争入札を実施することも可能であったと認められた。
 法務省では、広報業務における競争性を高めるべく、本件調達の後に調達することとした広報用の配布物について、製品・仕様を特定した上で、一般競争入札による調達を行っており、19年度には裁判員制度広報用アニメーションビデオの制作において総合評価方式による一般競争入札を実施するなど、より競争性を高めた手法を導入することとしている。

(ウ) 業者の選定手続

 前記6件の企画競争随契に係る審査基準の評価項目の設定状況等についてみると表5 のとおりとなっていた。

 評価項目の設定及び採点方法

番号 年度 契約名 契約金額
(千円)
〔1〕 評価項目の設定 〔2〕 採点方法
複数の項目 大項目ごとの配点 小項目ごとの配点
1 平成17 裁判員制度広報用マグネットクリップ 10,395 × × × 各評価者が上位2点を選び点数を加算
2 17 裁判員制度広報啓発ポスター及びチラシの印刷製本 8,720 × × 各評価者が上位3点を選び点数を加算
3 17 裁判員制度広報ポスターの交通広告 49,980 × × × 評点なし
4 18 裁判員制度広報啓発ポスター及びチラシの印刷製本 9,975 × 大項目ごとに5段階評価し集計
5 18 裁判員制度シンポジウム開催の準備・実施作業 89,999 小項目ごとに採点し集計
6 18 裁判員制度広報ポスターの交通広告 59,781 小項目ごとに採点し集計
○ 2
△ 2
× 2
○ 1
△ 2
× 3
○ -
△ 2
× 4
大項目 1
小項目 2
その他 2
評点なし 1

 〔1〕 評価項目の設定欄の○印等の区分は次のとおりである。
   ○
 説明会時に参加業者に示されているもの
   説明会時に参加業者に示されていないが、採点の際に設定されているもの
  ×  設定されていないもの又は不明なもの

a 審査基準における評価項目の設定等

 法務省の前記6件の企画競争随契の審査基準について、17年度においては、複数の評価項目が設定されていなかったり、評価項目の設定があるものの項目ごとの配点がなかったりしていたが、18年度においては、評価項目が配点とともに設定され、その内訳である小項目ごとの配点についても設定されてきている。しかし、上記の設定された項目等が説明会時に参加業者に示されていないものも見受けられた。

b 審査手続

 企画競争参加業者が提案書・プレゼンテーションにより提示した企画に対する審査手続については、17年度は、原則として啓発推進室の職員が審査して、その結果を契約締結伺いと共に会計課へ送付するという手順になっており、審査に当たって契約担当局課である会計課や外部審査員等の関与はない状況となっていた。
 そして、審査における具体的な採点方法については、17年度は、点数等によらずに啓発推進室全体で1者を選定しているもの、同室職員が各々企画に順位を付し、順位ごとに付与された点数の合計で決しているものなど区々となっていた。
 業者選定の競争性、透明性が確保されるためには、前記のとおり、評価者の採点内容が明確となるよう採点方法が整備され、その方法が参加業者に示されることや広報担当局課以外の職員を加えた審査を実施することが望ましいと思料される。
 なお、上記のうち採点方法については、18年度において、同室職員が各々あらかじめ定められた審査基準に基づき採点した上で、それらを合計して決する方法が執られてきている。

(エ) 予定価格の算定

 法務省では、企画の内容で業者を選定することとしていたことから、提示額については審査基準の評価項目として設定していなかったが、最高裁判所と同様に、説明会において、文書又は口頭で上限金額等として目安となる金額を参加業者に示していた。
 法務省では、業者選定後に予定価格を算定する際、17、18両年度の6件のうち1件については、業者の見積書の単価に査定率を乗じた金額を予定価格としていたが、残りの5件については、自ら積算を行わず、予定価格を業者提示額と同額としていた。
 しかし、前記のとおり、予定価格は、契約相手方となる者が提示する価格の適否を判断する基準となるものであり、自ら取引の実例や市場の動向等を十分調査・検討した上で算定すべきものである。
 したがって、平成16年度決算検査報告に掲記したように、予定価格の算定に当たっては、できるだけ複数の者から参考見積書を徴するとともに、公表資料等との比較検討を行ったり、同種の契約実例を調査したりなどして、業者の見積りについて精査し、予定価格を適正に算定する必要があると思料される。

(3) 最高裁判所と法務省との連携等

ア 広報業務の実施における連携

 裁判員制度広報については、前記のとおり、協議会を設置し、その頃から様々な場面で広報活動を進めていた。また、裁判所は裁判手続の周知、法務省は制度の周知を中心とした広報活動を行うこととし、広報媒体ごとのおおよその割り振りもなされていた。ただし、制度に対する国民の周知・理解を深めるという目標のためには、裁判手続の周知の広報と制度の周知の広報とが相互に補完し合うことが不可欠であり、また、両者は完全に分離するものではなく、双方の広報目的には重なり合う部分が生じることになる。
 最高裁判所と法務省との連携については、最高裁判所又は法務省がそれぞれの広報業務を実施するに当たり、法務省又は最高裁判所に対して、企画内容の情報提供を行い、相互の広報目的に沿った内容となっているか、誤った内容を広報することにならないかなどについて連絡調整して連携を図ることとしており、その実績も見受けられた。
 しかし、最高裁判所及び法務省が実施した企画において、例えば、最高裁判所が自ら制作した映画に加えて法務省制作の映画の周知を積極的に行うことや、最高裁判所で実施したメディアミックスに係る制作物等の図柄を法務省においても利用できるようにするなど、より一層の連携を図ることが可能な状況が見受けられた。
 これについて事例を示すと次のとおりである。

<事例6>

 協議会では、平成17年9月及び18年3月に、ポスター・リーフレット等は法務省が主体となって作成するなどとする計画を示しており、法務省はこの計画に沿ってポスター(17年度16万7000部、18年度22万8000部。交通広告使用分を除く。)、チラシ(両年度とも150万部)を作成し、交通広告にもこの図柄を使用していた。最高裁判所においては、メディアミックスで使用したタレントを起用した図柄について国民からの反響が大きかったなどとして、17、18両年度ともにポスター(17年度2,170部、18年度8,400部)、チラシ(両年度とも30万部)も作成していたが、広告出演・使用契約に基づき、この図柄は最高裁判所の広報活動のための使用に限られていた。しかし、ポスターの作成に当たり、最高裁判所と法務省との間で、図柄の互利用についての検討を行っていれば、その後法務省において、自ら作成したポスターの図柄のほかに最高裁判所がメディアミックスで使用したポスターの図柄も制度の周のために活用することができるなどの、より効率的で有効な広報活動も可能だったと思料される。

イ 会計・契約事務における情報交換等

 前記のとおり、最高裁判所と法務省とでは企画競争随契の手続に当たり、業者選定後の履行の着手時期、審査基準の評価項目の構成、審査方法、予定価格の積算方法等が異なっていた。そして、裁判員制度広報については、最高裁判所、法務省双方が補完し合うことが必要であることなどから、最高裁判所と法務省において、裁判員制度広報業務を効率的に実施するため、広報業務の実施での連携以外に、会計・契約事務における情報交換等も求められている。